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2015年04月13日 17:38ブックレビューレビュー(書籍)全体に公開

『神坐す山の物語』

「昔むかしの、お話だよ」
 物覚えの付き始めた頃の朧げな記憶の中では、父の寝物語はいつもこの台詞から始まりました。お伽噺や史実の話など、ジャンルを問わず色々な話を聞きましたが、恥ずかしながらいずれもはっきりと覚えている話はなく、断片的に覚えていたり結末が欠けていたり。自分では夜話なんてそんなものかと思っていました。

 神坐(いま)す山の物語―――。
この物語も、神官の家系で育った筆者の親戚である伯父伯母から聞かされた、ほんのり恐ろしくもどこか物悲しい夜話。山が舞台とは言っても、いわゆる山岳小説とは趣を異にした物語です。
 短編集として構成されたこの物語は、どこまでが現実の話なのかはわかりませんが、恐らく現実と虚構がない交ぜになっているものと窺えます。が、それは夜話、事実か否かというのは問題ではないでしょう。浅田次郎氏は神官家の出身ですし、物語の舞台となる奥多摩の御嶽山(現在は御岳山と表記されるのが一般的)にはいくつも寺社が存在します。僕は実際に奥多摩の御岳山を歩いたことは無く、奥秩父方面の稜線から眺めた程度なので、本作品でどこまで現実的な地理描写がされているのかは不明です。
 見方によってはいわゆる「怪談」と言えないこともありませんが、恐怖を与える意図は基本的に感じられません。それは生と死を非連続なもの、あるいは不浄不吉なものと捉えない考え方からくるものだと思います。
 また日本古来の、"山"と共に在るという神道の特殊な概念に触れることもできます。山歩きを愛する方々には、一読の価値ありだと思います。

 雅楽を聞く機会というのは年始の時期くらいしかありませんが、雅楽を聞いていると、教養のない僕はついつい睡魔に襲われます。この本を読んでいても同じような感覚に陥りました。決して内容がつまらないというわけではなく、夜話としての語調の影響もあるのかもしれませんが、一番の要因は「文章の美しさ」が読んでいてあまりにも心地良かったからでした。
第一話のタイトルにもなっているので引用しますが(敢えて意味の説明は割愛します)、「神(かむ)上がる」などという言い回しは現代社会では失われた表現ではないでしょうか。単に語彙録としての保存ではなく、こういった文化そのものを後世に残し続けたいものです。


 山岳小説のような手に汗握る、心躍るような感情の起伏はありませんが、穏やかで温かい言葉の流れに乗って詩吟を嗜むような気分になれる一冊でした。



評価:★★★☆☆(星3つ。褒めちぎってるわりには・・・という採点ですが)


P.S.
 ヤマレコユーザさんのレコにて知りましたが、この御岳山は"山ガールの聖地"なんだそうで。本も読んでみたことだし、御岳山行ってみようかな?という気にはあまりならなかったのですが、そんな別名があるくらいなら一度行ってみようかなーなんて。邪念で聖地が穢れそうww
 この作品の他に並行して2冊ほどライトノベルを読んでいたのですが、見事に同時に読み終えてしまいました。また長編にでも手をつけちゃいましょうかねえ。。。
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コメント

RE: 『神坐す山の物語』
shoytomoさんこんばんは〜!
先を越されました。
今図書館で予約中であと7人待ち位です。
いつもながらレビューが素晴らしい。
浅田次郎の作品は途中で挫折することが多いです。この本は少し期待したんですけどね。何となく同じ様な感じかな。
御岳山は何度か行きましたが、宿坊が連なり雰囲気が良いです。そこに住んでいる男性はほとんどの方が神職らしいですよ。ロックガーデンは夏も涼しくお勧めです。
2015/4/13 20:27
RE: 『神坐す山の物語』
kitausagiさん、こんにちは。
コメントありがとうございます^^

皆さん図書館活用されてますね〜 book
(7人待ち・・・二か月くらいはかかるのでしょうか??)
僕はTSUTAYAではほぼ毎回といっていいほど、レンタル料以上の延滞金を払ってしまうズボラーマンなので、図書館での借用は他の方々に迷惑を掛けてしまいそうです

物語の舞台に足を運んだことがあるかどうかというのは、物語を読む上でかなり重要な要素だったりしますよね。一度行かれたことがあるのでしたら、きっとまた別の感じ方があると思います。
kitausagiさんのお話からすると、現地の描写はとてもよく描けているようです。"内部事情"まではわかりかねますが^^;

どうも僕は、奥多摩地方は鬼門なのか(笑)、なかなか行く機会がありません。
横浜からのアクセスを考えると、奥多摩行くんだったら奥秩父行こう!いやいや、奥秩父まで行くなら八ヶ岳、いやいやアルプス行こう!・・・なんて。基本貧乏性なんですね。今後子供たちと行く登山のことを考えれば、あまり自己チューになってはいけませんね

kitausagiさんの感想も、機会がありましたら聞かせてくださいね。
2015/4/14 12:32
RE: 『神坐す山の物語』
はじめまして。短編集でさらりとした読み口?なので、一気に読了してしまいました。

デジタルでは図りきれない、山を含めた自然への畏れをざらざらと書いてるのは、流石浅田次郎といったところでしょうか。

浅田次郎さんのお母様の実家(宿坊の山香荘)には、日帰り入浴でよくお世話になりました(*^^*)。
御嶽山はいいですよ。山上集落を見て歩くだけでも楽しめます。チビちゃんたちと一緒に楽しめるいいやまです。
でも、迷子には気をつけてください。
何年かまえ、御嶽山で迷子を保護したこともあります。(私のレコを見てみてください)
2015/4/18 21:30
RE: 『神坐す山の物語』
matsukoさん、はじめまして。
コメントありがとうございます。

浅田氏の生い立ちも強く影響しているとは思いますが、全編を通じて自然に対する畏敬の念を強く感じましたね。
matsukoさんのように、実際に現地を歩かれたことがあるのでしたら、より現実味のある読後感だったのではないでしょうか。
いつかおチビズを連れて歩いたみたいと思います^^

レコ拝見いたしました。色々考えさせられました。
上の子は幼稚園に入園し、より一層の好奇心と共に行動範囲も広がりました。
下の子に目を奪われている間に・・・なんてことにならないよう注意したいものです。

matsukoさんも、そう遠くない未来に息子さんと山に登ることになるのでしょうね。
思い出に残る山の物語を、紡いでいってくださいね。
2015/4/19 17:53
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