野川かさねさんの「山と写真」

写真家の野川かさねさんが今から5年前の2012年に出したフォト・エッセイ、
「山と写真　カメラを持って山に出かけよう」を読んでみました。
なんと直球なタイトルでしょう。


野川さん、以前より山岳雑誌等でその名前と写真は度々目にしておりました。
女性ならではの視点で撮る、柔らかく暖かみのある山のショットが印象的で、
「こんな撮り方があるんだな」といつも思わされ、感心して見入ってしまう、
とても素敵な写真家の方だと思っています。


その野川さんの写真を見て思う「こんな撮り方」というのは、
普通の人が登らないような急峻な山の頂上から撮る絶景な光景ではなく、
今どきの高価なデジイチカメラと編集技術によって「いかにも」っぽく
加工・装飾された（され過ぎた）ショットでもありません。


彼女の写真の特徴は、山中の何気ないひとコマを一番美しい形で切り取り、
その瞬間のその場の情景に深みを与えたり、情景の先にあるであろう、
写っていない部分にまで想像力を働かせてくれるようなものだったり。
言葉にすると、「おお、凄い！」ではなく、「ああ、いいなぁ…」な1枚。
さりげなく、静かに、厳かに。そんな感じなのではと思います。


この本にも載っている靄に包まれた山頂へ朝日が射そうとするその一瞬や、
広げた登山地図に仄かに照らされた木漏れ日の光。あるいは木に付けられた
赤テープに、山小屋での珈琲カップ。
山にあるもの、山で見るものは何でも見方ひとつ、撮り方ひとつでそれが
アートになるのだということを野川さんの写真が物語るようでもあります。
そういう「素材」になるものがそこらじゅう無限にゴロゴロ転がっているのが
山の魅力なのだということにも、また改めて気付かされる一冊でした。
（※ちなみに本書では撮影の技術的なアドバイスは一切載っていません）


ヤマレコでも色んな人の山写真を見るのが私は好きなので常々思うのですが、
写真って撮る人の性格や気持ちがそのまんま、出ますね。絶対ごまかせない。
野心を抱いて撮る人、無心に撮る人、楽しい気持ちで撮る人、急いで登る人、
ゆっくり歩く人、ひたすら前だけ見てる人、周囲をよく観察している人…。
それぞれに撮る写真が違います。1枚の情景の先に見えるものを想像するのと
同じように、撮った人のその時の気持ちを考えてみるのも良いかもしれませんね。


そういう私自身、自分で撮った写真で個人的に大好きなショットはありますが、
あくまで自己満足の世界。まだまだ人様に自慢できるレベルには程遠く…。
いつか野川かさねさんのような素敵な写真が撮れるといいなぁとは思いますが、
それには更なる修行と人生経験と感性を磨く作業が必要なのでしょう（笑）。


皆さんはどんな想いで写真を撮られているでしょうか。

コメント

kaz

RE: 野川かさねさんの「山と写真」
写真って奥が深いのですねー。
野川さんのフォトエッセイ拝見した事は有りませんが、とても参考になりそうですね。
私もヤマレコユーザーの方々の写真を色々と拝見させて頂いていますが、それぞれに個性が有り、まるでプロカメラマンの様な素晴らしい風景写真を撮る方や、仲間との登山で楽しさが伝わって来る様な人が中心の写真や、枚数わずかでスピード登山なのか、写真が面倒なだけなのかと、人それぞれ色々な個性が有りますよね。
思えば私自身、おバカな写真や、ピンボケ写真、（たまーに、よく撮れたかな？と思う程度の写真）等ばかりで、もう少し上手に写真が撮れたらいいなぁと、思っています。
実はこの前のお休みは、山に行かず買い物ついでに某カメラ店にミラーレス一眼を見に行ったのですが、全く知識も無く、一体どれが何だかサッパリ分からず、眺めただけで、逃げ帰ってきてしまいました。
・・・なので、もう少し今のコンデジで頑張ってみようかなーと、思ったりしています。
（まあカメラもですが、やはりセンスの方が大事ですよね。）
今度、カメラのアドバイスもお願いします！。

りょう

RE: 野川かさねさんの「山と写真」
kazさん、こんばんは。ホント、写真て奥深いですよね。撮り方もだし、カメラ自体も本格的な方だとかなり細かなこだわりが出てくるものでしょうしね。ヤマレコで多くの登山者の写真とレポを拝読していると、確かにプロ並みの技術やアングルで凄い写真を撮る方もいれば、普通のカメラで普通に撮った何気ない1枚に驚かされたりすることもありで、それぞれに個性があるものだと思います。私は（おそらく他のフォロワーさんも）kazさんの撮り方は（キャプションも含めw）もう大好きなので、変えずにそのまんま突き進んで下さいね（笑）。そして奥様にしか撮れないあの絶妙なピンボケも絶対に無くさないように切にお願いしたいです
そして、デジ一眼の購入を検討されているのですね！私のSONY　NEX5もコンパクトなミラーレスの一眼です（もう生産終了したとかしないとか）。で買って7年くらいになりますが、未だによく分かってないんです・・・（笑）。コンデジも今は一眼とさほど違わない程に高性能なので、良い写真は撮れると思います。やはり山では出来るだけ周囲を注意深く見渡して、いい素材を見つけてゆきたいものですね。

maam

RE: 野川かさねさんの「山と写真」
ryo555さん、こんにちは！
野川かさねさん、全く知りませんでした。写真はどこかで目にしているかもしれません。
野川さんのサイトを見てすごく興味が湧いてきました。紹介くださってありがとうございます！
私にとっての写真は「光と影」(好きな写真家の受け売りσ(^_^;))なので、野川さんの写真に写しこまれている光に惹かれるのかも知れません。
写真集、探してみようと思います。

りょう

RE: 野川かさねさんの「山と写真」
maamさん、こんばんは。コメントありがとうございます 　野川さん、PEAKSとかランドネなどの山岳雑誌で目にする機会が私は度々あったかと思います。あと山番組でも何度かお見掛けしたような。写真と同じでそのお人柄も落ち着いた感じの方だなぁという印象です。私もこの感想を書いた後に実は初めて野川さんのサイトを覗いてみたのですが、とてもシンプルですよね。もし今後個展などあったら見に行ってみたいなぁとも思いました。maamさんも書かれているように光と影の使い方が写真にはとても大事なのでしょうが、私も何年も撮り続けて未だ難しいものだなぁと思います。でもこうした野川さんのような方のお写真はとても参考になりますね。ぜひ手元に一冊

maam

RE: 野川かさねさんの「山と写真」
この日記でryo555さんの書かれていることが、写真をそれなりに真剣にやっている人間の琴線にふれるのですよ。相方に、ryoさんが、写真についていいこと書いてるよ、といわれて拝見した次第です。

実は私はストリートフォトをとるが好きで、目に入った一瞬の何かに、そのときの感情やその場の雰囲気を移しこむことを心がけているのですが、
山ではそれができない。。。今のところ登るのでいっぱいいっぱいなのでしょうか。
野川さんは、その一瞬の何かを丁寧にとらえようとしているような気がします。

りょう

RE: 野川かさねさんの「山と写真」
maanさん、こんばんは。大変恐縮なお言葉、ありがとうございます 　cajaroaさんにもよろしくお伝えください ストリートフォト…これもまた簡単なようでそれなりの雰囲気を醸すには難しいですよね。撮ったものに対して後付けで意味を見出すことは出来ても、maanさんも書かれてるように撮った瞬間の感情を滑り込ませるとなると…尚更ですよね。時々地元横浜の夜景や工場夜景なんかを撮りに行くこともあるんですが、まさに最初の話にあったような光と影のコントラストをどのような配分に置くかで考えることもしばしです…といいつつ技術的なことは全く分かっていないのですが（笑）。