「博士の愛した数式」はもういろんな賞をとっているし、高等学校の読書感想文課題図書にもなっているし、さらには深津絵里で映画にもなっているらしい。事故の後遺症で、新しい記憶は80分しか続かない数学者。家政婦としてその世話をする女性が、小学生の息子とともに、この数学者と人間的なかかわりを深めていく話。静かで、美しい物語であった。
ブッカー賞候補にもなった「密やかな結晶」はちょっと安倍公房を思わせる作風。枠組みは「アンネの日記」の世界で、それと同時進行していくカフカ的変調がなかなか見事で、「物語の力」を感じさせる、これは小説でしか書けない世界だなあ。すぐれた現代文学の一つ。
「ミーナの行進」今回読んだ4冊では一番楽しい本。少女小説、というか少女漫画のようでもある。昭和の中頃、芦屋のお金持ちの叔母の家に一年居候する小学6年生の女の子が主人公。その家には一つ下のミーナがいて、彼女のおばあちゃんはドイツ人。喘息もちで学校も休み勝ち。家ではかつては動物園もできるくらいたくさんの動物を飼っていて、中には、戦後を生き延びた30歳くらいの「コビトカバ」がいる。で、ミーナはこのカバに乗って小学校に通う!という展開。ハッピイエンドな結末なので安心して読める。
「ブラフマンの埋葬」のイメージを一言でいうと「風の丘に立つ洋館を遠景に見ながら、遠い過去からゆったりと静かに流れる時間。」という感じでしょうか。小川洋子が描く静かなファンタジー。たっぷりとした毛と水かきをもった小動物との出会いと生と死を中心に、ひと夏の物語として結実する。泉鏡花賞受賞にふさわしい、幻想的な作品。この動物はなんだろうという思いが最後まで。
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前回の日記でミステリーのことを書いた。その際、あるヤマレコuserさんから、本の紹介をいただいた。篠田節子の「弥勒」。残念ながら図書館には見当たらず。20冊ほどあった蔵書から「スターバトマーテル」と「鏡の背面」を借りて、ようやく読了。
どちらも一気呵成に読めるサスペンス。かなり濃い作風なので、読者は選ぶと思うが、読み手をぐんぐん引っ張っていく力量に圧倒される。読んでてアチアチとなるというか、暑苦しいというか…
「鏡の背面」の参考資料を見てたら、「マニラ保険金殺人事件」とか「福田和子の逃亡15年」とか「毒婦たち…東電OLと木嶋早苗のあいだ」とかあって、まあそういう本なのです。
「スターバトマーテル」は、ストーリーとは別に、上流のちょっと下あたりの方たちの、お酒とか料理とか車とか音楽とか、そういう小道具的な描写が、まるでバブル期の匂いがして、ほんまかいなと思うところもあるが、ちょっと気になるところも。ミーハーなのでね。そしてスターバト・マーテル(ベルゴレージ?)。クルマに乗せられて、これ流れてきたら、男でも女でもちょっと身構えるかも。ともに孤立していた中学時代の同級生の男女が中年になって出会う。どちらも既婚者で出会いがプールだなんて、単なる不倫ものかなって思ったら…まあ読ませる。がちょっと古い。
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女性の作家の本について、ある方から三浦しをんを推薦された。とりあえず3冊を借りてきて、これから読む予定。一緒に宮本輝の「流転の海」も。これ9冊本なんだが、どうなんだ。まあ人生は長い(多分)。
ところで「佐野洋子のなに食ってんだ」は最高!1ページ1話の食にまつわるエピソード。この美味そうな表紙写真のところは「人が集まるのを口実に、大好物の寿司を出前で頼む。特に好きだったアナゴと中トロ。自分の分だけ、この二種類にすることも」だって。それはあなた…といいたくなる。「100万回生きたネコ」の作者。もう亡くなられているが。
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