「グレート・ギャツビー」とはスコット・フィッツジェラルドの小説で、フィッツジェラルド好きの村上春樹が翻訳を新しく手掛けてもいる。この小説の手書きの原稿と「ラスト・タイクーン」など5冊の原稿が、プリンストン大学の図書館に秘蔵されていたのだが、これが5人組に強奪されるという事件がおこる。犯人の一部は捕まるのだが、原稿は行方知れず。いくつかの物語が複層的に展開し、書店を営む男を中心とした物語に収束していく。果たして「ギャツビー」は取り戻せるのか。
主人公の男がとても魅力的。ああ、これってギャツビーその人みたいな。ちょっとワルな感じの中年男である。村上春樹がほれ込んだグリシャムのストーリーテラーとしての才能、なかなか面白かった。お話は序盤のドンパチ系の展開がいつのまにか、心理劇になって、やや大人しめ流れに。アメリカの本屋さんの業界とか文学者の「文壇」風世界とか古書収集の情熱など、普段目にしない世界の話がいろいろでてきて、それぞれのちょっとした挿話が結構面白い。きっと映画になる気がする。
ところで最後に翻訳者として村上春樹ののあとがきがついている。普通はあまりないのだろうけど、そこはやはり作家さんだから上手い。なお春樹の最後の言葉は:
『「グレート・ギャツビーを追え」というタイトルは、なんだかクライブ・カッスーラの「ダーク・ピット」シリーズのタイトルを借用したみたいで、僕としては少しばかり気恥ずかしいのだが、どのように知恵を絞っても、これ以上のものはを思いつけなかった。ご笑納いただければ幸甚です。』
というもの。なんだか普段と違う口調がおかしい。ちなみに原題は「カミーノ・アイランド」です。村上春樹はクライブ・カッスーラを読むんだ。
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ホロヴィッツの「カササギ殺人事件」は2019年の日本のミステリー系の賞を7つもとった傑作。ミステリーファンなら多分読まれているはず。今頃で大分遅くなったけど、読んでみた。
こちらも、あっと驚く展開で、小説の中に小説があるという入れ子構造。上下巻になっていて、上巻ではイギリスの片田舎の大きな庭のある古い屋敷で起こる殺人事件、アガサクリスティーの作品そのままの世界。そして探偵が犯人を突き止めたと思わせて、突然上巻が終わる。え、どうしてと思ったら、下巻がいきなり50年後にタイムスリップしていて、こんどは上巻を書いた当の作家が殺されてしまう。二つの推理小説を一緒に読んでいる感じがした。
評判が高いのは、それぞれのトリックや展開ではなく、その入れ子構造の部分とその二つがフィクションと現実、過去と現在を越えてある一点でつながっているという点なんだろうけど、その「形式」の面白さとか独創の驚きとかを除けば、ミステリーとしてそんなに凄いかと言えば、まあ普通の出来なのではと思った次第。
確かに読者に一気読みさせて、なおかつ読後に再度前のところをパラパラと開いて確認させる、というのがミステリー作家の力量の証ではあるのですが。
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