塩川ルートから小河内岳
- GPS
- 32:00
- 距離
- 17.1km
- 上り
- 1,822m
- 下り
- 1,804m
コースタイム
- 山行
- 7:15
- 休憩
- 1:25
- 合計
- 8:40
天候 | 小雪のち晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2016年12月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
塩川小屋手前の崩壊箇所、以後三伏峠までの山道の状況については本文参照 |
その他周辺情報 | 高森町御大の湯 |
写真
感想
オオシラビソに囲まれた白銀の樹林帯。雪煙の舞う稜線。オレンジ色に輝くモルゲンロート。これらすべてに巡り合える冬の南アルプスが好きで、ほぼ毎年のように年末にはやって来る。主要な山にはほぼ行きつくしたが、今年はまだ冬に行ったことのない三伏峠から南の山域を目指すことにした。荒川岳までは時間がかかり過ぎるとして、その手前にある小河内岳はこの山域の最高峰であり、荒川岳や塩見岳の絶好の展望台でもある。ただここまで足を踏み入れる登山者はいないだろうから、状況によっては困難なラッセルが予想される。そこで、三伏峠を起点に1日かけて往復し、その前後を合わせ3日間の行程を組んだ。三伏峠までは鳥倉コースが一般的だが、冬ゲートが夏よりもかなり手前に設置されるため、長い林道歩きを強いられる。更に、途中にいくつかあるトラバースも密かに微妙である。よって、1度通ったことのある塩川コースを経由することとした。しかしこのコースは途中の林道が崩壊したため、現在公式には通行止めとなってる。ネット上ではこの崩壊箇所を通過できる情報がいくつかあったのと、実際に2年前に偵察で自ら確認している。状態に変わりがなければ問題なく通過できるだろうと踏んで、この塩川コースを選ぶこととした。ところがこの選択は実はかなり危険な賭けだった。
(1日目:12月29日 曇り一時小雪のち晴)
大鹿村鹿塩から塩川へ至る林道の終点樺沢出合のヘアピン上にあるスペースに車を置いて歩き出す。意外にも車が1台止まっていたので、先に入っている登山者がいるのだろう。うっすら積もる雪の上に浮かび上がる足跡から、2人パーティだろうと思われた。本日の最大の難所はこれからすぐに訪れる例の崩壊箇所だろう。スタートして30分程で前方に土砂崩れ崩壊現場が目に入ってきた。林道全体を崩壊土砂が覆い尽くし、下を流れる塩川河原に突き刺さるように達している。2年前に偵察で来たが、その時は積雪があったので雪のほぼない今回は条件が違う。見ると、踏み跡途中に前回にはなかった赤い目印と地面に刺さっている杭が数本見えた。ネットの情報通り、通過者が何人もいるおかげで、やがてしっかりとした足場が出来上がったのだろうと最初は思った。しかし、半分ほど来たところで行き詰まった。地面には雪がなく、路盤がガチガチに固まっている上に、突然足場がなくなったのだ。踏み跡らしきは斜め上方に進路を取っているが、2〜3m先まで安全地帯がない。上を見ても下を見ても迂回できそうなルート取りはなく、ずるっと滑ったら塩川の急流まで真っ逆さまだ。5m程度なので、落ちたとしても死にはしないだろうが、ごろごろ転がっている大小の岩に激突すれば軽傷では済まないだろう。しかし、地面は幸い凍結してはいない。何とか小さな石の出っ張りなどを手がかり、足がかりとし、慎重に慎重を重ね一歩一歩を刻み、窮地を脱した。難所は行きは登りだったが、帰路は難しい下りとなる。ロープも何も持っていない。これは厄介なところへ来てしまったと少し後悔した。
気を取り直して先へ。やがて塩川小屋に到着。ここまでは9年前の年末に車で入って来られたが、あの崩壊箇所以外にもここまでは倒木落石土砂崩れの見本市であり、とてもあの頃のことが想像できない。小屋下広場端にはバス停跡の標識残骸が放置されていた。
さて、ここからはようやく山道に突入する。途中3回塩川を渡渉する箇所があるが、1回目は塩川土場を出てすぐにある鉄製の立派な橋である。2回目は30分程度進んだところで、枝流にかかっている3本程度の小丸太の橋に続いて、本流にかかるやや朽ちかけた木製の橋である。最初の小丸太の上はガチガチに氷結しており、その上を歩くのは無謀だ。とは言え、河原の石も同様にツルツルなので、強引に行けばツルッ&ドボンである。やむなく、小丸太の上を熊のように四足でゆっくり渡ったところ上手く通過できた。最後の渡渉箇所は橋も伝い石もなかった。正確には石が凍結していて利用不能状態だった。仕方なく渡渉できそうな場所を求め、下流側方面に戻る。塩川の流れは結構速く、水量も豊富である。適当な箇所を見つけられず、やむを得ず川幅がやや狭まった地点で強行突破を図る。無傷で渡るのは無理で、片足を深みに突っ込んでしまい、おまけに最後の着地に失敗し、岩とピッケルの間に右手親指を挟み付け内出血してしまった。以後、右手での作業に支障を来すことになったが、幸いスパッツに守られ、靴を濡らすことがなかった。
尾根への取り付きは、枝沢との合流点を越えた地点にあった。ここまで道は全体的に荒れ気味であり、マーキングも疎らで道も分かりにくい。先人のトレースが無ければ道に迷いそうな地点はいくつかあった。廃道寸前なだけにさもありなんといったところか。迷いやすい要因の一つは倒木の多さであり、正規のルートが所々で分断されているためだ。それでも、何度でも言うが、先人のトレースのおかげで道を失うことはなかった。
旧道標?の7/10を過ぎると積雪量が急激に増えだしたが、これまた先人のトレースのおかげでラッセル不要。やがて鳥倉コースとの分岐点へ。鳥倉方面からのトレースも合わせ、結構な入山者の数が推測された。この辺りから天気が回復し、青空が見え始めた。全体的に年始年末の南アルプスは弱い冬型気圧配置のため、好天が予想されているのでこれからも入山者は増えていくだろう。実際、三伏峠小屋付近にはテントがいくつか張ってあった。恐らく大半は塩見岳を目指すパーティだろうが、自分は反対の小河内を目指す。峠を少し進んだ先に分岐点があるが、実際小河内方面にトレースはなかった。そこからやや下った樹林帯の切れ目付近にテントを張る。時間は正午を過ぎた位で、まだ時間が十分にあったので、これから烏帽子岳方面にトレースをつけに行こうと思う。ここまで来た実感としては、やはり今年は雪が少ないということ。9年前の同時期に塩見岳登頂のため訪れたときも少雪だったが、それとどっこいどっこいだ。
念のためワカン持参で出発。テン場を出るとすぐに柵が見える。恐らく高山植物保護のものだろう。そこを迂回して進むと、右手にガレがあり、伊那谷方面の見晴らしが良い。トレースはないが、だいぶ前に人が通ったと思われる凹んだトレース痕跡のようなものが残っており、そこを通れば大きくもぐらずに済む。烏帽子までは地図上は稜線伝いとなっているが、途中何か所か小ピークを通過する。そこには小木やハイマツが生えており、コースでないように見える。従ってそこを避けるように進むと、自然に中腹の斜面を進むようになった。烏帽子本峰へも中腹の疎らな樹林帯を通過したため、結果的にコースを大きく外してしまい、最後は本来と逆の方向から烏帽子岳山頂へ到着することになった。ここまでテント場から1時間程度。今日の偵察はここまでとし、引き返す。それにしても天候はすっかり回復し、雲一つない完全無欠の晴天だ。今日塩見岳を目指したパーティにとっては絶好のコンディションではないか。
時間があるので、テン場を通り越し三伏山へ立ち寄る。景色は烏帽子岳山頂と大きく変わらないが、すぐ直下に自分のテン場が見える。以前キャンプ場があった三伏沢の上部入口に近いことが見て取れた。
テントに戻って酒を飲みながら明日の行程を再検討。烏帽子から小河内までは結構距離がありそうだったが、今日の感じではラッセルは大したことないように思われた。明日早暁に出発すれば、その日のうちに下山できるかもしれないと思い始めていた。
(2日目:12月30日 快晴)
事前の天気予報では、長野県中南部では朝にかけて一時所により降雪があるが、日中は晴れるとのこと。夜中にトイレで外に出た際はチラチラと雪が舞っていたように見えたが、3時頃起床した段階ではきれいに星が見えていた。ただ懸念なのは稜線では暴風が吹き荒れるという予報が「ヤマテン」「ウェザーニュース」の両方で出されていたことだ。昨年の燕岳、一昨年の北岳で、散々暴風に悩まされてきたこともあり、多少トラウマとなっている。昨日も同様に暴風予報が出ていたが、時折その片鱗と思われるような強風が吹いていたが、思ったほど大したことがなかったので、予報が外れたのだろうかと思うが、今日はどうか分からないので油断禁物である。
外の温度計を見ると放射冷却の影響かマイナス20度を指していた。手袋3枚重ねなどの最大級防寒体制を敷いて、夜明け前で真っ暗闇の中、5時10分頃にテン場を出発。昨日のトレースは大部分でしっかりと残っていた。運の悪いことには、ちょうど新月に当たるため月明かりが期待できない。しかしヘッドライトの明るさとトレースを頼りに十分に迷いなく進むことができた。
烏帽子岳には1時間足らずで到着。既に東の空は白やオレンジの明るみが現れ始めていたので、ここからヘッドライトを外す。進行方向を見ると、小河内より手前の前小河内岳が大きく南方向に迂回しており、むしろ小河内岳の方が近くに見えるくらいだ。西の伊那谷方向は夜景そのものだったが、前小河内岳へ向かう稜線は闇とオレンジと乳白が混じり合った何とも神秘的な光景だった。その中をアイゼンの爪を効かせながら進んで行く。前小河内・烏帽子間の鞍部付近で、東の空の富士山がオレンジ色に染まり始めた。この先は前小河内岳の影に入り、富士山が見えなくなってしまうので、ここらで撮影と思いきや、低温に耐え兼ねカメラが作動しなくなってしまった。電源は入るが、撮影ボタンを押すとピーピー電池切れの耳障りな音が鳴り、止まってしまうことを繰り返すのみで、全くの役立たずと成り果てた。よって、残念なことながら、この先小河内岳避難小屋で復活するまで、最も景色の美しい瞬間をカメラに収めることができない結果となった。しかし、ここから前小河内岳頂上付近で日の出を迎えるまでの間に目にしたものは、今までの山行で見た3本の指に入る程秀逸なものだった。自分の脳内の映像をアップすることは残念ながらできない。
前小河内岳からの下りは結構な急こう配である。途中きわどい箇所もあったが、歩行に特段の問題はない。多少風が強くなり雪面も固く締まり始め、小河内岳への最後の登りにさしかかる。7時50分頃、雪煙舞う小河内岳へ到着。山頂から100mも下らない縦走路から外れた地点にある避難小屋へ移動する。2階にある入口はロープでぐるぐる巻きに固定されていたので、ピッケルで氷を叩き割りながら解いてドアを開け中に入った。狭いながらもきれいな部屋であったが、日当たりの良い入口の土間付近は風を避けられ暖かいので、そこでしばらく休憩。すると、今まで死んでいたカメラが突然復活したので、周囲の景色を撮りまくる。昨日の午後に続き雲一つない快晴であり、もちろん360度の絶景である。ここから見える富士山は自宅(八王子市)から見えるのとほぼ同じ大きさに見えたので、地図で確認するとほぼ同距離であることから納得した。
烏帽子〜前小河内間で多少のラッセルがあったが、概ね順調に進み、三伏峠〜小河内岳間の往復に要した時間は休憩含め5時間程度。テン場に戻ってきた時点で10時を少し回った程度だったので、予定変更で今日中に下山を決めた。帰路、塩川コースのトレースが大きくなっていたので、あれから入山者があったのだろう。不思議なことに、行きよりも帰りの方が、道の荒れ方が気になる。下から数えて3回目の渡渉地点では、今度は水に浸かりながら正面突破したが、今度もスパッツに守られ靴を濡らさなかった。そして、塩川小屋を越え、最後に例の崩壊地点が口を開けて待ち構える。行きよりも時間をかけ、慎重に突破。そして、3時前には駐車場に無事帰着したのであった。
最後に、この塩川コースは公式に通行不能とされているだけでなく、実際に微妙な危険箇所が例の崩壊地点だけでなく、あちこちに散見される。今回は無事に行けたが、実際は運が良かっただけかもしれない。少なくとも、他の登山者にこのコースを勧めたいとは思わないし、自分でももう一度行きたいと思わない。通行止めとなってから何年間も放置されており、村(県?)では修復する気持ちはないのだろうと思う。こうしてクラシックなルートがまた一つ消えていくのかと思うと残念ではあるが。
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