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Yamareco

記録ID: 3007808
全員に公開
積雪期ピークハント/縦走
北陸

持篭谷山〜荒島岳〜縫ヶ原山☆雪上テント泊は暴風の夜に

2021年03月19日(金) 〜 2021年03月20日(土)
 - 拍手
体力度
4
1泊以上が適当
GPS
09:59
距離
18.3km
登り
1,610m
下り
1,626m
歩くペース
標準
1.01.1
ヤマレコの計画機能「らくルート」の標準コースタイムを「1.0」としたときの倍率です。

コースタイム

1日目
山行
5:12
休憩
1:23
合計
6:35
10:31
116
スタート地点
12:27
12:33
28
13:01
14:14
46
テント設営
15:00
15:00
55
p1265
15:55
15:59
30
16:29
16:29
37
p1265
17:06
宿泊地
2日目
山行
4:11
休憩
0:01
合計
4:12
6:12
60
宿泊地
7:12
7:13
191
10:24
ゴール地点
天候 一日目;快晴、二日目;曇り
過去天気図(気象庁) 2021年03月の天気図
アクセス
利用交通機関:
自家用車
真名川ダム右岸の慰霊碑の前に
麻那姫湖へ
左奥に道斉山
2021年03月19日 10:15撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
4
3/19 10:15
麻那姫湖へ
左奥に道斉山
最初は藪の尾根に
2021年03月19日 11:09撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
1
3/19 11:09
最初は藪の尾根に
標高750mのあたりからようやく雪が
2021年03月19日 11:52撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
2
3/19 11:52
標高750mのあたりからようやく雪が
尾根上の展望地から
稜線から荒島岳が顔を覗かせる
2021年03月19日 11:58撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
2
3/19 11:58
尾根上の展望地から
稜線から荒島岳が顔を覗かせる
ブナの壮麗な森に
2021年03月19日 12:11撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
4
3/19 12:11
ブナの壮麗な森に
持篭谷山への登り
2021年03月19日 12:12撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 12:12
持篭谷山への登り
尾根の左手にはいよいよ荒島岳が
2021年03月19日 12:13撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 12:13
尾根の左手にはいよいよ荒島岳が
大野盆地の彼方には大日山
2021年03月19日 12:14撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 12:14
大野盆地の彼方には大日山
背後には銀杏峰と部子山
2021年03月19日 12:19撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
5
3/19 12:19
背後には銀杏峰と部子山
ジャンクション・ピークへの吊尾根
少し前にカメラを落として、レンズに雪がついてしまっていたのが残念
2021年03月19日 12:29撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
2
3/19 12:29
ジャンクション・ピークへの吊尾根
少し前にカメラを落として、レンズに雪がついてしまっていたのが残念
ジャンクション・ピーク
2021年03月19日 12:45撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 12:45
ジャンクション・ピーク
荒島岳への南尾根へ
2021年03月19日 12:58撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 12:58
荒島岳への南尾根へ
テントを設営後、いざ荒島岳に向かって出発
2021年03月19日 14:20撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 14:20
テントを設営後、いざ荒島岳に向かって出発
広い尾根の雪原より
2021年03月19日 14:34撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 14:34
広い尾根の雪原より
尾根を振り返る
左手には縫ヶ原山
2021年03月19日 14:43撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 14:43
尾根を振り返る
左手には縫ヶ原山
荒島岳が近づく
2021年03月19日 14:45撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
4
3/19 14:45
荒島岳が近づく
縫ヶ原山と辿ってきた尾根
2021年03月19日 14:57撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
3/19 14:57
縫ヶ原山と辿ってきた尾根
いよいよ最後の急登が始まる
2021年03月19日 15:10撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
3
3/19 15:10
いよいよ最後の急登が始まる
雪庇の尾根を振り返って
ここからしばらくは濃密な笹薮の藪漕ぎの連続
2021年03月19日 15:20撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
5
3/19 15:20
雪庇の尾根を振り返って
ここからしばらくは濃密な笹薮の藪漕ぎの連続
藪漕ぎから解放されてようやく山頂へ
2021年03月19日 15:54撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 15:54
藪漕ぎから解放されてようやく山頂へ
平家岳(右)と滝波山(中央)
2021年03月19日 15:56撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 15:56
平家岳(右)と滝波山(中央)
左より白山、野伏ヶ岳、小白山、彼方には大日ヶ岳
手前は木無山
2021年03月19日 15:57撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 15:57
左より白山、野伏ヶ岳、小白山、彼方には大日ヶ岳
手前は木無山
白山(右)と経ヶ岳(左)
2021年03月19日 15:57撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 15:57
白山(右)と経ヶ岳(左)
辿ってきた南尾根と縫ヶ原山(左)
2021年03月19日 15:59撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 15:59
辿ってきた南尾根と縫ヶ原山(左)
笹薮を抜けて大岩を振り返る
登りでは30分以上かかった笹薮も下りは10分足らず
2021年03月19日 16:07撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
3/19 16:07
笹薮を抜けて大岩を振り返る
登りでは30分以上かかった笹薮も下りは10分足らず
テント場に近づいて
2021年03月19日 17:02撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
3
3/19 17:02
テント場に近づいて
夕陽に輝く縫ヶ原山
2021年03月19日 17:02撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 17:02
夕陽に輝く縫ヶ原山
テントに
2021年03月19日 17:30撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 17:30
テントに
ジャンクション・ピーク(左)と部子山(右)
2021年03月19日 17:31撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 17:31
ジャンクション・ピーク(左)と部子山(右)
荒島岳は急速に色褪せてゆく
2021年03月19日 17:51撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/19 17:51
荒島岳は急速に色褪せてゆく
部子山の北尾根に夕陽が落ちてゆく
2021年03月19日 18:00撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
7
3/19 18:00
部子山の北尾根に夕陽が落ちてゆく
夜のblue hour
この後、まもなく暴風が始まる
2021年03月19日 18:34撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
7
3/19 18:34
夜のblue hour
この後、まもなく暴風が始まる
朝の荒島岳は雲の中
2021年03月20日 06:01撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/20 6:01
朝の荒島岳は雲の中
雲は縫ヶ原山の山頂すれすれに
2021年03月20日 06:01撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/20 6:01
雲は縫ヶ原山の山頂すれすれに
縫ヶ原山への登りよりジャンクション・ピークを振り返る
カメラのレンズの曇りが取れない
2021年03月20日 07:02撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/20 7:02
縫ヶ原山への登りよりジャンクション・ピークを振り返る
カメラのレンズの曇りが取れない
荒島岳の南尾根を俯瞰
2021年03月20日 07:08撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
3/20 7:08
荒島岳の南尾根を俯瞰
荒島岳の左手には朝陽に輝く経ヶ岳
どうやら雲がかかっているのはこのあたり一帯のみ
2021年03月20日 07:08撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/20 7:08
荒島岳の左手には朝陽に輝く経ヶ岳
どうやら雲がかかっているのはこのあたり一帯のみ
縫ヶ原山の西尾根
2021年03月20日 07:15撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/20 7:15
縫ヶ原山の西尾根
縫ヶ原山を振り返る
2021年03月20日 07:32撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
3/20 7:32
縫ヶ原山を振り返る
尾根より南に堂ヶ辻山(右)と手前に人形山(中央)を望んで
2021年03月20日 08:26撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/20 8:26
尾根より南に堂ヶ辻山(右)と手前に人形山(中央)を望んで
縫ヶ原山からの稜線を振り返る
見えているのは尾根の西端のピークp1261か
2021年03月20日 08:34撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/20 8:34
縫ヶ原山からの稜線を振り返る
見えているのは尾根の西端のピークp1261か
尾根のブナの大樹
2021年03月20日 08:40撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/20 8:40
尾根のブナの大樹
再び麻那姫湖に
2021年03月20日 10:07撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/20 10:07
再び麻那姫湖に
大野盆地に下るとすっかり荒島岳から雲が取れて
中央に持篭谷山
2021年03月20日 10:41撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/20 10:41
大野盆地に下るとすっかり荒島岳から雲が取れて
中央に持篭谷山
荒島岳展望
2021年03月20日 10:41撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/20 10:41
荒島岳展望
越前大野の越前そばの名店「梅林」に
2021年03月20日 12:01撮影 by  E-PL6 , OLYMPUS IMAGING CORP.
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3/20 12:01
越前大野の越前そばの名店「梅林」に

感想

今週は晴天の日が続くが、週末は春の嵐となるようだ。雨の振り出しは早くても土曜日の夜であり、土曜日の日中は晴天の予報である。金曜日に有給を取得することが出来たので、雪上テント泊山行を計画する。以前より温めていた持篭谷山から荒島岳南尾根を往復し、縫ヶ原山を周回する山行計画を実行することにする。

金曜日に家内が車を使う予定があるので福井でレンタカーを借りることになる。登山の出発が遅くなるが、このコースであればテン泊の予定地には十分にたどり着けるだろう。早朝に登山口にたどり着くことができれば日帰りでも十分に可能なコースではあるが、荒島岳の南尾根でのテン泊も魅力的に思われる。

福井からはR158を通って大野盆地に入る。大野のスーパーで食料を調達すると、スーパーの片隅で採れたての蕗の薹が安く売られていたので頂くことにする。R157に入ると広い田畑の彼方に大野盆地を取りまく雪の山々を眺めるのが愉しい。荒島岳、経ヶ岳はいずれも先週よりも明らかに雪が少なくなっているようだが、銀杏峰〜部子山の稜線は純白に輝いている。

R157を南下すると国道はまもなく真名川に沿って深い山合いへと入ってゆく。周囲の山肌には全く雪がない。真名川ダムに至るとダムのアーチを渡り、モニュメントの前の道路余地に車を停める。

右岸の舗装林道を歩くとすぐに尾根への取り付きを示すピンクテープがある。道路脇のコンクリートの擁壁には積雪時にはいとも簡単に登れるのだろうが、雪がないせいで容易には登れない。擁壁の上の低木を掴んで何とか攀じ登った。

斜面には既に低木の藪が繁茂しているが古い道の跡が続いている。道は尾根にたどり着いたところで不明瞭になる。そのまま尾根芯の急登を登りかけたところでカメラを入れるポシェットからカメラが転がり落ちた。これを拾いに急斜面を再び降りるのだが、これは私に無理な登攀をやめるように山の神が仕向けたのかもしれなかった。カメラを取りに戻ると尾根の手前の杉の植林の中にピンクテープがあり、登りやすい踏み跡が続いているのに気がつく。

テープと踏み跡を辿るとすぐに斜面には緑色のロープが現れ、ロープの助けを借りて登りつめると途端に広々としてなだらかな尾根に乗ることが出来た。

尾根上には勿論、登山道はない。疎らに繁茂する笹の間を縫うように鹿の踏み跡が続いており、鹿道を追う。やがて笹の間に進路を塞ぐようにヤブツバキの濃密な藪が現れる。しかし、鹿のトレースは確実にヤブツバキの藪の薄いところへと誘導してくれる。

尾根は一向に高度が上がる気配がない。気がつくと尾根はミズナラやカエデなどの広葉樹の大樹の樹林となる。標高750mあたりでようやく雪が現れたと思うと、そこからは林床は一気に雪に覆われるようになった。

スノーシューを履くが、気温が暖かい割には足元の雪の沈み込みは少なく、快調に尾根を辿る。やがて樹林の林相はいつしか樹高の高い山毛欅の壮麗な樹林へと変わる。蒼空に向かって山毛欅の樹々が伸ばす箒状の繊細なシルエットがなんとも美しい。

樹林の間の展望地からは北側に荒島岳を大きく望む。その肩からは純白の白山が姿を見せる。手前の斜面には疎らに生える杉の樹々が白い雪面の間に動物の毛皮のような黒い模様をリズミカルに刻んでいる。

広々とした樹林の中を辿るうちに尾根の先に樹林のないピークが見えてきた。早くも持篭谷山の山頂のようだ。わずかにひと登りで好展望のピークにたどり着く。

背後を振り返ると麻那姫湖の湛える緑碧の湖面が否応なく目を惹く。その彼方に聳える銀杏峰と部子山はこの角度から眺めると二つの山というよりは一つの白い山塊となって広がっている。

山頂から先はジャンクション・ピークp1209の鋭鋒に向かって吊尾根が続いているが、その南側斜面は山毛欅と思われる樹林が広がっている一方で、北側斜面は雪面が広がっており、針葉樹の若木が疎らに生えているばかりだ。その右手にはこれから辿ることになる荒島岳へと連なる長い尾根が目に入る。


ジャンクション・ピークに向かって、北側には荒島岳と大野盆地の好展望を望みながら快適に辿る。ピークが近づくと樹林が少なくなり樹々も疎らになり、パノラマの尾根となる。右手には明日の下山で辿る予定の縫ヶ原山からの長い稜線とその彼方に姥ヶ岳と能郷白山が見える。ジャンクション・ピークに到達すると巨大な飛行船を思わせる縫ヶ原山の山容が視界に大きく飛び込む。

ジャンクション・ピークの山頂部は狭く、傾斜しているので、テントを張れるような場所ではない。
荒島岳への稜線を北に辿ると、ca1180mの北端に程よい平坦地を見つけることが出来た。
担いできたスコップでテントのスペースの分を雪を掘り、テントを設営する。

時間はまだ14時をまわったところだ。日没までに荒島岳を往復するだけの時間の余裕があるだろうと踏む。雪も程よく締まっているようなので、スノーシューは諦めて、12本アイゼンを装着する。

アップダウンの少ないなだらかな尾根を快調に進むうちに、徐々に荒島岳の山頂が大きくなってゆく。山頂の手前1kmほどの標高点p1265までは45分で到着することが出来る。

気になるのは山頂直下で雪が切れて、西側に藪が露出していることだ。登りが近づくと尾根芯の露出した笹薮との間に大きな雪割れが生じている。敢えてクレバスの中を通過する。

やがてca1410mあたりで荒島岳の山頂にかけての急登が始まると雪が繋がっているのは東側の急峻な斜面である。斜面をトラバースして、雪の急斜面を登る。ここはアイゼンとピッケルなくしては登れないところであった。一度、足を滑らせればそのまま谷底まで滑落することになる。

やがて目の前には尾根上の大きな赤黒い巨岩が東側斜面を塞ぐように迫る。巨岩の下には雪があるものの多数の雪割れを生じており、悪意ある獣のような口を開けている。左手の尾根芯は密生した笹薮だが、ここは選択の余地はない。笹薮の中に飛び込む。

笹薮の中は一筋の獣道を探り当てることが出来て、しばらくはその踏み跡を登ってゆくことが出来る。尾根を登行するにはこの笹薮を漕ぐのが正解だったようだ。というのも間も無く尾根はすぐに痩せ尾根となるのだが、先ほどの大岩を右手から巻いて東側斜面から尾根に乗るのは斜面が急過ぎて到底、無理だったであろう。

しかし足元の獣道を見失ったのか、獣道が不明瞭になると途端に密生した笹薮の登行は非常に困難となり、なかなか進むことが出来ない。辛抱して笹薮の中を進むしかない。傾斜が緩くなり始めたところでようやく尾根に雪が現れた。最後は緩やかに尾根を歩くと忽然と雪の中に祠が現れ、山頂にたどり着いたことを知る。時間はほぼ16時になっていた。急登が始まってからわずか300mほどの距離に40分ほどを費やしたようだ。

山頂にたどり着くと期待通り、まず白山が視界に大きく飛び込む。そして左手には赤兎山、大長山、経ヶ岳、右手には野伏ヶ岳、小白山と大日ヶ岳、その手前には先週に登ったばかりの木無山を望む。遠くに望む御嶽山はこの日はかなり霞んでいる。相変わらず快晴微風の天気が続いている。当然ながらこの時間に山頂に立っているのは他にはいない。

前回、この山頂にたどり着いたのはシャクナゲ平で長男と共にテン泊をして、ご来光の直後に山頂にたどり着いたのだが、山頂はガスと暴風の中で逃げ帰るようにして山頂から下ったことを思い出す。よくある話で、下降すると直後に山頂部がすっきり晴れたのだが。

山頂でゆっくりしたいところではあるが、藪漕ぎに思いのほか時間を要してしまったので、早々に下山の途につく。経験のある方はお分かりになると思うが、笹薮の藪漕ぎはルートがわかっている限り、下山は早い。藪をこぐうちに足元には再び獣道が現れ、まもなく先ほどの大岩の下にたどり着いた。

急斜面の下降で一瞬、足元が崩れ、図らずも数mの尻セードとなる。気がついたらカメラのシャッター・ボタンが失くなっていた。何とも無念なことにカメラのシャッターが切れなくなっていた。

急斜面のトラバースを無事通過すると後は危険な箇所はない。テントを目指して緩やかに波打つたおやかな尾根を戻る。尾根の左手の縫ヶ原山が斜陽に黄金色に染まる山肌と青白い谷間が美しいコントラストを見せているが、カメラのシャッターが使えないのが残念だ。iphoneでも写真を撮ってみるが、目に映った美しいコントラストは到底、再現出来ていなかった。

カメラのシャッター・ボタンを押さずとも液晶パネルに触れることでシャッターを切る性能があったことを思い出したのはテントを目前にしたところだった。振り返ると荒島岳の斜面も黄金色に染まっている。

風は相変わらずほとんどないのだが、テントの西側に少し雪を積み上げておく。作業をしているうちに西の空に陽が落ちてゆく。西の空が霞んでいるせいだろうか、この日は西の空は茜色に染まることなく、徐々に暗くなっていった。

夕焼けを諦めてテントに潜り込むと、焼豚としめじの炒め物をあてに早速にも焼酎の雪割から始める。不穏な風が吹き始めたのは日が暮れてまもなくだった。風は急速に強さを増し、テントを揺さぶる。大野のスーパーで入手したハンバーグと湖北の富田酒造の七本槍を呑む。

夜半にテントの風上側のペグが飛ばされるので、ペグの代わりにピッケルを差し込む。何度か浅い睡眠をとるが、テントを蹂躙する風の音で頻繁に起こされることになる。しかしテントの性能のお陰か、寒さを一向に感じることがないのは有難かった。どうやらこの日は焼酎と日本酒が多すぎたのかもしれない。日中はほとんど喉が乾かなかったのだが、やたらと喉が渇き、持参した水を瞬く間に飲み干してしまう。雪を溶かして翌日のための水を作る。

【二日目】
早朝になっても一向に風は治る気配はないどころかますますひどくなったようだ。急ぐ山旅ではないので吹き荒ぶ風の音を聞きながら朝はゆっくりと過ごす。テントから外に出てみるとテントの周りは雲の下だが、荒島岳は雲の中だ。雲は縫ヶ原山の山頂とほぼ同じ高さのようだ。

いざテントの撤収にかかるが、風が強すぎてテントを畳むのが到底困難である。少しでも油断するとテントが風に飛んで行きそうである。適当に丸めてもなんとか収納袋に収まってくれたのは有難かった。

強風のせいで往路を引き返して下山することも考えたが、縫ヶ原山にかかる雲が上がってくれることを期待して、予定通りの周回ルートを辿ることにする。ジャンクション・ピークに登り返すと、所々で藪が露出した尾根を鞍部に向かって下降する。途端に風の陰に入ったのだろう、先ほどまでの強風が嘘のように風は感じられなくなった。縫ヶ原山への登り返しは緩やかな二重尾根となり、ブナの樹々が立ち並ぶ美しいところだ。

尾根は徐々に気が少なくなり、山頂が近づくと樹木のない雪稜となる。振り返ると昨日辿った荒島岳への南尾根の彼方で朝陽に輝く経ヶ岳や大日岳が見える。どうやら雲がかかっているのはこの稜線を含め、荒島岳から東のあたりのみのようだ。

縫ヶ原山の稜線に上がると完全に雲の中に入る。稜線に上がって驚いたのは急峻な南側斜面の上には雪庇が張り出してると思っていたが、雪庇はなく、斜面の藪が露出している。どうやら既に雪庇が崩落したのだろう。稜線の北側の急斜面をトラバースしながら歩くことになるが、ここはアイゼンがしっかりと効いてくれる。

稜線を辿るうちにすぐに雲の下に出る。尾根のすぐ南側で均整のとれた山容を大きく広げているのは人形山を手前に擁した堂ヶ辻山だろう。気がつくと先ほどまでの急峻な斜面は緩斜面となり、気持ちの良さそうなブナの疎林が広がっている。この緩斜面を下降することも考えたが、昨日、持篭谷山から眺めた尾根に雪が繋がっていたことを思い出し、尾根をたどり続けることを選択する。しかし、この判断根拠は間違っていた。尾根が北西に向きを変えるとすぐにも尾根芯の雪は消失する。仕方ないので雪を拾いながら尾根の右手をトラバース気味に歩く。

登りの尾根と同様、頻繁に現れるブナの大樹が目を愉しませてくれる。しかし、標高が低くなるにつれてブナの樹々は急に姿を消す。登りの尾根より雪が下まであるように見えたのは確かに正しかった。標高630mのあたりまで雪があったからだ。雪が消えると煩わしい藪尾根となるが、尾根芯には細い掘割の古道が現れる。しかし、その古道も尾根を下るにつれて不明瞭となり、最後はひたすら藪の急下降となる。下りだからまだいいように思うが、雪のない状況でこの藪をかき分けて急斜面を登るのは相当な苦行だろう。

やがて林道が急斜面の下に見えると、法面が崖となっていることを心配したが、最後は尾根筋の濃密な藪を掻き分けて無事林道の着地することが出来た。林道は北側斜面ではまだ10cm以上は積雪していたが、持篭谷にかかる大きな橋からは途端になくなる。静かな緑碧の湖面を振り返ると対岸では道斉山が雪の消えた裾野を広げている。

車を停めたモニュメントに戻るとそれは慰霊碑であり、石碑には7名の氏名と北斗七星が刻まれていた。ダム工事の殉職者を慰霊するためのものであった。ダム工事の殉職者といえば黒部ダム工事に伴う殉職者の171名という犠牲者の数に唖然とするが、他のダム工事もかなりの犠牲を伴っている。相模ダムの83名という数字も相当だ。近いところでは王滝川の三浦ダムは33名、揖斐川の徳山ダムは10名の殉職者らしい。この真名川ダムの7名の殉職者を多いと見るべきか、少ないと捉えるべきなのか。

帰りは越前大野に立ち寄るとまずは南部酒造場で花垣の「亀の尾」の、純米生原酒と”FUNASHIBORI”(槽搾り)、伊藤潤和堂の銘菓「芋きんつば」を手にいれる。通りを挟んで反対側の荒木味噌店はまるで商売気のないところだが、ここの味噌はどれも秀逸だ。ランチは福そばの越前そばを楽しみにしていたのだが、なんと店は更地になっている。店の建て替えとやらでしばらく休業らしい。場所を移動して「梅林」で蕎麦を頂いた。

福井への帰路から伊自良温泉に寄り道する。この4月から入浴料が値上がりして\350になるらしい。温泉の受付では蕗の薹を含む山菜の天ぷら盛り合わせが\100で売られている。

福井のレンタカー店に戻ると駅の周辺でもかなりの強い風が吹いている。前日に応対してくれた受付の女性も登山をされる方らしく、山の上ではさぞかし風が強いだろうと心配をして下さっていた。サンダーバードの指定席はそれなり混んでいたが、列車の到着まで時間があるので、人のいないホームのベンチでビールと共に山菜の盛り合わせを頂く。冷めていても蕗の薹の天ぷらはビールのつまみとしては十分に上等に思えるのだった。

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コメント

うらやましいような良い山旅ですね
週末は雨、奥美濃の雪はものすごいスピードで溶けていき、、
残雪の山は終わってしまいました。(泣)
福井辺りはまだ途切れてもあるのですね。
真名川ダムから荒島岳は考えもしなかったルートです
また、レポ楽しみにしています
2021/3/25 18:01
Re: うらやましいような良い山旅ですね
jionさん コメント有難うございます。
ジャンクション・ピークのp1209から荒島岳の間は実に素晴らしい尾根です。山頂直下で雪が切れて笹薮の藪漕ぎに難渋しましたが、雪が繋がっていれば快適に辿ることが出来ると思います。ここは霧氷が見られそうな時を見計らって捲土重来したいところです。
2021/3/25 18:25
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