グランド・ティトン Grand Teton(4197m)
- GPS
- 51:19
- 距離
- 27.7km
- 登り
- 2,262m
- 下り
- 2,260m
コースタイム
- 山行
- 7:22
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 7:22
- 山行
- 11:20
- 休憩
- 1:12
- 合計
- 12:32
- 山行
- 2:25
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 2:25
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2023年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
写真
感想
7月15日、いよいよ、今回のアメリカ行の一番の目的、憧れのグランドティトンへ。ノーマルルートのオーウェン・スポルディング・ルートから登頂を目指します。西部劇映画の名作『シェーン』の背景に登場し、アンセル・アダムスの写真でも知られるアメリカを代表する山の一つですが、最近は「シェーン、カムバック!」と言っても「何それ?」な人も多いようです。
初日は3500mのローワーサドルまで1500mの登り。花が咲き乱れ、ハイカーで溢れる登山道をたどり、ハイキングコースと分かれると、だいぶ静かになりますが、それでもかなりの数のガイドツアー客がいます。
頭上高く岩峰、岩壁がそびえ、巨岩帯に雪渓、そしてフィックロープの岩場を抜けると、エベレスト・サウスコルもかくやと思わせるローワーサドルのキャンプにたどり着きます。山の人気もエベレスト並みで、夜中0時にゆっくり降ってくる人もいれば、4時前に登っていく人も。
2日目は妻をテントに残して2人で山頂へ。アッパーサドルからはロープを付けて山頂岩壁に取り付きます。ホールドはしっかりして難易度は高くありませんが、トラバース部分などは高度感が半端なく(Extremely Exposure)、滑ったら1000mぐらい落っこちそうでおっかないです。リードしてくれたパートナーに感謝。チムニーを登っていたら、ノーロープですたすたと追い抜いていく2人組が。見ると、短パンの男性はあのジミー・チンでした。アプローチシューズの彼がまだ硬い残雪にステップを切るのに私のピッケルを貸し、山頂から帰ってきた彼と一緒に写真を撮ってもらいました。
山頂からの降りは30mの懸垂下降。50mロープしかないので240cmのスリングと15mのロープを足して捨て縄にしましたが、それでも下に届いているかわからず、結局、パートナーが空中懸垂中にハング下の穴の中に見つけた中間支点でロープを架け替えて降りました。山頂往復に10時間以上かかり、すぐにローワーサドルのテントを撤収して下山を始めましたが、トレイルヘッドまで辿り着けず、下部キャンプでもう1泊となりました。
いろんな意味で、グラニット・ピークとは対照的な山でした。
7月15日
いよいよ今日からがメインイベント。1泊2日の予定でグランド・ティトンを目指す。今日もグランド・ティトンはくっきり見えて、いい天気。車でルーピン・メドウズ・トレイルヘッドまで行くが、昨日からとにかく人と車が多く、中々駐車スペースが見つからずにうろうろ。ほとんど人に会わなかったグラニット・ピークとは対照的だ。日本では外来種だがこちらでは在来種のルーピン(ルピナス)は、花の時期が終わったのか見当たらない。6時45分に歩き始める。今日は、上部に2つあるコルのうち、下の方ローワーサドルまで上がってテントを張る予定。東向きの斜面を南に向かって針葉樹森の中をトラバースする道は、ハイキングコースと重なっているので人が多い。右手頭上にはグランド・ティトンの前衛峰ティーウィノット・マウンテン(3708m)がのしかかっている。
草原状の斜面にアローリーフ・バルサムルートの黄色い花が一面に咲いている。左下前方にはジャクソンホールの平原が広がっている。人が集まって下の斜面を見つめているので何かと思ったら、熊だった。グリズリーベア=ヒグマだ。道はやがて傾斜を増し、ジグザグのつづら折りの道となる。4つか5つジグを切った標高2550mあたりで道の分岐となる。右の道はアンフィシアター・レイクへのハイキングコース。左のガーネット・キャニオンの谷に入っていく道を進むと、歩いている人が一気に減る。
谷に入る前から進行方向に尖ったネズパース(3612m)というピークが見え、谷に入るにつれ、その右にミドル・ティトン(3903m)も見えてくる。右には、ガーネット・キャニオンのU字谷の左岸の側壁が岩壁となって迫る。オーバーハングしているところもあり、下は、岩が崩れてできたガレ場。そのガレ場と岩壁の間に道が続いている。
上部の雪渓を登っている人たちが見える。ミドル・ティトンの左手、ガーネット・キャニオンの左股の雪渓なので、我々とは違ってミドル・ティトンを目指しているようだ。糸杉のような細身の針葉樹が多い。グラニット・ピークと同じミヤマバルサムモミか?エンゲルマントウヒか?谷の真ん中奥に聳えるミドル・ティトンが次第に近づいてくる。道は谷底に降り、白く泡立つ急流も間近に見える。巨岩が多くなり、巨岩の間を縫うように進む。谷の中は草地となり、テントがある。メドウズのテント場だ。U字谷はこの上でミドル・ティトンを境に左右両股に分かれている。
谷の前方の右壁からは、くの字状の滝スポルディング・フォールズが落ちており、道はそちらへ上がっていく。ペイントブラシの花が咲いている。高さ20mほどの滝を巻くと道は、雪渓や水流を渡りながら、斜面をトラバースする形になる。岩の穴からマーモットが顔を見せる。尾根を回り込むようにミドル・ティトンの右のガーネット・キャニオン・クリーク右股に入っていくと、ようやく今日の目的地、ローワー・サドルが上に見えてくる。谷の左側の雪渓は上部で傾斜が強くなって細く左上へ続き、そこへ向かうトレースもついているのだが、我々は、そちらではなく右の岩場を登る通常ルートへ。その基部に向かって、モレーンのようなガレ場の尾根を登る。左上するランペ状の岩場にはフィックスロープがあるが、ロープをつかみながらチムニーの中に入ってから、岩を抱き抱えるようにトラバースせねばならず、大きめのザックを背負っていると、ちょっと大変だった。そこを抜け、傾斜が緩むともう、標高約3500mのローワーサドル。14時過ぎに着き、岩に囲まれて風のあまり当たらない、整地されたテント場に我々のテントを張る。
北を見上げると尖ったグランド・ティトンとその左のエンクロージャー(4060m)というピークが双耳峰のようにそそり立っている。この二峰の間に、明日登路って行くアッパーサドルがあるのだが、ここからは見えない。グランド・ティトンの右には、剱岳の八ツ峰のようなピークが連なっている。振り返ると、南側にはミドルティトンが聳えている。
ホースから水が出ている水場で水を汲んでから、サドルの最上部まで行ってみると、一般登山者のテントの他、ベースキャンプ的なドア付きの立派なカマボコ型、家形のテントなどがあった。これは地元のガイド会社エグザム・マウンテン・ガイドが常設しているものらしく、常駐しているガイド、スタッフもいるようだ。この会社は、グランド・ティトンにおけるクライミングのパイオニアの一人で、ここからも見えるエグザム・リッジなどのルートにも名を残すグレン・エグザムが設立したもので、トム・ホーンバインとともにエベレスト西稜を初登攀したウィリ・アンソールドもここでガイドとして働いていた。
このローワー・サドルは、グラニット・ピークの頂上岩壁をエベレスト南西壁に比すなら、エベレストのサウスコルという感じ。山頂の南東ではなく南西にあるところは違うが。
サドルのてっぺんから西側を覗くと、カスケード・クリーク南股の源頭部のU字谷が見下ろせ、その向こうにテーブルマウンテン、バトルシップマウンテンなどの山が見えた。
テントでまったりしていると、登頂した人たちが三々五々降りてくる。陽が傾き、山頂が残照を浴びて輝き、やがて闇に沈んだ。この夜も星が綺麗だったが、夜中の12時になっても、山頂から降りてくるヘッドランプの灯りが見えた。ローワーサドル常駐のガイドがサポートしていたのだろうか。
7月16日
最後の人が降りてきてから4時間もたたぬうちに、最初の人が山頂へ向かっていくヘッドランプの灯りが見えた。我々は5時50分に山頂アタックに出た。今日はテントキーパーの妻の見送りを受け、上野君と二人で、まずはノーロープでアッパーサドルへ向かって登っていく。東の水平線が茜色に染まり、すぐに後ろのミドル・ティトンが朝日を浴びて光り輝き始めるが、北東方向の山頂と尾根の陰になったここは陽が当たらず寒い。尾根の中央のザ・ニードル(針)と呼ばれる岩峰の左を通り、そこから右上するのだが、岩の迷路のようで、先行者があちこちにいるので、どちらに行ったらいいかちょっと迷う。部分的には3級程度の岩場もあった。
右前方に西壁の上部の山頂岩壁というか岩塊が見えてくる。右のエグザムリッジ(アッパーエグザム)の方へ行く人が多い。女性だけのパーティーもいる。我々は、左のエンクロージャーの山頂方向から落ちてきた岩が折り重なる斜面を、山頂岩塊との間のコルに向かって斜上。ローワーサドルからの標高差500mを1時間半強かけて登り、7時30分頃に平らな標高4000mのアッパーサドルにたどり着いてひと息つく。既に、グラニット・ピークの山頂の標高を越えて、私の最高到達高度を更新。ここには何人かいるが、我々の目指す左のノーマルルート=オーウェン・スポルディング・ルートに行くパーティはない。正面にある頂上岩壁のちょっとハングした凹角状のところが帰りの懸垂下降ルートのようだ。
このあたりで上野君のピッケルをデポし、ロープを付けて左へ。上野君がリードで岩に取り付き、カムでランニングビレイを取りながら登って行く。私はカムを回収しながらフォロー。すぐに有名なベリーロールで、フレーク状のスラブを手で掴みながらトラバースすると、続くクロールは、ハングした壁のすぐ下に並行して走るスラブ上の小リッジにまたがって這い進み、リッジと岩壁の隙間が狭くなったところからは、このクラック状のところに手をかけ下のスラブに足をのせて、蟹の横ばい状態でトラバース。ここは、北西壁の上部で下がスッパリ切れ落ちており、技術的に難しくはないが、万が一スリップしたら標高差1000m近く落っこちそうなので、足がすくむ。
ここからダブルチムニーを直上し、続いてオーウェン・チムニーに入る。上野君が登って行くのをビレイしていると、下から二人組が駆け足で追いついてきた。ノーロープで、足元はアプローチシューズ。先行しているのは割と年配の女性。野球帽に短パンの後続の男性のアジア系の顔には見覚えがあると思ったら、なんとジミー・チンだった。こんな山で、しかも山頂直下であのジミー・チンに会うとは。日の当たらないチムニーの中に残っている雪は硬いため、手で雪を削ってステップを切っているジミーを見て、私のピッケルを貸す。ステップを切ると二人は、あっという間に我々を置き去りにしていった。
それから45分後、まだ我々がサージャント・チムニーが左右に分かれるあたりを登っていると、左上からあの二人が降りてきた。ジミーと言葉を交わし、一緒に写真を撮ってもらう。自撮りに慣れておらず、もたもたしていたら、ジミーが撮ってくれた。我々は、こっちの方が楽だよとジミーが教えてくれた左のルートへ。二人はまたスタスタと飛ぶように降っていった。後からクライマーズ・ランチの人に聞いたところ、ジミーはグランド・ティトンを拠点の一つにしていて、よく出没するらしい。
そこからは傾斜も緩み、10時45分にグランド・ティトンの4197mの山頂に着いた。北にはマウント・モランなどの峰々やジャクソン・レイクなどの湖、東には平原、西と南にはU字谷などがよく見える。東の直下にはアンフィシアター・レイクやサプライズ・レイク、デルタ・レイクなどの小さめの山上湖。山頂には数人の若者グループ。三角点のプレートはあるが、レジスターボックスはない。若者の一人に訊くと、以前はあったが今はないのだとか。
1時間も山頂に滞在してから、登って来たルートを降り始める。サージャント・チムニーの懸垂下降支点から降ろうとしていると、下から危なっかしい男女のカップルが登ってくる。上野君がサポートしてやり、何とかやり過ごしたが、このすれ違いに少々時間を要した。彼らはさらに登っていったが、果たしてその後、どうなったやら。
この懸垂下降は特に問題ないが、その下で待っているのが、この日の、そしてこの山行の最大の核心部たる、30mキッカリあるという2度目の懸垂下降。登りのルートを離れ、何とか支点を見つけて、ジャクソンのティトン・マウンテニアリングで買った15mのロープと2.4メートルのダイニーマ・スリングを長い捨て縄替わりにして、持参した50mロープをダブルで下ろすが、最初は傾斜が緩いので下が見えない。傾斜が急になるところで一旦ピッチを切って下を見るが、ここまで来てもロープが届いているかどうかわからない。それでも意を決して上野君が降っていく。すぐに空中懸垂となるが、まだ下に届いているかわからない。ハングの下に入れる穴を見つけて体を振って入ると支点があったので、そこでピッチを切ってロープを架け替えるから、そこまで降って来いという。私も空中懸垂で降っていくが、穴は1mぐらい奥。体を振ってもなかなか届かず、アイガー北壁のトニー・クルツみたいな気分になるが、上野君がなんとかロープを掴んで引き寄せてくれた。
さすがにここで掛け替えればロープは下まで届く。しかし、上野君に続いて降るべく、体の向きを変えたときに足を滑らせて左太腿の前面を岩に強打し、思わずうめくほどの痛み。なんとか降ったが、実はここの懸垂下降は35m以上あるらしい。60mのダイナミックロープなら伸びて下まで届くという話。
アッパーサドルまで戻り、上野君のピッケルを回収。この時点で14時半過ぎ。ここからノーロープで降るが、岩の迷路で迷い、二人がバラバラになる。ここを夜中にヘッドランプで降るのはなかなか大変だろうな。
ローワーサドルにやっとたどり着き、待ち侘びた妻の出迎えを受けた時にはすでに16時過ぎ。日が長いとはいえ、今日中にトレイルヘッドまで戻るのは難しいかもしれないが、行けるところまで行くことにして、30分で撤収して降り始める。すぐに出てくる例のフィックスのある岩場にはガイド会社のスタッフがいて、ビレイしてくれるというので、妻をビレイしてもらう。その下の巨岩帯ではちょっとルート取りを誤り、時間ロス。
このあたりで19時半。まだ日没までは時間はあるが、テントを張るなら今のうちと、2750m付近のプラットフォームというテント場に泊まることにして、ガーネット・キャニオンの流れを右岸に渡る。針葉樹林の中のテント場はなかなか快適。下の方を見ると、ジャクソンホールの平原に、グランド・ティトン、ミドル・ティトンなどの岩峰が長い影を落とし、影ティトンとなっていた。
7月17日
今日の予定は降るだけなので、ゆっくりめ7時過ぎにテント場を発つ。今日も晴れてはいるが、雲がちだ。昨日登頂しておいて正解か。10時前にはルーピン・メドウズのトレイルヘッドに着く。クライマーズ・ランチで改めて今夜の宿泊を予約したのち、ジャクソンの街に向かう。今日も街は混んでいる。雑踏をかき分け、ティトン・マウンテニアリング、観光、そして先日とは違うクラフトビールのブルーパブ、ロードハウス・ブルーイングへ。ここは量り売りはしていないので、今日のこの後のドライバーの妻以外はここで席に座ってビールを飲み、瓶を購入。先日と同じスーパーで買い物。ブラックダイヤモンドの直営店なども覗く。クライマーズ・ランチへ戻って、図書室へ行ってみる。なかなか居心地のいい空間だ。初めて見る本が多いので、何冊かに目を通す。古い由緒のある道具や写真、絵なども飾ってある。バッツォことウォーレン・ハーディングのインタビューに関する、プレイボーイ誌の編集者からガレン・ローウェルに宛てた書簡が、カリカチュアライズされた彼の似顔絵(自画像?)とともに額装されてあった。
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