遥かなる三ノ沢岳独標尾根、撤退❕
- GPS
- 12:17
- 距離
- 13.7km
- 登り
- 1,566m
- 下り
- 1,573m
コースタイム
天候 | 最高の晴れだったのに... |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2023年12月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
上松A登山口から風越山までは山と高原地図に登山道の表記がない。 まず、堤防に掛けられた頼りないトラロープを掴みながら河原に下り、渡渉を2回する。その先にある昔の登山口の取り付きと思しきピンクテープから登山道に入る。しかし、1360のピークまでは尾根伝いでもなかなかに険しい斜面。登りはともかく、下りは非常に危険だった。そこからは尾根上にしっかりとした登山道ができていて道標もある。ピンクテープもヒステリックなほどあり、全く普通の一般道。しかし、殆ど登山者が入らないのか熊の楽園になっている。僕は1300mくらいで子熊2頭に走り寄られ、死兆星が見えた。強めの咳ばらいを何回もすると彼らは逃げてくれた。 風越山から1805までは道が不明瞭な倒木帯になる。ピンクテープも少な目な気がした。1805を越えると、すぐにやたらとだだっ広い平らなピークになる。標高は1870m辺り。ここから1874のコルまでは地形図では分かりにくいが、かなり急な下りがあり危なかった。 1784のコルから道がグンと険しくなる。天狗山までがやたらと遠く感じた。滑って何度か滑落しそうになったので、途中でサルケンを装着した。天狗山から独標までが本当に辛かった。ピッケルで毎回体を引き上げるような急な登りが続く。特に独標直下は急登、ラッセル、多少藪漕ぎもあり、ここで一気に体力を消耗した。 独標には午後2時過ぎに到着。計画では中三ノ沢岳先のコルに幕営予定だったが、スタートが1時間半遅れかつ1時間余計に独標までかかっていたので、ここに幕営する決断をする。つまり、それはここでの撤退と同義であった。 |
写真
感想
今回の上松A登山口からの独標尾根周回チャレンジは残念ながら独標までで撤退となった。
上松(あげまつ)登山口から風越山までは、昔は登山道があったようだが、今は廃道になっているのか、山と高原地図には登山道の表記はない。そして、ここは序盤が難しい。まず、駐車場から川沿いの道を歩いて行くと、唐突に「風越山山頂」の道標が川を指して立っている。下を見下ろすと、それなりに高さのある堤防に切れそうなトラロープがひょろんと掛かっていた。20キロ超えのザックを背負い、そのトラロープを掴みながらクライムダウンした。実は、その道標の少し手前の堤防は高さがそれほどないので、簡単に河原に下りられる。しかし、記念にトラロープを使ってみたかった。
河原からは渡渉が2回ある。しかし、これはこの時期は水量が少なくイージーだった。そして少し歩くと、昔の登山道の取り付きのような場所にピンクテープがあり、そこの急な斜面を上がる。しかし、ここからが無法地帯で、登山道らしい踏み跡は僕には見つけられなかった。適当にぐずぐずの斜面を上がり、何とかしっかりした尾根に乗った。今回は、10月に雪投沢源頭で道迷いしたのを教訓に、ピンクテープを持って来ていた。帰りの為に適宜枝にピンクテープを巻き付けながら登ったものの、あまりに急すぎる斜面で下りには使えない感じだった。帰りは最初に乗ったしっかりした尾根から更に下にピンクテープがあったので、信用して少し下ってみた。しかし、それはトラップだったようで、また全部登り返す羽目になる。仕方がないので、そこから尾根伝いに下りたものの、ぐずぐず加減は僕が登りに使った斜面と大差なく、半ば滑落しながら何とか下りきった。
しっかりした尾根に乗って比較的すぐの1300m辺りで、唐突に2頭の小熊が僕に向かって走り寄ってきた。あまりの出来事に目を疑う。「これ、最近インスタで見た動画と同じやん😓」。しかし、彼らは怒っている感じではなく「遊んで〜😃」といった雰囲気だった。僕が黒づくめの登山服だったので、仲間と勘違いしたのかも知れない。しかし、こっちはパニックに陥った。またセオリーを無視して、彼らに背中を見せ、必死に右手に走った。しかし、ザックが重すぎて全くスピードが出ない。ひたすら強めの咳払いをしながら人間であることをアピールしていると、彼らは「ちぇっ!遊べないのかよ...」といった雰囲気で踵を返してくれた。そこから1360のピークまでは、あまりのパニックで絶叫しながら歩いた。これでかなり精神力を使ってしまった。ここから風越山までは、ピンクテープが豊富で、普通の登山道と大差がない。風越山には予定通りスタートから2時間程で到着した。ここは眺望がないが、先に5から10分ほど歩くと中央アルプス展望台がある。目指す三ノ沢岳や木曽駒ヶ岳がそれなりに見えた。
この先は誰も行かないはずだが、なぜか地面の雪に登山靴の跡が続いていた。「ちょっと先まで様子見かなぁ?」。嫌だったのは、その横に明らかに熊の足跡もあったことだった。風越山からは地形図でガチガチに予習していたとはいうものの、道が一気に分かりにくくなる。倒木帯で、何回もそれを跨いで乗り越えた。また、先行者の足跡も参考になったが、やはり決まりきったルートはないのか、その足跡は時々消えてなくなった。
それでも1805までは特に問題はなかった。ここから少し歩くとやたら広い平らな山頂のピークがある。地形図に標高の表記はないが1870くらいで、テントは張り放題だ。そしてその山頂を越えると、一転下りになる。地形図では分かりにくいが、それなりの急斜面で雪も付いており、ツボ足では危なかった。サイドステップで慎重に下りた。最後にものすごい急坂を慎重に下りるとそこが1784のコルだった。この辺りで、例の足跡の主(男性)と出会う。お互いに「まさか人に会うとは...」と感じて顔を見合わせた。
Ttm:「このトレースは、(あなた)が付けてくれたんですよね?」
先行者:「はい、絶対に誰もいないと思ってました😅」
彼は引き返して来ていたので、
Ttm:「どの辺りまで行ったんですか?」
先行者:「え〜っと、天狗山までですね」
Ttm:「そこで撤退した理由は何なんですか?」
先行者:「この山域特有の雪と岩のいやらしいミックスになってきて...」
Ttm:「そうですよね...僕もそろそろアイゼンかなと思ってます」
先行者:「でも、この感じだと逆に歩きにくいんじゃないかな…。三ノ沢岳まで行きますよね?」
Ttm:「...まあ行ければ?」
先行者:「そこから宝剣岳、木曽駒周回やりたいですよね!」
Ttm:「ねえ!」
先行者:「(このレコを)ヤマップかヤマレコに上げますか?」
Ttm:「はい、上げますね」
先行者:「じゃあ、どこまで行けたか後でチェックしよう」
彼は潔く撤退していった。
この先、確かにかなりいやらしい急登になった。足元が滑り滑落しそうになったので、まずはピッケルを出した。地面にピッケルをぶっ刺し、体をピッケルで引き上げながら登り続けた。そしてまたリアルに滑落しそうになったので、いよいよサルケン(テクニカルマウンテニアリング用のペツルのアイゼン)を装着した。そこからも、「これ帰りの下りは苦労するやろうな...」と思わずにはいられない急斜面をガシガシ登り、やっと天狗山に到着した。
天狗山からも引き続き険しい尾根の急登だった。地形図で見るとそれほど大変には見えなかったが、とんでもない勘違いだった。雪も深くなりラッセル気味になった。また所々藪の前哨戦のような様相も呈してきて、体力と時間がみるみる奪われていった。この1週間は毎日睡眠時間が4時間ちょっとだった。極端な寝不足で、そのせいで余計に辛く感じたのかもしれない。しっかり寝た後の撤退の下りではそれほど苦痛を感じなかったからだ。
ヘロヘロになりながら、一歩一歩ピッケルで体を引き上げながら尾根を登り続け、やっと午後2時過ぎに独標に登頂した。山頂は最高の景色で、こじんまりとした平らなスペースがあった。奥にはもちろん独標尾根の4つのピークの先にとにかくデカい三ノ沢岳がそびえ、その奥に小さく宝剣岳と木曽駒が見える。また右手を見ると、檜尾岳、東川岳、空木岳、南駒ヶ岳の白い稜線がまぶしい。極めつけに登って来た尾根の方を見れば、別格の大きさの御嶽山、巨大な乗鞍岳から槍ヶ岳の北アルプスビューが広がっていた。「最高やん、これ!」。もう気持ちはここで幕営(つまり撤退)に傾いていたが、念のため山岳会に提出した山行計画書のコピーを取り出し、時間を確認した。計画書では、5時半スタートで独標11時半着の予定になっていた。そもそもスタートが7時過ぎで、かつ、独標までも1時間余計に時間を費やしており、合計3時間近くの遅れになっていた。幕営予定地の中三ノ沢岳の先までは激藪で3時間はかかるとふんでいたので、今から行ったら確実にヘッデンになってしまう。また、ここまで体力をかなり消耗し、そこまでたどり着けるかどうか自信もなかった。「もう、ここで張るしかないな...」。撤退を決断した瞬間だった。
今まで何度も雪山で幕営はしたが、まだ山頂に張ったことはなかった。しかし、今日は風は弱い予報で、気温も高めだからリスクは低いだろう。設営しようとザックを見ると、サイドポケットに入れサイドベルトで留めていたローカスギアのEaston Gold 24を4本中3本も落としていた。「マジか...」。このペグは超人気商品で常に品切れしていて中々買えない。限界ぎりぎりでここまでやって来たので、他にも色んなものを失くしていた。ズボンの太ももポケットに入れたはずのモンベルのフレックスウォーターパック0.5L、ヘルメットに付けていたInsta360用ヘルメットマウント、地形図もだ。
山頂は雪がまだ十分ではなく、そもそもローカスギアのペグは刺さらなかったので、たまたまテントの袋に入っていた夏用ペグでテントの4隅を止めた。張り綱はMSRのブリザードステイクを使って岩に引っ掛けながら、工夫してしっかり固定した。誰も来ないことが分かり切っているので、まだ午後2時台なのに堂々と道を塞いで幕営できるのが嬉しかった。約1時間ほどでテントを設営し、マットに寝そべりながら入り口から見える御嶽山、乗鞍岳から槍ヶ岳の北アルプスをゆったり楽しんだ。「たまには潔くよく撤退するのも悪くはない…」と自分に言い聞かせながらも、やはり登山の醍醐味の「オールアウト」を得られなかった寂しさを感じる。
遥かなる三ノ沢岳独標尾根
そんな簡単には落とさせてはくれなかったが、厳冬期へのマグマの火種になってくれれば儲けもんだ。
コメント
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「天狗山手前のコルでスライドした人」です。この日はお疲れ様でした。しばらくヤマップで日記探してましたが、こちらだったんですね
あのときは熊ではなく人は完全に予想外だったので本気でビビりました(笑)装備が達人レベルだったので、間違いなく主稜線まで行く人だ!と思いました(笑)
あの日は撤退後、天気がいいのに帰るのがもったいなかったので「倒木帯のテン場」でテント張ってました。すれ違った人今頃は中三ノ沢くらいまでは行ったかな〜と想像しながらコーヒー入れてゆっくりしてたんですが、なんと荷物の上をマダニが這ってるのを見つけてしまって…虫が嫌だからこの時期に山入ってるのに一気に精神力がゼロになってMAXスピードで撤収して日没頃に下山しました(^_^;)
やはり、あのコルから先、天狗山はだいぶ険しかったんですね。私の装備と経験では撤退して正解でした。右側は崩れた急斜面、左の樹林帯も人が登れる地形では無かったので上がれる場所がなかなか見つけらない状況での撤退でした。
あの手前のコルに至る激下りもですが、一度ロープでルート工作してから決行するべきだったかなと思いました。
ただ、天狗山から先も地形図では緩そうですが実際はそうではないということなので頑張って登るしか無さそうなんですね…独標までは三の沢までの準備運動みたいなものだと思ってましたが、正直ナメてかかっての敗退って感じでした。
私も熊鈴等トータル3000円ほどの装備を落としてます(たぶん倒木帯でもがいているとき…)地形図ですが磁北線が手書きで入ったビニールに入ったやつですかね?風越山の三角点に落ちてたので石で押さえておきました。登りのときは落ちてなかったのでまさか、、とは思いましたが(^_^;)また今度は来シーズンの雪が降る直前に挑戦しようと思います。
お久しぶりです!普段結構限界ギリギリの登山をしているので、本来なら無理矢理ヘッデンで中三ノ沢岳まで行っているところでした😅が、去年の9月に山岳会に入り、この山行も直前までなかなか許可が出なかったので、安全第一に徹しました!そのお陰で、帰りはそ心配していたほど危険を感じず、楽に下山できたので結果的によかったと思っています。藪がしっかり埋まった残雪期にでもリベンジしたいと思っています🎵
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