霞沢岳西尾根テント泊登頂



- GPS
- 09:19
- 距離
- 8.8km
- 登り
- 1,797m
- 下り
- 501m
コースタイム
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2024年02月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
良好 |
写真
感想
霞沢岳、なんと素敵な言葉だろう。「かすみざわ」と聞いて皆さんはどんなイメージが浮かぶだろうか? 霞沢とは霞沢岳の東斜面の氷河地形の水を集め沢渡大橋の手前で梓川に流れこむ6.7kmの渓流。登山者にはあまり知られていない。
渓流の名前が山の名前になっていることも興味深い。機会があれば霞沢を遡上してみたいものである。
いつの頃か忘れたがこの霞沢岳の事を知った時、一般的には上高地に入る人は、西穂、前穂、奥穂、北穂、焼岳、槍、蝶などに登る人達であろう。この霞沢岳は上高地トンネルを出てすぐ西尾根を上がる冬期ルートか徳合峠ルートの夏道かで登る山だが、上高地からの登山する他の山と比べて人気は無かった。無かったと言うのも最近は雑誌などに紹介され冬期バリエーションルートとして周知されてけっこう人が集まる山になってきたようだが俺はこのあまり人気の無い頃の霞沢岳という山に非常に興味を持った。それは先述の通り言葉の持つ影響力によるところが大きい。
昨年、登るつもりでいたのだがついにチャンスを逸してしまった。昨年霞沢岳の事を山友のユキちゃんに話したら是非行きたいとの事だった。今年になりちょっと霞沢岳の事が意識の外に行きがちだった時にユキちゃんから「霞沢岳はいついくの?」と催促された。おっとそう言えばそうだった!と意識の中心に霞沢岳が強引に戻された(笑)
彼女の言うには誰か有名な人が上高地から登る山で霞沢岳が一番良いと書いた記述を読んだらしく彼女の霞沢岳モードが一気に燃え上がったようだった。
坂巻温泉に金曜日の5時過ぎに到着。坂巻温泉は工事中の為、目下駐車場は無料である。なので、土日は相当の混雑が予想され我々は金土のタイミングで登ることにした。
駐車場には車が2〜3台。長い車道をヘッテンをつけて歩いた。上高地トンネルを出るところでアイゼン装着。目の前にドカーンと鎮座している雪を被った焼岳にはまだ日は当たっていないが上空の空は既に太陽が出ていることを示す明るい水色を呈している。今日は上天気になりそうだ。関電のケーブルが複数法面にそって走るところが西尾根への取り付き。クマザサの上に雪が着いているのでまだ登れるがいきなりの急登である。10分程登るととりあえず尾根に出るので楽になったと思ったらそれも束の間で又すぐ急登である。自分の感じた印象では全体の85%は平均75°位の急登で時には80°位のところも出てくる感じだ。雪が締まっている早朝はまだいいが気温が上がってくると雪が腐って難しいと思われる。しかもルートの途中に時折りでてくる倒木をザックを背負ってくぐる場面があるので難儀する。
しかし、急登だけあって眼の前の岳沢を中心にした穂高連峰の風景がどんどん変化していくのが面白い。初めての雪山テント泊をした西穂山荘から正面に見えた霞沢岳、それが今度は逆に見える。森林限界の辺りに西穂山荘が見える。その右をたどって行くと丸山が名前の通り丸っこい雪を被った丘のようだ。そして更に右に行くと独標を先頭に次々と尖鋭の稜線が続いて行く。なるほどこういうルートを過去に歩いたんだとその時の情景までも思い出す。雪の穂高連峰の峻厳な威容が厳冬期の冴えた青空を背景に大迫力で迫ってくる。今日のテン泊予定地は右からくる尾根が西尾根と合流する辺り。徐々に右からの尾根が近づいてくる。先行者の足跡が一人あるようだが雪の吹きだまったところでは消えてしまい心細い。樹林帯の密度もけっこうあるのでどこがルートが良く判らないが兎に角尾根の一番高いところを外さないように登っていく。途中急斜面の雪稜トラバースでは雪崩を起こさないように一歩一歩そろりそろりと足を運ぶ。ダガーポジションで登ってもずり落ちる急登では後に続くユキちゃんが心配だ。初めからハーネスを履いてくればロープで上から確保することもできるが急登の連続でザックを下ろすタイミングも中々ない。両サイドも急傾斜なのでホントにテント張れる場所があるか心配になったが登山道のすぐ脇になんとか場所を見つけた。さっそくスコップでピットを作りテントを設営した。
時間はまだ12時を回ったところ、明日のアタックではロープを使うことにしているのでその練習をすることにした。
最近もあったがバリエーションルートの核心部の下りでアックスとアイゼンだけでクライムダウンしていて、ふと先の下るルートを確認する為に下を見た時にアイゼンの前爪が滑って滑落した事例があった。しかもそこは懸垂下降用に支点も用意してあるにも関わらずロープを出すのが面倒でクライムダウンしたという事だった。大多数の人は滑落しないで通過しているからと言って自分が滑落しないとは限らない。霞沢岳西尾根の核心部も懸垂下降が推奨されているがわざわざ懸垂しなくてもクライムダウンで降りれるとのレポも多いがここは安全側をとった方が無難であろうと考えた。そして核心部での登攀もフィックスロープがあるらしいのでアッセンダーを噛ませて登ることにし万が一の墜落に備えることにした。また、アンザイレンして片方が落ちた時にどう止めるかなど練習した。
こうした午後の時間が有意義だったとユキちゃんも大そう喜んでくれた。日帰りでも登れる山だが二日かけてゆっくり登ればいろんなことも出来て良い♪
夕食はテーブルストックの「ほうとう」に家で刻んできたゴボウとネギとあげと餅を入れて煮た。食後は雪にウイスキーを垂らして飲んだ。ウイスキーがかなり冷えていたので雪がなかなか溶けない。「オンザロック」ではなく「オンザスノー」もおつなもんだ。
明日のアタックの成功を祈り「オンザスノー」を飲みながら誰も居ない二人だけの霞沢岳の夜は更けていった。
翌日、ハーネスをつけアンザイレンして4時前にスタート。相変わらずの急登の雪面をヘッテンが照らしている。6時半頃の明るくなる頃に核心を迎える計画だ。東の空に下弦の月が浮かんでいる。5時頃から闇夜だった空がコバルトブルーに変化してきた。乗鞍岳のソフトクリームが溶け出したような白い山容が雲海の上に浮かびあがってくる。「わー綺麗!」とユキちゃんが歓声をあげる。更に地平線からの赤が交わり大空はグラデーションの饗宴が始まった。更に月から遅れて金星も昇ってきた。宇宙のダイナミックなドラマの中に二人雪山を登りながら確実にドラマの一員になっていると気づく鳥肌が立つような時間だった。
ビクトリーロードへあがる直前の登攀を慎重にこなし、稜線に出ると徳合峠への稜線や穂高連峰、乗鞍などが夜明け前のグラデーションの饗宴と共に雪山ハーモニーを奏でていた。二人でロープを繋ぎ雪庇に近づき過ぎないようにエッジラインから少し離れて雪稜を歩く、やがて一旦下り最後の核心にやってきた。天を突く勢いで立ち上がる雪の岩峰に「あれを登るの?」とユキちゃん。息を飲んだ。徐々に核心に近づいていくと日の出がやってきた。ゴールデンアワーだ。ダイヤモンドダストが太陽の金色の光に照らされて乱反射している。そしていよいよ核心にかかる。フィックスロープは半分雪に埋まっていた。強引に引っ張りだし手はず通りアッセンダーをセットする。俺が先に登ってユキちゃんが続く。ピッケルを岩に引っ掛けアッセンダーを上げ確実に足場を確認する。それの繰り返しだ。
無事に核心を越えると山頂が見えた。山頂まで一歩一歩、朝の光に照らされて凍り付いた雪稜を踏みながらザクッザクッと歩く。徐々に山頂が近づいてくる。サイコーだ。
遂に山頂にやってきた。目の前に岳沢が迫る。色々な角度で写真を撮ってしばらく時間を忘れて朝のドラマの終焉を楽しんだ。
さて下山だ。下山はまず核心の懸垂下降がある。支点をどこにするか迷うがフィックスロープを接続してある捨てロープを支点にしようとするがこの捨てロープの根元がどうなっているか確認しようと掘り出しを試みたが根元が完全に氷の中にあって良く判らない。
しかし、フィックスロープを接続してある位だから大丈夫だろう!と支点とすることとした。ここでピッケルを持って懸垂するわけにはいかないのでピッケルをザックのショルダーハーネスに挟む方法を教えた。そしてロープダウン。俺から先に懸垂で降りた。40mロープなので20m下ったところに丁度平場があり灌木が生えていたので引き続いて20m懸垂を続けた。核心を下りきったところで二人でアンザイレンして下ろうと俺のピッケルを持とうとした時、事件を発見した!なんと俺のピッケルを懸垂下降の支点を探すところに置き忘れてきてしまっていたのだ!ユキちゃんに一生懸命ピッケルをザックに挟む方法を教えておきながら自分がピッケルを忘れてくるとは。。。。なんとアホらしいことをしてしまったのか! 即、ロープを解除しユキちゃんにピッケルを借りてダッシュで核心を登ってピッケルと取りに行くが置いたところに無い!無い!無い!頭の中真っ白!
冷静になってみるとすれ違った登攀者が知っているかもと大声で「ここにあったピッケルしりませんかー!」と聞いてみた。すると何か叫んでいる。よく聞こえないので山頂へ続く雪稜を急いで聞きに行ってみると支点のところに置いてあるだけだと危ないので岩の横に刺しておいたとの事だった。またダッシュで折り返して探してみるとあるではないか!助かった。さてと、ユキちゃんが待つ核心の下まで下りようとすると登攀者が次々とやってきて待つこと15分。やっとダッシュで下ってユキちゃんのところに戻ってきた(笑) 参った(>_<)
その後、順調にテン場に戻ってテントを撤収しながーい急坂を下っていった。雪がさぞ腐っているかと思ったが意外と日陰になっていたことと土曜日となり登山者が俺達のトレースを踏み固めて登ってきたこともあり下山ルートの雪は比較的安定していた。
取り付きへの最後の急坂は往路の時は雪があったが復路の時は既に雪はなくクマザサが泥の中に露出していた。アイゼンがクマザサの根っこに引っ掛かっては危険なので慎重にクライムダウンで下った。意外と早く下山できた。
坂巻温泉までのアスファルトの道が長いのなんの、来る時の3倍位の時間に感じた。おまけに道路の梓川側が雪がガードレールにへばりついていて、その雪が溶け出して道路を凍結させて歩き難い。カーブに差し掛かった時、カーブミラーにダンプカーが写ったと思ったら。突然クラクションが鳴った。俺はビックリして道路脇に寄ろうとしたら滑って転倒してしまった。重いザックを背負って直ぐには起き上がれない(>_<) するとそこにダンプカーが眼前までやってきて止まった!ダンプカーのうんちゃんもビックリしたようだ。もう少しでひかれる所だった。そろりとそろりと俺を避けてダンプカーは通過した。それに続く乗用車の運転手も「大丈夫かーあいつ」と言う顔をしながら通りすぎていった。
今回の霞沢岳で一番怖い思いをした一瞬だった。おまけにアスファルト道路が長すぎて靴底のカチカチの冬靴のお陰で両足の土つかずに水膨れができてしまった。参った(>_<)
帰路、竜島温泉せせらぎの湯に入って松本の「野麦路」という美味しい蕎麦屋で反省会をして夢にまで見た霞沢岳の山行を終えたのでした。
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する