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そんなわたしであるから、山であった人との連絡先の交換などもってのほかと思っていたのだが、十数年前の南アルプスの山行の時、つい親切にしてくれた年配の夫婦との別れ際に言ってしまったのである。
「もしよかったら、ブログか何かのアドレスを教えてもらえませんか?」
その夫婦とはともに北岳、間ノ岳、農鳥岳を二泊三日で縦走し、同じ山小屋〜北岳肩ノ小屋と農鳥小屋に泊まり、同じ奈良田へ下山する予定だったのだが、わたしの方が歩くのが早かったので農鳥岳山頂でお別れすることになったのである。旦那さんは、立派な一眼レフカメラとレンズを持っていて、とても写真がうまそうだったので、その人の撮影した山の写真を見せてもらおうと思っての言葉だった。
「いいよ。これがメールアドレス」
彼は快く、住所、氏名、電話番号、メアドの印刷された名刺をわたしにくれた。
・・・メアドか・・・。
わたしは、ちょっと気が重くなった。当然、わたしはそのメアドに「先日は大変お世話になりました」とメールを送る義務のようなものが生じてしまったからだ。
はたしてわたしは、彼らに「お世話になりましたメール」を送り、それをきっかけに彼らから山行の写真数十枚の添付されたメールを定期的に受け取ることとなった。
・・・どうしよう?
高画質の写真数十枚を定期的に受け取ることにより、わたしのPCのハードディスクが次第に重たくなっていくのと同時にわたしの気も重たくなっていった。
最初こそ「素晴らしい写真ですね」と返信メールを送ったわたしもある時から返事をしなくなった。
そんな時である。あの東日本大震災が起こったのは・・・。
しばらくして、旦那さんからメールが送られてきた。「CANONのネットの写真公開サイトに写真をアップしたからぜひ見てください」とのこと。
そこには津波によって事故を起こした福島の原発を彼が見学した時の写真が、載せられてあった。
・・・わざわざよくこんなとこ行くなあ。
わたしは彼の行動力に驚いた。それと同時に心配もした。当時、ボランティアで原発近辺に行ったひとが病死するという話をよく耳にしたからだ。
そして、その不安が次第に現実のものになっていくような出来事が起こった。
そのメールを受け取った直後から彼からのメールがぴたりとなくなり、それまで彼が頻繁に写真の新作をアップしていたCANONのネットの写真公開サイトに写真が投稿されなくなったからである。
・・・。
あれから10年たった。あの夫婦は今、元気で山で写真を撮っているのだろうか?
心配だが、敢えて確認もしないでいる。絶対に元気に生きている。それを信じ続けるのがわたしがとるベストだと思うからである。
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