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2015年12月18日 20:51つれづれなるままに全体に公開

作られた九軍神

いまから74年前、日本軍は真珠湾を急襲した。その時大きな戦果を挙げたのが二人乗りの特殊潜航艇である。海深く敵艦に忍び寄り魚雷を命中させる。生還は困難だとされ、乗組員は独身の若者に限られた。
「特別攻撃隊の壮烈無比なる真珠湾強襲に関しては任務を完遂せるのち艇と運命をともにせり」と海軍は功績をたたえ「九軍神」と名付けた。国民は熱狂したが、事実は全く違っていて、戦意高揚のためのプロパガンダだった。残された家族は今もその過去を背負い続けている。
NHKドキュメンタリー 目撃!日本列島 九軍神 〜残された家族の空白〜 はそんなプロローグで始まる。

厳しい訓練を続けた時の宿舎が四国、三方町に残っていていまも旅館を続けている。そこへ軍神の遺族という孫娘が訪ねていく。旅館の跡を継いだ女将さんは、軍神は独身のまま亡くなって、子供はいないと聞いていたのでびっくりする。その娘さんは、父が6年前に亡くなった時、母からその事実を伝えられ、父が保管していた手紙を見せられる。差出人は海軍である。そこには「高志君(娘さんの父)ヲ和田氏養子ニヤルコトガ最上ノ策」と書かれていた。彼女の父は、海軍の手によって養子に出されていたのである。

高志さんが真実を知ったのは20歳の頃「顔が似ていない」と父(養父)に詰め寄る高志さんに「事実を隠すことが生まれてくるための条件だった」と養父は伝える。「一番大きなことは海軍が絶対に発表してはいけないということ。自分の生きているということは、隠し通さないといけないという自分の運命を恨んでいた」と娘さんは言う。しかし、亡き父の姿をずっと思い続けていたのだという。

「遺灰は必ず真珠湾に撒いてほしい」という言葉が父高志さんの遺言。
娘さんは、父の苦悩の深さを思い知る。

軍神という言葉は、もともとは国民の中から生まれた。日露戦争で部下のために自らの命を投げ出した広瀬中佐に感嘆した人が、広瀬中佐を軍神と呼ぶと人々は熱狂した。海軍はこれを戦意高揚のために利用しようと考え、報道機関向けの資料で乗組員を九軍神と呼び美談に仕立て上げた。

当時の小学生の書いた作文に「軍神の方々のりっぱなお働きをお手本に」「お国のためにつくしたい」「戦死したい」などの言葉が有るのを見ると、海軍のプロパガンダは成功したのである。戦死した九人の若者を国民の模範に仕立て上げた海軍は、九軍神の未婚の子供である高志さんを決して認めるわけにはいかなかったのだ。

九軍神と真摯に向き合おうとする遺族はその他にも出てきた。古いアルバムを捲ると墓参りに老若男女の列が続く。村の誇りだった九軍神。しかし、戦後、戦果は捏造だったとわかり、何が起こっていたのだろうかと調べ始める遺族。残された手紙には、戦後の遺族の苦悩が滲む。敗戦を迎えると人々は戦時中の価値観を排除しようとした。一夜にして軍神の位置から滑り落ちた彼ら。偉業とたたえる銅像は「戦意高揚を図り敵愾心をそそるもの」として撤去された。

軍神になった時は立派だと思った兄弟姉妹。しかし「世情は一変して紙よりも薄き人情と氷よりもつめたい世の中」となった。そんな中でも「若桜会」と称して集会を開いてきた遺族たち。交流を通してどこまでも九人そろって一生過ごしたいと絆を強める。これからも遺族を訪ねる日々は続く。

「目撃!日本列島」はNHK地方局の番組で、主にビデオ鑑賞になるが、たまに見るとキラッと光るものがある。地方局の番組制作はあまりないので、力が入るのであろう。作られた九軍神。戦争遂行のために利用した日本海軍。そのために本当の父を知らずに育った市井の人の苦悩。その苦悩に迫ろうとする遺族。劇的な展開は無いが、たんたんと事実を積み重ねていく。いかにもドキュメンタリー的ないい作品だった。

昨日の新聞には「自衛隊に新任務準備指示」の見出し。安倍首相は「私たちの子や孫の世代に平和な日本を引き渡すため強固な基盤を築かなければいけない」と力説した、とある。

先の戦争では終戦時、満洲国では国民を守る関東軍はいち早く引揚げ、一般国民や開拓民は置き去りにされ、塗炭の苦しみを味わった。私の母もその一人である。そのあげく多くの人が帰国途上で息絶えた。戦争では“言動不一致”は珍しいことでは無い。大本営発表はその最たるものである。

理想の軍神は作られた。「平和のため」「国のため」「国民のため」と目標が高尚であればあるほど、むしろ要注意である、とこの番組は教えているようだ。
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