カワクルミ沢目指して下っていくと、おととい熊撃ちが待ち受けていたピークには、ビールの空き缶が捨ててあった。捨てた、というよりは丁寧に置いてあるという感じである。それも、各ピークにである。そういえば、昨日は、銃声は聞こえなかった。日がな一日、ビールを飲みながら、過ごしたのだろうか。それもご苦労様なことである。他人様のすることは、何と不合理なことを、と思ってしまうが、その最たるものは登山であろう。重荷を背負って、大汗かいて、風呂にも入らずに。一銭の儲けにもならないのに。
わずかばかりだが、コシアブラを採りながら降りていくと、銃を担いだ人達と出会った。おとといの人達である。「誰か見なかったか」という。光明山から五兵衛小屋へ向かったパーティが遭難騒ぎを起こしたらしい。朝からヘリが飛ぶはずだが、音がしないのは見つかったのだろう、とのことだった。男性2人、女性1人のパーティで、女性が疲れたので、車を回収しようと、先行した男性が、行方不明になったとのことである。岡山のパーティらしい。川内の山も全国レベルである。
カワクルミ沢を徒渉する雪渓のところで携帯電話を拾った。携帯のリダイヤルなどを使って、持ち主にたどり着いたら、熊撃ちの人のものだった。熊撃ちの使っていた無線機は、一目で旧式と分かるものだったが、日常生活では最新の技術を使っているようである。それも時代なのであろう。携帯が谷筋で通じるかどうかは疑問だが、先端技術を使って攻め込んでくる人間の前には、野生の動物は無力としか言いようがない。近い将来「有害獣」は駆逐されてしまうのだろうか。
里が近くなってからの出来事は、たった一人で過ごした山の生活とは、落差が激しかった。山の中で拾ったものが、携帯電話というのがそれを表している。道路の脇には、光ファイバーが埋め込まれている。それもまた最新の技術である。しかし、ここは熊の巻き狩りが行われる山である。いくら世の中が進んだと言っても、山の厳しさが変わるわけではない。現に、遭難騒ぎの中の下山である。ここではIT技術に代表されるような、華麗な「軽薄短小」の技術よりも、「重厚長大」、泥臭い力こそが求められるのである。
写真左:毛無山山頂は平頂だった
写真中:山肌の雪蝕崖は紛れもない川内の山である
写真右:遥かなり川内の山々よ
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