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湯峯温泉は、こじんまりとした湯治場の雰囲気を良く残す温泉街である。温泉を祀る、東光寺を中心に良く整備された温泉街である。プーンと硫黄の香りが漂っている。ゴールデンウイークとあって、人出が多く、旅館泊まりは諦めていたが、民宿の看板が目に入り、一夜の宿を求めると、運良く空いていた。
湯船に浸かって、手足を伸ばし、6日間の汗を流した。宿泊客は、私も含めて5人だった。隣で食事している富山の夫婦連れが、山にも登っている、ということで話が弾んだ。質素な食事だったが、私には、十分すぎるほどの内容だった。話が弾んでビールを二本も空けた。真夜中に目を覚ます。異様に喉が渇いて、お茶を入れて、何杯も飲んだ。体へのダメージは、想像以上に大きいようである。
朝に飲んだ、温泉で入れたコーヒーは絶妙の味であった。湯峯から大和八木まで、特急バスに乗る。あいにくの雨である。雨に煙る、国道168号線をバスはひた走る。山、また、山。渓谷を縫ってバスは走る。疲れているはずなのに、不思議に眠くは無かった。しかし、手足は、パンパンに腫れ上がっていた。
約五時間、ただ、ボーっとバスに揺られていた。収穫は一つ。十津川村の谷瀬の吊り橋を渡ったことである。バスは、約一時間に一回、10分位の休憩が入るのだが、谷瀬の吊り橋で、倍以上の休みが入って、日本一といわれる、歩行専用の吊り橋を渡ることが出来たことである。いつかは行ってみたいと思っていたが、思いがけず渡ることが出来た。これを渡ってしまえば、おそらく、十津川村を再度訪れることは無いであろう。暇が明けたというものである。
京都は、雨。強い風も吹く。どこかに出かける気力もなく、JR特急雷鳥に乗り、金沢で北越に乗り換える。いままでろくなものを食っていなかったので、幕の内弁当が、とても美味しかった。
新津駅に降りると、強い風である。寒さが身にしみた。暗い道を歩き、家の明かりが見えた。ドアのノブに手をかけると、長い山行で疲れているのに、独りでに頬が緩んだ。心から笑みが浮かんだのは、数ある山行の中でも初めてだった。狭い家だろうが何だろうと、我が家の良さは格別である。ひょっとすると、この笑みを得るための山行だったのか、とさえ思った。
熊野古道奥駆道は、北アルプスなどのような、山岳的な光景が広がっているわけではない。淡々と、山、また、山の連なりをひたすら歩くだけである。山小屋や八経ヶ岳など著名な山周辺には人はいるが、それを離れると逆方向からやってくる登山者数名と交差するだけであった。出発は一緒でも、直ぐにバラバラになり、一日中、只一人歩く日々である。
小鳥のさえずりに心を和ませ、獣の気配にたじろぎ、踏み跡に神経を遣う。登山道、というよりは、五感を研ぎ澄ませながら歩く、修験者の道である。修験者でない私は、再び、熊野古道奥駆道を歩くことはないであろう。
しかし、私には、また新たな夢が生まれた。人様は、それを空想と言い、夢想と言うであろう。私も、そう思う。だからこその夢なのである。本当の意味での夢なのだ。それは、白装束に身を固め、空身で奥駆道を再び駆けることである。それこそが「修験道」にふさわしい姿である。
写真左:最終到達点熊野神宮本社
写真中:一夜の宿 湯峯温泉 民宿まるや
社員右:長さ297.7m 高さ54m 歩道専用の吊り橋としては日本一といわれている
妙高さん
小説を読んでいるようでしたよ。
妙高さんが白装束で旅立つ場面をラストにして
余韻の残る小説に仕上げてはいかがでしょう
hobbitさん こんばんは〜
ちょっと白装束は盛りすぎでしたかね。まあ、夢想ですからね。紀行文は、見聞きしたことや感想などを時系列に並べるだけですから、何とか形にだけはなりますが、小説となると完全に私のキャパシティーを越えますね。頭が爆発してしまいます。
せいぜいダジャレ位ですね。思いつくのは。それでも気の利いた洒落は、一編に一つくらいは入れたいですね。
ではお休みなさい。
妙高さん、こんばんは。
じっくり読ませていただきました。
なぜ、こんなに厳しい道を歩くのでしょう?
なんだか不思議な気持ちがしました。
楽しいとか気持ちがいいとかではない、
心の底から湧き出るものがあるのでしょうね。
とても大切な記録だと思いました。
harunonekoさん おはようございます。
う〜ん、これは難題ですね〜。普段そんなこと真面目に考えたことありませんので。単純に言うと”そこに山があるから”ですかね。すいません、これって、誰かのパクリです(-_-;)
ホントなんででしょうね? やっぱり「好奇心」でしょうか。あんなのが有る、こんなのが有る、と聞いたりすると行ってみたくなるという。煎じ詰めれば、人様に「自慢」したいってことになるんでしょうね。私は、自分からしゃべりだすということは殆どありませんが、聞かれたり、話題になった時は、話が止まらなくなっちゃいますから。カッパエビセン状態です。お急ぎの方はご注意を。
計画、実行、記録する楽しみも有りますね。達成感も味わえますし。記録は残して置けば、写真も含めていつでも振り返ってみることが出来ますね。人様の相談にものることが出来ます。
あとは暇つぶしですか。運動不足解消で健康管理。食事代はどこにいても掛かりますが、山登りは、初期投資を除けば、足代だけですからね。掛かるのは基本的に。安上がりです。結局。そこに落ち着くんですか。世界的な言葉で言うと「セコイ」妙高です。
ではまた。
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