どこの山にしても、非常にシビアな場所を通過し、強い緊張状態を長時間保つ必要がある場合、
五感、いや、六感が平常時よりもずっと強く研ぎ澄まされているように思う。
そのような山をやるときは、往々にして連泊が多い。
すると、必然的に山中にて夜を明かすことになるのだが、
眠りについている夜半、大抵は日中の山行で辿ったルート上にて、滑落する夢を見る。
夢の結末は、滑落していくうちに意識が薄れ、
最期に岩角やら地面やらにガツン!と叩きつけられる。
その瞬間に覚醒するのだが、必ず、シュラフに包まれた己の身体がピクリと跳ね上がる。
そうした経験が幾度かあるし、いろんな山岳関連の図書や記録にも、
そのような記述を見かける。
長時間の緊張状態が続くと、その後に眠りについて肉体を休息させているときでさえ、
六感は休息せずに恐怖と対峙し、緊張に侵され続けるものだと感じた。
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ある時、実際にブルーアイス上で風に煽られて数100m滑落した際、
夢の通りになるかなあと思ったが、意外にも意識ははっきりとしていて、
「このあと、どんな感じで死ぬのかなあ」、「いや、絶対にこの滑落を止めてやる!」とか、
ほんのわずかな時間のうちに、激しい自問自答が飛び交ったのだけど。
加藤文太郎は、あらゆる状況下を委細構わず、雪を褥にしてぐっすりと眠ったそうだが、
ぼくにはそのような超人的に行為に及ぶに能わない。
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