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2012年09月20日 21:14お山アイテム全体に公開

特殊なケース下における登山

9/16〜18にかけて、北アルプスの北穂高岳〜奥穂高岳〜前穂高岳と縦走しました。
(レコ:http://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-226300.html
2人パーティで登山をしたのですが、
重度の慢性疾患があるひとと登るという特殊なケースだったため、
一般的な登山とは違う事前準備を心がけることとなりました。
レコとは別に、備忘録として以下に記します。

【形式】
テント泊縦走形式
本来は、小屋泊が望ましいが、混雑した小屋内では
逆に疲労が蓄積したという経歴がある。

【ルート】
<1日目>
上高地バスターミナル→明神池→徳澤園→新村橋→中畠新道分岐→
屏風のコル⇔屏風の耳→パノラマコース→涸沢ヒュッテ前テントサイト(TS)1
<2日目>
TS1→北穂南稜ルート→北穂南稜分岐点⇔北穂高岳⇔北穂高小屋→最低コル→
涸沢槍→涸沢岳→白出のコル(穂高岳山荘)TS2
<3日目>
TS2→奥穂高岳→吊尾根→紀美子平⇔前穂高岳→重太郎新道→岳沢小屋→
河童橋→上高地バスターミナル

予備日1日

【疾患名】
全身性エリテマトーデス(SLE)
発症時は皮膚粘膜症状が顕著に見られる。
悪化時は発熱、及び腎機能の低下。

【病歴】
12年

【内服薬】
5種類、朝と夕
ステロイドは9mg

【禁忌】
日焼け、血糖値の低下、皮膚受傷

【装備について】
共通装備とリーダ装備はすべてぼくが持ち、乾燥重量は約18kg。
ハイドレーション2L、ポリタン2L。
同行者の装備の乾燥重量は6kg。ハイドレーション2L。

【同行者の岩場における技術力】
3年前に大キレット越えの実績あり。
(その際は3人パーティ、小屋泊)
中級程度のクライムダウンは十分にこなせるレヴェル。
今回のルートにおいてザイルによる確保を必要とする場面はないだろうと考えましたが、
天候の悪化、その他もろもろの不測の事態によっては
その限りではないことを考慮して、ザイル等の確保用ツールも用意しました。

【栄養補給について】
今回の準備段階で最も気を遣った部分です。
2泊3日のテント泊縦走は、同行者にとって初めての体験であり、
常に体調の変化を考慮しなければならないことから、
登山経歴が豊富で、小児内科医師でもある友人のアドヴァイスを頂戴した上で、
必要な栄養補給物を用意しました。

1.乳児用粉乳
乳児は母乳から全ての栄養を摂取するので、
それに準じた乳児用粉乳の栄養価は極めて高く、
バランスに優れた成分が含有されており、効果的な栄養補給ができる。
ただし、摂取量は乳児向けよりも多くしなければならない。
今回は、朝夕合わせて乳児向け必要摂取量の4倍の粉乳を用意した。
ただし、味の面でかなり難があるため、
コーンスープやコーヒー、紅茶に入れる用途として、
あるいは、後述するブドウ糖で味付けをすることで、それを補う必要がある。

2.ブドウ糖結晶
血糖値を素早く上げるために必須。先述のように、甘味料としても利用できる。
薬局で安価で手に入る。
経口補水液の用意が望ましかったが、水分ゆえに重量が格段に増してしまうため、
ブドウ糖のこまめな摂取と、行動中の補給水にスポーツ飲料の粉末を混ぜることで代用した。

3.クエン酸
疲労回復、乳酸滞留の防止、食欲増進。
薬局で市販されている飴を摂取。

4.朝食に温かいものを摂る
胃に大きな刺激を与えないようにするため。
2日目の朝は柔らかめに茹でたラーメン、3日目は雑炊にした。

【疲労蓄積防止について】
今回は前泊、後泊をした。
前泊は沢渡から約30分ほどのビジネス宿にて、
後泊は甲府市の親類宅にて確保した。
直前直後の移動時間を極力短くすることで、
疲労蓄積の防止、疲労回復の促進、免疫力低下の効果を見込む。
特に、前泊は重要で、早朝から行動する場合、
前夜、あるいは未明からの長距離移動に伴い、
睡眠不足という問題が前泊によって劇的に解消される。
実際に、同行者だけでなく、ぼくも非常に快調なスタートを切った。

【禁忌対策】
1.日焼け
日焼け止めを塗る、帽子を被る、速乾性に優れた長袖長ズボンの着用。

2.血糖値の低下
ブドウ糖をこまめに与えること

3.皮膚受傷
転倒や岩場の鋭角部で受傷することで、敗血症のリスクが高まる。
長袖長ズボンの着用である程度リスクは低下するが、
クライミンググローブの着用を徹底することで、さらに低下する。
受傷時は必ず消毒のこと。
出血が伴う受傷や、火傷、靴擦れなどの場合は、
ハイドロコロイド素材のパッドを貼ること。
http://www.band-aid.jp/kizupowerpad/index.html

これらの対策が功を奏したかどうかは分かりませんが、
同行者に身体的な大きなトラブルもなく、
天候にも恵まれたこともあって、
終始良好な体調を維持することができました。

※注
SLE患者は、基本的に激しい運動そのものが禁忌と言われています。
アドヴァイスを仰いだ医師にも、かなりの難色を示されました。
ただし、同行者は罹患以前から習慣的に激しい運動をしていたこともあり、
罹患によって何もしなくなるという心理的葛藤を乗り越えた末に、
罹患後1年にして運動を徐々に再開、体調と折り合いをつけながら継続し、
現在に至っています。
登山は年に5回程度で、3000m級の高所登山は年に1回程度です。
本日記はSLE患者の登山を推奨するわけではなく、
ひとつのモデルケースとしてお考えいただければ幸いです。
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コメント

RE: 慢性疾患があるひととの登山
こんばんは。おつかれさまでした。

私はぜんぜん違う病気を患いましたが、患部を切除した後積極的治療は終わりましたので、幸い今は健常者と同じ登山ができます。

同行して安全に歩行し、無事下山してもらうためのご苦労とご心労は並大抵では無かった縦走だと思います。ごゆっくりと身体と心を癒して下さい。
2012/9/20 21:42
RE: 慢性疾患があるひととの登山
初めまして yuconと申します。

 ご存知かどうかわかりませんが去る7月に鈴鹿山脈で遭難し6日間ほど彷徨いお騒がせしてしまいました。

 私もパーキンソンと言う難病を患っており完治療法はなく徐々に進行していきます。
 私は病を患ってから「山」に出逢いました。
ご友人の病は私のより困難であるにもかかわらず 北アルプスに挑戦していらっしゃる姿勢を拝見して 自分にはまだまだ可能性を追求する余地があることがわかり遭難事故で落込んでいましたが 自信と勇気が湧いてきました。
 「病気だから遭難したんだ」などと言われ 山登りをすることなど二度と許されないのかなぁ、とも考えていましたが 自信を持って再挑戦したいと思います。
 ありがとうございました。

 そしてご友人をサポートされたmotchさん お疲れさまでした。あなたは素晴らしい 尊敬します。good
2012/9/20 22:07
>sekitoriさん
初めまして。こんにちは。
コメントありがとうございます。

自身も、外傷ではありますが、両膝にメスを入れてから、
まともに動けるようになるまでに半年近くかかりました。
身体の中が外科的手術によって触れられることは、
それだけ大きな肉体的負担になると感じた次第ですが、
ご病気であればなおさらその負担が甚大でしょうし、
お山に戻ってこられるまで、
大変なご苦労があったであろうことをお察しいたします。

私は、持病のために自分がやりたいことを
やらなくなるための言い訳にしたくない、
という強い意志を持った同行者のために、
ほんの少しばかりサポートをしたに過ぎません。
しかしながら、私にとってのこれまでのお山の経験やら、
知識やら、技術やらというのは、
ただ単により難しいところに登るためのものだけではなく、
こういうところに還元するという点で、
非常に重要な意味を持っていました。

今回の山行の成功を通じ、お山を登る人間として、
もう一段階前に進めたような気がいたします。
2012/9/21 12:50
>yuconさん
こんにちは。初めまして。
コメントありがとうございます。

yuconさんのことは、件の出来事を通じて存じ上げております。
プロフィールも拝読いたしまして、ご病気と折り合いながら、
お山に登られている気概に、深く感銘を受けました。
あれだけ長い間お山の中に閉じ込められながらも、
ご生還なさったこと、本当にほっと致しました。

件の出来事で、周りからあれやこれやと言われ、
辛い思いをなさったこと、お察しいたします。
しかしながら、生き延びることができたのも、
多くのひとたちがあなたを助けるために動き続けたのも、
ご病気と共にお山をなさっているという
あなたの生き方だからこそだと思います。
ですから、胸を張ってお山を続けて下されば、
大変喜ばしく思います。

私は、そういった状況に置かれていないが故、
yuconさんや同行者の心の中の葛藤や強い力を、
自分のこととして感じ取ることはできないでしょう。
しかし、その力によって、自身がただ登りたい、
という気持ちとは違う、
特別な何かがもたらされました。
そんな私にできることは、その意志のベクトルの加速力を、
より力強く、より安全に進めることくらいです。

病気を言い訳にせず、
逆に力になさっているyuconさんの生き方に対して、
最大限の敬意を表明いたします。

こちらこそ、ありがとうございました。
2012/9/21 13:00
プロフィール画像
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