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2014年06月21日 22:13私事・雑記全体に公開

粉食交々 その3(麺が溶ける)

その2
http://www.yamareco.com/modules/diary/19423-detail-74677

あっつあつのところを、ふうふうしながら、ほくほく食う。
これがおっきりこみやほうとうの伝統的かつ
多くのひとびとがイメージする食べ物です。

風土的成り立ちも含めて、とてもよく似た食べ物なので、
地方地方での呼び名が違っているだけかと言えば、そうでもありません。
このおっきりこみとほうとうは、大きく違う点がふたつあります。

まずひとつめは、麺を打つときに加える水の量が、
おっきりこみのほうがかなり少ないということです。
うどんもほうとうも、一般的には小麦粉300gに対して、
130cc〜140ccを加水しますが、
おっ切り込みでは100cc足らず程度で、強い力で練る必要があります。
水が少ないと、小麦粉の風味が強く出て美味しいですが、
練りが足りないと生地がぼそぼそしてしまいます。

ふたつめは、調理の際の下ごしらえと味付けです。
その2で、おっきりこみは醤油味が割合普及していることを述べましたが、
それだけではありません。
ほうとうは、野菜や山菜類などの材料を生の状態のまま
お湯が沸騰した鍋にブチ込んで煮込みますが、
おっきりこみは材料を油で炒めてから水を入れます。
これは個人的な主観ですが、油通ししたほうが野菜が煮崩れしにくいのと、
歯ごたえがしゃきっとするので、食感が結構違います。
あと、ほうとうでは主材料と言っていいかぼちゃ、
またサツマイモなどの甘い野菜は、おっきりこみでは使いません。

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おっきりこみもほうとうも、夕食用の残りを翌朝に食べる習慣があります。
すると、見たことがある方も多くいらっしゃると思いますが、
前夜と違って麺が溶け、どろりとしています。
これは、生地に塩水ではなく真水を加水することが関係しています。
塩分は、生地と生地をつなぐグルテンが真水より活性化され、
麺の繋がりが強くなって、伸びても原形をとどめますが、
塩分がないと小麦粉に含まれるタンパク質が分解しやすくなるため、
翌日には麺がほとんど原型を残さずに汁に溶け、
あんかけのようにどろりとするのです。

ところで、おざら、という食べ物をご存知でしょうか。
言わば冷やしほうとうのことで、
夏に売り上げが鈍る甲州ほうとうのメニューです。

割と一般的なのは、お湯で茹でたほうとうを水で締め、
別に具入りの汁を仕込んでおき、
ラーメンのつけ麺のようにしていただく、という食べ方ですが、
ここでのつけ汁は醤油味ベースです。
つまり、味噌味でしか食べなかった昔からの食べ物ではなく、
ほうとう専門店が考案した創作メニューです。

では、昔の家庭は、四六時中あっつあつのほうとうばかり食っていたのか、
ということではありません。
これは、甲府盆地北面にある名勝、昇仙峡のあたりに住む、
とある年配の女性から直接聞いた話です。

夜は夏も冬も熱いほうとうを食うことが多かったそうです。
これは、農作業や林業等でくたくたに疲労した身体を回復させるには、
熱くて味の濃いほうとうがちょうどよかったからだそうです。
しかし、翌朝にまた熱いほうとうを食うのは、
胃が草臥れて昼間にバテるし、うんざりだということで、
前夜の余りが溶けたドロドロのものを温め直さず、
別に茹でて荒川(富士川の支流)上流の沢の水で
冷やしたほうとうにぶっかけて食った、ということです。
冷たいし溶けた汁が麺に絡んでとてもおいしい、ということで、
夏の朝はこういう食い方をしていたそうです。

おざらの発祥は旧敷島町(甲斐市北部)の家庭料理と言われており、
そのすぐ東が昇仙峡ですから、
この話は伝承としては信憑性が高いように思います。

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今日もえっちらおっちらとうどんを打ちました。
さすがに4週も続けていると、
水加減はいちいち計量カップで計らなくても分かってきました。

こうした機会の折、粉食文化についてあれこれ調べ、
風土料理としてのうどん、おっきりこみ、ほうとうの見方が変わりましたし、
スーパーで売っている安物の粉食麺を
それと称するには、先人に申し訳ないような気持ちにさえなりました。
骨折した腰のリハビリがてら始めたうどん打ち、
治っても定期的に打ち続けていきたいと思います。

おっきりこみやほうとうが、
ぼくが大好きなお山がいっぱいある上州と甲州の食べ物であることに、
特別な想いが湧き上がった次第です。



【参考文献】
日本の食生活全集10「群馬の食事」
日本の食生活全集19「山梨の食事」
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コメント

RE: 粉食交々 その3(麺が溶ける)
すっかりハマってますねぇ

>スーパーで売っている安物の粉食麺を〜

一瞬だけプリン作りにはまったことがありまして、その時に似たようなことを感じました。
2014/6/22 16:21
RE: 粉食交々 その3(麺が溶ける)
1955さん

昼過ぎくらいに生地を練って、
夕飯に食べる、というのが最近のお約束ですね。

やっぱ、手作りは手間暇かかりますよね。
街中の既製品は、早くて手軽な分、
やっぱりいろんなプロセスが
省略されているんだろうなあと思います。
2014/6/22 21:09
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