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2019年07月25日 19:37山の安全全体に公開

救助要請する? しない? 何をする?

以下の野外救命救急法の教室に参加しました。

⛰ 自然教室「登山で役立つ野外救命救急法」
・日程:2019/07/20(土)
・場所:高尾ビジターセンター レクチャールーム
・講師:Wilderness Medical Associates Japanのスタッフ
・天気:曇り、たまに小雨
・Agenda:
 - 山の中での応急救護の考え方
 - 山内で負傷者を見つけたときの初期対応
 - 救急車が到着するまでの対応
 - 救急車を呼ばずに自力下山する対処法
 - 実技(5〜6種、衛生手袋、血のり使用)

自然教室「登山で役立つ野外救命救急法」 | 東京都 高尾ビジターセンター
https://www.ces-net.jp/takaovc/?page_id=1726
WFA世界で選ばれているウィルダネスファーストエイド | WMAJ
http://www.wildmed.jp/index.html
WFA Wilderness First Aid

・感想:
参加者は、女性が7〜8割程度(自分が参加した回)。また、実際に救急車を呼んだことがある方がかなりいらしたようでした。
講義は、文字だと当たり前に感じて流しがちになる内容を、説得力のある、とてもわかりやすい説明で、「ふむふむ」と聞いているうちに、あっという間に時間がたちました。
実技は、単純ではあるものの、とても実用的だったように感じました。「そうそう、ここで迷うんだよね」という感じ。初めて血のりを使いました。

自分自身の安全な山行に加えて、負傷者に出会ったときに少しでも役に立てるようになりたいという思いを強くしました。

・写真
写真1:当日の高尾山の山頂からの景色。富士山がうっすら見えました
写真2:ハグロソウ。当日の1号路で
写真3:ヤブミョウガ。当日の1号路で


以下、受講した内容の備忘録です。
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⛰ 山の中での応急救護の考え方
野外救急は、基本的には、都市部の救急(消防署や赤十字の救命講習で学ぶ主な内容)の状況にできるだけ近づけることを考える。野外救急と都市部の救急の状況の違いとは、例えば、以下など。
・救急車が来るまでの時間
・現場の環境(平らな場所でない、固い場所でないなど)
・周囲に誰もいない

都市部 救急車が来るまでの時間(全国平均) 8.6分
総務省|「平成30年版 救急・救助の現況」の公表
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01shoubo01_02000121.html
東京都|平成30年中の救急出場件数が過去最多を更新
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/hp-kouhouka/pdf/310107.pdf
野外救急では、もっと長くなる。

酸素がなくなって活動停止するまでの大まかな時間
心臓:5〜10分
脳:3〜5分


🚑 山内で負傷者を見つけたとき、
1. 初期対応、救急車を呼ぶか否かを判断
2. 救急車を呼んだ場合、到着までにすること


🚁 以下のどれかにひとつでもあてはまれば、緊急通報(119 or 110)で救助要請
・意識(反応):なし、おかしい
・おびただしい量の出血:あり
・呼吸:なし、おかしい(苦しそう、ヘンな音がする等)
・頭部や背中に強い衝撃を受けている可能性:あり
上の項目の判断を迷う場合は、救助要請する側に判断する。

重要器官系との関係
循環器系:心臓 → おびただしい量の出血
呼吸器系:肺、気管 → 呼吸
神経系:脳、脊椎 → 意識(反応)、頭部や背中に強い衝撃を受けている可能性

脱水の症状がある場合も、救助要請する(=循環器系の緊急事態)。
脱水症状はひどくなると、
・皮膚が蒼白で冷たく湿っている
・脈拍や呼吸が不自然に増加
・直前の水分補給や排泄で確認


🚑 上の様子に加えて、以下を伝える
・現場の場所
・傷病者氏名、性別、年齢
・傷病者連絡先

負傷者が救急車を固辞する場合は、とにかく電話をかけて、その旨(負傷者が固辞していること)を伝えると、直接説得してくれるケースもあるそう。


🏥 救急車を呼ぶべきか迷ったら、以下にTELで相談(時間の余裕がある場合)
・救急安心センター(#7119)
・小児救急でんわ相談(#8000)


🚁 救助要請の後、救急/救助到着までの間に
・傷病者を環境から保護。寒い季節は保温。必要に応じて一次救命処置。
 - 固くて平らな場所(都市の救急法の状態)に近づける
 - 止血、気道確保、CPR
 - 脊椎損傷の発生機序の可能性がある場合は、脊椎を動かさない
 - 下の「🚑 救命処置 補足」も参照
・傷病者に関する情報を集め、救助隊への引き継ぎ準備
 - なぜこうなったのか
 - 主な訴え(不調など)
 - アレルギー
 - 飲んでいる薬
 - 既往症(関連する病歴)
 - 直前の飲食や排泄の状態
 - 記録時刻
 - 救助者氏名、電話番号
・バイタルサインの傾向(救急車が来るのを待っている間の変化)
 - 脈拍数/60秒
 - 呼吸数/60秒
 - 皮膚の状態:血色、温度、湿り気
 - 意識や精神状態の変化
口頭だと時間がかかるので、記録しておいて渡すなど。


🚑 緊急判断・通報シート
上の内容。傷病者評価システム。熱中症、ケガ等、すべてのケースで使える。シートを使用した際は、WMAJに連絡すると良いよう(使用のフィードバックを集めている)。
当日配布されたもの
http://wildmedjapan.main.jp/PDF/EmergencySheet.pdf
または、以下のサイトの左側の「緊急通報シート」から(夏バージョンあり)
http://www.wildmed.jp/


🐍 高尾山あるある1 ヘビにかまれる
かまれると怖いヘビ
・頭が三角形(マムシ、ヤマカガシなど)
・熱感知器官(ピット、目と鼻孔の間にあるくぼみのような器官)を持つ
・毒牙(一番前の2本の歯)から毒液を注入
・多くは組織毒を持つ

ピット
・目は良くないので、これで獲物を捉える
・高感度サーモグラフィ
・数十センチ離れていても0.1℃単位で識別可能(もっと高感度のもいる)

毒蛇(マムシ亜科)による毒物注入に対する処置
・血清(抗ヘビ毒素)を求めて避難(=すぐに病院に行く)
・腫れを予期(腫れてもあわてない)
・避難を遅らせないなら患部を固定
・止血帯、冷却、吸引器具はNG(ポイズンリムーバーは使わない)
・必要に応じて一次救命処置

以前は、「毒がまわらないように」と止血したり冷やしたり吸引したり(過去には切開したりも?)していたが、最近は、「除去して薄める」という考え方に変わってきたため、止血帯や冷却はNGとなったそう。

吸引器具については、以下のコラムが当日の説明にかなり近いように思いました。即ち、「(USで作成されたガイドラインに従い)毒を吸い出しても量はわずかで、効果はなく、傷を悪化させる恐れもある(のでNG)」ということのようです。

安全管理のコラム第18回「ポイズンリムーバーを過信しない」 | 2017年6月 NPO法人グリーンシティ福岡
http://www.greencity-f.org/article/15704046.html

「毒液を口で吸いだす」のは、口の中に傷があると傷口から体内に毒液が入り危険。


🐝 高尾山あるある2 ハチに刺される
アレルギー
・緊急ではない:局所反応
・緊急(119):アナフィラキシー

ハチに2度3度繰り返し刺されると、蜂毒に対応する抗体ができ、蜂毒によるアナフィラキシ―ショックを起こすことがあるので、処置をしながら刺された直後(早いときは数分)から1時間以内は、注意深く見守る。

蜂毒は水に溶けやすいので流水にさらすと毒を薄める効果が期待できるよう。

ハチの毒にに対するポイズンリムーバーの効果は、現状、あるともないとも結論が出ていないとのことでした(当日の説明より)。

アナフィラキシ―症状がでて救急車到着を待つまでは仰向けに寝かせ、足を持ち上げる。重症時はできるだけ移動させない。特に背負うなど頭を高くした状態での移動は避ける。突然立ち上がったり、座ったりした場合、数秒で急変することがある。

ハチに刺された時の対応 | 公益社団法人射水市医師会
http://imizu.weblike.jp/news/post-30.html

明確にアナフィラキシーでなくとも、重要器官の問題(呼吸困難、意識低迷)が生じていたり、頭より上(首のあたり、顔など)の腫れや発疹の場合も、緊急(119)。この場合、気道が腫れて塞がるリスクがあるため。

アナフィラキシーショックによる死亡数は、2016年に69例。そのうち、29例がハチ刺傷によるもののようです。ハチ刺傷による数は、毎年20例程度あるよう。致死的反応において、呼吸停止、または、心停止までの中央値は、ハチの場合15分とのこと。

上の数値は、アナフィラキシーガイドラインを参照しました(p.3, 11)。
https://anaphylaxis-guideline.jp/pdf/anaphylaxis_guideline.PDF

アナフィラキシーガイドラインは、以下のサイトから参照しました。
アナフィラキシー啓発サイト | 日本アレルギー学会
https://anaphylaxis-guideline.jp/download/

スズメバチは、8月から9月頃に活動が最も盛んになり、特に、9月中旬頃に新女王バチが生まれるため、働きバチが巣に対して非常に敏感になり、スズメバチの巣の周辺が一番危険な時期になるそう。10月以降、徐々に働きバチの数も減り始めるそう。スズメバチによる刺傷被害は、8〜10月頃に特に多くなるよう。

スズメバチ|東京都小平市公式ホームページ
https://www.city.kodaira.tokyo.jp/kurashi/018/018896.html
「スズメバチの生態を知ろう」(視点・論点) | 視点・論点 | 解説アーカイブス | NHK 解説委員室
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/284171.html
スズメバチによる刺傷被害の発生時期とその原因 | 都市のスズメバチ
http://www2u.biglobe.ne.jp/~vespa/vespa052.htm


🦴 外力によるケガ
以下のどちらに相当するかを判断する。捻挫、骨折、ヒビ等の判断は不要。

安定したケガ:負荷をかけることができる
不安定なケガ:負荷をかけることができない

言い換えると、
・自分で動かせる程度かどうか。
・自分で動かせる場合は、楽な方向に動かす。不自然な状態のままより良い。

不安定なケガの場合、以下の症状に進行する恐れ → 処置必要
・抹消にしびれ
・抹消が蒼白
循環器系、神経系への影響による(血流障害)
血流障害が起きると、2H〜4Hで壊死。

処置(不安定な長骨の場合)
・血流障害の確認(しびれていないか、色が変わっていないか)
・手を用いた固定(仮固定)
・本固定(Complete, Comfortable, Compact)
 - 長骨:上下の関節を固定。関節:上下の長骨を固定
 - 圧迫点や擦過傷がない
 - 関節は可能域の中間位置へ
 - 調節可能
 - 必要最小限
 - CSMチェックができるように
・血流障害の再確認(しびれていないか、色が変わっていないか)

人間の体の骨は、長骨と関節の繰り返しで構成される
長骨:上下の関節を固定。関節:上下の長骨を固定
関節は可能域の中間位置へ固定
中指(だけ)を固定すると手首を固定できる(他の指は動くので自由度もある程度残せる)
固定した状態で、知覚異常、麻痺(マヒ)はないかを観察する
血流障害の確認は、本人へのヒアリングと見た目で

CSMチェック
知覚異常、麻痺(マヒ)はないか、を観察することで病院での障害知覚、運動障害などの四肢の末梢神経障害の参考になる。
Circulation(循環) 橈骨動脈・側背動脈・後部脛骨動脈を探る
Sensation(感覚) 手の指・足の指に触れる
Movement(動き) 手の指・足の指を動かす


🚑 救命処置 補足
救命処置は、救助要請をしてから。
救命処置を始めると救助要請に気が回らなくなる場合があるから。

救命処置
循環器系:大出血→止血
呼吸器系:気道閉塞→気道確保、呼吸停止→CPR(+AED)
神経系:意識なし→気道と呼吸チェック、脊椎損傷の発生機序→脊椎を動かさない

意識があるかないかを、目があいているかいないかで判断しない。呼びかけに反応するかどうかで判断する。

大出血は、太い血管のある以下の7箇所をチェックする。
1. 首まわり
2. 胸〜おなか
3. 背中
4,5. 両脇の下〜二の腕内側
6,7. 両太ももの内側
大出血の確認時は、被救助者に「出血を調べますね」と声がけする。
大出血は重要なので、うつ伏せになっている場合、場合によっては、手を体の下にいれて確認する。
感染症予防のため、衛生手袋を使う。可能であれば2〜3重にして。
使い終わったら、ジップロック等に入れて、被救助者のポケットかザックにいれておく。
捨てない。持って帰らない。

呼吸は、お腹と口に手をあててチェックする。
以下は、実技で確認しました。
・衛生手袋をしていても、全く問題なく、呼吸しているかどうか感じることができる。
・うつ伏せの場合、状況に応じて仰向けにして確認する。仰向けにする場合は、首〜肩を軽く手をあてて、腰で回すと救護者にも救援者にも負担が少なく回せる。

AEDは近くにある(目安として往復3分以内程度でとってこれる)、または、取りに行ってくれる人がいる場合に使うが、救護者が一人(=自分)しかいない場合は、CPR優先(AEDを取りに行かない)。

背骨を骨折している(可能性のある)人は動かさない。
本人が「いいです。大丈夫です」と言い張っても、後から症状が出てくるケースもあるから(実技あり)。ただし、崖や斜面にひっかかったままなどの場合、動かす必要がある(=固くて平らな場所に動かす)。

一次救命処置の手順|講習の内容について|救急法等の講習|活動内容・実績を知る|日本赤十字社
http://www.jrc.or.jp/activity/study/safety/process/
東京消防庁<安全・安心情報><救急アドバイス><倒れている人をみたら>
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/kyuu-adv/life01-2.html

CPR(Cardio Pulmonary Resuscitation) 心肺蘇生
心肺蘇生法の手順|日本医師会 救急蘇生法
https://www.med.or.jp/99/cpr.html


🏥 救急安心センター、小児救急でんわ相談
救急安心センター(#7119)東京都
東京消防庁<安全・安心情報><救急アドバイス><救急車の適正利用にご協力を!><救急車の適正利用のお願い!!>
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/kyuu-adv/soudan-center.htm
042-521-2323(つながらない場合の多摩地区の番号)
宮城県、埼玉県、東京都、神奈川県、大阪府、奈良県、福岡県などで実施

小児救急でんわ相談(#8000)
子ども医療電話相談事業(#8000)について
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/10/tp1010-3.html
全国都道府県で実施(時間帯は異なる)


⛰ 関連する情報など
日本赤十字社 - ヤマレコ
https://www.yamareco.com/modules/yamainfo/organization.php?id=10
消防本部 - ヤマレコ
https://www.yamareco.com/modules/yamainfo/organization.php?id=11
ウィルダネスメディカルアソシエイツジャパン - ヤマレコ
https://www.yamareco.com/modules/yamainfo/organization.php?id=12


🚑 まとめ
重要器官系の重症な問題(=以下)にあてはまれば、救助要請する(119 or 110)
・循環器系:出血や脱水がある、皮膚が蒼白、脈拍や呼吸が不自然に増加
・呼吸器系:呼吸ができない、呼吸が苦しい
・神経系:精神状態がおかしい

救助要請したら、救急/救助到着までの間に以下のことをして待つ
・傷病者を環境から保護。寒い季節は保温。必要に応じて一次救命処置
・傷病者に関する情報を集め、救助隊への引き継ぎ準備

落ち着いて対処する。

2019/08/14(水) 「🐝 高尾山あるある2 ハチに刺される」 に統計値等を追記しました。
2019/08/16(金) 「🐝 高尾山あるある2 ハチに刺される」 に「都市のスズメバチ」のリンクを許可を得て得て追記しました。
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