蛭ヶ岳南尾根を歩いた記録を上げまして翌日。「あー、ここを本当に登ってしまったんだなあ」という感慨とともに記録を見返すにつけ記憶を思い起こすにつけ、なんというかまあ、やっぱり難しかったよなー。仲間と2人、少々あれども怪我なく事故なく帰ってこられたんだから、なんといいますか。やったぜ!嬉しいものです。
このコース、ひごろ私がしてきた山行を鑑みますに、まず行くことはない。それどころか知ることすらない道のはずでした。そこを行くことになったのは友人に教えてもらったからでして、曰く「丹沢最難関」「もし一般道になったら事故続出」の高難度コースなんだとか。そっか、それじゃ俺はちょっと無理だぜーと思いながらも難しいと聞かされるとやりたくなるのが人の性、或いは私がひねくれ者。なんとなくネットで調べてみますと…うん?無理ではないんじゃないか?こうして寝ても覚めても南尾根の日々が始まりまして。いやもう等高線の形、フリーハンドで紙に書けてしまうくらい見続けました。
そうして行ってきた記録にしては素っ気ない山行記録をしたためました。可能な限り客観的にしたかったのです。というのも下調べの日々の中、「斜度45度のすさまじい傾斜」「立木に抱きつき木の根や岩を引っつかみ両手両足で登攀する」「岩は浮石、木は腐り、掴むと崩れて頼りない」「恐怖を感じる高度感」などなど…およそ山遊びを楽しむには程遠い記述を多々見かけたからだったりします。自分の実力がこういう評価をクリアできるものなのか悩んだものですから、できるだけ客観的なものを残したいと思いました。
じゃあ実際に行ってみて主観的にはどうだったの?といいますと。
書きたい。物凄くたくさん書きたい。物凄く主観的に書きたい。ですのでこちらで書いてしまいます。みなさんどうぞ、鼻の穴を大きくしながら「すごかったんだよ!」とまくしたてる40歳児の姿を思い浮かべながらお読みください。年齢はちょっとだけサバを読んでいます。
さて蛭ヶ岳南尾根。主観的な感想は「技術を要する。ただし高度なものではなく、基礎的な歩行技術をしっかりできている必要がある」というものになります。その範囲で覚える技術で十分に対応できたと思いますし、「難しいな」と感じる局面はあっても「やばい、できない!怖い!」と感じることはありませんでした。
じゃ、歩行技術って何を指してるの?と言いますと。「バランスを崩しやすい姿勢を取らない」「足で立つ」「足で登る」この3つに集中しました。シンプルです。
尾根に取り付くとまず、物凄い見た目の斜面に歓迎されます。足をかけてみると脆く、土が崩れる。一歩ごとに5センチくらいグズグズ下がります。ここを足で立って登る。手はバランス保持の補助として使う。もう少し言うと、補助以上には頼らない。あくまで立つのは足、登攀するのではなく歩く。これを心がけました。
傾斜が強く、しかも足をかけると崩れてしまうから体が前のめりになってしまいます。足場が不安定になるから手に頼りたくなる。すると手が前へ伸びる。足下はカカトがつけられない斜度ですから、爪先立ちして斜面にへばり付き、手を伸ばして体が伸びる。こういう姿勢を取らない、常に足で立つことが肝要だったように思います。
バランスを維持するために必要だったのが足場固めでした。雪への下りキックステップに近いことをします。と言っても下りキックほど「どん!」とはやりません。足をかけてじわじわ体重をかけます。すると脆い足場が崩れます。永遠に崩れ続けるわけでは勿論ないので、崩れるだけ崩れたら止まる。止まった所で靴底でグリグリやって固めると安定して立てる足場ができる。そこに足で立つ。手を頼って前のめりになる姿勢を避けられますから、スリップしづらくなる。
その作業中は片足に重心が集中してしまいます。片足立ちの不安定な姿勢です。補助が必要になる。そこで手の出番になります。何かを掴む必要はありません。斜面の、手をつきやすい場所に手をついて、幾分かでも一本足にかかる重さを軽減してやる。それだけで安定が保ちやすくなります。もし道具があればより安定を保ちやすくなる。その場合でも体を伸ばさず、より強い補助として使うと効果的かもしれません。
さて、そうして足場ができた。次は上に上がらないと行けません。足場固めを終えた姿勢でそのまま「よいしょ!」とやるとどうなるか。せっかく固めた足場がまた崩れてしまって登れません。できるだけ静かにやります。固めた足場にかけた山足に、どう言いますか、乗り込む。体重を移し込む。ちょっと上手な言い方を思いつきません。固めた足場を真上から踏めるように姿勢を変えていく。真上から踏む姿勢に変われたら、真っすぐ上に立つ。……この辺、言葉にするのが本当に難しいです。自分の感覚だけで言ってしまうと、足首がそれ以上前にいかない姿勢からスメアリング気味に腰を上げ、それから骨盤をL字移動。前、上にあげる。ちょっと何を言ってるかわからないですよね。しかしこんな言い方しか思いつきません。身体感覚を言葉にするのは本当に難しいです。
話が迷走しかけてしまいました。足場が緩く斜度がある取り付きの斜面を、上記の繰り返しで歩きます。足で立ち、両手でバランスを補助し、足場を作り、バランスを崩さないよう注意しながら足場に乗り込む。こういう作業です。そしてこれ、あることに気づきます。これもしかして、3点支持の動作と同じなんじゃないだろうか?みなさんご存知の、あの3点支持です。
3点支持、実を言うと私、永らく疑問に思っていたのです。スリップしても3点で耐えられるようにすると習ったように思うのですが、どうなんでしょうね?本当にズバッ!とスリップして全体重がかかっちゃったら、3点だけで耐えられるものなの?って。無理だろうなあ、それじゃなんでそう教えるんだろう?ずっと「そのくらいゆっくりやるのがいいんだよ」というくらいのことなんじゃないかなあと思っていたのですね。でも、本質を理解できていなかったように思います。上記の動作ってもしかして3点支持の本質なんじゃないだろうか。いついかなる瞬間でも、動作のどこを切り取ってもバランスを崩す瞬間を作らない。これが3点支持という技術の本質なんじゃないだろうか。それをきちんと理解して実行するのが南尾根の取り付きで要求される歩行技術なんじゃないだろうか。
取り付きに限ったことではありませんでした。中盤以降、脆く崩れやすい露岩を手かがりにする場面でもやはり同じです。3点支持で登る以上、上がるのはあくまで足がやること。そこでは手に頼らない。バランスの補助として軽く掴むだけでよく、それ以上のことをしてはいけない。そりゃそうですよね。掴むと崩れちゃうんだもん。(実際には全部がそれじゃありません。掴んで体重を預けられる岩や木もありますし、信用できるものを選べば手を頼ってグイグイ行くこともできますし、それができる局面であれば十分にアリです)
だからこの尾根はずっと俺をテストしてるんだと感じていました。「お前、3点支持とか歩行とか本当にわかってる?」って。
話が最初の方に戻ります。基礎的な歩行技術ができている必要がある。で、それは3点支持を本当に理解していて、実行できる必要がある。当たり前の話でしかないのかもしれません。難しいとこ行くんだったら基本ができてなくちゃダメじゃん。本当にできるの?わかったつもりになってるだけなんじゃないの?
山行を振り返ってみるに、南尾根って先生みたいな尾根だなと思いました。
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