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毎年12月と1月の15、16日は世田谷ボロ市。前の前の家がボロ市通りの近くで、開始と終了の号砲が聞こえてたけど、すっかり縁遠くなってしまった。今朝はたまたま通りかかって設営準備の人混みに遭遇。ああ、まだやってるんだなと懐かしい気持ちになる。
#朝ラン #早朝ラン #ランニング
オーディブルはアイザック・アシモフ『銀河帝国興亡史Ⅰ ファウンデーション』の続き。
過去の文献を調べ尽くして互いに突き合わせ、矛盾する記述を分析し、どちらが正しいかを決定することが「科学的な方法」であり、現場にいって実地調査をすることなど、粗野で煩雑で遠回りなやり方だと信じて疑わない愚か者たちに、科学を語る資格はない。それは文献学であって、実験と試行錯誤を繰り返す科学とは異なるものだ。ターミナス市長のハーディンでなくとも、「銀河が停滞するのも無理はない」と思わざるを得ない。事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ、というどこかで聞いたセリフが頭の中にこだまする。
ラジウム時計によって管理されたセルダンの時間霊廟が50年ぶりに開き、アナクレオンの叛乱を予見した彼が解決策を示してくれるという、ジョード・ファラの楽観的な見通しに対するハーディン市長の、ある意味当然の疑問。
「たとえば、もしかれがアナクレオンの叛乱を予見していたなら、なぜわれわれをもっと銀河系の中心に近いほかの惑星に置かなかったか?(中略)もし、このすべてを予想していたなら、なぜかれはあらかじめ初代の移住者たちに、用意を整えておくべき時がくると、警告しなかったのか? 片足が断崖の上にかかるまで、こうして、何もせずに待っているようなことをさせたのか?
また、その当時かれが問題を予見できたということは、ありうるとして、同様に今われわれははっきりとそれを見ることができるということを、忘れてはいけません。要するに、かれは魔法使いではないのです。かれには見えるがわれわれには見えない、というジレンマを脱け出すトリックは存在しないのです」
「しかし、ハーディン」「われわれには見えないんですよ」(とファラ)
「見ようとしなかったからです。一度だって見ようとしなかった。そもそも最初は、脅威が存在することすら認めなかった! 次に諸君は皇帝への絶対的、盲目的な信頼の上にあぐらをかいた! 今度はそれをハリ・セルダンの上に移した。諸君は徹頭徹尾、権威または過去を頼りにしていてーーけっして自分自身を頼りにしたことがない」
「これは結局、病的な態度ですーー権威に反対するという問題が生じるたびに、心の独立を脇に逸らすという、一種の条件反射なのです。どうやら、自分よりも皇帝の方が力があるとか、ハリ・セルダンの方が賢いということについて、諸君の心の中には疑いは全然ないみたいですねえ。間違っているのはそこなんですよ」
「諸君だけではありません。銀河系全体がそうなのです。ピレンヌはドーウィン卿の科学的研究法を聞いたでしょう。ドーウィン卿は立派な考古学者になるにんは、そのテーマのすべての本ーー何世紀も昔の人が書いたものーーを読めばよいといいました。考古学上の謎を解く方法は、対立する権威を比較考量することだと思っています。それなのにピレンヌはそれを聞いて、異議を唱えませんでした。それではおかしいと、思いませんか?」
「そして、諸君と、ターミナスの半分は同じ誤りを犯しています。われわれは百科辞典こそすべての根源だと考えて、ここにじっと座っている。科学の最大の目的は過去のデータの分類だと思っている。それはたしかに大切な事です。しかし、それ以上にしなくてはならない仕事はないのでしょうか? われわれは後退し、忘れつつあるのです。これが分からないのですか? この辺境では、原子力が失われてしまった。ガンマ・アンドロメダでは粗雑な修理のために発電所が爆発した。そして、帝国の大臣は原子力技術者がいないといって、こぼしている。そして、解決策は? 新しい技術者を養成する? とんでもない! そうする代わりに、原子力を制限するのです」
「わかりませんか? この傾向は銀河系全体に広がっているんです。過去の崇拝なんです。これは退化なんですーー沈滞して腐りかかってい
るんです!」
「しかし、われわれはかれ(ハリ・セルダン)に依存して解答を出してもらうことはできないんですよ。せいぜい、かれは問題を指摘できるだけです。しかし、いやしくも解答があるとするならば、われわれはそれを自力で導き出さなければならない。かれが代わってやってくれるわけではないのです」
「どういう意味かねーー問題を指摘するとは? われわれは問題を知っているのに」(とフラム)
「知っている、だと! 諸君はアナクレオンがハリ・セルダンの心配しているすべてだと、思っているのですね。わたしはそうは思いません! いいですか、諸君、実際に起こりつつある事を、あなたがたのだれ一人としてほんの少しも認識していないのですよ」
「それで、きみは認識しているというのかね?」(とピレンヌ)
「そのつもりです!」「はっきししていることがひとつでもあるとすれば、それはこの状況全体に何かうさん臭いところがある。われわれが今までに話した事よりももっと大きい何かがある、ということです。そこで、次の事を自問してみてください。ファウンデーションの最初の住人のなかに、ボー・アルーリンを除いて、一流の心理歴史学者が一人も含まれていなかったのはなぜか? しかも、アルーリンは弟子たちに基礎以上のことを教えるのを、注意深く避けていた」
「たぶんそれは、心理歴史学者だったら事の真相を悟ったからでしょうーーそれも、悟るのが早すぎてハリ・セルダンにとって都合が悪かったからでしょう。しかし、われわれは心理歴史学者ではないから、このようにあちらこちらつまずいて歩き、五里霧中でさっぱり真相をつかめずにいる。これがハリ・セルダンの狙いなのですよ」
「ではこれで、諸君!」と言い残してハーディンは立ち去る。そしてついに時間霊廟が開き、ハリ・セルダンの映像が現れる。
「まず第一に、百科辞典財団(ファウンデーション)というのは、欺瞞である。これは最初からずっとそうだったのだ!」
「つまり、百科辞典がたった1冊でも出版されるかどうかということは、わたしもわたしの同僚も全然気にしていないという意味において、欺瞞なのだ。これは目的にかなっていた。なぜなら、それによって、われわれは皇帝から勅許状をひきだし、それによって、われわれの計画に必要な十万人の人材を引き寄せ、そして、それによって、状況が自然に整うまで、引き返すには手遅れになるまで、かれらの意識をひとつの方向に保っておくことができたのだから。
きみたちがこの架空のプロジェクトーー表現を和らげても益はないーーで50年間働いていた間に、退路は絶たれた。そして今や、われわれの真の〈計画(プラン)〉であったし、今もそうである、限りなくもっと重要なプロジェクトに向かって突き進む以外に道はないのだ。
この目的に向かって、きみたちをこのような惑星の上に、このような時期ーーつまり、50年後にはもはや行動の自由を持たない段階にまで誘導される時期ーーに、置いたのである。今後、何世紀にもわたって、きみたちは必然的に一つのコースをたどることになる。今きみたちは最初の危機に遭遇しているが、今後はこのような一連の危機に遭遇することになる。そして、それぞれの場合において、きみたちの行動の自由は同様に制限されて、唯一無二のコースを取らざるを得ないことになるだろう。
われわれの心理歴史学が算出したのがこのコースなのであるーーこれにはしっかりした理由があるのだ。
何世紀にもわたって銀河文明は沈滞し、退化している。しかし、それに気づいている者はごく少ない。しかし今は、ついに外縁部がちぎれ始め、帝国の政治的統一は崩壊しつつある。たったいま経過した50年間のどこかに、後世の歴史家が任意の線を引いて、〝これが銀河帝国の滅亡のしるしだ〟という時点があるだろう。
そして、かれは正しいだろう。もっとも、その後何世紀かの間は、ほとんどだれもその滅亡を認めないだろうがね。
そして、その滅亡の後に不可避的に野蛮な時代がやってくる。われわれの心理歴史学の告げるところによれば、その時代は通常の状況下において、3万年続くはずである。われわれはその滅亡を阻止することはできない。また、そうするつもりもない。なぜなら帝国の文化は過去においては活力と価値をもっていたかもしれないが、今はそれらを喪失しているからである。しかし、これから必ずやってくる蛮行の時代をーーただの1000年にまでーー短縮することができる。
この短縮の詳細をきみたちに教えることはできない。それは50年前にファウンデーションの真相を教えることができなかったのと同じことである。万一これらの詳細がきみたちに知られると、われわれの〈プラン〉はだめになるかもしれないのだ。もし、もっと早くにきみたちが百科辞典の欺瞞性に気づいていたら、やはり〈プラン〉はだめになっただろう。それと同じことだ。なぜなら、当時、真相に気づくことによって、きみたちの行動の自由は拡張され、導入される付加的な変数の数が増加して、われわれの心理歴史学が処理できなくなってしまうからだ。」
この作品が生まれた1950年代初頭には、カオス理論も複雑系の科学もなかったから、(いまは処理能力の問題で計算できなくても、将来、超高速コンピュータが発明されたあかつきには)あらゆるパラメータを計算すれば、統計的な処理の先に正確な未来地図が描けるはず、という「予測」がある程度の真実味をもって受け入れられていたのは想像がつく。そこは目をつむったとして、「心理歴史学の予測は人々が予測の存在を知らないときだけ有効だ」という本作の前提は、頭では理解できても、それを言い換えれば、未来を自分たちの想定の範囲内におさめるためには、全人類から選択の自由を奪い、これしかできないという状況に追い込むしかないという意味で、「疑問も質問も受け付けない、ただ従え」というハリ・セルダンの言葉はまさに「神の御託宣」に等しいものとなってしまう。このセルダンの言葉を聞いて、カルト宗教を思い浮かべた人がいたら、おそらくその直感は正しい。この物語をさらに読み進めていけば、その正しさを実感できるだろう。
「しかし、そういうことは怒らないだろう、なぜならターミナスには心理歴史学者は一人もいなかったし、過去にもいなかった。アルーリンは別だーーかれはわれわれの仲間だから。
しかし、次の事はきみたちに告げることができる。ターミナスと、そして、銀河の反対側の端にある仲間のファウンデーションは、ルネッサンスの種子であり、第二銀河帝国の未来の創始者であると。そして、そのクライマックスに向けてターミナスを出発させるのが、現在の危機であるのだと。
ところで、これはむしろ単純明快な危機であって、今後生じる危機よりもずっと簡単なものだ。この状況を基礎条件に還元すれば、次のようになる。きみたちは、まだ文明の残っている銀河系の中心部から突然切り離された惑星であり、より強力な隣人たちによって脅かされているということだ。これは、広大なそして急速に広がりつつある野蛮な状態によって包囲されている、科学者たちの小さな世界だ。きみたちは、拡大しつつあるもっと原始的なエネルギーの大洋に浮かぶ、原子力の小島だ。しかし、それにもかかわらずきみたちは無力である。なぜなら、きみたちには金属がないから。
だから、わかるだろう。きみたちは厳しい緊急事態を迎えており、否応なしに活動しなければならなくなっている。その活動の性格はーーつまり、きみたちのジレンマの解決法はーーもちろん、分かりきっている!」
「しかし、きみたちの未来の歴史がどんなに曲がりくねったコースをたどるにせよ、きみたちの子孫の心に次の事をしっかりと銘記させてほしい。このコースはあらかじめ設定されているものであり、その果てに、新しい、より偉大な帝国があるのだと!」
第3部「市長」より。
「暴力は無能力者の最後の避難所」を座右の銘とするサルヴァー・ハーディンは、無血クーデターによって惑星ターミナスの実権を握ったあと、ターミナスを取り巻く4つの王国(それらは文明が退化し、原子力を失っていた)に必要な技術を教え、お互いのパワーバランスをうまく取り持つことで、ターミナスの独立を保っていた。
「わたしはかれらを操ってたがいに牽制させた。それぞれをかわるがわる援助してやった。かれらに科学、貿易、教育、科学的医療を提供してやった。わたしはターミナスを軍事的に魅力のある存在というよりはむしろ繁栄する世界として、かれらにとってより価値あるものにしたのだ。この政策は30年間有効に働いている」
(ハーディンの宥和政策に反対し、軍備増強+先制攻撃をうたう若手代議士セフ・サーマックいわく)「ええ。しかし、あなたはこれらの科学的な贈り物を、言語道断な宗教まがいの儀式で包まねばならなかった。あなたは、それで疑似宗教を、茶番劇を、作り上げた。あなたは僧侶の階級制度と、複雑で無意味な儀式を作り上げた」
「何をいっているんだ? 今までの議論とそれとどんな関係がある。たしかに最初はそういうやり方をした。野蛮人たちがわれわれの科学を一種の魔法と見なしたからだ。そして、そういうベースで受け入れることがかれらにとって容易であったからだ。司祭制度は自然発生的に出てきたものだ。たとえ、われわれがその発達を手助けしたとしても、それはもっとも抵抗の少ない道をたどったというだけのことにすぎない。取るに足りないことだ」
クラークの三法則に「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」とあって、科学的素養がない人がいきなり最先端のテクノロジーに触れると、それは神の御業に見えてしまう。放射線治療は魔法の特効薬になるし、神の薬をもたらしてくれる相手は、神そのものとダブってみえる。原子力は神の力で、事故によって原子力発電所が爆発すれば、それは神の復讐となる。そして、未来を見通し、人々に選択の余地を与えず、むしろ一定のルールに押し込めようとするハリ・セルダンは、いつの日か「地上の楽園(第二銀河帝国)」に帰るべしとして、人々に戒律を押し付ける預言者そのものだ。ハーディンはもちろん、そうしたエセ宗教を意図的に広めてきた。暴力によらずにターミナスを守るために。
だが、彼の宥和政策も、そろそろ耐用年数が切れようとしていた。1つには、アナクレオンの若き王レオポルドの叔父ウェニスが、ハーディンの策略に気づいて、レオポルドにターミナスに対する戦争を焚き付けていたから。それは、レオポルドの父親が受けた辱め(30年前にターミナスを併合しようとやってきたものの、ハーディンの策略によって、ほかの3カ国が手を組み、アナクレオンに撤退要求を突きつけた)に対する意趣返しでも会った。もう1つは、ターミナス内で広高まるハーディンの弱腰外交に対する不満によって、次の選挙ではサーマック率いる行動党の勝利が目前に迫っていたから。
ところが、当のハーディンは、3週間後のファウンデーション開設80周年記念日に、ふたたびハリ・セルダンの時間霊廟が開くのを待っている。30年前はあれほどセルダンの意図に肉薄したこの男が、いまは、セルダンの御託宣を心待ちにするまでになってしまった。その姿は、30年前に自ら考えることを放棄した無能な科学者連中に重なる。大丈夫か、ハーディン?
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