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#朝ラン #早朝ラン #ランニング
オーディブルはフィリップ・K・ディック『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』が今朝でおしまい。
「わたしは惑星になるつもりだ」。あらゆるものを飲み込み、誰彼となくその人物になることができ、死をも超越して太陽系全体へと広がったパーマー・エルドリッチは、だが、ひとりぼっちだった。孤独を埋め合わせるために、バーニイを引き寄せ、転生した。バーニイの一部はパーマー・エルドリッチになり、バーニイの一部がパーマー・エルドリッチになった。その「しるし(聖痕)」が、生命のない人工義手であり、ジェンセン式義眼であり、ひどく変形したあごであって、それはいたるところに現れた。
「あの生き物は」「もしぼくがそれをいえば、きみたちもきっと思いあたるだろう名を持っている。だが、むこうは決して自分をそう呼びはしない。その呼び名をつけたのは、われわれなんだ。遠い距離をへだてた、何千年もの経験にもとづいて。しかし、遅かれ早かれ、われわれはむこうと対決することになる。こんどは距離もおかずに。歳月もおかずに」
「つまり、神のことね」
「でも−−邪悪な神?」
「それは一つの側面だ。われわれにとっての体験。それだけのことさ」
「それは天罰なの?」「つまり、神が最初にくだされた罰のことが書かれているでしょう? あれがまたくりかえされるの?」
「それを知っているのは、きみのほうじゃないかな。なにを見たか思いだしてみたまえ。3つの聖痕−−生命のない義手と、ジェンセン式義眼と、ひどく変形したあど」−−あいつの宿りのシンボルだ、とバーニイは思った。われわれのさなかに。求められもせず。意図的に呼び起こされることもなく。しかも−−われわれには、自分たちを守る仲介の秘蹟もない。歴史の重みをもった慎重、巧妙、丹念な儀式で、パンと水、あるいはパンとぶどう酒のような特定要素の中へ、あいつを閉じ込めることができない。あいつはなにものにも囚われず、四方八方へ広がっている。われわれの目をのぞきこみ、われわれの目で外を見ている。
「それは代償なのね」と、アンが断定した。「わたしたちの払わなくてはならない代償。ちょうどアダムとイヴのリンゴとおなじだわ」アンの口調はぎくりとするほど苦味がこもっていた。
「そうだ」と、彼は同意した。「しかし、ぼくはすでにその代償を払った気がする」−−でなければ、払う一歩手前までいった気がする、と彼は思った。あの生き物、地球人の肉体に宿ったかりの姿しか見せないあいつは、自分がほろぼされる瞬間に、このおれを身代わりに立てようとした。むかし、神が人間の身代わりになって死んだのとは逆に、われわれは−−一瞬だが−−自分の代わりに死ねとわれわれに要求する優越者と対決したのだ。」
「よろしい。わたしはある星系からの追放者だ−−その星系の名は、どのみち関係がないから伏せておこう。そのあと、わたしはよそに居を移し、そこできみたちの星系からきた、あの無鉄砲な、一攫千金タイプの山師と出会った。そして、そのいくぶんかはきみにも伝わっているわけだ。しかし、あまりたくさんじゃない。何年かするうちに、きみはそこから徐々に回復する。それは弱まっていって、最後には消えるだろう。きみの仲間の移民がそれに気づかないのは、むこうもやはりそれに接触したからだ。われわれが売りつけたものをしゃぶったとたんに、それは始まる」
「あんたがチューZをわれわれ人類のところへ持ち込んだのは、どういうつもりだったのか、そこが知りたいね」
「私自身を永続させるためだ」
「一種の繁殖作用か?」
「そうだ。わたしにできる唯一の方法さ」
「なんてこった。われわれはみんなあんたの子供になるところだったのか」
「いまそのことでクヨクヨ悩むのはよしたまえ、メイヤスン君」「とにかく地上にあるささやかな菜園を育て、用水路を作りあげることだ。正直なところ、わたしは死に憧れている。レオ・ビュレロがすでに考えている計画を実行に移すときが、待ち遠しいくらいだ。(略)」
「逆もどりすればいいじゃないか」「パーマーと出会う前の、もとの姿にもどればいい。なにもレオがあんたの船を砲撃するときに、わざわざあの肉体に宿って、あそこにいる必要はないんだ」
「そうできるかね?」「もしわたしがあそこに現れなければ、もっと悪い運命がわたしを待つことになるかもしれん。だが、きみにはそんなことはわかるまい。きみは寿命の比較的短い生物だし、短い期間のうちにそれほど−−」
「その先はいわないでくれ」「知りたくない」
つぎにバーニイがかをお上げたとき、もうパーマー・エルドリッチの姿はなかった」
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