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杉並の神田川沿いの塚山公園、柏の宮公園、下高井戸おおぞら公園のうち、早咲きの河津桜🌸があるのは後2者。4足目のクリフトン9も今日で累積1000キロを超えたのでお役御免に。おつかれさん!
#花見ラン #咲くラン #河津桜 #朝ラン #早朝ラン #ランニング
オーディブルはマイケル・ルイス『マネーボール』の続き。
「わかりやすい例がジョン・ヘンリーだ。彼は1999年1月にフロリダ・マーリンズを買い取った。球団オーナーといえば、たいがい、巨大企業の跡取り息子か、一大帝国を築いた事業家と相場が決まっているのだが、ヘンリーの場合、株式市場で頭脳を働かせて富を築いた。だから、データ分析を駆使すれば効率の向上が図れると骨身にしみていた。なにしろ、ほかの投資家が非効率だったおかげで金持ちになれたのだ。野球の世界も似たような状況にちがいなかった」
「投資家も野球人も、信念と偏見に引きずられているんです。極端な言いかたをすると、もしそういう人たちをみんな切りしててデータだけを頼りにすれば、どんなにか有利でしょう。株式市場では多くの投資家が、おれは他人より賢い、市場そのものにはどうせ知恵がない、ただの惰性で動いているようなもんだ、と考えています。球界でも多くの関係者が、おれは他人より賢い、グラウンド上の試合はおれが思い描くとおりの仕組みで進行している、と信じています。ところが、株式市場では、個人の認識や思い込みよりも、日々のデータのほうが尊い。野球だって同じです」
「1980年代はじめ、アメリカ株式市場は大きな転換期を迎えた。コンピューターの普及と知識の発展があいまって、先物取引市場や金融オプション市場にまったく新たな可能性が広がったからだ。先物取引やオプション取引は市場全体に占める割合こそわずかだが、かなり複雑な内容になってきたので、〝金融派生商品(デリバティブ)〟という新語でくくられるようになった。金融派生商品は、従来の株式や債券とは異なり、価値を明確に定量化することができる。普通の株式や債券の価値は流動的で、市場の商いの動向に応じて刻々と変わってしまう。ところが、金融派生商品だと、株式や債券の価値があらかじめ定まっている。満期時に市場価格がもとの価格より上昇または下落していれば、買い手や売り手は大儲けできる可能性がある。
10年近くのあいだ、いち早くのこ仕組みを把握した者がやすやすと大きな利益を手に入れていた。このたぐいの計算が得意な人間は、ありきたりなトレーダーではない。高度な知識を持つ数学者、統計学者、科学者などだ。彼らはハーバード大学やスタンフォード大学やマサチューセッツ工科大学での研究を捨てて、ウォール街で巨富を得た。このような優秀なトレーダーが莫大な利益をつかんだことにより、ウォール街の文化は一変し、勘ではなく定量分析が重んじられるようになった。金融派生商品が誕生した結果、リスクの見きわめがより正確に、売買がより効率的になって、金融取引は危険に満ち満ちているという長年の常識が覆った。新世代の意欲的な人々は、誰かの〝効率の悪さ〟が別の者にとって〝チャンス〟なのだと身にしみてわかった。古いタイプの人々も、〝頭の良さ〟と〝金儲け〟には密接な関係があるとあらためて思い知った」
「ケン・マウリエロは、複雑な金融市場と野球が似ていることに目をつけた。どちらも、ずさんなデータのせいで投資効率が悪貨しやすい。ビル・ジェイムズが指摘したとおり、野球データは運と能力がないまぜになっているうえ、記録されず見落とされている部分も多い。たとえば、ツーアウト走者二塁の場面。ピッチャーがすばらしい球を投げる。打者はレフトにふらふらとフライを打ち上げる。普通なら捕れそうな打球だが、左翼手のアルバート・ベル(メジャーリーグきっての悪役スター選手)は守備が悪い。落下点に入るのが遅く、バックホームの送球もよくない。事前にそう心得ていた二塁ランナーは、判断よくスタートを切り、本塁をおとしいれる。しかし、このケースで記録されるデータは、打者に打点1、投手に失点1。左翼手と走者はその立会人でしかない。まるで不公平だ。投手と走者は、よくやったと称えられるべきだし、打者と左翼手はしくじったとみなされるべきだろう(打者は左飛アウトでもおかしくなかった。また、左翼手は本当ならエラーをつけられても文句を言えないはずだ。ヒットを許したどころか、敵に得点を与えてしまっている)。
正確を期すとしたら、選手のあらゆるプレーに関して、さらにプレーが行われた球場に関して、情報の手直しが必要だった。AVMシステムズ社が本当に知りたかったのは、球場におけるすべての出来事について、各選手がどのように、どのぐらい責任を負ったかということだった。誰を褒め、誰をけなすべきか? この点を解明できれば、さまざまな質問に答えを出せる。たとえば−−フライを捕れなかったぶんを挽回するためには、アルバート・ベルは二塁打を何本打てばいいのか?
選手の活躍を測る尺度はきまりきっている−−得点だ。得点は、野球で〝お金〟に相当する。グラウンド上で起こる全部に当てはめられる通貨だ。ただし、小さなプレーひとつひとつをいくらと査定すべきかが難しい。AVMシステムズは、メジャーの試合データを10年ぶん集めて、事細かに研究した。ボールの動きを逐一、過去10年の似たような場面と比較していった。「試合中に起こるどんなことも、じつは過去に何千回と起こっているんです」とアームブラスターは語る。必ず、過去の平均とくらべてプレーを評価しなければならない。
10年前のSTATS社設立当時にビル・ジェイムズとディック・クレイマーが始めた研究方法と、おおまかな方針は大差ないが、AVMシステムズ社は制度の点でずば抜けていた。マウリエロとアームブラスターはまず、グラウンドを座標化し、すべての位置を数値ひとつで表せるようにした。次に、ありとあらゆる打球を分類し直した。二塁打などというあいまいな表現は使わない。フライやライナーやゴロといった言葉も使わない。より厳密な表現方法が必要だった。打球はある速度と軌道を伴って、グラウンド上のある地点に落ちる。普通なら、左中間のライナー性の二塁打、と呼ばれる打球を、AVMは、これこれの速度と軌道を伴って地点643に落下した打球、というふうに記録した。
続いてAVMは、プレーにまつわる無数の派生要素を洗い出した。いわば、野球派生商品。「ひとつのプレーから派生して、じつにいろんなことが起こります」とアームブラスターは言う。「ただ、公式記録には残りませんが……」
ささやかな一例として、ライト前のシングルヒットが出た場合を考えよう。一塁ランナーは、右翼手が肩の強いラウル・モンデシーなのを見て、三塁を欲張ることをあきらめ、二塁で止まる。ラウル・モンデシーが守っているとなると、一塁からいっきに三塁を奪おうとするランナーはめったにいない。とすれば、この事実は何かしら記録にとどめるべきだろう。だが、どんなふうに? もし金儲けにつながらないならウォール街の誰ひとりとして株式や債券の価値を考えないのと同様、野球選手にあっと驚くほど高い値段がつくまでは、「微に入り細をうがってプレーを徹底分析し、選手を正確に査定しよう」などと誰も思わなかった。
ビル・ジェイムズはあくまで、従来常識の誤りを正すために、データの重要性を検証したにすぎない。しかしAVMはさらに踏みこんで、いままでのデータ方式にまったく頼らず、球場での出来事を隅から隅まで記録していった。打点やセーブといった、状況に付随するデータを無視したのはもちろんのこと、従来方式の記録はいっさい使わなかった。ファンの視点で漠然とゲームを分析したのではない。AVMのコンピューター内部には、ひとつの試合が膨大な派生状況の集合体というかたちで登録され、現実世界とはくらべものにならないほど的確な、別次元の選手評価が可能になった。」
「AVMとの契約料はかなり高かったので、よほどの金持ち球団か、よほど事態を打開従っている貧乏球団だけしか、導入を検討しなかった。ビリーとポールはAVMと2年間契約し、そのあと、経費節減のため自力でAVMのやりかたを真似した。派生ダータを独自に入力し終え、さまざまな難問に対してより正確に答えを出せるようになった。たとえば、ジョニー・デイモンが抜けて守備力はどのぐらい下がったのかという問題に対しても……。
ポールの解釈によれば、試合中のプレーはみんな〝得点期待値〟というバロメーターで測れる。(中略)
たとえば、ノーアウト走者なしで打者に第一球が投じられる瞬間、得点期待値はおよそ0.55、この場面で唐突に点が入る可能性は低いので、そういう数字になる。もし打者が初球をとらえてツーベースを放ったとすると、試合の状況が変わる。ノーアウト、ランナー二塁。こんどは得点期待値が1.1に跳ね上がる。よって、先頭打者ツーベースの価値は、得点期待値でいうと、0.55(=0.55から1.1への上昇分)だ。もしツーベースではなく三振という結果だったら、その打者はチームの得点期待値を約0.30まで下げることになる。アウトひとつで0.25(=0.55から0.30への減少分)下がってしまった。
このぐらいの計算はまだ序の口だ。偶然の要素を取り除き、ひとつひとつのプレーの価値を深く理解おするには、じつのところ、実存主義的な問いを片付けなければならない。たとえば−−そもそも二塁打とはなんぞや? 「バッターが打って、敵のエラーなしで二塁に到達すること」だけでは、答えとして足りない。ご存知のとおり、ひと口に二塁打と言ってもいろいろある。外野手が捕れてもおかしくなかったのに二塁打になるケースもあるし、二塁打になるはずがスーパーファインプレーでアウトに終わるケースも有る。幸運な二塁打、不運なアウト。つきの要素を排除したければ。ここで、プラトンばりの観念論を持ち出す必要が出てくる。
プラトンばりの観念論とは、ウォール街のふたりに触発されてポールが思いついたアイデアのひとつだ。ポールが真似て作ったAVMシステムはきわめて精度が高く、空想の打球をシミュレーションすることができる。どんな打球も、過去に数多く同じ例があるから、その平均を出せば、〝最もありふれた二塁打〟という空想上の観念をかたちにできるのだ。かりに、軌道Xで速力Yのライナーが地点968に落下したとしよう。過去10年のデータと照合すると、ほぼ同じ打球が8642例ある。うち92%が二塁打、4%が単打、4%が捕球されてアウトだった。打つ前は得点期待値が0.50の場面だったと仮定する。実際にはまだ何も起きていないうちから、打者には得点の可能性が0.50、投手には失点の可能性が0.50あったわけだ。ここで先ほどの打球が飛んで、ジョニー・デイモンがお得意のジャンピングキャッチでみごとに捕球したとする。デイモンは0.50を0に抑え込んで、チームに貢献したことになる。
このように、打撃や捕球がどんな意義を持つかは、場面に応じて客観的に決まる。状況ごとにおのずと決まってくるのだ。過去10年の平均と比較してどのぐらい良かったか悪かったかで、各プレーの価値を判定できる。場面の状況さえ明らかなら、センター方向に飛んだ打球ひとつひとつが得点期待値にどうからんだか、ポールにはたちどころにわかる。」
「また、チームの勝利にとっては守備力より攻撃力がはるかに重大、というかねてからの信念が、コンピューターのおかげで裏打ちされた。アルバート・ベルは飛球を捕りそこねる回数にかけて球界一だが、コンピューターの計算によれば、彼はそういう失敗を挽回してあり余るほどたくさん二塁打を放っている。ポールの言葉を借りればこうなる。「最高の野手と最低の野手の差は、最高の打者と最低の打者の差にくらべ、試合結果におよぼす影響がずっと小さいんです」なのに、市場のほかの人々はこの事実を把握できていないので、守備力に必要以上の投資をする。
つまるところ、ジョニー・デイモンの守備をめぐる問題は、こんな結論に達した。同じぐらい守備の得意な選手を補強しようとすると、無駄な出費につながる。デイモン並みにセンターを守れる選手は、打撃がデイモンより劣るか、よほど年俸が高いかだ。したがって、デイモンが抜けた穴は、打撃陣の強化で埋め合わせるほうがいい」
「前年のシーズン、ジオンビーの出塁率は4割7分7厘だった。アメリカン・リーグ第1位で、2位に5分以上の大差をつけている。ほぼ2打席に1回出塁する協力選手を、アスレチックスが新たに雇えるはずがない。しかも、この年のアスレチックスは、ほかにも穴を補強しなければいけなかった。ジョニー・デイモン(出塁率3割2分4厘)がセンターから去ったうえ、指名打者のオルメド・サインズ(2割9分1厘)にはそろそろ限界が見えてきていた。よって、以上の3人の平均出塁率(3割6分4厘)を埋め合わせする必要がある。探さなければいけないのは、一塁手、外野手、指名打者で、3人全体としてメジャー平均より出塁率が3分高いことが条件になる。
しかしなんと、こうして出塁率を重視して補強するぶんには、驚くほど安く済む。もちろん、安く買うからには、出塁率以外の長所はあきらめなければならない。補強用の選手には、55メートル層でホットドッグ屋に勝てる能力はないかもしれない。「完全な選手は獲れません。どこかしら弱点があるから、アスレチックスが獲得できるわけです」とポールは言う。他チームが不要とする選手を3人探しまわって、結局、ヤンキースのデイヴィッド・ジャスティス外野手、レッドソックスのスコット・ハッてバーグ捕手、ジェイソンの弟のジェレミー・ジオンビー選手を抜擢した。「ほかのメジャー球団幹部がこの3選手に〝出来損ない〟の烙印を押していたからこそ、うちが獲れたんです」
「上位打線は自制心を持ち、悪い球に手を出さない。下位打線はつい振ってしまう。妙なことに、上位打線はトレードで獲得した選手ばかりで、下位打線はロングとペーニャを除いて生え抜きの選手だ。
生え抜きの選手は、プロ入りしたあと初めて、アスレチックスの打撃コーチから心得を叩き込まれる。ボール球を見送る能力と、アスレチックス在籍期間の長さとは、どうも反比例しているかkンジがする。だからビリー・ビーンは「選球眼は生まれつきの問題なのかもしれない」と言ったのだ。先ほどのリストを見ただけでも、ビリーがなぜスカウト陣の入れ替えに踏み切らなければいけなかったかがよくわかる。古株のスカウトたちは「選球眼なんてそう重要じゃないし、あとで訓練すればどうにかなる」と思っているが、フロント陣が苦労してたどり着いた結論は「これはほとんど生まれつきの才能で、しかも、野球の成功にいちばん直結する能力である」というものだった」
「いわば実験なんです」「われわれは、野球をスポーツイベントではなく技能の戦いだと見ています。いま知りたいのは、『肉体的に下り坂の年齢になったとき、技能は以前のレベルを保てるのか? 身体機能の向上が止まっても、昔とった杵柄は通用するのか?』という点です」
「すでに判明したところによると、出塁の才能は、たとえばホームランを打つ才能にくらべ、現役の終わりごろまで長続きするという。四球による出塁が多い選手は、年齢を重ねるにつれてさらに多く四球を選ぶ。ジャスティスは四球による出塁が多い選手だ。来た球をただ打つのではなくて、自分が打てる球を待つ。おかげでつい数年前まではホームランも量産できた。しかし当時のパワーはもうない。(中略)
アスレチックスのフロントは気にしていない。いずれにしろ、力尽きる前のデイヴィッド・ジャズティスから出塁の才能の残り何リットルかを搾り取ることが目的だ。
そういうふうに見られていると、当人はわかっているのだろうか?
「いいや」
わかっていない。選手たち自身は誰ひとり気づいていない。実験室の鼠には、実験の詳細は知らされないのだ。四球を選べば褒められて、ボール球を振ると叱られる。ただそれだけ。フロントが攻撃力を数字の問題へ単純化してしまったことなど、伝えられていない。選手たちを野球のたんなる必須成分とみなして、彼らのファンやら母親やらが愛してやまない内面の美点−−勇気、度胸、一徹さなど−−に目もくれていないとは、選手本人たちは想像だにしていない。「何か上のほうからの意思によって導かれているらしい」とうっすら感じているだけだ。普通の球団と違って、その〝上のほう〟とは現場にいる監督ではないというところまでは、おおよそ見当がついている。」
「アスレチックスに新規加入した選手は、やがてついに理解する。ビリー・ビーンがすべてを仕切っているのだ、と。ハリウッドの剛腕プロデューサーに似ている。脚本はもちろん、証明、カメラ、セット、衣装、すべてに口を出す。よその球団のゼネラルマネジャーと違って、トレードやスカウト管理だけ担当して新聞に大きく名前を出したいわけではない。あらゆる事柄に関して決定権を握りたがる。バントや盗塁を使うかどうか。誰が先発し、誰が控えに回るか。打順をどう組むか。ブルペンをどう活用するか……」
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