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深田久弥（1903〜1971）の『日本百名山』が近所の図書館にあったので、借りて読むことにした。
・自分が登ってきた南東北の山が、60年以上前はどんな様子だったのか
・氏が登ったルートも知る。どの方向から山を見てどう評価したのか
…これらを知ることが第一の目的。
一つの山につき2ページくらいなのですぐに読める。…が100個もあるので、貸出期間中に読み終えるのは大変そう。内容を簡単に箇条書きで記していく。
● 鳥海山
「山容秀麗という資格では、鳥海山は他に落ちない」
「足元から直ちに2240米を仰ぐのであるから、これは信州で日本アルプスを仰ぐのに劣らない」…遠くから見た鳥海山の姿に注目している。
最初はバスが通ってない時代に吹浦の漁村から登った。つまり海の際の海抜0mから。季節は4月半ばでスキーを使用。
二回目は秋晴れの日に今の駒止ゲートの小屋から。共に南西側からである。千畳ヶ原の存在は知らなかったと見える。
● 月山
「どんな山でも頂上のあたりはいくらか鋭く立っているものだが、月山にはそれがない。撫でたような緩やかな線であった（鶴岡の駅から見たとき）」
また別な機会の6月末、山形市の北から見た記述もある。雪をまとっていたのですぐに彼の目を捉えたらしい。
田山花袋『山水小記』から「ちょうど月が半輪を空に現したような大きな山の姿」。
次に松尾芭蕉の話し。深田も古例に従って出羽三山の順路を辿った。登山バスで今の六合目からスタートしたので「大した苦労もなく登った」とある。
当時の山小屋は「笹を敷き篠を枕とする」ような笹小屋だった。出版当時、月山の夏スキーが名物になりつつあった。
● 朝日岳
彼が初めて朝日連峰を縦走したのは大正十五（1926）年のこと。その四年前に、旧山形高校の教師、安西徹氏によって初めて縦走が達成され、朝日山系の山々が世に知られるようになったとある。
大学一年生の深田久弥は、友人と二人で朝日鉱泉を出発して、テント泊で忠実に主脈を辿って以東岳から大鳥池に下った。
大朝日岳の山頂で日の出を迎えて、ピラミッド型の影が日本海に大きく倒れているのを眺めたらしい。
大鳥小屋はまだない。初代の水門ができる前でさえある。ヘソまで浸かる渡渉を繰り返して大鳥川を下った。途中でイワナ釣りの人に会って道案内をしてもらったので助かった。
● 蔵王山
最初に斎藤茂吉と弟子である結城哀草果の歌を紹介している。
深田が蔵王に登ったのは戦前で、樹氷の存在がようやく世に聞こえだしたころ。当時は蔵王温泉ではなく「高湯温泉」だった。
戦後、スキーのメッカとなり名前も蔵王温泉に変わった。蔵王エコーラインの開通によってお釜見物が容易になったを嘆いている。
● 飯豊山
まず宗教の山としての歴史の紹介。今の三角点のところは五ノ王子だった。深田が頂上に立ったとき、測量の櫓の下に大きな錆びた剣があり、穴あきの古銭もあった。
磐梯朝日国立公園の範囲に定められてから飯豊の存在が登山者たちにも知られるようになった。
玄山道を整備した藤島玄氏と一緒に一週間かけて歩いた。関川村の雲母温泉から出発して、朳差岳から最高峰大日岳、飯豊本山と辿って牛ヶ岩山の尾根を下りた。山小屋一泊、テント三泊、下山後に熱塩温泉という行程だった。
● 吾妻山
まずウィキペディア的紹介から。深田は1920年代後半にまず東吾妻を登った。五色温泉から山スキーで家形山や一切経山を巡った。
その後も何度かスキーをしに来て、硫黄精錬所跡・土湯峠も越えて、沼尻の方へ下りて行ったこともある。
「吾妻山のスキーの魅力は、その広い区域のワンダリングの楽しさにある」、リフトを使ったスキーの普及によってこれが忘れられるのを嘆いている。
最高峰西吾妻山には白布温泉から登った。まだ天元台スキー場ができる前。四月上旬で快晴の土曜日にもかかわらず、「一人の登山者にも出会わなかった」とある。東に比べて西側のスキー人気が乏しかったことが分かる。
● 安達太良山
万葉集の歌、次に高村光太郎の歌の話し。高村夫妻と同じように二本松市で安達太良山の全体像を眺めた。
「山へ登る前にその山を望見するのは、登頂を終えて振り返る時と同様、心ときめくものである」
氏は秋の末に岳温泉から登った。勢至平から鉄山と”くろがね小屋”を眺めた。先代の”くろがね小屋”で、このときもだいぶ古びた山小屋だった。
一泊した翌日に山頂へ。乳首には当時から梯子がかかっていた。下山は船明神岳から母成峠の方に下りた。
いつの時代か分からないが、最低でも60年以上前のことである。今と同じ登山道、施設が整っていたことが分かる。
● 磐梯山
明治二十一（1888）年の噴火の話しから。出版当時、既に裏磐梯は観光地となっていた。磐梯吾妻スカイラインの開通は1959年。
猪苗代駅で汽車を下りて、見禰の大石の傍を通って、スキー場の斜面を登った。
沼ノ平から弘法清水を経て頂上へ、帰りは裏磐梯の中ノ湯の方向に下った。
おそらく八方台に下ったのだろう。観光客で大勢だったとある。既に今と変わらない繁昌を見せていたようだ。
● ここまでの感想
この人は「地形フェチ」なところがあって、遠くから見た山の姿から紹介が始まるのは好印象。たぶん汽車で移動しながら遠くの山々の姿を常にチェックしていたに違いない。
あと近代スキーが始まった世代に当たる。雪が積もる山はスキーを使って登ることが多かったようだ。
カメラも携えていた記述がある。戦前のレンジファインダー機から一眼レフ機へと移行する時期の本のハズ（ニコンFは1959年発売）。
続いて後記（あとがき）に目を移した。
「私の山登りは少年時代に始まって今日に至るまで殆んど絶えたことがない」とある。生涯を通じて登山を続けてきて、還暦を迎えるにあたり自分の想い出を振り返って、百の山を選びたくなるのは分かる気もする。
ただし「よく資金があったな〜」と不思議になった。登山用品代・スキー道具代・旅行費がバカにならない気がする。単に日本中を旅行するだけでなく山登りも、、、しかもご存じの通り北は知床から南の屋久島までという、令和の人間にとってもアクセスが容易でない場所に移動して、泊まって登ってまた移動し続けたのである。。。
当時の登山は金持ちの遊び（いわゆる貴族趣味）だったと思う。
「作家ってそんなに儲かるものなのか」
「どんな生まれの人なのか？」
「何か人の恨みを買うようなことやってたんじゃないの〜！？」
…と訝しげになってしまい、伝え残っているプロフィールを調べたところ、とんでもない事実が判明した！
（次に続く）
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