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マッターホルンを目指す前は前々回の日記のように穂高屏風岩を「単独」で狙うのを目標にしていました。
ペアで登れば体力的にも技術的にも(たぶん)現状でも登れると思いますが、問題は「単独」で登るということです。
通常、「単独登攀」には3つの方法があります。
(1)フリーソロ: ロープを全く使わない登り方です。恐ろしい登り方ですが、一般登山者が鎖やフィックスロープを全く使わないで登れば「フリーソロ」になる訳です。
(2)ループ登り(通称デン助): ロープの末端を自分に結び、ロープを下部の立木に掛けたり下部のアンカーに通して、再び自分自身を結ぶ方法です。ロープは大きくループになっています。上のアンカーに着いたらロープの末端を解いてロープを引けば登り返しの必要がない便利な方法です。ただし、途中に中間支点が無い場合はループの長さの倍の分だけ落ちることになるかグランドフォールすることになります。中間支点を作った場合は残置となります。
(3)Z法(登り返し法): 下のアンカーにロープ末端を固定し、ロープを送り出しながら中間支点を作りながら上のアンカーまで登り、そこから懸垂下降またはクライムダウンで下まで降りて来て、再び登り返す方法です。中間支点は懸垂下降で降りてくる時か登り返す時に回収します。つまり、同じ壁を2回登ることになります。↑↓↑という感じで2回登るのでZ法と言います。
穂高屏風岩に登る場合は、核心部はZ法になるかと思います。
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私自身は若い頃でも単独で難易度の高い壁を登ったことはありませんでした。
そのために、今となっては年寄りの冷や水なんですが、今年の目標が穂高屏風岩だったときは毎日このZ法の「ソロシステム」について頭の中で考えていました。
朝のジョギングで汗を流しながらアイデアを出して、よいアイデアが出たなと思った時はご迷惑とは思いつつ単独登攀のスペシャリストsouldoctorさんにメールを出させてもったりしていました。備忘録的なメールで本当にご迷惑だったと思います。
そんなこんなですが、さすがに単独で壁を登攀するような危険度の高い登攀のシステムの詳細はネットでも探し出せませんでした。ソロシステムに関するよい内容のサイトもありましたが肝心なところは分からずじまいでした。まあ、情報公開による責任問題という部分もあるかと思います。
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そんな悩める考察の日々のとき、Z法によるソロシステムを構築する市販のディバイスは私の調べたものは次の通りのものでした。数字は上の写真と合致しています。
1:ソロイスト(Rock Exotica社)
Rock Exotica社のHPには数か月前には掲載されていましたが、現在は載っていないので現在は販売されていない可能性が高いです。値段は1万5千円あまりです。
ロープの送り出しに手を使わなくても良いので比較的多くのソロクライマーが使っているようです。しかしながら、頭から落ちるような墜落の角度ではロックせずに死亡事故が多く発生しているようです。頭から落ちてロックせずに墜落した生々しい日本人のレポート読みましたが恐ろしい限りです。詳細は省略します。
人間が空中落下をする場合(傾斜の強い壁であれば空中落下の可能性は高い)、人間は頭から落ちていくようです。そのために、ソロイストはロックせずにグランドフォールに至り死亡事故になっている可能性が高いことが考えられます。私はそういう情報にビビッてとても使う気になれませんでした。
2:ソロエイド(Rock Exotica社)
現在のRock Exotica社のHPには載っていません。随分前から販売されていないようです。日本のショップにも記載が無くなりました。オークションを調べてみると1万3千円ぐらいから1万8千円ぐらいで取り引きされているようです。
使ってもいないので無責任な言い方になりますが、適度な壁を単独登攀するためには多分ベストのディバイスだろうと思います。なぜ販売が終了したのか分かりませんが、事故が多発したという話もあります(実際には分かりません)。
使い方は適切なカラビナを使って正しい組み合わせでないと機能しない仕掛けになっているようです。使い慣れれば迅速なセッティングが可能なようですし、懸垂下降にも使えるようです。
私は両手が使えないので当初は無視しておりましたが段々と注目度が高くなってきました。しかしながら、仮にオークションに出たとしても他人と競ってまでして買うかどうかは微妙です。適合ロープ径が太いというのも除外理由の一つです。戻って考えれば手を使ってロープを送り出さないとダメなので、やっぱり除外対象の商品となりました。
3:サイレントパートナー(Rock Exotica社)
Rock Exotica社のホームページではソロビレイデバイスとして250ドル余りで販売されています。日本のショップだと安い所で2万9千円程度で販売されているようです。
私は現物を見ても触ってもいませんが、本当に厳しい壁をソロで登ろうとする場合は現在市販されている唯一といってもいいディバイスかも知れません。
このデバイスがロックする原理は、遠心力で働く車のシートベルトのようなものだそうです。ゆっくりだとロックせずに急に力がかかるとロックする機構のようです。
ネットの情報を見ますと「ズリ落ちる程度だと全く機能しない」ということと、冬山(雪が付着した状態)だと使えないという話です。それとロープとの相性もありロープの送り出しが非常に重くなる場合もあるようです。このあたりが採用に踏み切れない大きなネックになりました。
4:アサップ(ペツル社)
ペツル社の代理店であるアルテリアのホームページには2万9千円余りで売られています。取扱い説明書や動画もありますので多いに参考になるかと思います。
Rock Exotica社のサイレントパートナーは簡単には触れませんが、このアサップは石井スポーツや好日山荘の店頭にありましたので触らせてもらいました。
印象としてはデカくて重いといった感じで、山でクライマーが使う物というより建設現場の高所作業者が使う印象を持ちました。
ロックがかかる機構はサイレントパートナーと同じように遠心力によるものだろうと思います。痛いイボイボ突起がついていますのでロープにはやさしくない感じですが止まるためには有効であろうと思われます。ただし、激しい墜落だと逆にロープの切断の原因にもなりかねないと思いました。
実際問題として、こんな物をぶら下げて岩の壁を単独登攀する自分の姿がイメージできませんでした。
このアサップを画像検索してみても登山で使っている人は見当たりませんでした。建設現場とかレスキューで使われているだけのようです。本当に山で使っている人はいるのでしょうか?このディバイスではありませんがメールでやり取りしたガイドさんの一人は、「ソロで使うならサイレントパートナーかアサップ」と言われましたが、私は「うーん」と唸るばかりです。つまり、採用には踏み切れませんでした。
5:グリグリ2(ペツル社)
グリグリ2はあくまでもビレイデバイスであってソロビレイデバイスではありません。
アルテリアのHPでは定価は1万2千5百円です。私は通販でいくらで買ったのか忘れました。
通常のクライミングのビレイデバイスをソロビレイデバイスとして使うには無理があると思う典型的な道具だと思います。ソロディバイスとして改造すれば使えるようなことが書いてあるページも散見しましたが、その人が本当に正しくソロシステムを構築しているのかは疑問に思いました。
ペツル社の取扱い説明書には「末端側の手は絶対にロープから離してはいけない」と書かれています。動画でもそのことの注意喚起がさかんにされています。
通常のクライミングで墜落を止めようとする場合、グリグリ2を使った末端側の手を放してもロックされる場合もありますが、ロックされない場合もあって事故が発生しているようです。
私自身も何度もグリグリ2をテストしてみましたが、手放しでもほぼロックされるものの時々ロックできない場合も発生します。つまり、グリグリ2をソロデバイスとして使うには非常に危険だと思う訳です。たぶん止まると思いますがスルスルスルーっと落ちて死んでしまえば泣くに泣けません。
また、自動的にロープを送り出してくれることについてテストしてみると使える状態と使えない状態が混在しています。つまり、「ソロシステム」にグリグリ2は使えない」というのが私の結論になりました。
蛇足ですが、グリグリ2自体は、とても優れたビレイデバイスだと思います。ビレイや懸垂下降のセッティングも簡単です。パートナーの墜落にも十分に機能してくれる安心感があります。また、懸垂下降の途中停止も楽です。しかしながら、ソロクライミングのデバイスにはならないと私は結論付けました。
6:シンチ(トランゴ社)
シンチもあくまでもビレイデバイスでありソロビレイデバイスではありません。価格はモンベルのHPでは1万5百円+税となっています。私がいくらで買ったか記憶が飛びました(涙)
ネットには無責任にもソロデバイスとして優れているように書かれているページもありますが、テストしてみると確かにグリグリ2よりもロックがキッチリ決まる点はあるもののロックしない時があるので私は問題だと思いました。私は不採用を結論付けました。
シンチを販売しているモンベルのHPには、QAでそのことについて触れています。
それを引用しておきます。(※部分的な引用は出典先を明確にしておけばよいと聞いております。)
「アメリカTRANGO 社の弁護士からのコメントです。
『 シンチはどんな状況下においてもソロクライミングおよび自己確保に利用するようには設計はされておらず、またそのような利用は認められておりません。ソロクライミングおよび自己確保での利用は死亡事故や重傷といった結果に至るでしょう。シンチの本来の目的以外の利用については確認試験を実施しておらず、認められていません。シンチは自己確保器としては設計されておらず、そのような不適切な利用方法は致命的結果を招く可能性をはらんでいます。シンチは製品に添付の説明書に図示された利用方法についてのみ、設計され、販売され、その利用を認められています。
取扱説明書に図示されていない方法でのシンチの利用は事故を招き死亡や重傷に至ります。利用者はシンチを操作する正しい利用方法の習得と正しい操作を行う責任があります。
利用者は自己のシンチの利用によるリスクやケガ・死亡に対して責任を負います。もし、その責任について受入れられない場合はシンチを利用しないでください。
シンチの製造業者並びに再販業者は、シンチの使用に関わって起こりうるあらゆる人的ならびに物的損害、傷害、死亡事故に対するいかなる責任をも明確に拒絶します。 』」
これだけ読めば仮にソロクライミングに使えたとしてもビビッて使えません。
ともあれ、シンチはグリグリ2と同様にビレイデバイスとしては非常に優れている道具だと思います。シンチを使った懸垂下降もグリグリ2と同様に気持ちよくできます。グリグリ2とシンチと「どっちが好きか?」と言われれば私はまだ分かりません。非常にいい勝負であることは確かです。ただ、微妙にグリグリ2かなとは感じています。
7:ゴブリン(カンプ社)
墜落防止装置として売られています。
日本だと1万6千円〜1万9円ぐらいで販売されています。
私は特別なルートからお借りして使わせてもらったことがありますが、ゴブリンを使ってソロクライムのシステムとして使った場合は両手放しの使い方はできませんでした。フィックスロープを垂らして使う場合は見事に追従しました。
この種の追従型の墜落防止装置にはコング社のバックアップ等ほかにも各社色々と出ておりますが、それをソロシステムで使う場合にはどれも無理があるように思いました。実際のところの本当の所はよく分からないですが、これらの製品はソロシステムには私は使わないと考えています。
8:シャント(ペツル社)
シャントはペツル社から多目的アッセンダーとして販売されています。定価は9千円ですが安く買える場合もあります。
シャントは非常に古くからある登攀道具です。私は気付きませんでしたが私の持っている非常に古い登攀教本にも載っておりました。
シャントは非常にオリジナリティが高い道具だと思います。そして確実性も高いものだと思います。偉そうに物を言ってはいけませんが、ソロシステムにも比較的心配なく使えるというのが私の今のところの考え方です。
シャントがどれだけの墜落の衝撃を受け止められれるかという点は心配なところがありますが、シャントがぶっ壊れるような墜落であればそれ以上に深刻な衝撃が人間の体に影響するように思います。
シャントをアンカー向きにセッティングして手で引きあげながら登っていく訳ですが、今のところはソロシステムに使えると思っています。
シャントはダブルでもシングルでも使えますが、使用できるロープ径は、10 - 11 mm(シングル)、8 - 11 mm(ダブル)となっています。これは制動面積を考えたものだと思われます。
実際にシャントを使う場合は、バックアップとしてフリクションノットを入れた方がよいと思われます。その際にはシャントと競合しないようにフリクションノットをアンカー側にして、万一の墜落の場合にはシャントが先ず効いて、シャントがトラぶった場合にフリクションノットが効くようなフリクションノットの長さが良いと思われます。ただし、操作は複雑になってしまいます。
シャントは本来はアッセンダーでありますが、懸垂下降のバックアップにも使われています。私も懸垂下降のバックアップはシャントを信頼しています。しかしながら、ソロクライミングで使えるとはされていない物なので、使用する場合はあくまでも自己責任ということになりますので注意が必要です。
追記、シャントをハンドフリーで使う方法を考えました。詳細は省略。
9:フリクションノット
最も基本的で理解しやすいのがフリクションノットを使ったソロシステムだと思います。手で操作しなくてはいけませんが、プルージックなら方向性はないので間違いがないという安心感がありますね。
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以上、長々と書きましたが、興味がない人はサッパリでも興味がある人はもっと知りたいと思いますが、このへんにしておきます。
以上のようにZ法をディバイスで見ると何がよいか分かりませんが、結論から言うと、上記のどれもでない素晴らしい方法を私は発見しました。それがあるデバイスを使ったソロシステムです。
それがどのような方法なのか、本当に使えるものなのか、今後テストを繰り返してみます。
ということで、尻切れトンボになりましたが、仕事の関係からテストをする時間も不足してきましたので、最終報告は随分先になってしまうと思います。あしからず ご了承お願い致します

その節はヤマノートに書いてみたいと考えています。(いつになることやらですが)
長々と失礼しました<m(__)m>
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追記:: 最後の方法はその後使わないことに決まりました。
別に良い方法が見つかりました。
テストを繰り返して検証してみます。
おはようございます。
やぱり、「Z」なんですよね。
面倒なんですが…。
でも、これで沢は、更に、面倒。
結局、「巻き」になって…。
複雑な心境に陥ります。
独り山登りは、辛いけど、一番気が合います。
ringo-yaさん、こんにちは。
沢は私はあんまりやってきませんでしたが、難易度が高い沢で滝が直登出来ずに高巻きを繰り返すより、難易度の低い沢で小さな滝をシャワークライミングで次々に突破して行く方が面白いと思っています。
私も最近はほとんどソロですが、だんだんとソロが気に入ってきたことは確かです。ただ、ザイルを使う場面ではソロは大変ですね。
ほう・・ミュウレンさん元気で何よりですね
ソロクライミングですか〜
屏風にチャレンジされるなら・・見に行こうっと
野次馬根性は健在なんですがね
でわでわ
岩も沢も行くことのできないヘタレです(大笑
uedaさん、こんにちは。
岩や沢をしなくてもヘタレとは思いませんが、楽しみが増えることは確かだと思います。
ただ、危険も増えますので対応する技術や知識を得る訓練は欠かせませんね。そうなると、ゲレンデで練習する回数は増えますが山に行く回数は減ってしまいますね。
こんにちは!
今ではビレイ用ギアにしても、沢山種類がありますねぇ。昔は「8環」か「豚の鼻」くらいしか無かったように思いますが。自分は「半マスト結び」を愛用してましたが。。。
ソロで面倒なのはビレイをどうするかですね。フリーソロが一番楽で一番自由な感覚が楽しめるんですが、危険度が。。。Z式で登るのが確実ですが、屏風岩だとエイドクライミングが多いので余計に面倒になりますねぇ・・・
Cross-hill さん、こんにちは。
半マストは今のスイスのガイドたちも多用していますね。カラビナ一枚で確実なので重宝しますね。
人工のルートは確かにアブミやロープが複雑になるのでこんがらかりますが、中間支点が好きなだけ多く作れるので別な意味で安全だとも考えられますね。ただ、技術的なこともですが体力的にも厳しいのでその辺りの訓練のために本番に向かうには時間がかかると考えています。
こんにちわ、murrenさん、無事帰国、帰宅お疲れ様でした。
この日記、ヤマノートの方にもコピペして頂けると、後で探すときに見つけやすいのでよろしくお願いします。
tabioさん、こんばんは。
この日記の最後にも書いておきましたが、後日ヤマノートにしておきます。
ただ、私の方法が未完成であるのでそれが確立した場合に書こうと考えていますので随分と先になります。あしからずです。
ヨーロッパ遠征お疲れ様でした。
「私のミューレン(^O^)/」
心のふるさとへのご帰郷安らかなひと時でしたね
ラウターブルンネンの滝、久しぶりに見て感動しました
そしてソロデバイスの日記たいへん参考になります
《あるデバイスを使ったソロシステム》
ルベ4を活用した素晴らしい方法?・・・ですよね?
めちゃ楽しみにしてますね。
ガイドでもできるのでしょうか? ワクワクです
お互い安全に留意して末永くクライミング続けていきましょうね!
SOUL
souldoctorさん、こんばんは。
その節は時折突然のメールをすみませんでした。また、文中に勝手にお名前を出して重ねてすみません。
そうですね、ルベルソ4ですし多分ATCガイドでも問題ないように思います。墜落試験などもしておりませんので何ともですが、たぶん上手にできると考えております。
プー太郎だなんて大いなる夢の実現ですよ。かっこいいです。
ミューレンはまたゆっくり行きたいです。ミューレンだけの予定は今後とも無理そうですが歩いてシルトホルンに登ってみたいですし近所をウロチョロしてみたいです。
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