あけましておめでとうございます。
山とはまったく関係ありません。
ロシアのお話です。ロシア視点ですが、あくまで「プーチンとロシア市民は別」とお考え下さい。
『僕はもうそろそろ死ぬだろう』。あまりにも軽く、それでいて現実味を帯びた言葉を前に、どう反応するのがいいか、頭が真っ白になりました。
とあるゲームで知り合い、STEAM(PCでプレイするゲームのいちプラットフォーム)フレンドとなったロシア人の子がいます。たまに遊ぶ程度でしたが、セールの度にクソゲーを投げつけたり、しばしば話すぐらいの仲ではありました。彼はモスクワ近郊の学生で、エネルギー力学を専攻しています。彼はロックを愛していますが、猛烈にオススメしてくるものをいくつか聴く限り、ロシアのそれは演歌やカントリーに近いものだと思われました。それでも彼はこれがロックなんだ、と熱演しました。こちらからもいくつか提示してみましたが、あまり響かないようでした。彼はそれよりも互いの言語に興味があったようで、『「シノビ」の発音はみんなAだというんだが、Bのほうが近いよな?』なんてことをものすごい長文で送ってきたことがあります。スペルは忘れてしまいましたが、AはСи(チェ)ノビ、Bはスィノビのように聞こえたので、『Aはche、Bはsyのように聞こえるけど、シノビはcだからどっちも変だよ(笑)』と答えました。ロシア語を彼から学ぼうと思ったこともあったのですが、フランス語同様アルファベットの発音で躓きました。
そんな彼ですが、先程『happy new year』と送った際に少し話をしたところ、ちょっとした冗談から『戦争は別の悩みだ』と戦争の話になってしまいました。とはいえ、政治の話ではありません。学生の間は免除されていた兵役が、間もなく来る卒業とともに解禁されてしまうというのです。彼の身体等級はA1、「健康で欠陥のない人間」です。日本でいえば「赤紙」宣告と同等のものといえるでしょう。軍人は1年訓練ののち戦地へ向かうところ、雑兵は3日〜2週間の訓練で戦場に放り込まれるといいます。もはや前線が混迷を極めていることはロシア国内でも広く知られています。死ぬか運が良くて『bastads or prisoners』だと。うまい訳が思いつかず意味が掴みづらいのですが、いずれにせよまともな意味ではないでしょう。ウクライナ人がロシアを憎んでいることは、彼はゲーム内でのウクライナ人である元フレンドからの罵倒によって身に染みて知っています。捕虜になったとして、まともな扱いは受けられないことでしょう。
彼の吐露は止まりませんでした。私はなんといっていいかわからず、相槌ののち、安易にも『死ぬな、戻ってこい』と言ってしまいました。彼は『戻ってこいはやめてくれ、行った時点で死ぬんだから』と答えました。彼は真面目な人間でした。『生きるために狡くやろう(=こそこそ逃げ回ろう)』と言うと、『人は殺したくないし、支援職にも加担したくない』。普段はHotline:miamiやらCSGOやら(なんだかもっとゴアなゲームも勧められたけど、難しすぎてすぐにコントローラを置いた記憶が…)その手のちょっと過激なゲームをやっていた彼ですが、もちろんゲームと現実は違います。『身体より先にまず精神がダメになりそうだ』と。生き残るには『運よく配属で現地に投入されない』こと、それを祈るしかないと、正直私は下手糞な相槌を打つことしかできませんでした。苦し紛れの『GOOD LUCK』とともに、LUCK&PLUCKの剣(ジョジョ1章)を貼ると、彼は『ああいいね、でも僕はやっぱり7章が好きなんだ』と少しは勢いを和らげました。ちなみに私は6章で読むのをやめた人間ですが、以前彼は『何故7章を読まないんだい? 無料なのに』と首を傾げていました。この「無料」というのは海賊版のことを指していたようで、南米や東南アジアなどでは今でも海賊版は流行していますが、ロシアでもどうやら似たような状況のようです。海賊版が良いか悪いか以前に、「それが常識になっている」というのはある意味その国の経済状況を表すものとも言えます。
ロシアの兵器は欧米から供与を受けているウクライナと比べ明らかに劣っています。Hearts of Ironなどをプレイした方はわかるかもしれませんが、第二次世界大戦の頃はロシアも戦力的には乏しかったものの、「畑から採れる」と揶揄されるほどの人海戦術と徐々に増していく工業力で勢力を盛り返し、冬戦争では支援を受けられなかったフィンランドを圧し潰しました。ナチスドイツの破竹の勢いを止めるのは難しかったものの、それでもまさに人海戦術(と自然の猛威)を以て大きく勢力を削り取りました。しかし今回、状況は真逆のものです。人口も経済も衰退しています。フィンランドと違いウクライナは潤沢な支援を得ています。ナチスドイツと違い攻める側で、欧米にも完全に敵視されています。つまり万が一にも勝ちというものはありません。ロシア人自体、それを知っています。だからこそ「自分が死ぬ」というものを強く受け止めているのだと思います。
死ぬということがわかっている若い人に何ができるでしょう。今まで以上に密に話したり遊んだりする? それでは逆に本人に「死期が近づいている」と暗示してしまうような気がしてなりません。年老いた方ならばまだかける言葉もありますが、本人に由来しない死ならば慰めの言葉も軽率でしかない。戦時中、友を見送る人はどうしていたのでしょう。そう思いながらいつも通り投げつけるクソゲーを吟味しているのですが、上手な対応をご存知の方はいらっしゃるでしょうか。
もちろん侵略側は悪でウクライナが支援されて然るべきではありますが、兵士の中には色々な人間がいるよということで、ウクライナの国民だけではなく、ロシアの国民にも少し目を向けてほしいと思い本日記を執筆しました。長文、乱文失礼いたしました。
何が正しいか正しくないか、そもそも正しいことがあるのか、戦争はただ生物学的な淘汰の種類の一つに過ぎないだけなのか。人間には知り得ない事だと感じています。戦争をすることを決め、それをさせている人達が何を考えているのかは知りませんが、敵にも味方にも、等しく守りたいものがあることを思い出し、それを実現できる方法を考えて欲しいと思います。
コメントありがとうございます。半ば自己陶酔のような、ポエミーな文章になってしまった実感があったので少し不安だったのですが、伝わってくださったようで嬉しいです。
STEAMは公開設定をしていると他人のゲーム状況が見えるので、いつもFor Honorかエルデンリングをやっている彼を見て「ああ、彼は戦争とは遠いところにいるんだな」と、よくはないのですがいくらか安心していました。寮のルームメイトに浴びるほど酒を飲んでバカ騒ぎしている子らがいてしばしばいら立っているようですが、金銭上の都合から引っ越し等は考えていなかったようです。数年前家族で丘にピクニックにいった写真も見せてもらいました。このあたりから、「裕福ではないが日常的な生活は送れる」といった感じが見受けられました。ただそこからの強制徴兵の絶望は、私たちが想像するよりずっと厳しいものだと思います。第二次世界大戦経験者はここにはもういらっしゃらないと思うので、その当時の想像は難しいですね。
後半、心を打たれました。まさにその通りだと思います。まだ彼が死ぬと決まったわけではないですが、少なくとも「こんな人達がいるよ」ということは知ってほしくて、書き留めて残すことにしました。なので、目を通していただきありがとうございました。
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