ひと頃、私はよく落ち葉を拾った。秋の深まった丘の小みち、野の果てに続く雑木林へわざわざ迷いこんで、夕暮れの近いやわらかな斜めの陽の中で、昨日は三枚、今日は二枚と色づきのきれいなものを探した。
私はそれを持ちかえり、大方は読みかけの本のあいだに挟みこんで、そのままにしてしまったが、それがまた二年後三年後に、気紛れに書棚から取り出す本のあいだから出て来る。拾った時のそのまんまの色を残しているようなことはないにしても、私の心には甦るものがあった。
それはもう秋の末というより明るく晴れた冬のはじめのことであった。木々はあたから葉を落とし、小鳥の囀りもなかったが、私は重なる丘の枯葉を賑やかに踏んで、どこまでも歩いて行きたかった。
そんなことをしているうちに陽は翳り、荒っぽい雨でも降らせそうな雲が際限なく送り込まれてきた。私は少々呆気にとられて天気の変り工合を見ていると、突然烈しい風が吹き出した。木々の枝が鳴り、幹は軋み、やがては飛ばされる運命にあった残りの葉が、その時一斉に空に舞い上げられた。
灰色の空で、さまざまの色の木の葉が光った。突風に面喰ったように見えたが、すぐに大気の流れに乗り、自分たちの役目を果たした満足を踊りながら味わっているような、見事な眺めであった。
冒頭のこの一篇がこの本の一番素敵な箇所でありすべてであった。
後は絵のことクラシック音楽のことなどの雑文で、ハッキリ言えば自分の心に響くエッセイはなかった。
語彙の勉強にはなった。
例えば・・・
洵に(まことに)
躇い(ためらい)
序でに(ついでに)
駭くべき(おどろくべき)
慄となる(ぞっとなる)
表現では・・・
ツガザクラの寸青を点している
串田ワールドの一冊だったが、佳品といえるのは冒頭のエッセイ-枯葉の踊り-だけだった。
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