「父」は自宅で死にゆく幸田露伴の姿を、今でいう介護をする立場の娘、その文(文子)が記録した看病記であるが、単なる病状の記録誌ではなく、介護する文の心情を中心に書かれている看病記である。
「こんなこと」は厳しく父親から日常の家事について厳しくしつけられたことが描かれている。
いずれも、今は失われつつある日々の営みや物への対峙する凜とした日本人の姿を感じさせる文章が綴られている。
誠実に生き、誠実に父を愛し、誠実に反抗した娘が、偉大な父を偲んで書いた、清々しいまでの記録文学。(裏表紙から)
幸田露伴、その娘が幸田文、そしてその娘が青木玉である。
玉も玉子としてこの一冊の中に時々現われてくる。文筆家の血が父から娘へ娘へと脈々とつながって流れていることを感じながら読み進んだ。
相変わらず江戸前の気っ風の良い文章が続いていき、最近の作家にはない語彙や言い回しが沢山出てきる。
彼女の作品はどれもある意味文章や語彙の国宝である。
例えば・・・
・飽きることおびただしい。
・まったく兢々(きょうきょう)として薄氷を踏むがごとく
・幼くぽやぽやと柔らかい孫の髪にも春日はひかっていた。
・左手(ゆんで) 右手(めて)
読みながら自然と自身の背中が伸び、明治から昭和初期の日本の市井を感じさせる一冊であった。
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