元々、北岳を舞台にした「マークスの山」を読んでみて、彼女の文体に魅力を感じ他の作品を読んでいる一環で出会った本だ。
合田雄一郎の趣味が登山という設定なので、少しだけ山の話が出て来るが「冷血」のストーリーははそのものずばり恐ろしい殺人にまつわる話が殆どだった。
この小説はサンデー毎日に連載され、2012年11月に刊行されている。
昨今話題になっている「闇バイト」や「半グレ」の世界を、その思考回路を先取りした内容となっていて、高村薫の先見性を改めて認識した。
殺人を犯すのに大きな動機は不要なのだということは、昨今の日本で起きている事件報道を見るにつけ、高村薫が当時既にそのことを感じていたのだなぁと思った。
怨恨か、無差別か、行きずりの物取りかといった従来の犯罪動機区分では整理できない動機が沢山あるのだ、それも精神障害がすべてではないということがこの作品の底辺を支えている。
プロ、ベテランと呼ばれる警察官や検事の感覚では理解できない動機がある。そこが面白いところだが恐ろしいところでもあり、昨今の闇バイトの報道を見るにつけ首肯する。
自律神経失調症持病持ちの私としては、同感した箇所・・・
「思えば、数ヶ月の周期でこんなときが来る。振り返ると、もういつから熟睡していないのか分からない。身体がもたないので少しずつ寝てはいるが、頭も身体も寝たという実感がない。いまも頭がずしんと枕にのめり込み、そこから地面へ、地中へとさらに沈んでいって、地球の内部へ五百メートルも千メートルも潜行してゆくような感覚の中で、克美はさえざえと記憶を探り続けるのだが、どこもかしこも半透明の煙を上げるほどの熱で発光していて眩しいばかりだった。
高村薫も不眠症を病んでいるのだろうか。
また、読んだことのない高尚な本が自然とちりばめられて沢山紹介されている。
ゲーテの「イタリア紀行」、ジイドの「コンゴ紀行」、ルナールの「博物誌」、串田孫一の「博物誌」、柳田国男の「野草雑記・野帳雑記」「蝸牛考」、赤松宗旦の「利根川図志」、鈴木牧之の「北越雪譜」等々
時折読み進むのが苦しく気分が落ち込んだので、もう二度と読まないだろうと思った一冊だった。
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