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串田孫一ワールドの一冊を読了した。
登山の紀行文ではなく、山々を歩いたり宿に泊ったりしたときの人々との交流や、何処とは分からない野原や岩の上での瞑想、夜電灯を点け歩きながら夜空を見上げたり、天幕の中で仲間とたわいのないやりとりをしたりなど、串田孫一の感性のままに綴られた文章だ。
クラシック音楽について私は不案内なのであまり面白くはなかったが、総じて衒いの無いサラッとした文章がカオス状態に詰め込まれているまさに串田孫一の思想世界本であり、心が何故か安らぐのだった。
心に残ったエゾハルゼミについて書かれている一節を紹介する。
「木々がこんなにも新しい葉をやわらかにひろげているのに、そして私の心がこんなにもその声を期待しているのに、そのヒグラシに似た小さな体を、いったい何処の小枝に隠しているのだろう。恐らくこの見渡すかぎりの繁みに、ほんの僅かの気温の上昇を、息をのんで待っている彼らは無数である。その無数のエゾハルゼミの中には、気紛れに鳴き出す一匹の変わりものもいないとは。
今ここで、彼らを一せいに鳴かせるためには、たった一匹をそそのかして、声を出さればいい筈だと思うのだが、それは結局、雲のあいだからちらっと顔を出す太陽以外には出来ないことなのである。」
心が洗われる一冊だった。
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