予想していたよりも面白く爽やかな読後感を抱いた。
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2024年の1月の午後4時過ぎに、能登半島沖大地震が発生、新潟県上越市にいた私の家も大きく揺れ、物が倒れたり壁に亀裂が入ったりという被害はあったものの、能登半島付近の甚大な被害に比べると全く問題ない程度であった。
詳細な地震発生のメカニズムを私は良く理解できていないが、地中深くにあるマグマが根本的な原因のようである。
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プリニウスとはローマ帝国時代の博物学者である。
1世紀、ローマ帝国初期に活躍した博物学者、軍人。大著『博物誌』を著す。79年、ヴェスヴィオス火山の噴火で現地調査と救助に向かうが、火山性ガスに直撃され犠牲となった。
火山学者であるプリニウスは火山が近くで噴火しているにも拘わらず避難することなく、火山ガスによって死んだ人のようだ。
この本の主人公は女性火山学者の頼子、姓は不明である。
この世界は何でできているのか。
強烈な好奇心につき動かされた古代ローマのプリニウスはヴェスヴィアスの噴火の調査に向かい命を落とした。
現代の火山学者頼子は自然の現象を科学的に分析しながら、自らの内なる自然に耳を澄ます。
あるきっかけから彼女はひとり浅間山の火口に向かう。この世界を全身で感知したいという思いにかられて。
人は自然の脅威とどのように折り合いをつけるのか。言葉はこの世界を語りきることができるのか。
「池澤夏樹のいわば本質的な思考と感性が、比較的直接に姿をあらわしている重要な作品」(日野啓三による中公文庫解説より)
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印象深く付箋を貼った箇所を数カ所ご紹介する。
それと同時に頼子は、フランス革命の遠因が天明三年の浅間の噴火にあるという説を思い出した。この大噴火で上空に吹き上げられた灰や微粒子が太陽の光を遮り、それで少なくとも日本では天候不順で作柄に相当な被害が出た。それが史上名高い天明の大飢饉となったわけだが、成層圏まで上がった微粒子はジェット気流に乗って地球を回り、この後しばらく地球全体を日照不足の状態にした。フランス革命の原因となった不作の理由もそれにあるというのだ。
せっかく開発したのに、その後の噴火騒ぎで人が寄りつかなくなったのだろうか。艶やかな椿の葉ばかりがよく茂って、くすんだオレンジ色の蝶が群れをなして舞い、全体が閑散としていて、山はさっさともとの自然に戻ろうとしているかのようだった。
(頼子が浅間山に登る件)
背中の荷はごく軽くて、気温は最適だから、道は思ったよりはかどった。ブルゾンとセーターはとっくに脱いでいて、今度はシャツの腕をまくり、前のボタンを一つ外して胸元に風を入れる番だ。
下を見て、何も考えず、もっと空気をと要求している肺の痛みと腿の筋感覚だけを意識して、リズミックに身体を運ぶ。
それでも、さまざまな考えの破片が、強い風にあおられるちぎれ雲のように、頭の中を通過してゆく。考えより思いだろうか。それを見ている自分がいる。
歩きながらふっと上を見ると、すっかり晴れわたった空のずっと上の方に、少しだけ雲がかかっている。高度計を見ると2000メートルを超えていた。
身体の中に少し苦痛があって、それが自分で制御できるものであるというのは、いい気持のものだ。ペースを下げれば楽になるのに、そうはしない。
身体の言うことを聞いてやらない。そういう考えが激しい呼吸のさなかに一瞬よぎる。身体というものの実権を自分が握っている気がする。もっといじめてやろうという気になる。
(この件は、山を登るときの自分の内面を見事に表現してくれていて、グッと心に刺さった。この作家は山登りをするのだろうか。)
そして「天明三年浅間山大噴火の記録−大笹村のハツ女の体験記」の引用箇所も大変面白かった。実体験で浅間山の噴火前後の様子を詳細に語っている。
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能登半島沖地震もそうだが、改めて日本は火山大国であることをと良く認識した一冊であった。浅間山が噴火したのはそれほど昔のことではない。
前回読んだ新田次郎氏の「火の島」でも同じことを思い、その間に能登半島沖地震が発生した。
プリニウスという古代の火山学者の存在はこの本で初めて知り興味を抱いたが、頼子が浅間山を登るときの内面表現箇所を読み、池澤直樹という作家にも少し興味を抱いた。
写真1:当該の一冊
写真2:ガイウス・プリニウス・セクンドゥス
写真3:ヴェスビオ噴火
さて、また山歩きに行きたくなった。
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