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バリエーションルートの定義って何なのだろうと改めて思いました。
この本に出て来るバリエーションは、勿論登山道はないのですが、地図上の破線でもなくマーキングも一切無いルートのことを言っています。
作者は関西地方で実際にバリエーション山行を多数経験しているらしいので、描写は生々しく読者に迫ってきます。しかし実際にバリルートを歩いたことのない一般読者にその大変さと危険さがどれだけ伝わるのでしょうか。
ヘルメット・チェーンスパイク・ピックステッキ・バラクラバ・保護眼鏡・手鋸・8mロープ・エイト環・ムンターヒッチ・カラビナ・リーシュコード・スリング・ハーネス等々
私は8mロープやハーネスやスリング、エイト環代わりのビレイデイバスなどは持っていますが、現場でまだ使ったことがありません。
この小説を読んだ登山をやらない一般読者はこれらのアイテムを使用してこの作品に描かれている懸垂下降などが必要なルートをバリエーションルートであると誤解してしまうでしょう。
確かにこの小説に出て来るルートはバリエーションルートですが、そういったアイテムを使わなくても歩ける踏跡が全くないバリエーションルートもありますし、ハイマツ帯を藪漕ぎするだけのバリエーションルートもありますし、時たまマーキングのピンテがあるバリエーションルートもあります。何れも人が歩いた形跡は勿論ありませんが。
この作品に登山アプリもYAMAPとヤマレコがちらっと出て来ますが、想像するに作者はヤマレコのユーザーのような気がします。
著者のアカウントを覗いてみたくなりました。
バリエーションルートを上り下りしている時の描写や人物の気持ちなどは素晴らしいものがあります。
うなだれた→項垂れた 虫→蟲 えずく→嘔吐く ぬたば→蒐場 などなど語彙の勉強にもなりました。
ただ、設定に無理がありすぎです。
会社のお気楽ハイキング程度の経験者をいきなり高レベルのバリエーションルートの同伴者として登場させていることです。
これはいくら何でも無理がある設定です。
高尾山しか登ったことのない人を、いきなり裏妙義山や剱岳へ連れて行くようなものです。
まあ、小説の世界なので自由に書いて問題は無いのですが、リアリティの問題ですね。
本の帯にはこう書かれています。
「圧倒的な生の実感を求め、山と人生とを重ねて瞑走する純文山岳小説。」
帯にあるほどの充実した読後感は感じることが出来ず一寸期待外れでしたが、これが芥川賞を受賞した事実が一層私に戸惑いを感じさせたのでしょうか。
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