![]() |
![]() |
![]() |
Day4:朝日小屋から天狗山荘 2024.7.31
午前2時に目を覚まし、耳栓を外した。あれだけうるさかった雨音が聞こえなかった。どうやら雨は止んだようだ。
昨日買った鳥そぼろご飯(400円)と粉末スープ、洗面道具を持って部屋から食堂へ向かった。食堂には早出の登山者のために、お湯、お茶、すまし汁、コーヒーなどが用意されている。朝日小屋は基本ビールの缶以外はゴミは持ち帰りなのだが、混ぜご飯のパックを捨てるゴミ袋も置かれていた。小屋泊者の特権なのか。「このパックを捨てられるんならもう1パック買えばよかった」。混ぜご飯の量は朝ごはんとしても男性には少な目で、1パックのみにしたのはゴミを出来るだけ減らしたかっただけだった。お腹を満たすため、ありがたくコーヒー(コーヒーはカップが置かれていて、1人1杯まで)とすまし汁(何杯も...)をいただき、置いてあるお湯で持ってきた粉末スープを作って飲んだ。
その後、食堂横の洗面所で歯磨きをし、コンタクトを付けた。ちょうど昨日雪倉避難小屋から来たという同世代の「関西弁のきつい」男性が、洗面所の奥にあるトイレに来ていた。「こんな早く出るんですか?」と声を掛けられ、「はい、今日は11時間くらいかかる行程なので...」。彼は今日は栂海新道を行くと昨日言っていた。荷物を減らしたいということで、彼には昨日リゾッタの梅しそご飯をいただいた。関西からだと大変なのに、精力的にアルプスを縦走している方だった。
さすがに小屋泊とあって、3時には出発の準備が整った。土間でTXガイドを履き、扉を引いて外に出た。真っ暗なのは当たり前なのだが、物凄い霧でほんの1m先ですら全く見えなかった。雨はついさっきやっと止んだところなのだろう。こういう状態だと、ヘッデンを点けても全く役に立たない。グラウンドのようなテント場のどこで登山道に出るかが頭に入っていたので、何も見えないがヨチヨチ歩きで登山道の方向へ進んだ。
何とか登山道に出ると、朝日小屋からしばらくは木道なので、辛うじて登山道がどう続いているかを把握することができた。足元を照らしながら慎重に歩いて行く。水平道分岐を右に曲がり、危ないトラバース道になってきた。去年ここを明るい時間に通っていたので、登山道の感じを覚えていたのが幸いだった。しかし、相変わらず視界が悪く、沢の渡渉が続く辺りでどっちに行っていいのか自信がなくなってしまった。足元を見ながら、なんとなく登山道っぽい所を歩いて行く。しかし徐々に道が険しくなり、違和感を覚え始めた。「これ多分間違ってんな...」。スマホを取り出しヤマレコを見ると、登山道から外れ、あろうこと沢詰めをしてしまっていた。「やっぱり...おかしいと思った」。ヤマレコを見ながら登って来た道を慎重に下り、間違え始めた地点まで戻った。地図的にはここを右に曲がるようだが、全く先が見えず、崖に飛び込んで行くようにしか見えない。しばらくそこに立ち止まり、必死に目を凝らした。すると、霧が少し晴れてきたのか、目が暗闇に慣れてきたのか、かすかに右に沢を渡渉する道が見え始めた。足元を慎重に確認しながら何とかそこを抜けた。間違いなく今日の核心だった。
ここから先は幸い迷うことはなかった。夜が明け始め、霧も落ち着き始めた。昨日、朝日小屋の廊下に出されたストーブの周りで話している時、今日のルートに水場があるかどうかをみんなに質問した。今日もかなり苦しい行程が予想されたので、朝日小屋から持っていく水は最小限にしたかったからだ。すると、例の関西弁のきつい男性が、「至る所に沢が流れてますから、水は心配しなくていいですよ。浄水器があればなお安心です」と教えてくれた。最近はプラティパスのクイックドローという浄水器を愛用している。ソーヤーミニと比べて絞り出しが格段に楽で、もうこれ一択だろう。彼は「最後のちゃんとした水場はここですね」と、アプリ版「山と高原地図」でポイントを教えてくれた。ちょうど赤男山のトラバースを終えた辺りの「燕岩」というポイントの先だった。ヤマレコの地図は基本YAMAPより詳しいが、水場の情報には弱いのか、その水場は載っていなかった。しかし、地図上でマニュアルでポイントを設定することができ、自分で場所を適当に選択し「水場」と入力した。
燕岩を気にしながら歩いていると、やたらと巨岩が積みあがった場所に来て、「ツバメ岩」という道標が立っていた。しかし、その辺りには水場の気配はまるでなく、かなり先に行ったところでやっと沢が出てきた。ヤマレコが「ミズバ」と読み上げる。自分で入力したポイントでもちゃんと読み上げてくれるようだ。沢の手前は平らな土手のようになっていて、そこにザックを下ろした。ザックの内ポケットに入れたハイドレーションを引っ張り出し、どれだけ水を消費したかを確認する。ハイドレーションの唯一の欠点は水の残量がすぐ分からないことだ。しかし、面倒くさがらずにこうやって引っ張りだして見れば大体わかる。ここで消費した分くらいをつぎ足し、また1Lの水分を確保した。ちなみに、この沢は去年の同じ時期は殆ど干上がってしまっていたようだが、大量の雨が降った後だけに、水量は十分だった。
ここから先、天気が回復することを祈りながら歩いていたが、むしろどんどん悪化して行った。雪倉岳に登頂した時には辺りは真っ白けで、風もかなり強くなっていた。去年、反対側から雪倉岳に登頂した時は、何度も偽ピークに泣かされたが、今回はあっさり山頂に着いてしまった。残念ながら眺望もないので、殆ど立ち止まらず写真だけ撮ってピークから下り始めた。登りは寒かったものの、ぎりぎり半袖で行動できたが、下り始めてさすがに寒さが我慢できなくなってきた。面倒だがザックを下ろし、雨蓋に入れたストームクルーザーの上着を出して着込んだ。今回の縦走中、ストームクルーザーはレインウェアとしてだけでなく、防寒・防風着としてもとても重宝した。
雪倉避難小屋を越え、しばらく行った辺りが最も暴風だった。例の関西弁の男性も、この辺りは暴風だったと言っていたので、風の通り道なのかもしれない。しかし、ここから鉢ヶ岳の巻道をトラバースする辺りからやっと雲が切れ、雲の間から太陽が見え始めた。風も鉢ヶ岳に遮られるのかほぼなくなり、やっとリラックスして歩くことができるようになった。巻道の途中でザックを下ろし、昨日朝日小屋で買った鱒寿司を食べながら休憩した。冷凍された鱒寿司はちょうどいい感じに融け、最高の行動食になった。いつも行動食と言えば甘いものばかりだが、塩分がきいた物の方が疲れが取れるかもしれない。
鉱山道分岐を越え、三国境まで登り返した。風よけがなくなり、また強風にさらされていたが、天気はこの辺りが一番よかった。振り返ると、ここまで登って来た道のりをきれいに見下ろすことができた。今日初めて他の登山者達も現れ、男性3人組のシニア達の写真を撮ってあげた。もしやここから天気が良くなるかも?と期待したが、やはり予報通りまた天気は悪化し、白馬岳頂上が近づくにつれ、真っ白けの強風に戻ってしまった。雪倉岳同様、白馬岳頂上にもあっさりと到着した。強風かつ真っ白っけで「登頂した」こと以外に嬉しさはなかった。しかし、そうは言っても今縦走で初のメジャーピークなので、自撮り棒を取り出し写真を撮る。今回、荷物の軽量化を図る中で、この200g超もある自撮り棒を持ってくるべきかかなり悩んだ。持ってきたから使ったものの、それほどその価値はなかったかもしれない。
今回は水と行動食の量を最小限に抑え、その代わり途中の小屋でお金に糸目をつけず調達する戦略だった。なので、もちろん白馬山荘にも立ち寄った。かなりの強風が続いていたので、ストームクルーザーを着ていても体はすっかり冷えてしまっていた。白馬山荘は噂通り「ホテル」のようだった。レストランには静寂が流れ、なぜか家族旅行に来ている高校生くらいの子供たちの姿が目立った(そして、なぜかその親たちの姿はなかった)。彼らは山には似つかわしくない雰囲気を醸し出し、まるでスタバにでもいるかのようにゲームをしていた。時刻は10時半頃で、ガラガラの広いレスランの一角のテーブルにザックを下ろした。入口近くのストーブ横のテーブルには、疲れきった様子の同世代の男性2人が休憩していた。
何はともあれ軽食だ。えらい遠い(レストランが広過ぎる)カウンターまで歩いて行き、「軽食やってますか?」と聞くと、若い男性従業員が「はい、『軽食は』やってます」と言う。「というと、何はやっていないんですか...?」と聞くと、ランチ営業は11時からだという。旨そうなランチメニューが並んでいたが、「30分は待てないな...」と、軽食のおでんとソーセージの盛合せを注文した。ここはクレジットカードや電子マネーが使える。水を補給出来るか質問すると、「ご宿泊のお客様ですか?」と聞かれ、「いいえ、通りすがりです」と言うと、「その場合は100円かかりますが、お客様のボトルに補充致します」。そして、その100円はキャッシュのみだという。それでも「ありがたい」とテーブルまで1Lのナルゲンボトルを取りに行き、彼に手渡した。どうやら100円払えば、量は1Lでも2Lでも変わらないようだ。結局ここでたっぶり休憩したので、ランチ営業が始まってからレストランを出た。
レストランの中にいても大きな風切り音がずっと聞こえていたが、外は相変わらずの強風が続いていた。白馬山荘で休憩したので頂上宿舎には寄らずに、そのまま登山道を歩いてく。丸山を越え、杓子岳を踏んで行こうか悩んだ。杓子岳は去年も登ったし、眺望を楽しめる可能性も低いので、巻道で山頂をスキップしようか...。しかし、稜線を外さない縦走ルートを敢えて選んだのに、山頂を巻くのは自己矛盾だ。「巻かず」に杓子岳山頂を通っていくことに決めた。
山頂へのザレた登山道を登っていると時折日が差したが、山頂に着くと完全な真っ白けだった。それでも、また自撮り棒を取り出して撮影した。こんな天気だけあって山頂はひっそりしていたが、ソロの登山者が山頂標識から少し離れた所に奇妙に座っていた。彼は写真を撮るでもなく、何かを待っているかのように、ただただ強風の山頂に居座っているようだった。そして、またちょっと日が差し始めた時、彼はいきなり飛び上がった。ばっと白馬岳の方へ走りよりカメラを構えて写真を撮り始めた。「あー...、シャッターチャンスを待っていたんですね!」と話し掛けると、「ええ、(僕が)登っていらっしゃる最中も何回かチャンスがあったので、また来るかと」。確かに少しだけ白馬岳方面の雲が切れ、眺望が出ていた。それからも何回か同じレベルの景色がやってきたが、完璧な眺望からは程遠かった。僕は諦めて白馬鑓ヶ岳へと向かったが、彼はまだ杓子岳山頂に留まるようだった。
白馬鑓ヶ岳にもあっさり到着した。去年反対側からザレた登山道をつづらに登った時はかなり辛かった記憶があるが、さすがに縦走序盤なのでまだ体力が有り余っているのだろう。山頂は杓子岳に引き続き真っ白けだった。しかし、ここから天狗山荘までが思いの外長く感じた。一旦下り、鑓温泉分岐を越えてまた登り返した。山頂から約40分ほどで「天狗山荘」を示す道標が出て来て、最後の下りに入った。朝日小屋で一緒になったソロの女性登山者が「天狗山荘上はかなりしっかり雪渓が残っていて、アイゼンないと危ないです」と言っていたのを思い出した。「今年は雪解けがこんなに早かったのに、そんなに雪渓が残っているんてあり得るのかなぁ?」と思っていると、本当にがっつりとした雪渓が現れた。「うわぁ、確かにリアルやな...」と思ったが、さすがにしっかりと雪切りが施されいた。最初はトラバースできるように真っすぐに雪切りされていて、そこから先は斜めに下りていけるように、階段状にステップが作られていた。「これは完璧な雪切りだ」。おかげでザックの奥深くにパッキングされたレオパード(ペツルの10本爪アイゼン)を取り出す必要は全くなかった。雪渓を降り切ると、長野県警と書かれた制服を着た若い男性が立っていた。彼にお礼を言いながら話し掛けると、天狗山荘と協力して今日この雪切りを施したそうだ。しかも歩きやすいルートに登山道を付け替える作業もしていて、登山者を誘導するトラロープも張られていた。おかげで極めてスムーズに天狗山荘に到着することができた。
午後2時半頃天狗山荘に着くと、まずはテント場に下りていった。夏場は夕方近くになるといつ雨が降り始めるか分からないので、受付前に高速でテントを張るようにしている。この時間のテント場はまだ空いていて、場所は選びたい放題だった。白馬鑓ヶ岳がしっかり見える平らそうな場所を確保した。テントを張り終えると、受付に向かった。生ビールを注文する方の入口とは別の寂しい入口の方だ。後立山の山荘は基本テント場も全部予約制だ。何となくユルい雰囲気のする天狗山荘も例外ではなかった。もともとは7月30日に予約を入れていたが、停滞のせいで1日ずれたので朝日小屋で予約をキャンセルし(朝日小屋はWifiあり)、今日に予約し直した。新しい予約番号を手元の行程表に手書きで書き込んでいたが、受付では「予約していますか?」と聞かれただけで、その予約番号を要求されることはなかった。ちなみに、もし予約をしていないと、もともと3,000円とバカ高い幕営代(五竜山荘や唐松岳頂上山荘の4000円よりマシだが...)が2,000円増しの5,000円になってしまう。キャンプ届を見ると、夕食を食べることが可能なことに気付いた。これは明確にウェブサイトに書いていなかったので、ポジティブサプライズだった。値段は4,000円とかなり高価だが、迷わず申し込んだ。去年利用した同じ系列(村営)の白馬岳頂上宿舎もテント泊でも夕食を食べることができ、料金も同じく4,000円だった。驚いたことに、頂上宿舎の夕食は下界顔負けのビュッフェで、4,000円でも安いと感じた。天狗山荘も同じくらい凄い夕食を期待したが、残念ながらかなり期待外れだった。
テントを張っている最中は、まだ風が強くテントを設営するのに苦労した。近くにいた女性の登山者は自分一人ではどうにもならず、横にいた男性登山者に手伝ってもらっていたほどだ。しかし、そこから天気は劇的に回復し、目の前に白馬鑓ヶ岳のどっしりとした姿がきれい現れた。最高のテント場だった。電波もそれなりにあり、水も雪渓の雪解け水が無料で利用できた。何と言ってもここの売りは生ビールだ。居心地のいい小屋内のテーブルで飲んでもいいし、外テーブルで鑓ヶ岳を見ながら飲むのも最高だ。また、少し山荘を越えて天狗の頭の方に歩くと小高い丘があり、そこからは剱岳を望むことができた。
ちなみに夕食後にひとトラブルあった。僕はテント場に着くとすぐに登山靴を脱ぎ、キャニオンサンダル(クロックスに見た目は似ている)に履き替える。夕食を食べに小屋の中に入る時、そのキャニオンサンダルを無造作に下駄箱に置いた。しかし、僕がサンダルを置いた場所は、小屋が無料で貸し出している外サンダル(同じくクロックスに似ている)の置き場のすぐ横だった。小屋泊者は、夕食後その外サンダルを借りて、例の小高い丘まで剱岳を見に行く人が多かった。僕が夕食を食べ終え、自分のキャニオンサンダルを履いてテントに戻ろうとすると、サンダルが見当たらない。そして自分がサンダルを置いた場所を見て愕然とした。「これ、間違えて履いて行かれたな...多分」。仕方がないので、小屋の外サンダルを借り、必死に走って小高い丘に向かった。片っ端からそこにいる登山者の足元を見て回り、僕のキャニオンサンダルを履いていた登山者を見つけた。中国人の登山者の方だったが、幸い事情を理解してもらい、僕が履いていた小屋の外サンダルと交換してもらった。
明日は唐松岳頂上山荘までの超短縮行程だった。本当は五竜山荘のテント場を予約していたのだが、行程が1日ずれてしまい、次の日の五竜山荘のテント場を予約できなかった。かいこ部屋という相部屋は空いていたのだが、写真を見る限り到底僕には耐えれそうになかった。無理だと思いながらも唐松岳頂上山荘のテント場予約サイトを見ると、奇跡的に空きがあったので、即座に予約を入れた。去年は逆にここが一番最初に埋まってしまったテント場だったが、分からないものだ。明日は久しぶりに遅く起きよう。テント場からご来光を楽しめそうだ。
コメントを編集
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する