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クライミング的な要素よりも、水際のへつりルートや渡渉ポイントの発見など、水との戦いという要素が強い探検的コースです。これは学生時代に高校山岳部の同期3人+後輩1人で上ノ廊下から雲ノ平まで遡行したときの記憶です。
いつものように夜行列車で信州入りし、黒部ダムからスタート。途中で黒部ダムを横断する「平の渡し舟」は1日数本で時刻が限られ、それに間に合うように気を使いました。順調に東沢出合に到着し、アプローチ用の運動靴を渓流地下足袋に履き替えて、いよいよ上ノ廊下の遡行に入ります。
初日は、東沢出合から1〜2時間ほど遡行しました。この日、天気は最初曇りでしたが、すぐに雨模様に変わってきました。できるだけ流れが緩くかつ浅い場所を探して、何度か渡渉をしましたが、真夏にもかかわらず太ももから腰辺りまで水につかるとその冷たさに震え上がります。
このあたりまで深さがあると水の勢いで流される危険があります。そこで渡渉の際は、ザイルで一人ひとりビレイをし、流木の杖を上流側について「三点確保」で慎重に渡りました。当然、全員が渡り終えるのに、かなりの時間がかかるので、できるだけ渡渉は避けるようにして進みます。
この日は最初の岩壁地帯の下ノ黒ビンガに入る直前でビバークとなりました。水が増水しても大丈夫なように、川岸の少し上の平坦地を見つけたところにまだ早い時間帯にツエルトを張りました。
さて、ツエルトの中でしばらく休憩をしていると、えらく沢の音が大きく聞こえてきます。ふと外を覗き込むと、先ほどまで水がまったく流れていなかったツエルトのすぐ横を水が流れています。
「やばい!かなり増水してる!!」
と、あわててツエルトを川岸を少し登った高台の狭い平地に張りなおす作業をしました。
この後、雨はますます本格的になり、それに伴って川の増水も激しくなっていきました。
一晩降った雨も翌日には少し収まってきました。しかし黒部川は本格的に増水中です。昨日は透明度が高かった流水も濁ってしまい、川底はまったく見えません。昨日までは川原というものがあり、川はその一部を流れていましたが、今日は両岸まで目いっぱい増水して流れています。
川岸の高台から見下ろすと、激しく濁った水流の中から
「ガラン!ゴトン!」
と、かなり大きな石が激しくぶつかる音が断続的に響いてきます。
「いまここに落ちたら、絶対助すからんやろなぁ・・・」
「体はきっと粉々になるで!」
などとしゃべりながら、その日一日まったくその場所から動けずに過ごしました。
翌日はきれいに晴れ上がり、昨日荒れ狂った黒部川ももとのきれいな水流に戻りました。この日は、黒部川遡行におけるハイライトとなる、両岸が絶壁の、下の黒ビンガ、上の黒ビンガを突破する日です。
朝一番の渡渉は、まだ日が谷底まで挿していないのでなかなか辛いものがあります。できれば避けたい。。。
最初の渡渉で、まず二人がザイルでビレイをしながら順番に渡渉しているときに、ふと岸の岩壁を見上げると、なんとか高巻きで突破できそうに思えてきました。そこでもう一人を誘って、渡渉中の二人とは別行動で高巻きすることにしました。
11mm40mのザイルは渡渉の中の二人が使っており、そのときには捨て縄用の6mm20mの補助ロープを持っているだけでしたが。。。岩場を高巻きして降り始めると、最後に高さ10mほどの垂直の岩場の上に出てしまいました。ここを下りれれば河原で、先ほど渡渉した二人と合流できます。10mと言っても飛び降りるわけには行かないので、手持ちの補助ロープで懸垂下降することにしました。太さが6mmのロープは強度的に充分に体重を支えられるはずですが、ダブルで使っても体重をかけるとかなり伸びます。ビヨーン・ビヨーンと、まるでバネにぶら下がっているような感じで下りていくのは、なんとも気持ちが悪いものでした。。。
さて、この日数回ザイルによる確保をしながらの時間のかかる渡渉を繰り返した自分たちは、時間短縮できる画期的な手法を思いつきました。
まず4人が横一列に並んで両手でつかめるくらいの長さの流木を探します。その流木をつかんで、流れと常に平行になるように4人同時に渡渉をします。これだと、一番上流側にいる人には最大限水の圧力がかかりますが、下流側の人には上流の人が防波堤の役割をしてあまり水の抵抗がかかりません。上流の人は水の抵抗に抗するための支えが必要ですが、それを両手に持った流木をつかむことで行います。下流の人3名で流木を支えているので、上流の人にとっては充分強固な「手すり」となるのです。
「エイホッ、エイホッ」
と掛け声をかけながら、次々と数多くの渡渉をこなし、順調に進みました。
途中ではまったく遡行するパーティに出会いませんでしたが、一回だけ上流からゴムボートで下ってくるどこかの大学の探検部らしいパーティとすれ違いました。手を振って軽く会釈をし、お互いの無事故を祈ってわかれました。こういう人がいない山奥に入ってると、他のパーティと出会うのはそれだけでとてもうれしいものです。
結局この日は、薬師岳から流れ落ちる金作谷出会いの大きな河原まで進むことが出来ました。
夕食の準備を進めるにあたって、コンロではなく出来るだけ流木による焚き火を活用しました。(当時でも国立公園内での焚き火は禁止されていましたが。。。もう時効ということで(^^;))
通常、焚き火を起こすには細かい木と新聞紙で種火を起こしてから、徐々に大きな木をくべていきます。慣れないと焚き火を起こすのは中々難しいものです。しかし、この時は違いました。あまり人が入らない領域なので、いたるところに流木があります。太さ数cmの流木でも長年の間何度も水にさらされ乾燥を繰り返しているので、湿気を含まず、マッチ1本ですぐに火がつきます。まったく苦労せずに立派な焚き火を起こすことが出来、まるで自分が焚き火の天才にでもなったような気分です。
この日の夜は、自分たちだけの広い河原のビバークサイトで、素晴らしい星空を黒部川の谷底、薬師岳のカール越しに眺めながら、川の流れの音を聞きながら過ごしました。
写真はすべて上の黒ビンガ付近です。
写真1:両岸が絶壁で廊下状になっている
写真2:廊下状の岩壁の川岸を、渡渉を交えて進む。
写真3:深い淵となっている岩場をへつる。結局この後、ここは泳いで突破。
上の廊下(後編)↓に続く。。。
http://www.yamareco.com/modules/diary/51934-detail-73526
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