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2014年08月28日 22:19山の本レビュー(書籍)全体に公開

P・アメント「ジョン・ギルのスーパー・ボルダリング」

"Games Climbers Play" とは、1967年Ascent誌に掲載された、クライミングを7つの体系に分類・定義して議論した記事のタイトルです。

1:ボルダリング
2:クラッグ(崖)クライミング
3:コンテニュアス・クライミング
4:ビッグ・ウォール・クライミング
5:アルパイン・クライミング
6:スーパーアルパイン・クライミング
7:エクペディション

7はヒマラヤ遠征などでとられる手法で、前進キャンプ、固定ロープや梯子、酸素、ボルトなど使えるものは何でもありで登る方式、5はヨーロッパアルプスなどで行われる登山スタイル、3はマルチピッチの岩登り、2は1ピッチの岩登りです。そして1が数mの石を最小限の装備で登るボルダリングです。
これらは番号が小さくなるに従って、自ら設定するルール(××という道具を使ってはいけないという禁止事項)が厳しくなり、7では何でもありだったのが、1で使うのは、靴とチョーク(そして少しの想像力)くらいとなります。

注意すべきは、番号が大きいほど価値が高いというものでもなく、これらの分類は単にクライミングのスタイルを表すにすぎません。
先鋭的なクライマーは、従来は大きな番号のスタイルで行われていた山・ルートを、より小さい番号のスタイルで挑戦したりします。(例えば7のスタイルで登られていたエベレストを、5のスタイルで登るといったように・・・)

ボルダリングは、最もシンプルな形で自然と対峙するクライミングスタイルです。


この「スーパーボルダリング」は、1950年代から1のスタイルを極限までつき詰めて実践した、伝説的ボルダラーであるジョン・ギルを紹介する本です。
当時の数多くの有名ロッククライマーによるジョン・ギル評や、ギルへのインタビューによって構成されており、「ん?無重力状態???」と思わせるような、数多くの刺激的な写真もあります。


この本の著者であるパット・アメントは以下のように述べています。

「『ギルがビッグ・ルートをやらないのはお気の毒なことだ』。
かつてあるヨセミテ・クライマーが、ギルを見くびり、ボルダリングを軽蔑するかのようにこう言った。この言葉には、ビッグ・ウォール・クライミングはボルダリングより価値がある、という意味合いがこめられているようだ。
―誤解である。この二つは共に存在価値のある、共に過酷な、別種の技能であり、量は必ずしも質を含まない。ボルダーのプロブレムとエル・キャピタンのルートの違いは、イェーツの詩とヘミングウェイの小説の違いにあたるのかもしれない。」

極端に難しいボルダープロブレムにトライする直前のギルの精神集中の様子を、イヴォン・シュイナードは以下の様に評しています。

「現在のところ、クライミングはまだ純粋な肉体運動の段階にあるけれど、これからは精神のコントロールの段階に入ろうとしている。ギルは五十年代末期にすでにそこへ到達していたのだと思う。」

ジム・エリクソンは仲間とある岩場の前でギルと出合い、「腰を抜かすほど驚いた」そうです。なぜなら、ジョン・ギルは伝説上の人物で実在しないと思っていたからでした。彼はギルのボルダリングの目撃談を以下の様に表現しています。

「ギルが北側のオーバーハングに取り付いた。小さなフットホールドに立ち、(中略)ホールドなどなんにも見えないところに右手をぐっと伸ばした・・・と思うが早いか、彼はジャンプしてその『なんにもない』ところに指先をかけ、指先だけで片腕懸垂をやった。
ディブと僕は目の前で起きたことがよく理解できなかった。
ギルが立ち去った後、そのホールドを調べてみると、それはおよそ3ミリの幅しかなかった」


以下はギル自身の言葉。

「ボルダリングは、古典的ロック・クライミングに比べて、アスレチックな意味でずっと厳しい行為なのだから、単に脚や足の筋肉とか、爪先だけを使うものじゃないはずだ。ジムナスティックでアクロバチックであり、さらにはエアロバチックでなければならない」

「うまいボルダリングを観るとき、人はそこに、アスレチックな才能が華麗に展開しているのを感じる。そこには、すぐれたダンスに見られるのと同種の正確さ、バランス、調和、力が存在する」

「ボルダリングはチェスのプロブレムを肉体面に置きかえたものだとも考えられる。つまり、良いルートとは、連続する正しい動作の発見が困難であり、かつそれを実践するのがむずかしいルートでなければならない。」

ギルは数学者でした(職業は大学の数学教授)

「ボルダリングを数学にたとえたい気もする。数学の研究をしていると、両者があまりに良く似ているのに驚かされる。一方はあくまで純粋に知的であり、もう一方はこれまた純粋に肉体的であるわけだが、そのどちらにおいても、人は、開拓された領域と未開拓の領域の境界に立っている。」

「問題は、社会の中で成長していくうちに、人は、純粋な、子供のような遊び心をすっかり失っていくという点にある。だから、なんとかその心を取り戻して、クライミングから多くのものを引き出し、クライミングが本来もっている価値を見つけださなければいけない」


たかが数mの石ころに生命を吹き込んで、極限的な難しさのクライミングを実践し、ボルダリングというクライミング・ジャンルを確立したのが、ジョン・ギルでした。

この本に強く刺激を受けた自分は、トレーニングを重ねて、「片腕懸垂」や「フロントレバー(水平懸垂)」が出来るようになりました。それとともに、ホームグラウンドにしていた六甲北山公園のボルダープロブレムも、登れる数を大幅に増やすことが出来ました。


最後に、この本の日本語版カバーに書かれた戸田直樹氏の、「この、とんでもない世界」と題されたかんたんな紹介文が、まさに当時の自分の気持ちをピッタリ表していると思うので、以下に引用します。

「1977年、私は岩登りの入門書と思い込んで、この本の原書を注文した。ページを開くと、どう見ても無重力状態の宇宙遊泳を連想させる姿で、人間が空中に浮かび、跳んでいる。それから二年後、コロラドでギルのつくった課題の下に立ってみたが、私の足は地面から離れないどころか、使うべきホールドに指先が引っかかりもしない。
『不可能』という言葉の意味を考え直させられる、とんでもない世界を知ってしまった。それ以来、岩場で絶望的と思える問題に出会うたびに、この禁断の聖書をひもとくと、ギルのボルダリングがそっとささやきかけてくる。
『登れるかもしれないよ!』」


1984年初版 1800円。残念なことに今は絶版となっているようです。Ama○onで検索してみたら、プレミアがついて2万円近くになっていました・・・
この本の日本語版タイトルは「スーパーボルダリング」ですが、原題名は「Master of Rock –The Biography of John Gill」。こちらの方がカッコイイと思うのですが。。。

写真1:表紙と裏表紙
2:ギルのボルダリング風景
3:ギルのトレーニングの一つ、フロントレバー
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コメント

ゲスト
RE: P・アメント「ジョン・ギルのスーパー・ボルダリング」
クロスさん、こんばんは。

>「問題は、社会の中で成長していくうちに、人は、純粋な、子供のような遊び心をすっかり失っていくという点にある。だから、なんとかその心を取り戻して、クライミングから多くのものを引き出し、クライミングが本来もっている価値を見つけださなければいけない」

に共感しました。
失った(失いそうな)心を取り戻そうとできる人はまだ、救い。
そうでない人(その修復法を見つけられない人)はまた、何か、違った形で、その何かを見つけることができるのかなぁ?と思ってみたりして。。

あと、結構、同じクライミングでもいろんな種別に分類されるものなんですね。
2014/8/29 1:04
RE: P・アメント「ジョン・ギルのスーパー・ボルダリング」
ナミさん、おはようございます。
お!プロフィール画像、変わりましたね!

自分の周りを見ていると、確かに年とともに「子供のような遊び心」を失っていく人は多いですねぇ・・・中には若いうちから無くしてしまう人も・・・
自分を振り返ってみると、山登りを再開してそれを取り戻しつつある感じもします
2014/8/29 9:33
RE: P・アメント「ジョン・ギルのスーパー・ボルダリング」
ちはー
ジョン・ギル、お名前に記憶があって思い出せばパフォーマンスロッククライミングに載ってたかな?
当時だったらクラッシュパッド無しの命懸けハイボルだった事でしょう。

シュイナードさんは凄い経歴のお方ですね。
韓国仁寿峰のランナウトした恐怖のシュイナードA、Bしか知りませんがクリーンクライミングが何となく理解できます。
でもパタゴニアは値段高くて中々手が出ない>_<

「スーパーボルダリング」を調べたら何と平田紀之氏翻訳なんですね。昔のクラシッククライミング写真でどんな方だろうと思ってました。

戸田直樹さんは、11年程前に初めて瑞牆でお目にかかりましたが、過去の活躍ぶりが有名だったので、もっとお年を召された方かなと思っていましたが、未だお若くてらっしゃったのでビックリしました。

こうして又知らなかった大昔の歴史を知ってクライミングするのも楽しいですね。
いつも有り難うございますφ(..)メモメモ
2014/8/29 18:53
RE: P・アメント「ジョン・ギルのスーパー・ボルダリング」
こんちは!

当時に北山公園ボルダーエリアを徘徊していたボルダラーの間では、ギルは神格化されてました!
シュイナード氏は、衣類はパタゴニアですが、クライミングギアとして「シュイナード」ブランドを製造してました。でも米国で事故があって、訴訟リスクを避けるためにブラックダイアモンドを立ち上げ直したと記憶してます。ロイヤル・ロビンスと並んで、アメリカを代表するロック・クライマーです。

平田紀之氏は、当時色々な記事の翻訳をされていました。そして、戸田直樹は堡塁岩の大ハングのクラックルートの初登者です。瑞牆も含め、様々なクラックルートを精力的に開拓されてましたよ!

dejavuさんは、「大昔」はクライミングされていなかった??
以前に明星山の「フリースピリッツ」のことを書かれていたので、相当クライミングのキャリアは長いのかと思っていましたが・・・
2014/8/29 19:22
RE: P・アメント「ジョン・ギルのスーパー・ボルダリング」
チョイとお待ちくだされ、
クライミングは一昔と4年しか経験ありませんよ。
大昔!(◎-◎;)そんな滅相もない
学生休みに観光旅行ハイクしか経験ないっすよ(゜Д゜)
2014/8/29 19:35
RE: P・アメント「ジョン・ギルのスーパー・ボルダリング」
え〜っ!そうだったんですか!
僕はもう、かなりの年月(数十年!?)のキャリアを持ってる人だと思ってました・・・
それにしても、大山北壁、北鎌尾根、前穂東壁とか、経験値としてのキャリアは大したものですね〜
2014/8/29 21:31
RE: P・アメント「ジョン・ギルのスーパー・ボルダリング」
クロスさんの日記は私の知らない昔なので、その年代を調べたりして、勉強させて頂いてます。
無知ですが、今後とも宜しくお願いします_(._.)_
2014/8/29 22:11
RE: P・アメント「ジョン・ギルのスーパー・ボルダリング」
そうでしたか
それはどうも失礼しました・・・
今後とも、よろしくお願いします
2014/8/29 22:39
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