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2013年10月09日 15:50雑記全体に公開

山道と図書館の本

富士見台を歩いたときのこと。
道を整備しているナントカ組合の人がビラを配っていた。
ビラには恵那山の登山ルート案内図と山歩きする人へのお願いなどが書いてあり、こんど登る恵那山の下見にきたところだったので、ちょうどいい。持ち帰ってよく読んでみた。
気になったのは注意事項のほう。

・ケルン禁止
・標識の勝手な設置禁止
ケルンや無許可の標識などは見つけ次第撤去するのだそう。管理の手間も大変なので協力して欲しいという旨だった。

超・初心者の自分はケルンとはなんじゃいと調べてみた。
ざっくり検索すると、ケルンとは山頂やその付近に石を積み上げることだという。元々は山頂を示す目印だったのだが、最近では登った記念や祈りやなんやら理由をつけてめったやたらに積んでいくらしい。

石を積むなんて恐山の賽の河原的なおそろしげな場所しか浮かんでこない。
お百度参りのようにひとつひとつ石を持っては通うんだろうか。だとしたらいろんな意味で重い。気持ちと、石の重みの二重の意味で。第三次登山ブームとかいってもてはやされてるけどそんな薄暗い習慣が根付いているとは興味深いじゃないか……。

ちらりと掠めた薄暗いときめきはすぐに消えた。

登った記念に石を積む。
私はここに来ました。苦労して、しんどい思いまでしてここまで来ました。山の頂をいただきました。今この瞬間はわたしのものです。この気持ちを石に込めて残していきたいと思います。

無邪気で小さな行為に見えるそれは実のところ中身の濃いマーキング行為で、自己顕示欲の発露だったのだ。
落書きじゃないだけ多少マシ、というやつだ。
そりゃあ管理する人もうんざりだろう。
ぼんやりとしたモヤモヤが腹の底にひっかかる。



ところで、人には三大欲求というのがある。諸説あるみたいですが。
食欲、睡眠欲、性欲の三つが人という種が繁殖していくうえで重要な要素で、どれかが著しく欠けると人類は生き残ってはいけないのだそうだ。

最近の草食系男子やら晩婚化やらマスコミ報道以上の周囲の独身貴族だらけの現状やら、自分も一役買ってるだけに人ごとではない。かといって誰かが大きな声で物申せばなんとかなるというものでもないだろう。
おそらく本能を妨げる文化や習慣――不都合な文化と勝手に呼んでるけど、そういうマイナス進化したもののせいだろう。文化も進化する。進化は良い方に進むと決まっているわけでもない。時代の大きな力、今なら経済力によって進行方向は決まってゆく。
iPhoneなどの新しいモノと、それに付随する新しい価値(コト)に毎度踊らされる人々っていうのは愛しくも哀しい。自分もがっつりと含まれてるだけに。

文化の進化が人類の習慣や頭脳や身体能力の進化に貢献するかどうかといえば、残念な結果しか今のところ見聞きしない。SNSなどのコミュニケーションツールが物心ついたときから存在する人にとっては、使う道具ではなく使われる道具に成り果ててるなという実感だけがある。不便を知らないと人は道具を使いこなすことが難しいのかもしれない。道具であることを知らない故に。

三大欲求の次に大事なのが自己顕示欲だそうで、思うにこれが単細胞のアメーバと人類を含めた動物とを隔てる重要な要素なのかもしれませんが研究者でもないわたしには知るよしもありません。(クソ真面目に教えてもらってもたぶん寝てしまうので結構です)

三大欲求と同じく、自己顕示欲というのは悪いものではないそうな。
(他人にとって都合の)良い方に働くか、悪い方に働くかという違いはあれど、人よりも目立ち、あるいは人の役に立ち、人のためになることをしたいという欲は社会に生きる人間なら誰でも大なり小なり持ち合わせている。自分などは人より目立つのも揉め事もめんどくさいことも生理的にイヤな性質なので少ない方ですがそれでもたまにはあります。例えば台風で不安定な天気のせいでヒマすぎる日にわかったような文章を何時間もかけて書いてしまうくらいには。

自己顕示欲も行き過ぎればおせっかい、大きなお世話、目立ちたがりなどと言われてしまいますが、みんなで何かをしなければならない時にこういう人が一人もいないと大変苦労することになります。同じように二人も三人もいた場合、今度は二つも三つも強い主張が出てきてしまい収拾がつきません。

ケルンもそうですが恵那山は勝手に標識を置くことを禁止しているそうです。他の山のことは各市町村によって違いがあるのでわかりませんが、中津川市と阿智村での取り決めではそういうことになっているようですね。山は境界線上にある場所が多くて、複数の市町村や県で管理されてる場合もあるので足並みをそろえるのが難しそうです。

過去のヤマレコを確認したところ恵那山の山頂には本来の標識の上に丸い標識があったようですが、私が登った時点ではすでになくなっていました。管理している人が撤去したのかもしれません。恵那山の標識はお世辞にも新しくも格好の良いものでもないので、もっとわかりやすくしてあげたいという有志の方も多いのかもしれません。
自分としては山頂は山頂だとわかればどうでもいいですが前宮と神坂峠の分岐点がひどい有様だったのでどうにかしてくれないかなとは思いました。
第二次登山ブームあたりの古い写真を見ると、恵那山も雰囲気のある書体で書かれた格好のいい標識がたっていたので、そのまま再建してくれたら素敵です。

先日歩いた奥三界岳頂上の展望台にはたくさんの標識がぶら下がっていました。チームで登る人たちは山名と標高に加え、自分たちのチーム名を記したものを残しているようです。近所の里山の登山口にも個人でたてたらしき小さな標識がありました。
なんの目印もないマイナーや無名の山にはありがたいけど、百名山の恵那山に我も我もと標識をたてていったら収拾がつかなくなりそうです。組合の人がビラを配って協力を求める活動をしているということは実際にそうなんだろうな。

山歩きをはじめたばかりの頃(今もそうですがもっと初期)は、山もケルンも標識も自分にとっては最初からそこにあるただの景色でした。
ほんのすこし歩くようになって気づいたことは、変ないいかたかも知れないですが山というのは図書館の本に似ているな、ということ。




最近はあまり読まなくなったけれど、一時期は小説が好きで読みあさっていたことがあった。ただ、人に一方的に勧められたり貸してもらうのが好きではなく、気になる本は新品で買うか古本屋で探すか、図書館で偶然みつけた体で借りるかにしていた。

古着も中古車も平気で古書店のボロボロの本も大丈夫なので潔癖症というわけではない。
おそらく出会い方の問題なのだと、最近は思う。

人が一方的に勧めてくる本は、その人の「この本を読んで面白かった私」という気持ちが入ってしまっている。あるいは下心と言ってもいいかもしれない。
 (私は読みました! 面白かったのであなたも読むべきです!)
きつい柔軟剤の香りやつけすぎの香水やイヤホンの音漏れに等しく、こちらのパーソナルエリアを無断で蹂躙したあげく、それどころか耕運機で耕して勝手に得体の知れない野菜を育てようとまでしてくる。


反吐がでるぜ……

失礼しました。口が悪いのと頭が悪いのは一向に直す気のない問題点です。(これら二つは表裏一体でもあります)

もちろんこちらからお願いして紹介してもらった本については別格で、何か面白い本ないですか? という問いにハズレた試しはない。
もちろんなければ、ないです、と返ってくるだけですが、
(ほんとは教えたくないけど、適当なのを教えるのも癪だからとっておきを教えてあげよう)
あるいは、
(このひとにこんな本を教えたらどんな感想をくれるんだろうか)
そんな感じでそっと教えてもらった本には内容以上の価値があるのです。
とっておきの共有というコト――本というモノを介した見えない場の共有はちょっと素敵な感覚です。
問題はこちらが感想を伝えるのが苦手なのでせっかく教えてくれた相手に微妙な顔をさせてしまうことくらいですが。



図書館の本は今やパソコン管理されていて、バーコードをピッピするだけで簡単に借りたり返したりできてしまう。
巻末に日付が残されたのも以前の話で、たまに古い本を借りるとスタンプの日付が並ぶ紙が剥がされずに残っていたりして懐かしい。

見ず知らずの人たちが先に何十人も借りていたとしても、丁寧に扱われた本は初めて出会う道であり景色だ。

電子書籍が手軽で普及し始めているけれど、本という現物をページを繰りながらなぞる行為に勝るものはない。端的に言えば電子書籍ではハイになれない。ランナーズハイとかクライマーズハイといわれる陶酔現象は読書の世界にも存在する。
あれはページをめくることで生まれるのだと信じている。

たまに先に借りた人の痕跡を見つけることがある。
ページの端の折り目や、チョコレートの染み、鉛筆の落書き。
風景に水を差されるけれどそれほど気になるわけではない。いつ、誰がやったのか顔も名前もわからないのだから。
その人たちはその瞬間は本が自分のものだと思ったのだろう。
記念や祈りの気持ちは込められていないからケルンとは違う。うっかり落としたアメの包み紙やポールの石突の跡だ。
誰かが歩いた跡がある。

図書館の本はビニールカバーで保護してあるのでこういうことはないだろうけれど、もしこれがボロボロの表紙で今にも取れてしまいそうに破れていたとする。
あまりにも気の毒なので図書館の人に直すように言ってみたが忙しくてなかなか手が回らない。他にも優先して手を入れるべき本があり予算も厳しい。
埒があかないので表紙を自分で直す事にした、としよう。
ただ直すだけでは面白くないし、せっかくやるなら自分のことも知ってほしい。
どうせなら本の見どころをアピールして、わかりやすく絵で説明したら喜ばれるだろう。自分はよく知っていてみんなが知らないいいところを矢印で示してあげるのも親切かも知れない……。

先日テレビで取り上げられていた、間違った標識をぶった切って独自の標識をたてた自己顕示欲の塊みたいな人におったまげた。
その人の作った標識群は写真集になるほどの名物だという。
絵やクイズや名所が微に入り細に入り書き込まれ、美しく楽しい出来でファンも多いそうだ。
そんな標識を見かけたら自分も嬉しくなって全部写真に撮ったり歩くのが楽しかったりするだろう。近所ならいそいそと出掛けているところだ。

だがなんとなく癪に障る感じもする。なぜだ。

行きつけの図書館にもそんなどエライ人物がいたらどうなるだろうか。
自分だけのお気に入りだと思っていた本の表紙が誰かの主観にまみれたト書きだらけになっていたら?
こっそりと出し惜しみしながら人と共有するのが楽しいコトの部分が最初から間引かれたようなものだ。人によってはたいへんなショックだろう。

本も山道も、わたしの知らない誰かの静かな世界の一部なのだ。
管理に必要なバーコードやビニールカバーなら仕方ないけど、大きな忘れ物はしてはいけない。
その物語、その道を自分が通ったのだという痕跡をできるかぎり残さないことが図書館の本にも山道にも共通するたいせつな気遣いであり、次に通る人への敬意だろう。





御嶽山を歩いたとき、剣ヶ峰へ向かう途中にある、ゼンマイ仕掛けのオタマジャクシみたいなモニュメントにたくさん石が並べられていた。
みんなが並べていると自分もやらねばならぬような妙な義務感を感じた。
ひとつ石を拾って置いてみる。
不思議な気分。
いいとか悪いとか自己顕示欲とは違う変な感じだ。

例えば、好きなアーティストのライブで振りを覚えてお互い見ず知らずの観客みんなで一緒に歌うときのような。
例えば、山へ登ることが縦軸だとして、登る私たちが見えない横のつながりをそっと確認するような。

ケルンはなくならないだろうな。
石一つ一つはただのモノだけどケルンは人が置きつづけるコトだ。
はた迷惑な石積みだけど、なくなるのも寂しいだろう。
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