学生時代、北アルプスの某山小屋でひと夏バイトしたことがある。その時の話だ。そこは、こう書くとどこの山小屋か分かる人には分かると思うが、上高地から観光客でもギリギリ歩いて来れるところだった。ある日、小屋の前の飲み物販売コーナー(あの、流し台みたいな水槽にジュースやビール入れて売ってるところですね)で立って店番をしてると、大学生ぐらいの若い女の子が二人やってきて、私にこうたずねたのである。
「あのう、槍ヶ岳って、どっちですか?」。
見れば、二人ともかわいいデイパックに、キュロットスカート、スニーカーといういでたち。当時のいわゆるアンノン族(懐かしいですねえ)そのものである。私はとりあえず、槍方面の登山道を指さして「槍ヶ岳はあっちですけど・・・」と言った後、まさかと思ったが気になったので、ひと呼吸おいて、「これから登るつもりなんですか?」と聞いてみた。すると、女の子のひとりが「ええ、できたら登りたいんですけど」と言う。やれやれ。
二人とも私の好みのタイプだったので、あまり嫌われないよう気をつかいながら、「えーと、それはちょっと無理じゃないかなあ。ここからだと、山慣れた人でも休憩をはぶいて6時間以上かかりますし。それにここまでは平坦な道ですが、もうちょっと行くと本格的な山道になるし、途中、雪渓の上を歩かないといけないし。絶対やめたほうがいいですよ」と言った。
女の子たちはきょとんとした顔で私の話を聞いていたが、「そう。無理なんですか」とすごく残念そうに言った。「無理だと思います。すみません」。なんで私が謝らなければならないのかよくわからなかったが、ここはとりあえず謝っといて、彼女たちに槍行きを断念してもらおうと思ったのだ。二人は少し不満そうだったが、私からジュースを買って、それをそのへんで飲んでいた。それからしばらくして上高地方面にぶらぶらと戻っていった。
かわいい女の子2名の遭難を未然に防止するという大業を成した私は、ひとりうぬぼれて自己満足したものだったが、しかし、考えてみると、あの女の子たちとさほど変わらない程度の知識、心構え、装備の登山者は今でもたくさんいるにちがいない。そういえばいつぞや槍沢で、スーツにショルダーバッグ、ビジネスシューズをはいて登っている中年のおじさんに出会って驚いたことがある(あの人は、山登りに来たのではなく、もしかして・・・・と後でゾッとしたが)。
素人は山に来るな、と言うのではない。どちらかというとそんな頑迷さはない人間なのだが、しかし、登山とかマリンスポーツとか自然を相手にする遊びには、ヘタすると命をなくす危険が潜んでいる。
梅雨があけて、これから本格的な夏山シーズンがはじまる。未然に防げる無茶のせいで、命を落とす人が一人でもないことを祈りたい。
ところで、あの私の好みの女の子は、今頃どうしているだろうか。もちろん、二人とも50代のいいおばさんになっているだろう。もし、山登りをやっていたらどうだろう。槍ヶ岳のてっぺんに立って、アンノン族だった若い頃、山小屋のジュース売りのむさくるしい兄ちゃんに槍行きを阻止されたことをチラッとでも思い出してくれはしないだろうか。
まあ、たぶんそんなことはないと思うが。
こんにちは。
>50代のいいおばさんになっているだろう。もし、山登りをやっていたらどうだろう。槍ヶ岳のてっぺんに立って
これ、いいですね。もし、本当にそうなっていたら
と、想像するだけでも熱い物がこみ上げてくる程、素敵な話しです。
本当にそうなっていることを切に願います。
ちなみに
>槍沢で、スーツにショルダーバッグ、ビジネスシューズをはいて登っている中年のおじさん
これは明らかに、接待登山の下見でしょうから、気にしなくても宜しいかと…。
>takecさん
こんにちは。
懐かしくも恥ずかしい青春の一コマでした。
なるほど、あのおじさんは接待登山の下見だったのか!心配して損しました(笑)
スーツにショルダーバッグ、ビジネスシューズで
登る事にこだわってる人っていたような気がします。
山には、色々な人が居て楽しいですねw
新田次郎の短編に、軽井沢と間違えて涸沢にやってくるバカップルの話があるのを思い出しました。
命にかかわらないならこういう輩は割りと好きです
>raichouさん
へえ、そんな人がいたんですか?面白いですねえ。
確かに見た目だけで判断してはいけないですよね。
バチバチにベテランぽい格好をしてても、中身が素人じゃ同じですものね。
>bmwr1100rsさん
あ、それ、「新婚山行」でしたかね。
あれはブラックな話でしたね。
ほんと命にかかわらないなら、笑い話ですむんですけどね。
こんにちは,donburiさん。
>スーツにショルダーバッグ、ビジネスシューズをはいて登っている
私も見たことあります
場所は全く違う場所でですが,ちなみに鞄はキャスター付きの旅行鞄でした
登り始めたら止められなかったのでしょうねぇ〜
初めてだから出来た偉業でもあると思うのですが・・・
某山小屋バイト時に会った彼女たち・・・
きっとその後は知識も蓄え,今でも山を楽しんでいると思います。
そう願いたいです
>kayo-piさん
ホントですか?
案外同じ人だったりして!
あ、でも私が目撃したのは20年以上前の秋の槍沢ですから、やっぱり別人かな・・・。
あの今はおばさんになっている「女の子」たち、そうだったらいいですね。ヤマレコに入ってたりして(笑)
残念ながら別人と思われます・・・私が出会ったのは2年位前の金華山で馬の背コースと呼ばれているところです。看板には“最短コースで20分で登れる”と書いてあるので“それくらいなら・・・”と登り始めたのでしょう。20代後半くらいの男性でした
私は当時4歳の“おサル”を連れて崖登りのあるこのコースを50分かけて登っていたのですが,そのサラリーマンの方を抜いたり抜かされたり・・・でした
瞑想の小径と馬の背の分岐点から直ぐの所に崖登りがあるので,この時点で諦めても良さそうなのですが,最後まで登りきっていましたねぇ〜
これって山であった不思議な話・・・夏の寒くなるような話でしょうか???
多少山に知識のある方なら,このコースをスーツでは登らないでしょう・・・出張で時間潰しと接待の下見?!と言ったところなのでしょうが,知らないから出来た偉業だと思います。
金華山なら“有り”かもですが,流石に槍では・・・
>kayo-piさん
こんばんは。
面白い人がいたものですね。
私も出張でもしそういうところに来て、「最短20分」とか書かれていたら、登っていたかもしれません。いや、その日もう仕事がなくて、宿に帰って寝るだけだったら確実にそうしていますね。
あれ?それってもしかしたら私?
いやいや、金華山って行ったことないです。(笑)
こんばんわ、donburiさん。
私は今春、中央線沿線の倉岳山(990m)でネクタイを
して登ってくる人に遭遇しました。
こういうのを“正装登山”とでもいうんでしょうか?
まあ、標高が1000mに満たない低山ならばこちらとして
も変わった人がいるなぁぐらいであまり気にもとめないんですが。
最近は山にもいろんな人がいるんですね。
>siriusさん
こんばんは。
あれー、そういうの今流行っているのですかね?
面白いことですね。
なんせ、どちらにしても、無事に登って下りてこれたらいいわけですものね。
高校生の頃、修学旅行で上高地に行ったのですが、河童橋から向こうは別世界なのだ、と思っていました。
長野あたりに出張できて朝から1日空き時間ができたりするとすれば、スーツで上高地から行けるところまで歩いてみてやろうか!という気になるかもしれませんね。
そんなことしてる内に止められなくなって気づいたら槍沢、だったりして、、、何かありそうな気がしてきました。
昔、どこかの大学生が就職記念に秋の北アルプスに行くのにザックにリクルートスーツを忍ばせて山頂で着替えて記念写真を撮ったという話を聞いたことがあります。
そういえば、大昔の登山家は正装で山に登っていましたよね(靴は別として、上だけだっけ?)。
>bokemonさん
おはようございます。
昔の登山家の衣装は、完全に洋服ですよね。
デザインのバリエーションに限りがあったんでしょうね。
登山ウェアは進化したものですね。
かわいいデイパックに、キュロットスカート、スニーカーといういでたち>
私も学生の頃は同じ感覚でしたよ。
19歳の夏に北京の知人を訪問する目的で、香港から単独10万円で40日間中国旅行をしました。
中国四大仏教名山に、普賢菩薩の霊場とされている峨眉山(3099m)があります。
四川省にあるこの山に昔はゴンドラなどなく、登山口である報国寺(標高550m、昔は宿坊として宿泊可能)から登山開始、当時の私のいでたちは、デイパック(着替え用半袖1枚、ペットボトル500mlを2本)、半袖Tシャツ、ジーンズ、スニーカーという軽装で、今振り返ると、どう考えても「若い」からなせた標高差2549mの登山だったとつくづく思います。
朝7時に報国寺を出発、途中山の中腹にある食堂で中華料理を食し、ここで温かい烏龍茶をペットボトル2本分ゲット、150人~200人を抜き頂上まで誰一人抜かされる事なく午後6時に峨眉山金頂(山頂)の山小屋に到着。
山小屋は一番安い2千円台のところを選択、山小屋と言うより馬小屋に近く、藁の上で寝るといったものでした。
今思うと、「少しの水」で、3000m級の山を「半袖」で、靴は「スニーカー」で、登山道の石段も「数段飛ばし」という登山の仕方で、若い時はいくら痩せていてタフだったと言えても、よくこんな登山をしたものだと自分ながらにびっくりです。
若いっていいですね。
>amanさん
おっしゃる通りです。
やっぱり若さですね。
それにしても標高差2549M、朝7時から午後6時までの強行軍って凄いです。
強行だとは学生の時思っていませんでしたよ。頂上に着いた時もまだまだ相当体力がありました。
それに中国の山は人が多く、それがけっこう安心安全に繋がります。
登山道は、万里の長城を造る中国人でしかできない程よく整備され、それが安全に繋がりますし、この山に登ってびっくりしたのは、なんと駕籠屋がいるんですよ。
いくらなんだろうと興味を抱いて、「頂上までいくら?」って聞くと、当時のお金で日本円にしてなんと100万円。
駕籠に人を乗せ運ぶ方も運ぶ方、これがいわゆる中国武術「峨眉派」の一派なんだろうか、こんな骨皮人間見たことないと驚かされ、
乗るのも乗る方で、掴みどころは頭の上に垂れさがっている1本の紐だけ、傾斜は相当厳しく、絶対乗っていられる角度ではないのは一目瞭然、人に命を預けるなんてあり得えず、よくこんな商売が成り立つなと吃驚。
こんな商売が成り立つのも人口の多さ、登山人口の多さです。
新穂高温泉や上高地から槍ヶ岳山荘までいく駕籠屋がいたらびっくりですもんね。
当時私の体重は69kgした。ああ、あの時の体重に戻りたい!><
>amanさん
やっぱり若いっていいですね。
凄いです。
駕籠屋さんのお話も驚きました。
中国へはいちども行ったことないので。
面白い国ですね。
この日記が目に入りまして・・・
以前熊野古道を歩いた時です
前のおじさんの(ワタシはおばさんですが^^:)
足元が・・・
革靴にジーンズでした
キツイ山ではありませんが
びっくりしました
to-mocoさん、こんにちは。
革靴にジーンズ・・・・。
山でなくても、ハズしたコーディネートですね。(笑)
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