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2010年07月11日 07:28未分類全体に公開

余は如何にして登山愛好者となりし乎

本棚の奥から、思いがけず懐かしい本がぺろっと出てきた。1963年発行、日本山岳会編『登山』。ベースボール・マガジン社の「スポーツ入門双書」の一冊として出版された山登りの入門書である。サブタイトルには「あなたもすぐれた登山者になれる」とある。定価は200円。
そうだった、そうだった。私はじつをいうとこの本を中学生のときに読んで、登山を志すようになったのだ。
もちろん、どうせマンガかプロレス雑誌を立ち読みしに入った本屋で、この本に目がとまりそれを買って帰ったということは、その時点ですでに何となく山に興味を持っていたからだろう。それまで何度か学校の遠足とか、子供会の行事とか、友だち同士とかで、六甲山のハイキングへ行ったことがあり、漠然と「ああいいな」ぐらいは思っていたはずだ。
その「何となく好き」に、明確なカタチを与えてくれたのが、この本だった。ひさしぶりにパラパラと目を通してみたのだが、この本は、なるほど私のような中学生をそういう気にさせる力を確かにもった入門書だったのだと思う。200ページに満たない薄い本なのだが、登山の歴史にはじまって、装備、食料、気象、歩行技術、山での生活、遭難対策まで、幅広い項目について手際よくまとめられている。どの項目についても、ポイントだけが述べられているのだが、(加藤周一さん的にいうと)しかし、それだけではない。
おそらく執筆陣は、当時の日本山岳会のバリバリのメンバーだろう。知識、経験、技術ともにハイレベルな登山家たちが、若者に向けて、登山のすべてを(紙数の制約ゆえ)ギリギリに絞りこんだ簡潔な言葉で語る。その語り口の緊張感や、語りきれないもどかしさなどが、行間からにじみでて、私のような中学生にも伝わったのだと思う。
たとえば、この本は「まえがき」でいきなりこんなことを言う。
「8,000mの高峰を登る熟達のクライマーと、これから日本の山を登ろうとする若い登山者とを比較するとき、その心情においては何らの相違も見られない。日本の草山歩きは、そのまま氷雪の高峰につながる道である。それがスポーツ登山というものだ。」
どうだろう。なんともワクワクしてくる文章ではないか。つまり、この本は、読者として想定している中高校生をなめていない。真剣に読者に向き合って、真剣に登山を指導しようとしている。しかも、その指導のゴールに置いているのは、(この本の中には出てこないが)8,000mの氷雪の高峰だ。志が高いのである。
この本のおかげで、私は高校に入学してすぐ山岳部に入り、それから今日まで細々と山登りをつづけている。若いときに、良い登山入門書に出会えて本当に良かったと思う。あれからもう40年。私はいまだに「日本の草山」でうろうろしているけれども。
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コメント

RE: 余は如何にして登山愛好者となりし乎
こんにちは

>「8,000mの高峰を登る熟達のクライマーと、これから日本の山を登ろうとする若い登山者とを比較するとき、その心情においては何らの相違も見られない。日本の草山歩きは、そのまま氷雪の高峰につながる道である。それがスポーツ登山というものだ。」

たしかに志のある鼓舞される数行ですね〜。背中を押されて四十年ですか。わたしはまだ緒についたばかりの若僧だなあ。仕事も山も、まだまだです。
2010/7/11 9:40
RE: 余は如何にして登山愛好者となりし乎
>oracionさん

こんにちは。
いいでしょう?この書き出し。

40年も山登りやってますけど、全然進歩してません。
「継続は力なり」というよりも、「参加することに意義あり」の気持ちでだらだらと続けている感じですね。
2010/7/11 10:49
RE: 余は如何にして登山愛好者となりし乎
中学生の頃にこんな本に出会えたわけですね。

私は小学生の頃、国語の教科書で読んだ屋久島の物語(以前の日記でこのことを書いて「片耳の大鹿」という物語であることが判明)で屋久島に高い山があることを刷り込まれたのと、高校時代に図書館で借りた東大のバルトロカンリ遠征記録や、日本の山を紹介する本で農鳥岳の記述が妙に印象に残ったことが、大学入学時にキャンパスで誘われて山の世界に入ってみようと言う気になった原因であると思います。

私は直接に登山そのものを啓蒙する良書に逢えなかったためか軟弱部員であり続けてしまいましたがその点は今思えば誠に残念なことだと思っております。

でも、donburiさんに出会えたし、屋久島にも南アルプスにも行けたし、良かったと思います。
2010/7/11 21:00
RE: 余は如何にして登山愛好者となりし乎
>bokemonさん

山好きになるきっかけは人それぞれですね。
直接的には実際に山に登ってインスピレーションをうける、というのが決定的なんでしょうけど、それまでに本で読んだり、人の話を聞いたりといた情報のインプットもたいそう下地になっているような気がしますね。
2010/7/12 11:20
RE: 余は如何にして登山愛好者となりし乎
…一瞬耐えたんですが駄目でした。

次日記の
『槍ケ岳は…』の女性の件で胸が熱くなっていて、
続けざまに

「8,000mの高峰を登る熟達のクライマーと、これから日本の山を登ろうとする若い登山者とを比較するとき、その心情においては何らの相違も見られない。日本の草山歩きは、そのまま氷雪の高峰につながる道である。それがスポーツ登山というものだ。」

を読んでしまい、あえなく落涙…。

熱いですねー。凄く熱い。
なんて格好良い素敵な文章なんでしょう。

donburiさんの日記では、
(いろんな意味で)本当に素敵な文章を読ませて頂き、感謝深謝です。

お礼に今度、八甲田の…(以下自粛)
2010/7/18 15:50
RE: 余は如何にして登山愛好者となりし乎
>takecさん

ありがとうございます。
うれしいです。こちらこそ感謝です。
昔をふりかえる後ろ向きな日記が多いのですが、
また読んでやってください。
2010/7/18 17:32
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