37名の乾燥死者を出した鵯越第5小学校暑中行軍隊の遭難事件は、日本国中を震撼させ、マスコミは、連日このニュースを熱狂的にとりあげた。なかでも、テレビワイドショー番組の取材合戦はすさまじかった。TBSの人気番組「びのもんたの朝ドバッ!」は、遭難発生2日後の朝の放送で瞬間最大視聴率70%超を記録。それは、ちょうど第1次救助隊の森田険作隊長へのインタビューを現場から中継していた時であった。(ちなみにこの際、取材リポーターとディレクター、カメラマンの3名が、「教師に対する不敬罪」の現行犯で、神戸市教育委員会憲兵隊によって逮捕された)
当初、世論は「朝礼で立ちくらみを起こさない強靭な児童生徒をつくるための教育訓練研究」を目的としたこの暑中行軍の無謀さへの批判に傾いたが、それに対する文部科学省の対応はじつに素早かった。時の文部科学大臣・児玉源次郎は、矢継ぎ早に特例措置を打ち出し、人心の平定をはかった。
「今回の遭難死者児童は、国家のために命を捧げた軍国小学生の鑑であり、3階級特進で全員東京大学法学部卒業の学位を授与する」
「遭難死者の遺族には、別途定める規定により遺族年金を支給する」
「生存者の治療費は全額国が負担し、万が一障害が残った場合は特別年金を一生涯にわたり支給する」
「遭難現場に慰霊碑もしくは記念碑を建立する」
などの特例措置である。
これにより、遺族はもちろんのこと、多くの国民は納得し、この遭難は異常な暑さによってやむなく起こった「災害」との認識が共有されていった。
7名の生存者は、神戸大学医学部付属病院に入院し手厚い治療をうけた。だが、乾燥症状が重篤だった5名は、退院後も「半ナマ」(もしくは「ナマ乾き」)状態を一生ひきずることになり、数時間おきに頭から水をかぶって水分を補給せねばならないという不自由な生活を余儀なくされた。
行軍隊の指揮系統に乱れを生じさせ遭難の原因をつくったと当初一部で非難された、随行大隊本部の山田教頭は、比較的症状が軽く、3ヵ月ほどで退院し、責任をとって教頭職を辞職。一時は自殺を心配する(というか、期待する)声も周囲にはあったが、それはまったくの杞憂におわり、その後、「神戸市学校給食向上連絡協議会」「神戸市青少年精神鍛練センター」「神戸市ジャングルジム安全推進協会」の役員・理事等に天下り、4回退職金をもらって、悠々自適の老後生活に入った。
鵯越第5小暑中行軍隊と同時期に菊水山を踏破し、無事に行軍を終えた布引第31小学校暑中行軍隊の隊長・徳島教諭は、この時の実績を買われ、翌々年に大阪は天王寺公園で開催された「小学生朝礼立ちくらみ耐久戦世界大会」に、日本代表の監督として精鋭部隊をひきいて参戦。決勝まで進み、強豪・赤道ギニアの小学生部隊と、三日三晩飲まず食わずの激戦を繰り広げ、見事日本を勝利に導いたが、その授賞式の直後、乾燥死した。
菊水山頂上直下のNTT作業道路には、立ったまま仮死状態で発見された江藤図書委員の銅像と遭難記念碑が建立された。ここは観光スポットとなり、「銅像茶屋」もオープンし、多数の観光客を集めにぎわったが、NTT西日本との土地賃借問題がくすぶって、後に銅像も記念碑も茶屋も撤去された。
暑中遭難事件のすぐ後から、これをモデルにした小説、映画、演劇、マンガ、歌、ゲームなどが多数発表された。そのなかでも、東宝が社運をかけ巨額の製作費を投じて完成させた超大作映画「菊水山 ザ・ムービー」は、観客動員数1000万人を超える大ヒットとなった。この映画の監督・木村小作は、C.Gを一切使わないオール実写撮影を目指したが、現地の菊水山での撮影許可がどうしてもおりなかったので、やむなくニューギニア島など南太平洋の島々の山岳地帯でロケーションを敢行。撮影中にスタッフ、出演者から5名の乾燥死者を出したことが、映画の宣伝効果を高めたと言われている。
なお、よく知られているように、山岳小説を得意とする作家・新田次郎の「八甲田山死の彷徨」は、この菊水山暑中行軍遭難事件を、舞台を明治時代におきかえて執筆したパロディ作品である。
完成お疲れ様でした。
アップする度に何度も言われて、もう聞き飽きたかもしれませんが、
とにかく面白かったです。
新田次郎氏がパクりたくなるのも当然かと。
donburi先生には、面白い作品を読ませて頂いたお礼方々、
今度、接待登山にご招待させて頂きたいと思っております。
八甲田山に評判の山ホステスが居るらしいのでそちらにでも如何でしょうか。
えっ源氏名?もちろん江藤さんです。
いつでも立ってお出迎えしてるくれると評判なんですよ。
>takecさん
長らくのご愛読ありがとうございました。
え?接待?
しっ。そんな大きい声で・・・。
困るじゃないか、君。
僕はそんな・・・。
え?八甲田の江藤?
ふんふん、なるほど・・・。
(以下省略)
いよいよ完成ですね。さすがです!
真夏の菊水山、本当に乾燥死しそうな気がしてきました。
梅雨明け後の太陽ギラギラ照りつける8月上旬の昼下がり、ザックにテントと石を入れて歩荷訓練なんていかがでしょうか?手には「剣菱」の一升瓶を持って、、、
>bokemonさん
真夏の菊水山の登りは、マジで地獄です。
歩荷には最適です。
僕はいいので、あなた、石入れて歩いてください。
まあ、35キロにしといてあげる。
冷たい水とか冷えピタクールとか持って、つきあってあげるから。
ケンビシは僕がもってあげるから。
いやあ!何か本当に六甲を歩きたくなりましたよ。
とはいえ、今の時期はやめときましょう。
本当に死にます。
春、秋、冬ですな。六甲は。
長編ブラックパロディの完結お疲れさまでした!
最後の締めくくりいいですね。
「なお。。新田次郎の。。。パロディ作品である」
作家dounburiの
愛読者より
donburiさん、こんばんは。
「菊水山死の彷徨」もついに完結しましたね。お疲れさまでした。ずいぶん笑わせてもらいました。貴兄の発想の豊かさに感服です。
又いつの日か楽しい次作がでればと思います。
では、又。
>bonbonmaruさん
ご愛読ありがとうございました。
最後のくだりは、新田次郎ファンに叱られそうですが、私も先生の作品の長年のファンですので、同好のよしみで許してもらおうと思っています。
>silverstarさん
ありがとうございます。
いつも温かいコメントを寄せていただき、励みになりました。
次は・・・どこの山岳会やサークルにもいれてもらえず、生涯単独行者として六甲山を歩きつづけた、あの不世出の登山家・加藤ポン太郎をモデルにした「孤立の人」という作品の構想を練っているのですが・・・。
エピローグで児玉源次郎が登場したので、もしかして次回作は「坂の下の沼」でも?と思っていました。
もちろん登場人物は、泥沼子規・春山兄弟などなど。
でも、やっぱり山ですよね。六甲山=加藤ポン太郎=孤立の人、期待しています。
おお、「坂の下の泥」は強烈ですね!
全国の司馬遼太郎ファンを敵にまわすことになるではありませんか!ドキドキ。
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