もういつもいつも昔の話ばかりで、我ながらいい加減うんざりするが、今日は、昔の山ヤは、ラジオの気象通報を聴いて天気図を自分でつけていた、というお話。
私がいた高校の山岳部は、常日頃は馬鹿みたいにランニングをしたり、キスリングに石をつめて六甲山を歩いたりしていたけれども、月に一度だったか二度だったか、「座学の日」があった。地図の読み方とか、天気図の書き方なんかをみんなで「勉強」するのである。
天気図の日は、カセットレコーダーに録音したNHKの気象通報を聴いて、白紙の天気図に記入し、それを見て天気の予報をする。私はバリバリの文系だったので、これがいたって苦手だった。それでも、いい加減にやってると、先輩に「アホ、カス」呼ばわりされて叱られるので、家で夜にラジオを聴いてよく練習したものだ。
しかしながら、あれはいつだったか、学生の時だったかもう社会人になっていたか、北アルプスへ行って、まあその時もテントの中で天気図を書いたのだが、テント場のそばの山小屋に夜フラッと入ったら、なんとそこにはテレビがあって、ちょうどNHKのニュースをやっていて、「明日の長野県南部は晴れ時々曇り、山沿いでは雷雨があるでしょう・・・」なんて、キレイな天気図をバックにアナウンサーがしゃべっているではないか。
(なんや、テレビ入るやん。天気予報、やってるやん)と、私は思った。(これ、見たらええやん。情報も新しいし)と。徒労。とまではいかないが、なんとなくガックリきたのをよくおぼえている。
しかしながら、よく考えてみれば、今やそれどころの話ではなく、携帯の電波が入るところであれば、手持ちの端末でインターネットにつないで、天気図はおろか、雲の動きの衛星画像までリアルタイムに見ることができる。しかも、カラーで。誠に便利な時代になったものである。隔世の感あり、とはこのことだ。
だいぶ前、ちょうどモバイルコンピューティングなるものが普及しはじめた時、「BE-PAL」という浮ついたアウトドア雑誌で、「キャンプにノートパソコンを持って行って仕事をこなす」みたいな見出しの、(おそらくはパソコンメーカーの)編集タイアップ記事がでていて、それを見て、思わず大木こだまさんのように「そんな奴、おれへんやろ〜」とツッコミを入れてしまったが、今やそんな私でさえ、iPhoneという機械をもって山に登り、時々仕事のメールをチェックしていたりする。やれやれ、(目くそではなく)鼻くそが目くそを嗤っているような事態となってしまった。(意味不明)
しかしながら。再び、しかしながら。である。
あの、夜テントの中でヘッドランプの光を頼りに、ノイズまじりのラジオから流れてくるNHK第二放送の気象通報を聴きながら天気図をつける、あの行為は、あの超アナログな営みは、あれはあれでなかなかに「いとをかし」であったことよ。
淡々と各地の気象情報を読みあげるアナウンサーのあの声。「テチューへ」とか「ウルップ島」とか「モッポ」とか、遠い遠い、聞きなれない観測地点の名称。
あのアナウンスが淡々とつむぎだす「言葉」には、それを聴く者のイマジネーションを喚起してやまない、何か妙にひっかかる「何か」があったのではないだろうか。
たとえば、アナウンサーが「船舶からの報告」で読みあげる、「南支那海の北緯○○度、東経○○○度では、○○の風、風力○、霧、○○○ミリバール」なんてのを聴くと、その観測を打電した貨物船だか漁船だかしらないが、今まさに霧におおわれた南支那海を航行する船の小さな小さな紅い灯が目に浮かんできたりした。あるいはまた、国内外各地の観測地点からの報告のところで、「ウルップ島からの入電はありません」、そんなふうに淡々と言われると、(え?ウルップ島の観測所に一体何があったのだろう?もしかして、吸血鬼ゴケミドロや遊星からの物体Xみたいな侵略者に襲われて、所員が全滅したのではあるまいか?)などと妄想をふくらませたものである。
そういう楽しみも、あの「テントの中で気象通報を聴きながら天気図を記入する」という行為には確かにあったわけで。ああ、これもいずれ「逝きし世の面影」のひとつになっていくのでありましょうか。
donburiさんこんにちは
ラジオは不思議な魅力を持ちますね。冬山の停滞中などに繰り返し聞いたその気象通報の声を聞くと、何もかもオートマティックに思い出しちゃったりします。濡れたシュラフの尻のあたり、痒い頭、カレー雑炊の匂い、ローソクの灯りで輝くイグルーの雪の壁の匂いなど。
ウルップ島は、全島縦走スキー登山計画を大まじめに検討した(今も)ことがあるのですが、ほとんど無人島で、軍(国境警備隊)の飛行場が島の北東部にあるだけ。気象台は確か90年代後半以来入電無しが続いています。ソ連時代のほうが真面目にやっていたみたいです。
ああ、ヨットで着岸、スキーで全島縦走したいなあ。
yoneyamaさん
おお!yoneyamaさんも、ラジオの気象通報にそんな思い入れをもっておられましたか!
そうですよね、テントの中の情景や何か感覚みたいなものが、あのアナウンスにはこびりついていますよね。
ウルップ島のスキー登山計画って凄いですね。
憧れてしまいます。
おはようございます。
テント張ってからの午後4時の気象通報、儀式でしたね。天気図を見ながら明日の予定について議論?する。
山で天泊したら天気図をつけたい、と思って小型ラジオと天気図を購入しています。天気図帳はアマゾンで購入しました。都会の大きい山屋さんにはおいてあったような気がします。
bokemonさん
天気図、買いましたか。
さすがbokemonさん。アナログ登山者のDNAがまだ生きておりますね。
天気図の白帳、ありますね。
私もまたやってみようかな。
donburiさん、こんにちは
私も泊りになると、ラジオと天気図は持って行ってます。それとサン●リー、レ●ド(笑)、だからと言って天気が予測できるわけではないですが、良さそうとか、悪そうのレベルです 、私も前に日記で書きましたが観測地点の名前が数か所変わっていたり、済州島(サイシュウトウ)がチェジュトウと現地名に変わってたりします。
araigengaさん、こんにちは。
確かにあれだけで天気の予測は難しいですね。
「良さそうとか、悪そうのレベル」・・・私もそうです。
しばらく気象通報を聴いていなかったのですが、
さっきウィキペディアを見たら、おっしゃる通り
観測地点の名前が変わっていますね。
これも歳月の移り変わりやなあ・・・。
donburiさん初めましてこんばんは
私も、株式会社クライムのラジオ用小型天気図帳を持っていますが、なかなか使用する機会がありません。
というより、現在の数値予報が主体の天気予報では、地上天気図だけの気象通報では、情報が足りずに、むしろ山行前に入手した数値予報図のほうが予報の役に立つような気がします。
それよか、i-pad片手に「専門天気図」眺めた方がどれだけ役立つかわかりません(´。`) って持ってませんが・・・
その昔は、今はなきラジオ短波の高層気象で、イルクーツクと言う地名でさっと緊張したのを覚えています。
高層気象の読み上げ速度の速さは、気象通報の比ではありませんでしたから。
気象通報は、4時テン場が間に合わずに、歩きながら書いたこともありました。本当に、気象通報とテントは私のイメージの中では強く結びついていて忘れられない思い出です。
marunaさん
初めまして。
そうなんですか。
私はエラそうなこと書いていますが、いまだに気象についてはよくわかっておりませんので、たいへん参考になりました。
ラジオ短波の高層気象というのもそういえばありましたね。
天気図を歩きながら書かれたとは・・・!
驚きました。
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