万国の貧乏登山者よ、団結せよ。とはいえ、である。本当に貧乏な人は山登りなどできるのか?という疑問をお持ちの方もいるだろう。たしかに、山登りは手間と暇のいる遊びであって、明日の飯代にも困っているような極貧の人々には縁遠いものと思われるかもしれない。しかし、である。いかに極貧の人だって飯を食わねば死んでしまうわけで、いま現在生きている以上、なにか飯も食い水も飲んでいるだろう。彼らは家のなかであれ路上であれともあれ街で飯を食い水を飲んでいるのだろうが、つまりその生存のための飲み食いの場を街から山に移すのだという考え方でいくと、彼らにだって山登りはできると主張することはできないだろうか。極端な話、街をうろつくホームレスも山をうろつくホームレスも、ともに極貧のホームレスであることにはちがいないが、それでも後者は山登りをしているといえるのである。
昔北アルプスのとある山小屋のオヤジから聞いた話だが、北アルプス全域を渡り歩いている山好きの乞食がいるという。彼は古いテントをはじめ基本装備はひととおり持っており、山小屋やテント場で、人から残り物の食糧や燃料をめぐんでもらい、一切金を使わず山から山へ縦走しているのだという。「もとはただの登山者だったんだがよ、だんだん山をおりて家に帰るのが億劫になって、山に居ついてしまったんずら。きっとよ。だで、はなっから乞食でもないわけだが、ま、しかし、やっぱり今となっては乞食ずらね」。オヤジは淡々とそう話した。「そいつは今はここにいるよ」
翌朝、小屋を出発するとき、オヤジが教えてくれた。「ほれ、あそこ見なさい。あの男。あれが昨日言ってた山乞食ずら」。オヤジが指差す方を見ると、小屋の前に広がるテント場、十数張りはあっただろうか、色とりどりのドーム型テントが立ち並ぶその一角、とあるテントの前に、髪の毛も髭もぼうぼうの年齢不詳の男が立ち、テントの住民から何やら食糧が入っているとおぼしきスーパーのポリ袋を受け取るその瞬間が見えた。男はさほど卑屈そうな感じではなく、髭の中から白い歯を見せて笑い、軽く頭を下げていた。テントの住民もそれにこたえてニコニコうなずいている。オヤジが言った。「なーんにも悪さはしないんでね。わしらも見て見ぬふりをしてるだよ」。
この山乞食は極端な例だとしても、ほとんど金がなくても山登りは楽しめる。交通費がもったいないなら、極力家から歩いていける山へいけばいい。そう言えるのは、街のすぐ背後に六甲山がそびえる神戸に住んでいるからかもしれないが。東京や大阪だと、全徒歩で、というのはちと現実味がないかもしれない。しかし、東京でも大阪でも片道数百円も出せば、いちばん近くの山系の登山口までいけるではないか。
格差社会が進行し、新しい貧困層が増えるなか、私としては貧乏人にもっともっと山にきてもらいたい。
donburiさん、はじめまして
今でこそ、ホームレスとかニュースでもやってますが、昔はニュースにも載らない人がたくさんいたし、みんな暗黙の了解みたいなのがあったような気がします。また乞食とは違うと思いますが、山里や河原で暮らしている山窩(さんか)という人たちがいたという話を読んだことがあります。彼らは戸籍も持っていない人たちだったとか
こんばんは。
そうですね。昔はけっこうホームレスとなって山で暮らしていた人がいたのかも知れません。山窩はとうに居なくなった、いや未だいるなどという説もありますが、昔から山は世の中で疎まれた人々を向かえ入れる奥深さがあったのでしょうね。
山窩については「サンカの真実 三角寛の虚構」筒井功 文芸春秋(新書)が面白かったです。
でも、山乞食の話は究極の山好きの形として、惹かれる話ですね。真似をしろと言われると難しいけれども。
特に、六甲などは暮らすのには条件が良いかも知れませんね。街が近いし、登山者も多いし。それに比べて地方は厳しいかもしれません。人も少ないし。ただ、過疎地に暮らすのであればやりようと性格(話上手であるとか)によっては成り立つこともあるかもしれません。
この不景気の時代お金が無いから山に行っている人もいますよ。
マクドも無ければ、吉野屋も無い。行ってしまえばいくらお金を持っていても使う場所が無い。(六甲山を除くガーデンテラスお金掛かりそう)
趣味と知識があれば食材の宝庫、ミネラルウォーターも飲み放題、持ち帰り放題。
>araigengaさん
「山窩」の人たちは戦前までいたらしいですね。犯罪者集団と見られたり、差別されたりしていたそうですね。昔萩原健一が主演した「瀬降り物語」という映画もありましたね。
>bokemonさん
たしかに六甲山は山乞食やるには絶好のフィールドかもしれません。仕事にあぶれ、妻子にも捨てられたら、そうしよかな。
>kidekiさん
仰る通りですね。私は若い頃北アルプスの山小屋でバイトしたことがあります。確か日給わずか2500円だったと思いますが、なーにもお金をつかうことがないから、そっくり貯まってトクしましたね。
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