この日記に興味をもたれた方、下記のURLで先頭よりお読みください。
http://www.yamareco.com/modules/diary/5906-detail-102398
加藤文太郎氏が剣沢の小屋で「案内者を雇うお金がおしいなら山に登らないがいいでしょう」と追い返されたのは昭和5年正月の話。今から85年前です。今の常識では考えられないあしらいだと感じる向きが多いでしょう。5万分の一地図は持って行ったのは確実(単独行の”一月の思い出”に地図は登場しないが、前年の八ヶ岳には記載がある)ですが、案内人は連れていませんでした。五万図「立山」の初版発行から約16年後。多分、加藤氏は、国道歩きから始まって5万図に親しんだ、初期の人々に入るでしょう。
これまた穿った見方かもしれませんが、当時、登山には案内人を連れて行くのを、まだ常識とする人々が残っていたように思えます。そういう人から見れば、加藤氏は非常識な登山家に見えたのではないか?。つまり、当時、「登山には地図を持っていく」と「登山には案内人を連れて行く」の常識の端境期だったんじゃないか?と言う気がします。追い返される前の加藤氏の行為が、非常識な奴と思われるのを助長したようですが、根底にそのような意識がなければ、前述の物言いはなかったように思えるのです。
伝説の案内人、嘉門次や小林喜作氏が亡くなったのは大正期。最後の伝説の案内人、内野常次郎氏が亡くなったのは昭和24年。享年65歳。秩父宮殿下を穂高に案内したのは昭和9年ですから、常さん50歳の時。常さんの後には伝説の案内人は生まれませんでした。案内人なしで登るのが一般的になったという事なんでしょう。
山渓の創刊は昭和5年。地図が入手できるようになって15年後ほどの頃です。創刊号の登山案内を見ると、そのルートの5万図名が記載されています。5万分の1地形図が流通し始め、一々案内人を頼まなくとも登れるという状況が、登山人口の増加に拍車をかけ、山渓のような雑誌が経済的に成り立つようになったのは間違いありません。5万図の整備は登山者を意識したものではありませんが、「登山には地図を持って行く」のはこの辺りに端を発していると思います。
この辺でまとめると、以下のように言えると思います。
日本全国山岳地域の五万図が入手できるようになったのは大正初めから大正末期にかけて。それ以前の日本全国地図は明治26年整備完了の輯製20万分の1図が最大縮尺だった。今から100年前が大正4年。その頃には本州の主要な山岳地帯でも5万図が手に入るようになった。日本全国どこでも入手可能になったのは大正末期。今から90年ほど前。登山に地図を持っていくのが常識化したのはそれ以降。そして85年前には案内人を頼まなかった点を非難された登山者がいた。多分、90年程前の昭和初期が端境期で、その頃は5万図が整備される前の常識も混在していた。その後、地図派が優勢になり案内人を頼むのは限られた一部となって行った。「登山には地図を持っていくもの」が完全に定着したのは戦後の話ではないか?。とすれば、70年を越える事はない。昭文社「山と高原地図」は51周年。昭和40年には「地図を持って登るのが常識」が成立していたと記憶している。「登山には地図を持っていくのが常識」という常識は、おそらくは70〜90年程の歴史。100年前は常識でなかったのは間違いありません。(もっとも、今でも、この常識が”完全”に定着しているのかと言われれば……ですが。)
さて、「登山にはGPSを持って行くのが常識」という時代が来るのでしょうか?少なくとも私は使う気はありませんが……。今はまだ大正かな?
長々と付き合って下さった方、どうもありがとう。
今回の日記、大変興味深く読ませていただきました。
新田次郎氏の「劒岳・点の記」を読んだ時に地図を作成する際の大変さを知りましたが、多くの人達と時間をかけて地図が作られていたのですね。
ウェストン卿が上條嘉門次氏を案内人に頼んだのは、まだ地図が作られていなかった事も理由の一つなのですね。
読図は高校生の時に部活(地学部)の先生に教わったきりで、かなり怪しい状態です。
今までは、GPSと併用して何とかなってきましたが、この辺りで改めて勉強し直そうと思います。
力作、ご苦労様でした。興味深く読ませていただきました。
ところで、ヤマレコの日記で表示される一覧は、同一人物が複数書き込んだ場合は最新の1件しか表示されません(「全ての日記を表示」に切り替えれば見ることが可能だがデフォルトはそうなっていない)。つまり、ごく普通に日記を見ると「地図と登山シリーズ」の最後のその6しか表示されません。最後を読んだだけでは全体の流れが掴めないので、皆さんにもその1から読んでもらいたいですが、たぶん表示のさせ方が分からない人が多いかと思います。そもそもシリーズものって気付かない人がいるかもしれませんし。
それをお助けするためにこの記事にその1〜その5のリンク先を貼り付けるといいかと思います。
たぶん「登山にはGPS(スマホ)を持って行くのが常識」の時代はやってくると思います。現状、登山者でどれほどの人が紙地図を持ってきて、そのうち実際に読図ができるのか考えてみるとごく少数だと思われます。読めない地図を形式的に持っていくよりもスマホ+ナビアプリの方が実用性はずっと上ですしね。道迷いによる遭難には効果絶大かと思います。
という私はスマホは持ってませんし地図表示可能なGPSも持っていません。道が無い籔山でも紙地図による読図で歩いています。今のやり方で不自由はないし、電波の受信状況によるGPSの誤差や電池切れの心配はないですし、よほどの理由が無い限りは今のスタイルを変えることはないかと思います。時代に逆行しているなぁ
toradangoさん、こんにちは。
ご指摘ありがとうございます。一応、日記の最後に前後に移るタグがあるので、(その一)のURLだけを先頭に追記しました。
スマホGPSでナビしてもらえるようになれば、かなり普及するとは思いますが、山中では電池がね。どうなんでしょ。イザと言うときに電池切れでは紙を持ってた方がまだマシですね。専用GPSは高すぎるので多分、コアな登山者にしか普及しないと思います。偶にしか行かない登山の為にウン万円を払う人はそう多くは無いでしょう。
私も2万5千図を見い見い登るスタイルが身についてしまっているので、よっぽどの事が無いかぎり、GPSナビに変える気はありませんが、高度計として使ってます。無線機にGPSが付属していて、現在地を送信する機能が付いているのですが、緯度経度と高度、それと受信しているGPS衛星数を表示してくれます。3個受信は当てにならない。4個受信でまぁ大丈夫。5個以上なら確実。緯度経度は当然(?)マッタク役にたちませんが、高度と地図の等高線&読図で、略ピンポイントで位置確定できるので重宝してます。経験上、谷筋に入ると、余りアテにはなりませんね。
後は、宇宙天気予報に注意した方が良いと思ってます。尾根筋でも全く受信できなかった経験が有るのですが、太陽風と関係がある気がしました。しょっちゅう有る訳ではないので、はっきり判りません。最近さっぱり登ってませんし…。私のGPSがボロいだけかもしれません。今日(8/16)はK指数が高めだったので、今日の記録でGPSロガーの軌跡が乱れている方がいたら、その影響かもしれないという気がします。
まだ、紙の地図ほど安定して使うのは無理じゃないかなと思ってます。
Chilicaさん、お久しぶりです。
剣岳の点の記を見ると「三等三角点:剣岳、選点者:柴崎 芳太郎」と、しっかり名前が残ってました。明治40年7月13日ですね。ちなみに柴崎さんの選点した三角点は他に(全て明治40年)
気和平(早月尾根の1920.9m峰):5月16日
大熊谷:5月17日
真川(称名滝の北の1779m峰):5月27日
松尾(松尾峠):5月28日
称名滝:5月31日
温泉(有峰トンネル上1612.3m峰):6月9日(日曜日)
坐良(鷲岳北東2533.3m峰):6月9日(日曜日)
別山(剣御前):6月16日(日曜日)
倉之助(黒部別山南峰):6月18日
西千人(仙人池東の2173.3m峰):6月21日
西千人の高(坊主山):6月22日
中山(馬場島の南の1255.2m峰):6月23日(日曜日)
赤谷(赤谷尾根の1563.4m峰):6月27日
奥大日(奥大日岳):7月1日
大横手(国見岳):7月1日
西大谷(西大谷山):7月4日
五越続(大観峰駅の北西の2681.2m峰):7月12日
->翌日剣岳へ。
とても全部見きれないのでこのへんで止めますが、剣岳周囲の三等三角点の記を見ると、測量技師ってこんなに過酷な職業なの?って感じです。年寄りには絶対無理。途中でぶっ倒れる。
>多くの人達と時間をかけて
一人が二ヶ月位山の中を、日曜日も休まず歩き回って三角点の場所を決めてました。信じられます?多い日は二箇所ですよ。もちろん人足を頼んだのでしょうけれど。
新田次郎さんの小説では、剣岳一本に集中していたかのようですが、点の記を信じれば、この辺をウロウロして、三角点設置場所を選点しまくっていたようです。剣岳はOne of themだったんじゃないかな?。ちょっと新田次郎さんの小説はイメージが違うような気がします。
ウェストン卿の登った穂高は今の前穂です。一等三角点で選点が明治26年8月1日。選点者は館 潔彦氏。ウェストン卿の「日本アルプス」に書かれている、登頂後に墜落した陸軍省の調査官とはこの人でしょう。落ちたものの無事だったとか。ウェストン卿の登頂は同じ年の8月24日です。三角点選点から三週間しか経ってないので、当然、地図は無いはずですね。
読図は、現在地点が地図上に落とせるようになれば合格です。頑張ってください。
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