北海道日高山脈の西側、静内川、新冠川の上流付近、冠字「表」の二等三角点は大正2年(1913年)に若林鶴三郎陸地測量手が設置したもので、ネット上では全12点中、11点で若林測量官の手による点ノ記が読めます。二等点の点ノ記が、これだけ更新されずにまとまって読める所はちょっと珍しい。(国土地理院のHPから見れるのは最新版のみ。点ノ記自身は永久保存なので、国土地理院に行けばどこでも明治の記録が見れるハズですが。)
で、若林測量官の順路記載がかなり詳細。特に表11号「糸納峰」二等三角点(イドンナップ岳と新冠富士の間)の記載は圧巻。ヤマレコに記録が起こせる位の記述があります。通常の順路記載は2〜3行しかないですが、この三角点ではその10倍近い記載。静内川上流の双川ダム付近から、シュンベツ川に入り、春別ダム付近からイドンナップ川を遡行。上流迄登り詰め、新冠富士の南で稜線に抜け、点に至ったようです。今と異なり、アプローチが大変でその分記載も膨らんだ様子。そのアプローチの記載には、現在使われていない(のかな?)、地図には出ていない地名が出てくるので、ナカナカ難しい。染退川(漢字違うかも)=静内川、染退東川=静内川本流の上流、染退西川=シュンベツ川、農家村=静内農屋でしょう。市父村なんて地図を探し回っても見つからない。ヤマレコには、このルートにトレースは無いですね。今、同一ルートを辿っても、結構「探検」じゃないかな?。
11点全部を読み解くのは結構ホネですが、全部を総合してみるとこの地域の立派な探検記録。100年前のこの地域の様子が垣間見えます。おしいな。こういう記録が埋もれているのは実に惜しい。三角点設置に興味のある方にはご一読をお勧めしたいです。(地図を見比べながら読まないと、何処を通って行ったのやらサッパリ解りません。見比べても、幾つかの点ノ記を読み返して考えないと、該当地名や地形の場所の推定が付きません。これはこれで結構楽しい。)
表3号三角点「勢多牛山」の備考から、丸木舟について。当時、この辺には余り道らしい道に乏しく、主に川を溯った様子で、その時に用いたそうです。アプローチに大活躍した模様。
「丸太ノクリ舟ニシテ幅二尺ヨリ二尺五寸、長サ二間半ヨリ三間位ニシテ、六七十貫目ノ荷ヲ積ミ得。一日ノ借リ賃二十銭位。十日以上ナレバ一日十銭。壱二三ヶ月間ナレバ一日四五銭ナリ。而シテ遡行ハ舟夫三名或ハ四名、下行ハ舟夫二名ヲ要ス。」
一尺=約30cm
一間=約1.8m
一貫目=3.75kg、60貫目=225kgだから大した積載量。
恐らくはアイヌ民族が普通に用いていた丸木舟だったんでしょう。直径70cm程の丸太をくり抜いて5m位の舟を作ったようです。今では林道等が整備され、登山口まで自動車でホイホイ行けそうですが、当時はアプローチも大変だったんですね。道が無いし、あっても自動車なんて無くて馬や牛。小径でもあれば御の字。若林測量官は、文字通り、川を溯ったようです。
イドンナップの南に新冠富士なんて山、以前はなかったと思い、山レコ記録見たら、今は新冠ダムの湖岸から、ここまで道があって、イドンナップに道から登るんですね。道が稜線に出たところに最近名前がついたようですね。
1980年代に道はなく、夏なら沢です。私はポンイドンナップ沢(最高点に南東から直登する沢)からでした。イドンナップ沢も難しい沢ではなかったけど、最高点までの稜線藪漕ぎが長いので、特に行こうと思いませんでした。測量隊は、どこが最高点なのか事前にはわからなかったと思いますよ。僕も行って見て全然わかりませんでした。ハイマツが猛烈で。
10年ほど前ですが、シュンベツ川林道は日高では珍しく車で奥まで行ける道でしたが、今はどうでしょうか。
染退川は、シビチャリ川と読みます。日高の沢名は、その後1940年代まで地図が間違っていたりして、名前の変更もあります。
yoneyamaさんこんにちは。
点ノ記を読んだとき、yoneyamaさんのポンイドンナップ沢の記録も拝見させていただきました。どんな所か興味があったので。
点ノ記には特に書かれていないのですが、設置場所をどのように決めたのか?は興味のある所です。特に北海道山中の地理的知見は乏しかったハズなので、事前の机上検討にも限界があったハズ。点ノ記を読むと二日に一点位の勢いで選点して行っているので、現地でそうそう時間はかけられなかったハズ。這松や熊笹と格闘した記載も良く見ますし、微妙に最高点を外した所に設置されていたりもするので、なんとなく、狙ったあたりの行けた所で大体この辺でいいや的に妥協したような印象も受けるのですが、実際はどうだったのか?
今普通に使っている地図の直接的なルーツの五万分の一地形図全国整備を追っかけて、先人の苦労を偲んでいます。登山者は皆さんお世話になっているハズなので。
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