「ゆるし」の物語です。
雄大な北海道の自然とアイヌに伝わる崇高な精神をテーマにした素晴らしい一冊でした。山岳メインの小説ではありませんが、自分的には心温まる読後感がとてもよかったので、ブックレビューとして残すことにしました。
馳星周というと『不夜城』『アンタッチャブル』など暴力的なイメージが強かったのですが、この作品を読んでかなりイメージが変わりました。
『神(カムイ)の涙』馳星周著
北海道東部に位置する屈斜路湖。アイヌの木彫り作家である平野敬蔵と中学三年の孫娘・悠(ゆう)が暮らす家に、ある日尾崎雅比古(まさひこ)と名乗る男が訪ねてくるところから物語は始まります。男は敬蔵に「自分を弟子にしてほしい」と言い、初めは敬蔵からは煙たがられてしまいますが、敬蔵の木彫りの技術、アイヌの精神に触れて行くうちに益々雅比古は敬蔵にのめり込んでいきますが、この雅比古は大きな罪と闇を背負っていました。
自然を敬いながらも孫娘を大切に思う敬蔵、
アイヌという出自を疎ましく思いながらも敬蔵を想う悠、
自分のルーツと救いを求める雅比古、
三者が複雑に絡み合いながらも、家族との繋がり、大自然への畏敬などが詰まって描かれていて、とても心温まるストーリーでした。アイヌの雄大な自然に対する風習や祈りなどもとても美しく描かれています。物語前半から三者の関係性は読んでいて薄々と予測できますが、その回収のしかたもサスペンスとしては(ソフトですが)良かったと思います。
「人は人を裁けない。
人を裁けるのは自然だけ。
人にできることは"ゆるす"ことだけ」
そこにアイヌの教えの厳しさと優しさを感じることができました。
「自分の正しさ」を証明することで得られる幸せなどは刹那的で幻。本当の幸せは他人も自分も認め「ゆるす」ことで得られるもの。そんな気付きを得られた気がしました。
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久しぶりに良い一冊に出会えました。ジャンルを問わなければ「サピエンス全史 」上・下巻(去年の著書ですが)が今年の自分ランキング一位だったのですが、この作品が見事に覆してくれました。気になった方はご連絡ください。お貸ししますので・・・
評価:★★★★★(星5つ!『春を背負って』以来かなぁ)
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