先日、熊に関する記事を読んでいたのですが、その記事の中で「正常性バイアス」という言葉が出てきました。
聞いたことがあるような無いような言葉ですが、「正常性バイアス」とは、社会心理学や災害心理学などで使用される心理学用語で、 自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価したりする認知の特性を言うそうです。
正常性バイアスの「バイアス」は偏見、先入観、思い込みといった意味だそうです。
少し分かりにくいのでもっと簡単な解説を探してみると「正常性バイアスとは、異常事態が起こった時にそれを正常の範囲内であるととらえる事により、心を平静に保とうとする働き」との事です。
これは日々の生活の中で、様々な変化や新しい出来事に心が過剰に反応することによる疲弊を防ぐ為に必要な働きだそうです。
この「正常性バイアス」と安全登山は何か関係あるのでは?と思ったので「正常性バイアス」「遭難」で検索したところ、沢山の記事が見つかりました。
僕が知らなかっただけで、登山をされている皆さんは普通に知っている事なのでしょうか?
もしそうだとしたら、登山経験の浅い僕は尚更知っておかねばなりません。
情報源の信頼度は測りかねますが、今後の安全登山の為に山における正常性バイアスが働いた時の心理状態を幾つか拾い出し、その時に自分が取っている行動や感じている事を再確認してみました。
◆クマ出没情報を聞いても「この山にクマなんて本当にいるの?いたとしてもこれまで1度も遭わなかったから今回も大丈夫だろう。他の登山者も沢山いるからきっと大丈夫」などと思ってしまう。
登山を始めたばかりの頃は、僕も熊に遭うはずがないと思っていました。
しかし、実際に山の中で沢山の熊の糞を見てからは「熊は身近にいる、何時何処で遭ってもおかしくない」と考えるようになりました。
熊対策に関しては、100%安全な物は無いようですし、個体により対策への反応も違うようなので難しいところではありますが、今は「熊とは遭わないだろう」ではなく「熊に遭わないように〇〇しよう。もしも遭ったら〇〇しよう」と常に考えています。
そもそも、熊のテリトリーに自分から入っていながら大丈夫も何も無いですよね。大丈夫かどうかを決めるのは僕ではなく熊の方だと思ってます。
◆登山経験が長い程、その経験に基づいて状況を判断してしまうので、現実が過去の経験を超えている場合、それに気付いたとしても自分なら大丈夫だ、今回も大丈夫だと思ってしまう。
これは言い換えれば、慣れ・過信・慢心といったところでしょうか。
これに関しては登山経験の浅い僕にはまだ無いと思いたいところですが、最近山に慣れてきたと感じていたので気を付けなければいけません。
◆初心者がSNSの表面上の成功情報だけを鵜呑みにして自分にも出来ると思ってしまう。
数ある情報の中で、目に止まるのは自分に都合の良いものが圧倒的に多く、ストレスを感じるような情報はシャットアウトしてしまう。
これは異常事態という条件下では無いので違うとは思いましたが、初心者からすれば登山は非日常ですので広い意味では正常性バイアスに当てはまるのでは?と思ったのと、心当たりがあり過ぎたので入れてみました。
山が怖いと感じる前は、まさに上記の通りで、他の方の山行記録の良い所だけしか目に入りませんでした。
「良く分からない事もあるけど、調べるのは面倒くさいしみんな普通に登頂してるから僕も行けるでしょ」と、良く調べもせずに自分にも行けると安易に判断してたと思います。
山が怖いと思っている今は、大分減ってきている自覚はありますが、完全に無くなった訳ではありませんのでまだまだ注意が必要だと思っています。
◆道迷い。道に迷うことにより、不安や焦りといった心理的ストレスが正常性バイアスを誘発し「まさか迷うはずがない。このまま進めばいつか登山道に合流出来る。下っていれはいつか下山できるはずだ」と誤った判断をしてしまい、引き返すべきところを突き進んでしまうことで遭難する。
検索した中で一番多かったのがこの道迷いでした。正常性バイアスの発生・誘導により遭難に直結しやすいのはどうやら道迷いのようです。
これまでに、不安や焦りを覚えるほどの道迷いの経験は無いのですが、日の出前の暗い時間帯で、沢沿いの道が判別出来ずに数十メートル程度ですが道を間違えた事が何度かあります。
その時、まず頭に浮かんだのが最短距離で正規ルートに戻ることでした。
「道迷いしたら来た道を戻ることが鉄則」という知識はありましたが、ショートカットしようとする考えが一番最初に思い浮かんだし、実際にしたこともあります。
GPSを確認しながら、少し藪を漕ぐ程度でしたので問題無かったのですが「距離が短いから大丈夫だろう」という考えが正常性バイアスの誘導であり、遭難への第一歩なのだと思います。
「一度登った道を戻りたくない」という心理もあったと思いますが、これは「一度何かに時間やお金を投資すると、たとえそれが報われないことが明白になった後もさらに多くの時間やお金を費やしてしまう」サンクコストバイアスが働く事による心理状態だそうです。
まさにこの心理だったと思いますが、最近は「より長い距離を歩けるからむしろラッキー」と考えるようにしたところ、素直に来た道を戻れるようになりました。
幾つか揚げてみましたが、どれもみな、誰もが普通に考え、行動してしまう事ばかりだと思いました。
そして、正常性バイアスの怖いところは、やってはいけない事だと分かっているのに止められない事だと思います。
実際に遭難した人の言葉に「何かがおかしい、確認しなければいけない、と頭の片隅にあったが何故かそのまま進んでしまった」というのがありました。
「道に迷ったら引き返す。沢に降りてはいけない」といった知識は登山をする人は殆ど持っていると思いますが、それでも同じ様な遭難が繰り返し起こるのはこの正常性バイアスの働きによるところも多いのだと思います。
では、対策としてどうすれば良いか、という話ですが正常性バイアスの働きを無くすことはとても難しいそうです。
心を守る為の機能だと考えれば当たり前の事ですね。
なので、自分が正常性バイアスに誘導されている事を前提とした対策を立てる必要があるようです。
そして、色々調べた中で自分に1番効果的だと思ったのが「山の中で不安や違和感を感じた時に事前に決めておいた特定の行動を取る」事です。
読んだ記事を参考にして僕なりに考え出したのは、
山の中で一瞬でも不安や違和感を感じたら先ず立ち止まる→落ち着く為に水を飲む。取り敢えず地図を見る→不安、違和感を無視せずにその正体が何かを考える→自分の取るべき行動を決める→進む方向を声と指差しで確認してから歩き出す
というものです。
慣れるまで時間は掛かりそうですが、この行動により自分の置かれた状況を客観的に見ることが出来ると思いますし、声に出す事や指を差す事はバイアスを解除する効果があるそうなので、まずはこれをルーティーンとすることから始ようと思います。
そして、もしもの時に思考停止しないように地図の裏にこのルーティーンを書いていつでも見れるようにしておくのと、計画を立てる時や山を歩く時は常に違和感を感じる努力をしていきたいと思います。
しかし、ヤマレコで拝見する諸先輩方の山行記録や日記には普通に「中止・エスケープルート・撤退」という言葉が使われていますが、それを当たり前のようにされている事を改めて凄いと思いました。
つい先程も、丹沢の山荘に泊まる予定で入山し、目前まで行きながら雪が多く危険と判断してキャンセルの電話をして撤退した、という山行記録を拝見しました。とても残念そうでしたが素晴しい判断だと思います。
その安全確保の為の思考や判断力は、きっとご自身で長年培ってきた経験や学習から身に付けた物なのでしょう。
それを身に付けるのが簡単ではない事は容易に想像出来ますが、焦らずに少しずつ自分の物にしていきたいと思います。
※ここに書かれている情報は僕がネットで拾ってきた物ばかりで何の裏付けもありません。解釈の仕方や考え方もあくまで個人的なものですm(_ _)m
お邪魔します。
私事で恐縮ですが、私の経験を。
山との関わりはほぼ仕事です。25年程経過します。
遊びでの山歩きは3年前に始めたばかりの若輩です。
その前提でお話を少々。お役に立たないかもしれませんので、ご容赦ください。
◆ツキノワグマ
25年の間、痕跡は嫌というほど目にしてきました。それでも一度も接近遭遇はありませんでした。
ところが昨年8月に威嚇1回、12月に遭遇30-40m程度です。しかも洛中の里山で。
昨年度は福井県のツキノワグマ生息域でしたが、痕跡の数は半端じゃないけど一度も遭ってはいません。
スプレーも15年ほど前に山梨県の山で試用しましたが、やめました。私に限っては費用対効果が疑わしかったからです。
結局のところ、こちらの存在に気付いてもらい、ツキノワグマや野生動物に回避してもらうしかないと思っています。
ただ今年度は様子が違いますし、個体差にとどまらず地域差も大きいと感じています。
ご自身が入られるエリアの情報を公的機関、地元などで入手は必要と思います(私は必ず毎回実行しています)。
◆道迷い
私は登山家のおっしゃる所の里山、低山しか入りません。
遊びのでの山行は原則として登山道等しか使いません。
それでも、毎回どんなに慣れた里山、低山でも地形図等は携行します。
一方仕事での山行は、道に迷う以前に現在地がわからないという時点で仕事は成立していないことになります。
現在位置のピンポイント確認のために地形判読と周囲の観察をしつつ歩くしかないと思っています。仕事人失格となります。
違和感を感じた時点で確実なポイントへ自分を立たせるしかないと思います。
私に限ってですが、仕事の山で結果オーライは成立しません。今後もし迷うことがあれば、その時点で引退です。いや、下界に戻れませんね。
とにかく、身の丈に合った山歩きが不可欠だと思います。山でははしゃぎ過ぎず、他人の意見に一喜一憂せず、ご自分の信じる手段を選択されるのが良いのではないでしょうか。
身の丈がわからないのであれば、少しずつ難易度を上げるのが無難ではないかと思います。
山でももちろん街でもそうですが、自分の足で次の一歩を踏み出すというのは、結局のところ自分自身が決めることなのですから。特に自然界では【他人に依存せず】進むしかないかと。
差し出がましい話ですが、ご容赦ください。
どうぞ、山を、自然をお楽しみください。五感を研ぎ澄まして。
そして【あまり観念的になりすぎないこと】も大事かと、私はそう思います。
長文駄文、お目汚し歩ほど失礼致しました。
今だに入山(渓)のたびに「山はコワい」と思うgeo_でした。
おはようございます。
山の中での活動を生業とされているgeo_surveyorさんの考え方はとても貴重なものです。
趣味としての登山と違い、プロとして結果を求められ、その対価として報酬を受け取る以上、妥協は許されませんものね。(一部例外もあるようですが……)
プロとしての危険予知能力や、危険を回避するためのノウハウを持つgeo_surveyorさんからすれば、僕のような山の事を知らない人間が独学で、しかも単独で山に行く事に色々と言いたいこともあるとは思いますが、そこを堪えて貴重なアドバイス頂ける事に大変感謝します。
仰る通り、山の事は他人に依存せず、自分のすることは自分で決めるようにしています。
これまでヤマレコの諸先輩方に頂いた沢山のアドバイスも参考にさせて頂いてはいますが、やはり最後は自分で決めてます。
もし山の中で何らかの理由で命を落とすことになっても、その直前に後悔したり、人のせいにするのは嫌ですものね。
最後は「ここまでやっても駄目だったなら仕方無い。きっと何かが足りなかったのだろうな」と晴れやかな気分で逝けるのが理想です。
まあ、現実は妻や子供の事、仕事の事などで頭がいっぱいになり、私生活では後悔だらけでとても晴れやかな気分では無いとは思いますが(笑)
登山を始める前は何事も「取り敢えずやってみよう。やってみれば何とかなるさ」と実践的・楽観的な考え方でしたので、少し観念的になるくらいが丁度良いと思ってます。
「身の丈に合った山歩き」、簡単そうでとても難しいと思います。自分の身の丈はまだ全然分かっていませんので、少しずつ難易度を上げることを忘れないように、この先も登山を楽しんでいきたいと思います。
コメント有難うございました。
正常性バイアスは半分意識しつつもそういう場面がある気がします。
似たような経験をしていると、今回も同じように切り抜けられるだろうみたいになりますもんね。
自分は二人で行動しているので、なんか変だ見たいな時は話せるので、
ブレーキかけてもらえてるなと思います。
一人だと相談できないという点を、ルーティンとして行動に組み込むという視点良いですね。
計画変更して帰るなどの大きな判断はとくに難しいと感じるので、
何時にここまで行けてない時はプランBで帰るというようにされている方もいますよね。
夏だと行動時間のずれはあまり起きないですが、
雪があったりすると時間がすごくかかってしまうみたいな時ありますし、
大丈夫だろうけど、今日は縁がなかったと思って帰ろうとか、
行ってもきっと良い景色じゃないはずとか、きつねとぶどうみたいに考えて帰りますね〜
(が、帰った後に他の人のレコ、見ちゃうんですけどね・・・💦)
こんにちは。
なにか変だと感じた時に、ブレーキをかけてくれる奥様と一緒の山歩き、まさに僕の憧れです😊
hattoさん達のレベルはとても無理ですが、いつか僕も里山ハイキングでも良いので夫婦で行きたいと思ってます。
ルーティーンを考えたのは良いのですが、その前に違和感を見付ける能力がなければ意味が無いと思っています。
残念ながら、この能力は経験からしか得られないとは思いますが、意識するのとしないのでは、得るスピードがきっと違ってくると思いますので、常に念頭に置くようにしたいと思います。
ご提案頂いたような、地図に予定の通過時間を書いておき、間に合わなければ引き返すような計画をいつも立てています。
しかし、実際に決断を迫られる場面を経験した事がないので、自分が素直に撤退出来るのか甚だ疑問は残りますが、このルーティーンを身に付けることにより自分を客観視出来るようになれば良いなと思います。
雪山の経験は無いのですが、ペースを掴むのがとても難しそうですね。正直言うと行きたくて仕方がないのですが、僕にはまだ早いと思うので今年は止めることにしました。
来年、元気に雪山を歩けるように成長出来たら良いなと思ってます。
コメント有難うございました。
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