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月明かりのとどく夜にだけ潜る。ひっそりと海に出て「光のエリア」へ近づいていく。ダイバーは破壊された原発のあるこの場所で、密かな約束をし、失われた思い出を海の底からすくいあげようとする。
天童荒太がフクシマを描くとこのようになるのか。目頭が熱くなる。
終わらない悲しみにどこかで決着をつけなければならない。主人公のダイバーにとっても、依頼人にとっても、それはこれからを生きるために、どうしてもやらなければならないことだ。
あの日、現実がフィクションを超えた。5年後の今、ふたたび一人の作家の想像力がこの悲しみに向き合い、それを一つの小さなストーリーの中に結晶させようとしている。
と、書いてふと思う。確かに美しいお話だったのだが、フクシマについて、自分が本当に読みたいのはこれではないような気も、ちょっとだけした。
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「戦争する国の道徳」小林よしのり・宮台真司・東浩紀（幻冬舎新書）
鬼才ともいうべきポジションの3人の鼎談。
宮台はヘイトスピーチやネトウヨ的言辞について、「劣化した感情の発露」だと見抜く。問題は「反知性主義」じゃなく「感情の劣化」であり、感情が劣化しているから知性を尊重できないのだという。そんな気がする。だが、自分の関心はちょっと遠い。
ネットの時代の惨憺たる現実について、東と宮台は次のように発言する。
東：インターネットの情報はまったく草の根ではないということです。かつてゼロ年代にはネット選挙は「弱小候補でも世界中に意見を公表できる」みたいな話になっていたけど、いざ実現してみると現実はまったく違っていて、単にカネを持っている人たちがチームをつくり、代理店が物量作戦でビッグデータを分析し、大衆はその目論見通りうごかされるだけなんですね。
宮台：そのとおり。ちなみにツイートの分析には、動的なテキスト・マイニングという統計手法が使われているけど、実用的なソフトはいまでも100万円以上もするから、カネと分析能力などのリソースのない人たちには、とてもじゃないができないんだ。ビッグデータ分析などに見られるこうした格差こそがインターネット化やIT化の現実的な帰結だよね。
アラブの春の原動力になったとも言われる、ツイッター、フェイスブック、ユーチューブ他の画像・動画サイト、ウェアラブル端末、携帯カメラ。その強大な力が政治的に利用されないはずがない。｢消費社会｣はモノだけでなく、情報や言論をもその対象とするので、ネット上のオープンな言論空間を閉じてしまう人たちも多いという。
小林と宮台のどの発言も刺激的で、扇情的で、司会役になった若い東が話を引き出し議論を回していく。安保法も、原発も、経済も、米軍基地も、インターネットも、ヘイトスピーチも、あらゆる日本の難点が俎上に上がる。特に沖縄を巡る発言と鳩山元首相の再評価は秀逸。面白くてすぐに読めるし、三人の（特に宮台の）知識・知見に幻惑されてしまう。相変わらず凄い人だ。「いい本」かどうかは不明だが、読んで損はないかな。
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「日本はなぜ『基地』と『原発』を止められないのか」矢部宏治（集英社インターナショナル）
日本がどうしてこんな国になってしまったのか、それを知りたくて、何冊か戦後史の本を読んできた。「こんな国」と自分が書くのは、たとえば今現在のことに限っても、
�，覆叱柔�権は沖縄の翁長知事をこのように扱うのか。沖縄の人たちを侮蔑的に見るのか。
�△覆蔀録務萋梓�に入ったといわれるときに、原発再稼働を急ぐのか
�い覆縞‥腓了匐，燭舛侶鮃�問題を放置するのか
・・・・・数え上げればきりがない。
矢部さんの本は、こうした疑問に答えてくれる。それも意外な角度から。
憲法９条のなりたちと「平和と基地列島」という自己矛盾、原子力基本法という無責任極まる法律、国連憲章と戦後70年を経ても未だに残っている敵国条項、昭和天皇の行幸の意味、そして日米地位協定に代表される日米安全保障関係の法体系について。これらいくつものピースがきれいにはまり、戦後史の裏の意味が立ち上がってくる。
日本の政治家と官僚は「最低」だとは思うけど、司法はどうか。大飯原発再稼働差し止め裁判で、2014年福井地裁がだした判決は：
「地震大国日本において基準値振動を超える地震が大飯原発に到来しないというのは、根拠のない楽観的見通しにすぎない。」
「当裁判所は（関西電力側が展開したような）きわめて多数の人の生存そのものに関わる権利と、電気代の高い低いの問題等を並べて論じるような議論に加わったり、その議論の当否を判断すること自体、法的には許されないことと考えている」（ｐ６１）
立派な判決である。だがご存知のように、この1年後同じ福井地裁は、自らこの判決を取り消すのである。
日本がどん詰まりに来ている（宮台の言葉では「国自体が詰んでいる」状態になっている）のは、敗戦時のGHQの占領政策の中で、特に新憲法制定の過程で、矛盾を放置してきたこと、巨悪を残してしまったこと、アメリカ依存を骨の髄まで叩きこまれたことによるのだと言う。
憲法改定の議論があり、そしてそれは避けられないものだとしたら、改悪でなく改正へどのような理念をもって臨むのか、矢部さんの結論は前に紹介した加藤典洋さんと同じく、基地撤廃と国連および他国との個別の協調、協定の中で日本の安全保障を確保していく、という立場と思えた。
＊史上最大のリークと言われる「パナマ文書」、与党野党そしてマスメディアの対応がどうなるのか。グローバリズムの下、貧困を拡大し固定化していくこの不正を見逃しにするなら、「日本死ね」という呟きがさらに巷に溢れるのでは。というか、日本の税収以上の金（50兆円？）が国内から毎年ここに流れ出ているので、今の財政問題は本当はなかった筈。
アダム・スミスの予言した資本主義の最終局面では、「（神の）見えざる手」は、社会的公正を実現するものなのだが、真逆の現実がいま現れている。
非常に読み応えがありました。
・・失礼な物言い、ご容赦ください。cheezeさんの日記のことです。
「ムーンナイト・ダイバー」、とても丁寧に描かれていると思いました。作家の思い入れのようなものを感じました。ただ、個人的には、「悼む人」の読後のような、「すごい小説だった・・」という圧倒されるような感慨は、あまり起きてこなかったなあ・・
「日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか」、目から鱗の本ですね。この本の内容は、一度だけでなく、これからもcheezeさんに取り上げていってほしいな・・・と勝手に思っています。
「戦争する国の道徳」の書評で、鳩山元首相の再評価の部分が秀逸とのことですが、どういうことなのかわかるような気がします。この本は未読なので、読んでみます。
パナマ文書、すごいものが明らかにされました。日本の税収以上の金が、日本からも流れ出ているのですか
kamadamさん、長文読んでいただき誠にありがとうございます。
「ムーンナイト・ダイバー」は読まれたのですね。おっしゃるとおり、上手いし泣かせるのですが、もう少し大きなストーリーだとよかったなあという印象。震災の二日後から、何度も被災地を訪問されている方で、信頼できる作家ですね。
「…基地と原発を…」矢部さんのこの本は加藤典洋さんの「戦後入門」でもとりあげてありますね。
さきほどNHKの7時のニュースでケリー国務長官が広島を訪れている様子が流れました。アメリカが犯した最大の「人類に対する犯罪」の一つを、アメリカがどう見てきたか、それが今どのように変わりつつあるのか、大変興味深いニュースでした。建前とはいえ、アメリカの理念と理想とは全く合致しないこの犯罪を、なかったことにはできませんよね。必要だった、とかは言えませんよね。
オバマ大統領は多分最も優れた大統領の一人だと思います。ヒラリーとはモノが違いますね。
「…道徳」のほうは、割と軽い読み物です。ただ面白いですよ、ちょっと下品ですが。宮台真司の発言はとても難しいし、とても口が悪い人なんですが、この人の直観は凄いなあといつも思います。鼎談の形なので、言いたいことを言ってますが、極めて面白い。立ち読みでも、どこから読んでもいい本ですね。例えば「地方消滅」の日本創世会議の増田レポートについて：
「宮台：増田レポートは�〇埔豢チ茲農犬�残れ、�∪犬�残れないなら政府に依存しろ、と言う。目的は、一つには中央官僚の天下り先を地方公共団体に確保することだが、もう一つは大規模な最終処分場などの巨大迷惑施設の建設にある、と僕は睨んでいる。」
どうですか。増田レポートを二文でまとめてますね。しかもその裏の意味も、多分正しく衝いています。
タックス・ヘイブンはこれまでも話題になっており、新書も大分前にでているんですが、それはグーグルとかアマゾンとかのグローバル企業の話だと思っていたんだけど、今回でたのは凄い数、凄い金額でしたね。詳細はあと1カ月待たなきゃならないので、なんとも言えません。上記の数字も間違っているかも。でも、こんなことしてたら資本主義自体が終わってしまうよ、と年寄りの自分は思ってしまいます。
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