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更新日:2019年02月05日 訪問者数:13883
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登山とGPS『山登りの道迷い遭難防止にGPSを役立てよう』
keizi666
山岳遭難の4割は道迷い遭難です
山岳遭難は年間2,600件(3,000人)ほど起きていますが、その40%は常に道迷い遭難です。2017年で人数としては1,252人。1日あたり3.4人になります。

非常に多いですね。ニュースにならないだけで日々道迷い遭難は起きています。

疲労や滑落など別の遭難態様の場合でも、道迷いが遠因となっている場合もあります。また、道に迷ってビバークなどしながら自力下山した場合や行方不明で出てこない場合は通報が無ければ統計にも上がりません。

実際はもっと多くの道迷い遭難が起きている可能性があります。

(グラフは『警察庁生活安全局地域課 平成2 9 年における山岳遭難の概況』より)
道迷い遭難はほとんどGPS(GNSS)で防げます
羽根田治さんの『ドキュメント 道迷い遭難』には実際の遭難事例が細かなレポートとして載っています。

読めば分かりますが、そのどれもが『迷ったと気づいたときに現在地を確認できていれば』簡単に回避できただろうなと思われるものばかりです。迷った後にあやふやな予想を元にして深みにハマって行動不能になるケースが非常に多い。

つまり、迷った後GPSで現在地を確認していれば道迷い遭難の多くを防げたかも知れません。

GPSを使っていれば何事もなく復帰してその日のうちに家に帰ってお風呂に入って温かいご飯を食べて布団で寝られたでしょう。それが寒い山中でビバークする羽目になったり、そのまま亡くなってしまったり、遺体すら出てこなかったりする。

山登りにGPSが必須の世界なら年間1,200人が怖い思いをせずに済んだはずです。そのうち100人程度は死なずに2019年を迎えられたはずです。GPSを使っていれば死ななくてもよかったはずの人がたくさん亡くなりました。

お願いですから、登山にGPSを活用してください。
迷ってから地図を使っても遅い
紙の地図やコンパスは、迷う前に道迷いを防ぐために使う道具です。一度現在地をロストしてしまえば、そこから現在地を確定するのは困難となります。

見通しが良く慣れた山域ならクロスベアリング(目標物2点の方位から現在地を割り出す)による測位も可能かもしれません。ただ、クロスベアリングは木が無くて見通しが良い尾根やピークで、地図の範囲内にある明確な目標物が見えていないと出来ず、見通しが悪い谷や樹林では使えませんし悪天候時も使えません。
迷うのは見通しが悪い場所や悪天候時なので、クロスベアリングは使えないことが多いです。読図講習会では余興として教えることがありますが、実際に迷ったとき使うのはほとんど無理と説明しています。クロスベアリングが出来るような見通しが良い尾根やピークでは普通迷いません。出来ない状況で迷います。

どこにいるのか分からない状況で地形を読んで地図と照合して現在地を特定するのも非常に困難です。ほとんど勘の世界であり、慣れてない人には不可能です。

道に迷ったら紙の地図やコンパスは役に立たないと考えてください。紙の地図とコンパスは必須装備ですが、道迷い遭難を無くすには不十分です。
迷ったらGPSを使いましょう
自分がどこにいるのか分からなくなったらGPSを使ってください。GPS専用機でもいいし、登山用のGPSアプリを入れたスマホでもいいです。

GPSを使えば正確な現在地がわかります。
(GPSログを記録していない場合は確定まで3分程度掛かることがあります。待ってください)

見通しが悪い樹林でも悪天候でも使えます。谷では精度が下がりますが、それは人間が地形と地図を見れば誤差修正出来るでしょう。
現在地が分かったら、正しい場所まで引き返してください。その前にお茶を飲んで行動食でも食べて落ち着いてください。

人間はパニックを自覚できず、パニックになった人間は冷静なつもりで間違った行動を選びます。まずは落ち着くことが大事です。
GPS専用機とスマホGPSの違い
■スマホGPSのメリット
・既にスマホを持っているなら無料のアプリを入れるだけで山登りに使える。
・タッチパネルは操作性が高い。
・アプリを入れれば天気予報や情報検索など多用途に使える。
・高解像度の画面では紙の地図と遜色ない画質で地図を見られる。
・拡大表示できるので老眼でも細かい文字が読める。
・リチウムイオン電池は大容量でバッテリーの持ちがいい。低温でもある程度耐える(Androidの防水スマホなら1時間冷凍しても動作する)。
・登山中は機内モードにすれば中でのバッテリー消費を抑えられる。ログを取らなければほとんど消費せず、ログを取っても1時間に100mAh程度の消費。

■スマホGPSの欠点
・スマホを持っていない場合は中古でも数万円の出費が必要(2万円程度〜)。
・スマホ自体に慣れていないと使うのが難しい。パソコンのようなトラブルが起こる。
・機種によってGPS精度や処理能力が違う。iPhoneは高精度でAndroidは新しくて高いスマホが高精度な傾向。
・落とすと壊れるのでケース、保護フィルム、ストラップなどが必要。
・冬は操作にタッチペンが必要。
■GPS専用機のメリット
・機能が単純で一定の品質が担保されている。GPS精度は高い。
・トラブルが少ない。
・外装が頑丈。
・海外版なら安く手に入る(2万円程度)。
・乾電池で動く。
・手袋をしていても操作できる。

■GPS専用機の欠点
・画面が低解像度で地図が見づらい。地形は読めない。
・単機能のわりにかさ張る。
・乾電池で動かすために低スペックで動作が遅い。操作性が悪い。
・冬に使う場合はリチウムイオン乾電池が必要でランニングコストが高くつく(2本500円程度)。
・日本語版の正規品は高価(5~10万円)。
スマホのGPSは山でも役に立ちます
まだまだ誤解が多いのですが、スマホのGPSは山でも十分使えます。
・携帯圏外や機内モードでもスマホのGPSは動作します。
・GPS精度はGPS専用機と大差ありません。十分実用的で山奥でも使えます。
・バッテリーはトラックログを記録しても20~30時間保ちます。ログを記録しないなら1日で10%も減りません。
・厳冬期の冬山でも使えます。
・ケース、ストラップ、画面保護フィルムガラスなどで保護すれば頑丈になり壊れにくくなります。
・MIL規格(軍事規格)対応の頑丈なスマホもあります。
・高解像度の画面に地形図を表示するため読図にも使えます。拡大表示すれば老眼でも見やすく、紙の地図よりも優れているとも言えます。

・バッテリーが切れたら使えない点を批判するのは筋違いです。ガスコンロのガスと同様、切れないように予備を用意し、残量を管理すればいいだけです。装備と準備の問題です。たらればの話であれば、紙の地図だって濡れて破けたり風で飛ばされたり落としたりというリスクがあります。

紙の地図とスマホのGPSを両方活用することでリスクヘッジになります。現代の登山では両方持つのが常識となっています。
専用機でもスマホでもどっちでもいいけど、必須
使うのはGPS専用機でもスマホでも、どっちでもいいと思います。私はGPS専用機は持ってませんが、借りて使ったことがあります。使い勝手はスマホの方が優れていると思います。

すでにスマホを持っているのなら登山用アプリのインストールは無料で行えますから、とりあえずインストールしておいても損はありません。まずはスマホのGPSを登山で使ってみてください。

とにかく、パーティーに1台はGPSを使える端末を持ってください。単独行なら当然必須です。

冬山に入るときにビーコンやスコップを持つのと同様、山に入るときはGPSを使える端末を持ちましょう。

今やGPSは雨具と同じくらい必須の装備です。測位衛星が100機も飛んでいる21世紀において、道迷い遭難ほどバカバカしい遭難はありません。いつまで道に迷ってるつもりですか。
まだまだ普及していない
登山にGPSを活用している人はまだまだ少ないのが現状です。

ほとんどの登山者はスマホで登山用の地図アプリが動くことを知りません。

スマホを持って山に入る人も多いですが、登山用のアプリを活用してるのはごく一部です。10%にも満たないでしょう。各アプリのダウンロード数から実ユーザー数を推計して合計すると30万人もいません。

登山者は500万人程度とされていますから10%未満です。当然GPS専用機を活用しているのはもっと少数でしょう。

すでに使っている人は『周りの人はみんなGPSアプリを使ってる』なんて言いますが、実際はほとんど普及していません。使っていない人が大多数です。
周りの登山者にGPSの必要性を訴えてください。まだまだ普及の余地は大きいです。

特に、お父さんが思い付きで子供を連れてきちゃった風のパーティーはヤバイことが多い。低山でよく見かけますが、山のことを何も知らずに登っている可能性が高いです。まず登山用GPSアプリのことなんか知りません。

山小屋でお酒を飲みながらでもいいので、道迷いやGPSアプリのことを話題にしてみてください。バスや電車で隣に座った人と会話するときなんかもいいですね。あるいは仲間と山を歩きながらとか。意外と知らないもんですよ。

興味を持ってGPSを使うようになれば、将来道に迷って遭難するはずだった人を救えるかも知れません。話を聞いてGPSを使った人が別の人に勧めてくれるかも知れません。情報は輪のように広がっていきます。広めてください。情報の共有が未来の遭難者を未然に助けます。
最低限、迷ったら使ってください
GPSは非常に強力なツールです。現在地確定に関する問題を短時間で正確に解いてしまいます。

結果、登山はイージーになり、冒険性が少し失われます。
(道標が何本も立ってる一般登山道で冒険性もないと思いますけどね…)

紙の地図を見て現在地を推定する、地図に表れにくい地形を予想して現地で確認する、などは登山の楽しみでもあります。そういった読図の楽しみを否定するつもりはありません。冒険としてはむしろ正しい。

しかし、それも致命的に遭難する前の話。道に迷って現在地が分からなくなったらGPSで確認できるようにしておいてください。
GPSはクライミングにおけるロープ(命綱)みたいなものです。クライミングにはロープを使わずに高い壁を登る『フリーソロ』というスタイルがあります。当然、失敗して落ちたら死にます。それは確立したスタイルではありますが、ごく一部の人がやることです。ほとんどの人はロープを使います。

『GPSみたいな機械を使うのは邪道だしズル』とか変なハイテク批判もしないでください。ハイテク繊維のウェアを着てハイテク批判されても説得力ありません。公共交通や天気予報など現代科学の恩恵に浴しておいてGPSだけ批判するのは理にかなわないし、文明の利器を一つでも使っている時点ですでに自然と対等ではない。ただの好き嫌いでしょ。

道に迷った挙句死ぬ覚悟があるなら別ですが(それも家族や救助隊にとっては迷惑な話ですね)、普通の登山者はGPS端末を持ってください。そして、現在地が分からなくなったらGPSを使ってください。
読図技術は必須
GPSが強力と言っても、使いこなすには地図を読めなければいけません。

GPSは現在地を教えてくれるだけの機械です。現在地が分かって、そのあとどのルートを選ぶのかは地図を読んで自分で決めなくてはならない。

GPSは今を知るための機械。読図は未来を予測するための技術です。この2つが合わさることで登山の安全性が高まります。

GPSを使うにしても、必ず読図の勉強もしてください。紙の地図とコンパスも持ちましょう。
GPSは現在地が正確に分かるため、読図の勉強にも使えます。地図と地形を簡単に見比べる事が出来るからです。紙の地図で現在地を推定してからGPSで確認するというのも講習会ではやります。GPSは読図の答え合わせに使えます。

一方で、GPSは便利ですが万能ではないし、端末を持っただけで登山者としての実力が上がったわけではありません。ただの道具です。道具は使いこなしてこそ真価を発揮します。

道具は頼るものではなく、使うものです。

なお、この画像は拙作のGPSアプリ『ジオグラフィカ』の画面です。国土地理院の詳細な地図に現在地や歩いてきた軌跡、登録した地点(マーカー)を表示できます。地図は事前に画面で見ておけば自動で保存され(キャッシュと言います)、圏外でも機内モードでも表示できます。
リスクヘッジも忘れずに
GPS頼りではGPSが使えない状況でどうにもならなくなります。

1台のGPS端末に頼り切るのは危険です。万が一故障や電池切れで使えなくなった状況でもリカバリできるようにしましょう。

紙の地図とコンパスは必ず携帯しましょう。予備のスマホやGPS端末を持つ、パーティーなら複数名のスマホユーザーで登山用アプリを入れておくなども有効です。各自使えるように練習しましょう。

スマホ利用なら必ずモバイルバッテリーを持ってください。充電忘れ、ケーブル忘れ、ケーブルの断線に注意し、単独の方は予備のケーブルを持ちましょう。パーティーの場合は仲間内で共用できるか確認しておきましょう。
このままでは今年も1200人が道迷い遭難します
2019年もはじまったばかりですが、このままGPSが必須装備にならなければ今年も1,200人が道迷い遭難をし、そのうちの100人くらいは死にます(遭難者に対して10%程度が死ぬ)。遺体が出てこないケースも多くあります。

遭難者を探すために多くの人がリスクを冒して山に入ります。捜索では谷に懸垂下降で降りたりもするので、普通の登山よりもハイリスクです。

捜索する側も命がけです。
遭難者3,000人のうち1,200人が減れば探す方のリスクも大幅に減ります。道迷い遭難は、遭難のうちでも最も減らすのが簡単な遭難態様です。

GPSを持ち、道迷い遭難を防いでください。周りの人に勧めてください。2019年以降の遭難史を塗り替えましょう。未来の歴史は変えられます。
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※この記事はヤマレコの「ヤマノート」機能を利用して作られています。
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コメント

大賛成です
全く賛成です。私は沢歩きが多いので、etrex30の英語版を持って歩きます。もちろん、事前に地形図を検討してルートを決め、そのコピーを持って行き(コンパスも持ってゆきます)、現地で最終的に詰めのルートを決めるようにしています。特に沢はGPSがないと、かなり困難な状況になることが良くあります。また、下りも登山道ではない尾根などを下るので、支尾根のRFも大切です。間違えて一旦下ってしまうと、登り返すのが大変なので、なるべく分岐ではGPSで確認しています(少しやりすぎかもしれませんが、コンパスだけだと、10度程度の角度で分かれる支尾根の場合、地磁気の補正をした方位でさえも区別することは困難です。)。それと、電池ですが、私はリチャージャブルのニッケル水銀電池を使っています。特にamazon製の電池はすごく優秀です(宣伝ではありません!)。以前、なるべく容量の大きいものと言うことで、日本メーカや韓国メーカのものを使いましたが、ことごとく寿命を待たずに充電できなくなりました。
2019/1/4 17:42
GPSを持たない山行は「無謀な登山」
 GPSを持たない山行は「無謀な登山」だと認識すべきだと思います。

 道迷いによる遭難、ましてや死亡というのをニュースで見聞きすると、とても悲しい気持ちになります。GPSが無かった時代は仕方がありませんが、スマホを持っているのに、そのスマホのGPSを活用していないというのは本当に残念でなりません。
 私も、山でお子様連れの方を見かけると、地図アプリを使用しているかをお聞きしています。

 現在では、車も船も飛行機も、動くものは、みなGPSを頼りにして動いています。人も、これに頼って行動するのが「安心・安全な登山」と認識しています。

 スマホは電子機器ですから必ず故障しますし、動作させればバッテリーは必ずゼロになります。しかし、これは、バックアップスマホと携帯型バッテリーを2重化・3重化することで解決しますので、これを一人で、あるいは同行者を含めた装備にするかという選択になるだけです。

 但し、IT初心者がスマホのGPSを使えるようになるには、ほんのちょっとした壁があると感じています。これを解決する手助けとして、以下のホームページで「IT初心者向け地図アプリ使用法」を紹介しています。
 https://keyama106.jimdo.com/%EF%BD%89%EF%BD%94%E5%88%9D%E5%BF%83%E8%80%85%E5%90%91%E3%81%91%E8%AA%AC%E6%98%8E%E6%9B%B8/
 ボタンの名称だけでなく、そのボタンが画面のどこにあるかを同時に説明しよう。それには、画面ごとの操作箇所と画面の遷移を示して説明しよう。ということで記述してあります。IT初心者向けなので、ちょっとわかる人にはくどい内容です。
2019/1/5 12:35
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