奇跡の太陽 飯豊山 花と残雪紀行
- GPS
- 30:53
- 距離
- 23.0km
- 登り
- 2,246m
- 下り
- 2,236m
コースタイム
- 山行
- 7:41
- 休憩
- 0:41
- 合計
- 8:22
- 山行
- 7:57
- 休憩
- 1:57
- 合計
- 9:54
天候 | http://www.tenki.jp/past/2018/05/26/chart/ http://www.tenki.jp/past/2018/05/27/chart/ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2018年05月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
登山口の選択は山形県飯豊町の大日杉と福島県側の川入で迷いましたが、雪庇の状況が分からなかったので前者にしました。運転時間は福島に比べて40分ほどプラスされますが、切合小屋まで痩せ尾根はなくシンプルな登山ルートです。 ・米沢北IC〜県道239〜県道4〜県道378〜大日杉まで問題なく車で入れます。 ・豪雪地帯のため残雪期は道路状況がよく変わります。カーナビも誤ることがあり、山形県HPで確認するのが無難です。 https://www.pref.yamagata.jp/doro/ |
コース状況/ 危険箇所等 |
<残雪状況> 雪解けは例年よりも早いとのことです。地蔵岳の登りも含め切合小屋下の御沢分れまでは夏道通りでした(ただし短い雪田の通過は無数にあります。ヤブ漕ぎはなく登山道に繋がっていました)。ブロック崩壊した雪庇も後退しており、尾根上を普通に歩きます。 御沢分れの先は雪渓コースと種蒔山トラバースどちらも雪渓歩きでアイゼン・ピッケル必携です。種蒔山トラバースを今回とりましたが、最初の雪田の詰めでヤブに突き当たり、漕ぐか夏道を見つけるか二択を迫られました。 草履塚の登りも8割は雪田で最後区間だけ夏道に入ります。その先は飯豊本山まで残雪はなく、アイゼンを草履塚にデポして往復でも大丈夫です。 <開花状況> 山野草が一斉に咲き出しています。ハクサンイチゲなどの高山植物も咲き出し〜見頃を迎えつつあります。 大日杉〜地蔵岳 ... カタクリ、イワカガミ、イワウチワ、タムシバ、ヤマツツジ 地蔵岳〜御沢分れ ... カタクリ、シラネアオイ、ムラサキヤシオ。カタクリが夥しく登山道を彩ってます。ヒメサユリは蕾を見かけました 御秘所〜飯豊本山 ... ハクサンイチゲ、ミヤマキンバイ、オヤマノエンドウ。御秘所には満開の群落あり <登山道の状況> 大日杉から登りだして間もなく巨大な倒木が道を塞いでおり、右からヤブを漕いで通過。まだ雪解け直後で入山者が少ないため、無雪期の人気コースと比べてしまうと荒れ気味です。下りではザックを木の枝に引っ掛けないよう注意。 雪田から夏道に出入りする所には赤布がある場合とない場合がありますが、種蒔山トラバース以外は迷う所はないです。ザンゲ坂の手前と本山手前の御秘所は鎖場ですが、鎖に頼らずとも通過できます。 <水場の状況> 雪田の雪解け水が尾根上で手に入ります。コーヒーフィルターで濾過して使いましたが、心配な方は煮沸した方が良いかも。目洗清水は雪の下、長之助清水と切合小屋の水場は未確認。 <その他> ブヨ対策は必須。イカリジン15%の虫除けを1時間毎に全身塗布したところ、遠巻きにはなりましたが依然纏わりついて来ました。地蔵岳周辺がどうしようもなく、休憩中は頭に防虫ネットを被ってウロウロ歩き回ると楽です。 野鳥はウグイスとツツドリ、カッコウの鳴き声が印象的でした。オオタカを1回見ましたが写真は撮れず。クマは福島県側で目撃情報があったそうです。 (Edit) 関東甲信の山と比べた所感が入っていたので、表現を一部修正しました。 |
写真
装備
個人装備 |
虫除けスプレー
防虫ネット
ハードシェル
Tシャツ
長袖シャツ
タイツ
ズボン
靴下
グローブ
厚手フリース
アイゼン12本爪
ピッケル
ストック
カラビナ
テープシュリンゲ
手袋
帽子
重登山靴
修理テープ
サンダル
ザック
ザックカバー
サブザック
プラティパス
漏斗
コーヒーフィルター
イワタニプリムス
ターボライター
食料
非常食
清酒
ビール
おつまみ
山と高原地図
コンパス
ヘッドライト
予備電池
ラジオ
ファーストエイドキット
日焼け止め
保険証
YAMAP
時計
サングラス
タオル
ツェルト
ナイフ
カメラ
バッテリー
ポール
テント
サーマレスト
エアマット
シェラフ
LEDランタン
計画書
|
---|
感想
仕事を終え、人目のつかない場所に置いていた75Lザックを背負い、会社を出る。帰宅ラッシュと飲み会で大混雑の繁華街を歩く。予約してあったレンタカーを借り、カーナビで目的地「大日杉」を検索する。勿論出てこない。住所を入れて道案内を開始した。夜8時から400km運転し、着いたのは午前2時過ぎだった。
3時間半仮眠した午前6時過ぎ。車のドアを開けて早々、黒い円柱のようなブヨの大群が襲ってきた。虫除けスプレーで対抗し、重いザックを背負って出発。車は私の他に1台のみ。その地元の山仕事の方と少しお話しし、唯一北股岳からの縦走者がいたことを知る。登り出すと踏まれておらず、なるほどと思った。人に会うよりは動物に出くわす機会の方が多そうな、奥深い雰囲気だった。
倒木を越え、鎖場を登ると尾根に出た。寝不足と仕事疲れ、それにテント装備がずっしり肩にくる。林床にはイワカガミが増え、見上げるとタムシバやヤマツツジが満開。暫くBCスキーの山行ばかりだったので、花は新鮮に感じた。やがて少しずつ樹木の高さが低くなってくると、林床の主役は完全にカタクリとなった。ここ大日杉コースは登山道両側の群落が途切れることなく、まさしくカタクリロードだった。開花期は2週間ほどのはずなので、今回は運が良かったのだろう。
御沢分れの手前で初めて人に会った。同コースを追いついて来られ、飯豊本山越えを目標に先へ行かれた。私はというとまだ身体が負荷に慣れない。途中ハイドレーションパックに水を汲み、4Lを背負う。途端に足が前に出なくなる。ブヨに集られながら何度も立ち止まり、苦しい思いをした。そして種蒔山トラバースには大きな雪渓が待ち受けていた。雪は程よく緩んでいたのでツボ足で詰めていくと、案の定ヤブに行く手を阻まれた。GPSを再確認すると数10mほど南に逸れている。行くべき方向は分かったが、歩き出す前に一呼吸置き、冷静になってアイゼンを取り出した。滑落停止訓練をすると、転倒時の姿勢によって簡単には止まれないことが多々あるのに気づき、どうしても慎重になる。
稜線に出たところでザックをデポし、切合小屋へ偵察に行く。中には誰もおらずシーンと静まり返っていた。2階は太陽熱でポカポカ。温もりのある小屋だった。裏手には明らかにそれと分かる幕営指定地があり、乾いた砂地で大日岳が真正面。風もなく素晴らしい環境だった。明日飯豊本山を目指すことにし、テントを設営。川入から登ってこられた単独の方も隣に張られ、しばし山談義をご一緒して楽しかった。夕方は偵察を兼ねて草履塚を往復した。雪は切合からすぐの長い雪渓が1箇所だけで、その先本山へのルートからは残雪が完全に消えていた。
翌朝は2時45分起床、3時過ぎに出発。ヘッデンで雪渓を登り、昨日確認したポイントで夏道に無事入ってアイゼンを外した。草履塚で振り返ると喜多方市の灯りがちらちら。4時前には十分明るくなってライトを消した。その後は日の出と競うように御秘所を這い上り、頂上小屋直下で日の出を迎えた。何層か雲が出ており、太陽は見え隠れしながら昇ってゆく。私も最後のピッチを登る。そしてもう一度、東の空を眺める場所に立ったその時だった。
あれ、太陽が2つあるっぽい…??
思わず目を凝らす。眩しくて目を瞑ると、更に不可解なことが起きた。残像が上下2つの点に見えるのだ。
そんな馬鹿な。
慌ててカメラを取り出して撮影する。輪郭がブレるのが分かった。なるほど、水面の反射か。それにしても今自分が立っている頂上から、東に広がる米沢盆地は直線距離にして40kmも離れている。そもそも米沢盆地に琵琶湖のような湖があっただろうか。ない。代わりに水田が広がっている…ことに気づいた。今日は5/27、ちょうど田植えの最盛期だ。田んぼに水が入ったことで、盆地全体が巨大な鏡のように機能したのかも知れない。だとしても、何というスケールだろう。
想像は太陽系外の連星系に向かってグングン膨らんでゆくが、2つ目の太陽がその姿を消すまでは2分もかからなかった。あぁ、やはりここは地球だったか。虚像、とは実に言い当てた言葉だと思った。
飯豊本山の頂上に着いても、人は誰も居なかった。東北アルプスの名に相応しい、残雪豊富な広い稜線の主脈が延々と連なっている。いつかは縦走してみたいと思った。振り返ると本山小屋に向かって歩く人の姿が見えたが、テン場で同宿した方だった。この瑞々しい青空と残雪の下、静かな山歩きができるって最高としか言葉が思いつかない。頂上を後にし、草履塚を下って切合小屋に至るまでの稜線歩きは朝の散歩、別天地だった。ハクサンイチゲやミヤマキンバイを愛でつつ、のんびりと下っていった。
切合に戻ってテントに潜ると、もうここにずっと居たい気分になった。しかし明日は東京で仕事。レンタカーも20時に返さないといけない。現実という重い二文字に背中を押されつつ撤収、泣く泣く下山。帰路の東北道は佐野藤岡でおなじみの渋滞。動かない。でも自分が朝佇んだあの稜線を思い出すと、握ったハンドルが軽くなり、マイナス思考がふっと消えて、自然の笑みがこぼれた。
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する