己高山☆雨中に山岳寺院跡と巨杉を訪ねて
- GPS
- 04:00
- 距離
- 10.8km
- 登り
- 866m
- 下り
- 876m
コースタイム
- 山行
- 3:38
- 休憩
- 0:22
- 合計
- 4:00
天候 | 雨 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2018年12月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
写真
感想
翌日は高松で出張の予定であり、この日は出張前に休みをとって四国の石鎚山を計画していたのだが、生憎この日は全国的に雨の予報となる。石鎚山のあたりは雨の降り始めが早く、雨量も多いことが予想される。悪天候の中を無理して登る山ではないので予定を急遽この己高山に変更する。
比良の上のあたりは雲の中だが、野坂山系の三重嶽や乗鞍岳の山頂は雲の下だる。雲の高さは1000mよりも少し低いあたりに思われる。山麓の木之本に辿り着くと、己高山の山頂も辛うじて雲の下に見えている。空は乳液を溶かしたような明るく均一な曇天であるが、山の上にかかる雲は薄墨を混ぜたような陰翳を帯びている。
車を石道寺の駐車場に停めて、まず飯福寺の参道に向かう。わずかにでも紅葉の名残が見られることを期待したが、残念ながら紅葉はすべからく参道に散ったあとだった。一般には鶏足寺と呼ばれるのだが、混乱を避けるべく少し説明を付加すると、この廃寺跡は己高山の山頂近くにある鶏足寺の別院であり、飯福寺が本来の名称である。参道の両側に立ち並ぶ塔頭からも想像されるようにかつてはかなりの権勢を誇った大寺院であったようだ。
再び石道寺に戻り、己高山への登山開始である。一般的な登山道はこの石道寺の裏からはじまる尾根を登るようだが、今回の山行の目当ての一つはこの己高山の南の山腹にかつて存在した高尾寺の跡にある逆さ杉と呼ばれる巨木である。まずは石道寺の前から続く林道を辿る。
林道が二股に分かれる地点まで来ると、かつての己高寺の跡がある。左右対称に組まれた石垣は山門の跡のようだ。林道の分岐点の手前に登山口の道標がある。登山道はすぐに尾根に辿るようになる。余呉トレイルの地図にも記されていないルートであり、踏み跡が薄いことを予想していたのだが、意外にも明瞭な踏み跡がついている。
尾根筋に沿って急な登りが続く。山中には間断なく持続音が響いている。それが伐採のためのチェーンソウの音だと気がつくまで多少の時間を要した。間もなく登山路に沿って、掘割式の古道が現れる。かつての高尾寺の参道だったものだろう。ca350mのあたりで踏み跡は尾根芯を辿るものと右手の斜面をトラバースする道に分岐する。トラバース道の方が踏み跡が明瞭だったのでこちらを辿るが、すぐに下から上がる別の尾根と合流して元の尾根に戻る。
やがて踏み跡が再び右手の斜面に入っていくようになると、多数のイロハカエデの紅葉が現れ、斜面に沿って段々にいくつもの平地が造られている。どうやら大きな寺院の跡のようだ。ふと見上げると、平地の奥で他を圧倒してそびえる大きな一本杉が目にはいる。逆さ杉だ。樹高は他にも高い杉の樹はあるかもしれないが、幹の太さに関してはこれほどの樹は記憶にない。知られざる名木といっても良いだろう。この山中の広い廃寺跡という侘びしげな雰囲気がこの樹の幽玄さをさらに際立ているようだ。巨樹の傍らに佇む小さな卒塔婆がかつての伽藍を偲ばせる。
杉の樹に近づいてカメラを構えた途端、我々の到来を待ち構えていたかの如く雨が降り始める。早速、杉の樹の下で雨を避けながらザックから雨具を取り出す。高尾寺跡からは上は踏み跡は薄いが、落葉によるものだろう。薄いとは云え十分にわかりやすい踏み跡を辿るうちにすぐに石道寺からの主尾根に辿り着く。
ここからはなだらかな尾根上の道となる。ここでも掘割の古道が現れる。おそらく高尾寺と鶏足寺を繋ぐ道だったのではないかと思われる。それなりに倒木が目立つが、すでに倒木を迂回する明瞭な踏み跡がついている。普段、それほど登山客が多い山には思えないのだが、鶏足寺の紅葉とあわせてこの山に登られた方も少なからずおられたのだろうか。
送電線が見えてくる。山の上の方は既に雲の中であるが、送電線鉄塔のあたりば辛うじて雲の下のようだ。送電線鉄塔に辿り着くと鉄塔の下の伐採跡のかやとの原からは琵琶湖の眺望がみられる。この己高山にあって数少ない展望地だ。
送電線鉄塔を過ぎると尾根は吸い込まれるように雲の中へと入っていく。いつしか尾根上にはブナの樹が多くなり、霧の中で幻想的なシルエットを演出する。
己高山の山頂は樹林に囲まれた小さな広場である。広場の中央には注連縄が巻かれた岩が鎮座している。下山は西側の尾根の急な下りから始まる。ひとしきり下ったところで右手の斜面をトラバースする道に入る。間もなく忽然と広い場所に出る。鶏足寺のあとだ。宝篋印塔と庭園跡と思われるわずかな石組みの遺構がかつての大伽藍を偲ばせる。高尾寺跡の逆さ杉ほどではないが、立派な杉やトチノキの大木が山中のこの広場がただならぬ場所であったことを物語っているようだ。既にロゼット化しているが、クリンソウの大きな葉が目立つ。
先程は高尾寺跡から降り続いていた雨は不可思議なことにこの鶏足寺を後にすると途端に上がる。あたりを包み込んでいた霧もいつしか薄くなってゆく。鶏足寺からは歩きやすい掘割式の登山路を下る。ほぼ間違いなく鶏足寺の参道として作られた古道であろう。
樹間の間からは右手に湖北の山々の間に雲海が見える。下るにつれ、再び霧が立ち込めるのだが、最初の送電線鉄塔に辿り着くと、一瞬にして霧が晴れて、緞帳が上がったかの如くに霧の中から景色が出現する。琵琶湖の手前では雲海の中に賤ヶ岳が浮かび上がる。
尾根の下部に下りてくると再び本降りの雨が降り出す。すぐに林道に出るので、フードを下ろして傘をさして林道を歩く。樹林が終わり、林道の両側が開けたところで目に飛び込んできたのはひまわりの畑であった。意外なことに多くの向日葵が花を咲かせている。生憎の天気で向日葵は悉く俯向いているのだったが、晴れていたらさぞかし壮観であったことだろう。
向日葵畑の右手には己高閣の温泉が見える。一瞬、立ち寄りることも脳裏を掠めるが、ここは木之本での昼食を期待して先を急ぐ。古橋の集落を左に曲がり石道寺を目指す。湿原を通り過ぎて、小さな峠を過ぎると途端に整然とした茶畑が出現する。どうやらこだかみ茶として知られる良質ではあるか稀少な茶の産地らしい。もう一つ、小さな峠を越えると先程の飯福寺跡に出る。平日の雨の日にも関わらず、次々と観光客に訪れているようだ。石道寺の駐車場に戻るとこちらの広い駐車場にも多くの車が停められており、飯福寺跡の人気の高さを伺わせる。
さて、湖北を訪れた後は下山後は忙しい。まずは木之本の北国街道沿いの富田酒造へ。七本槍で知られる酒造であるが、日本酒の中で最も好きな銘柄の一つだ。ここで数本(数種類)の七本槍を入手した後はすぐ北側のつるやパンへ。サラダパンで知られるパン屋さんであるが、如何なる味かはご興味あれば是非、お試しあれ。他にもチーズフォンデュ・パンや餃子パンをはじめ、食パンやらいくつかのサンドウィッチなど色々と購入してしまう。
最後は富田酒造から北国街道を少し南に下がって食事処のみちくさへ。旧家をリフォームしたレトロな落ち着いた雰囲気の店である。メニューは迷わず鯖素麺を選択する。柔らかく煮込まれた鯖を口に運ぶうちに雨の午後の時間は足早に通り過ぎていくのだった。
コメント
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こんばんは churabanaです。
己高寺の山門跡(仁王門跡)は、観察会で訪れたことがあります。
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-1143686.html
「あるものがないんです」という問いかけでした。
話は変わりますが、冨田酒造さんお酒は、しっかりしていて飲みごたえありますね。なめるように、ちびちびと いただきました。
近江高島の萩の露「雨垂れ石を穿つ」美味しかったですよ。
近江の地酒、純米酒を少しずつ楽しんでます。
yamaneko0922さんにお出会いして、また喜びが
感想・記録の文章が、すてきなあてになります。
コメント有難うございます。
それから昨年のレコも。今回は雨の降り出す時間を気にしてすぐに登り始めてしまったのですが、己高寺の跡もゆっくり訪れたいところです。鶏足寺(飯福寺)跡は私も去年の連休、新緑の季節にも訪れているのですが、この時期もとてもいいですよね。
私も近江の地酒は全般的に大好きで、高島もよく通るので、萩の露のあたりも非常に趣があるところですよね。churabanaさんのところからだと松の司を醸す松瀬酒造が近いのではないでしょうか。また機会があれば、是非、ご一緒させて頂きたいものです。
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