伊勢尾往復(転滑落撤退)


- GPS
- 05:50
- 距離
- 8.9km
- 登り
- 614m
- 下り
- 610m
コースタイム
- 山行
- 0:00
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 0:00
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2014年10月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
君ヶ畑側・御池林道は御池橋手前1.5kmより一般車通行止め。御池橋までは工事車両のみ通行。 |
その他周辺情報 | 八風温泉 |
写真
装備
個人装備 |
服装:finetrack: L1: フラッドラッシュ・メッシュスキン(ロンT+ショーツ+ソックス+ビーニー)
L2ドラウトエア
ワコールcw-x
EXPレギュラーソックス
L4ニュモラップ
Mammut7分丈パンツ
mont-bellアルパインスパッツ
mont-bellツオロミーブーツ
O.D.キャップ
薄手グローブ
アルパインポール. <br />ザック:Millet Numche55+10 LD
ポーチ×2. <br />携行:Garmin Oregon450TC
Barigo No.46
飲料水3L(「からだ燃える」)
調理その他用1.5L
Mammut/finetrack上下アウター
mont-bellダウンジャケット
調理器具一式(ガス缶・バーナー・カップetc.)
食糧2日分
行動食
ライト
電池
タオル
ナイフ
コンパス
1/25000地形図
鈴
ファーストエイドキット
非常用シート.
|
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備考 | ○:装備品落下防止対策 ×:ヘルメット,滑落を考慮したパッキング |
感想
【伊勢尾初体験】
いつか歩いてみたかった伊勢尾。天候はかなりよさそうなので決行した。もちろんそこから鈴ヶ岳下の鞍部に上がってボタンブチ,T字尾根の北西肢を通って下山する予定だった。しかし鈴ヶ岳手前の急坂で滑落。身体は動いたが,すぐに撤退を決意した。今思えば,あの時一時間決断が遅かったら,帰還できなかったかもしれない。今後の自分への戒めとして,恥の記録を残しておきたい。
早朝,まだ暗いうちに自宅を出る。吉野家でしっかり朝飯を食ってから,名神を使って八日市へ。永源寺手前のコンビニでコーヒー+αの一服をして,永源寺ダムへ。ダム沿いのR421を運転中,道路に威風堂々と立ちはだかる四足動物に遭遇。あまりの異様さに減速して凝視すると,なんとニホンカモシカである。結構近づいたように思うが,逃げない。青みがかった灰色の毛並み,ブルーベリーのようである。なんと美しい動物だろう。少しこちらを睨むと,スッとダムサイドへ消えて行った。撮影するまでの暇はなかった。神の使いのように見えたが,これが吉兆なのか凶兆なのか,余計な考えが頭をよぎった。馬鹿馬鹿しい話であるが,今のところ,「警告」であったと納得している。「お前なんかまだまだだぞ」と。全く返す言葉もない。
政所から御池林道に入る。小又谷とT字尾根取り付き地点を越え,御池橋まで進む。御池橋までの状況を確かめたいという思いもあった。果たして,御池橋の手前約1.5km地点で柵が設けられ通行止めである。少し逡巡して,歩いて御池橋に向かうことにした。
御池橋まで,崩落はない。平成25年の爪痕はなんとか修復されたようだ。しかし御池橋のさらに先はまだ復旧工事中である。柵をどかして御池橋まで行くことも可能な状況だが,あまりに気まずい。御池橋まで歩けばちょうどいいウォームアップだ。右手にT字尾根が見え,場所によってはボタンブチも見える。ちなみに,湿った斜面にはまだヒルがいたことを報告しておく。大胆にもアスファルト上で跳ねまくっている大型のヤツもいた。最初は「おぉ,元気なミミズだな。暑くて苦しんでいるのかな」と思って救出しようとよく見たら,どうみてもヤツであった。そういえばミミズはこんなに太短ではない。こんなにホップしない。できればミミズであってほしいが。
そんなこんなで御池橋に到着。橋のたもとから河原に降り,伊勢尾取り付きへ。想像していた以上に分かりやすい。道は急登で始まり,次第に緩やかになる感じだ。所々の僅かな紅葉と日差しの中を快適に進む。P806までは我慢の登りだ。そこから尾根が分岐する。北東の尾根を少し進んでしまったが,崖になる。北西はやや広がっていて分かりにくいが,すぐに明瞭な尾根になる。ここからP894までは,伊勢尾の真骨頂とでも言おうか。ブナやクリなどの自然林と植林杉の境目を進む。途中,広がる部分もあれば,かなり細くなり巻く部分もある。尾根を外さずに歩いていけば,そこは鈴鹿の醍醐味ともいうべき快適なルートである。木々も道も,自然と人工の絶妙なバランスが織り成す雰囲気に満ちている。左に御池川,右はアザミ谷へと急降下しているが,右には降りられそうな筋道もいくつか見える。迂闊に入ろうものなら,どえらい目に遭うだろう。 P894からは方向を変え,鈴ヶ岳への急登が待っている。そしてここで大きなミスをしてしまった。
【転滑落からの撤退】
どこを通ろうと急登が待っているのは滋賀県側の宿命だ。途中から岩肌が目立ち始め,斜度が上がっていく。土倉岳,T字尾根の急登をイメージして登っていたが,どうも両者より厳しい気がしていた。
鈴ヶ岳直下はかなり傾斜がきつい。右手の鞍部へ方向を据え,トラバース気味に高度を上げて行く。岩場の険しさと斜度は,どうもT字尾根の急登より厳しい。ザレ具合も木々や岩のハガレ具合も,である。
1050m付近,ここは本当に「急だな」と感じていた箇所である。岩場の張り出し方や足場も,かなり厳しいと感じた。そして「あっ」と思った瞬間,バック転で坂を転がっていた。掴んだ石が浮いたか,木が腐っていたか,そこんところの記憶は曖昧である。単にバランスを崩したかもしれない。自分のうめき声と回転がシンクロしていたように思える。最近レンタル開始された『ローン・サバイバー』という映画,滑落シーンがリアルだと話題だが,確かにリアルであった。まさか自分が体験するとは思ってもみなかった。2回転目以降の勢いの感触は今でも覚えている。装備と併せて90kg近い物体が転がれば,もう為す術はない。土を蹴散らす鈍い音と回転ごとの衝撃。回転が止まったのは弦のような木の間にザックと身体が引っかかったからであった。
身動きが取れなかったが,「落ち着け」と何度も声に出していた。そしてゆっくりと木から身を外すことが出来た。そこは一応足場として安定していた。回転数は覚えていないが,3回転はしている。しかし5回転したかどうかは定かではない。
呼吸を整えて,身体と装備品の確認をする。キャップとインナーキャップを上の方に落としたが,他は全て揃っている。スマホや車のキーも,助かった。顔が少し痛いが,出血はなし。骨の異常は感じない。落ち着いてきて,どこから落ちたのか確かめたが,良く分らない。キャップは諦めて,すぐに下山を決めた。そのときはあまりの不甲斐なさに情けなくなったが,どれだけ不幸中の幸いだったのかは実感していなかったように思う。
下山開始後,右太腿の異変に気付いた。転滑落中,岩肌にぶつけたようである。しかし問題なく歩けた。「二次災害」を防ぐため,慎重に慎重に往路を戻る。よくよく観察すると,快適だった尾根歩きも一歩間違えば死の滑落につながるスポットが多い。アルプスはもっと厳しいだろうが,ここはアルプスと違って救助が見込めない。衛星電話を持っていない限り,家族の通報を経ての救助は翌日以降になるだろう。遭難死の確率は限りなく高い。時間を追うごとにみるみると右太腿が腫れていく。次第に曲がらなくなっていった。P806から先は,気力だけで降りたように思う。最後の急登の辛さは筆舌尽くしがたい。
やっとの思いで御池川河原に生還した。駐車地までの1.5kmは,これまた苦行。しかしなだらかなアスファルトは極楽道のように感じ,ゆっくりでも歩いて進める安心感に満たされた。右足は痛いがさほど疲れてはいない。朝飯をしっかり食ったことと,普段のトレーニングの御蔭で体力が尽きなかったのかもしれない。
【不幸と不幸中の幸い】
○下山の決断が遅ければ,右太腿の限界が早まっていたはず。
○後頭部に小さなタンコブが出来たが,転滑落中に頭を打たなかった(あるいは土だった)のは幸い。
○登山用ヘルメットは後頭部をあまり守らないが,それでも肉の最も薄い頭頂部を守っておく必要性を感じた。
○骨折はもちろん,出血がなかったのが幸い。
○ジッパーのないポケットにはモノは入れない。ジッパーは必ず閉める。転滑落の衝撃は凄まじい。GPSのポーチのジッパーをもし閉めていなかったらと思うとゾッとする。GPSやキーなどは落下防止対策でワイヤーなどで繋いでおいたのは幸い。
○ザックはかなりプロテクターになる。パッキングをさらに見直したい。
○15kgを背負う際のバランス感覚に未熟さがあった。
○帰宅して『山と渓谷』2013年8月号を熟読。
○結局,下山不可能に陥る可能性が高かった。自力下山は幸運。
○油断大敵。全ては一瞬の不注意・ミスが招いた災い。
○転滑落中の意識はかなりはっきりしていて,わずか数回転でも色々な考えが頭をよぎる。死に至る滑落の場合,死ぬ瞬間までの恐怖と悔恨を味わうことになると思われる。二度とこんな思いはしたくない。
【次回の山行】
しばらく行かない。腫れあがった右太腿をさすると,あのカモシカの顔が浮かんでくる。
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