上高地〜焼岳北峰〜中尾温泉☆紅に燃える焼岳
- GPS
- 07:59
- 距離
- 14.7km
- 登り
- 1,038m
- 下り
- 1,573m
コースタイム
- 山行
- 4:10
- 休憩
- 1:13
- 合計
- 5:23
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2023年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
|
コース状況/ 危険箇所等 |
危険箇所なし 良好に整備された一般登山道 |
写真
感想
名古屋発のしなの1号の指定席車両に乗り込むと、車両の大部分をツアーの登山者で埋まっている。クラブツーリズムのツアー客のようだ。車内は年配の女性達の賑やかな話し声が途絶えることなく響き渡っている。
松本駅に到着するとツアーの登山客達は大糸線に乗り込んで行った。そういえば昨年もこの時期に同じ時間帯に大糸線でクラブツーリズムのツアー客達と乗り合わせたことを思い出す。燕岳から常念岳を縦走するツアーだろう。新島々に向かう松本電鉄の車内には登山者の姿は少ないが、乗客の多くが上高地を目指すのは明らかだ。
上高地を訪れるのは大学時代に北アルプスを白馬から縦走したとき以来なので、実に35年ぶりだ。昔は山から下山するとすぐに上高地のバスセンターに向かったのでよく覚えていないのだが、上高地には人が大勢いたことは覚えている。上高地の広々としたバスセンターの駐車場に停まっている大型バスの数の多さに驚くことになる。
バスセンターから河童橋を目指して歩き始めると、早速にも「涼しい〜」という歓声が聞こえてくる。梓川の川縁に至ると目の前には屏風のような岩壁が広がり、その上に壮麗な穂高岳の稜線が蒼空を切り取っている。
河童橋で梓川の右岸に渡ると、しばらくは清澄な川の流れを眺めながら川沿いを歩く。川沿いには次々と瀟洒なホテルや旅館が現れる。西糸荘で信州名産の「おやき」を入手することが出来る。ここでは350ml缶のビールが\300で売られている。テラスでビールで一休みしたいところではあるが、ここは我慢する他ない。
梓川の川縁からは流れの先に赤茶色の岩肌の見せる焼岳が聳えている。大正池の方に至る田代橋を過ぎて、林道に入ると急にひと気が少なくなる。ここから先を歩くのは焼岳への登山者のみとなる。登山口で林道と別れると、梢の高い自然林の樹林の中に入る。小さな木橋で沢を越えるところで沢のほとりで先ほどのお焼きを頂く。
上からは続々と日帰りの登山客が降りてくる。多くは沢渡までマイカーで乗り入れ、早朝のシャトル・バスで上高地を出発した人だだろう。中には外国人も多く見かけるが、外国人は上高地に泊まられた人も多いのかもしれない。
しばらくは樹林の中を緩やかに登ってゆく。ca1820mで大きく崩壊した谷の淵に出る。途端に谷の下から間断なく吹き上がる涼しい風に包み込まれる。
ここからは一気に急登が始まる。所々で眼下に上高地の展望が広がり、広い左岸の樹林の中には帝国ホテルの朱色の屋根が目立つ。下からはパトカーと救急車のサイレンの音が聞こえてくる。周囲が急峻な山に囲まれているせいで狭隘な谷にサイレンの音がよく響くのだろう。上高地にはマイカーの乗り入れがないので交通事故の可能性は極めて低い。滑落した登山者の救援に来られた可能性が高い。
急登を過ぎると、左手に大きな岩壁とその岩壁を越えるために長い梯子が目に入る。梯子の下に至ると10人ほどのパーティーが降りて来られたようだ。さらに梯子の上に10人ほどおられるとのこと。下の人が上の仲間に声をかけて、先に我々を通してくれることになった。
長い梯子を登ると樹林を抜け出し、笹原の広がる斜面をジグザグと登るとまもなく本日の宿泊地となる焼岳小屋に到着する。ここでリュックをデポし、アタック・ザックに水やタオルを詰め込んでさ山頂を目指す。
焼岳展望台と呼ばれるca2150mの小ピークは苔が広がり、360度の好展望が広がる。目の前には一気に荒涼とした岩肌を見せる焼岳が視界に飛び込む。右手には笠ヶ岳から双六岳へと続く長い稜線が綺麗に見える。背後には穂高岳の展望が広がる筈であるが、その山頂部は雲に覆われている。ピークの周囲では小さな噴気孔が無数にあり、生暖かい湯気が噴き出している。
重そうな三脚にカメラを載せた一人の男性がおられる。どうやら写真家のようだ。その先には外国人の家族がおられ、聞こえてくる会話はフランス語のようだ。「Bon jour」と挨拶すると、そのように挨拶されることがないせいだろうか、小さな子供達が途端に私の方を振り返って「Bon jour」「Bon jour」と挨拶を返す。それにしても、異国の地で小さな子供達はよく登ったものだと感心せざるを得ない。
小ピークから先は全く人と出会わない静かな登山となる。日差しを遮るもののない岩山の登りは暑さが懸念されたが、さすがに標高が2000mを超えているせいか間断なく涼しい風が吹いており、ほとんど暑さを感じることはない。ここでも登山道の周囲には多くの噴気孔があり、涼風に混じって硫黄の匂いが漂ってくる。再び下の上高地に向かう救急車のサイレンの音が聞こえてくる。
山頂部は大きな岩による岩峰となっているが、下から見上げると手前に傾斜しているかのように見える。大きな地震でも来たら崩れそうである。果たしてこの岩峰を登れるのだろうかと不安に思うところであるが、登山道は岩峰の下を左に巻き、山頂の東側のコルに登ってゆく。
振り返ると西穂高岳へと続く樹林の稜線の先には西穂山荘と独標のピークが見える。左手にはゆっくりとロープウェイが動いているのが見える。第2ロープウェイは8/9までメンテナンスのために運休とのことであるが、しらかば平と西穂高口との間は運行しているということなのだろうか。
コルは中の湯方面の登山道との分岐点となっていた。南側には南峰の岩峰と彼方に乗鞍岳の大きな山容が視界に飛び込む。山頂まではわずかにひと登りだ。登山道のそばの噴気孔から噴き出すガスが硫黄を含んでいるせいだろう、噴気孔の周囲は真っ黄色になっている。ふと見ると近くには硫黄の結晶と思われる黄色の岩石が落ちていた。
山頂に立つと山頂のすぐ南側に大きな噴気孔があるのだろう。シュシュっという大きな音がして、水蒸気が立ち上る。山頂の南西側にはエメラルド・グリーンの水を湛えた小さな池が見える。中の湯に降りる登山道の近くではあるが、ロープが張られ池には下降することは出来ないようだ。
山頂で涼しい風に吹かれながら、しばし360度に広がる景色を堪能する。目の前の穂高岳を眺めているうちに雲が切れて、奥穂高岳の山頂が姿を見せ始めた。16時が近づいたところで、山頂から下山を開始する。中尾峠に向かって下降して行くと相当に憔悴した様子の単独行の男性とすれ違う。展望台に下降すると先ほどの写真家の男性はまだ焼岳に向かってカメラを向けておられた。
小屋はこの日の宿泊は六人らしい。一人の女性が小屋の中で寛いでおられた。小屋の外のベンチでまずは担ぎ上げてきたビールで乾杯をする。続いてローストビーフをつまみに赤ワインを呑んでいると、先ほど焼岳からの降りですれ違った男性が降りて来られる。なんと前夜は笠ヶ岳の山頂でテン泊され、新穂高温泉から登り返して来られたとのこと。笠新道と長い車道歩きでの暑さでかなり体力を消耗されたとのこと。これから上高地に下山されるとのことだ。
男性と話をしているうちに小屋の中におられた女性が我々の行程を尋ねて来られる。九州から来られたという女性は定年退職後に悠々自適な登山三昧の生活を愉しんでおられるらしい。今回は山岳ガイドを雇って上高地から入山し、西穂高岳から奥穂高岳、大キレットを越えて槍ヶ岳に至り、昨夜は槍沢ロッジに泊まり、上高地に降りてシャワーを浴びてからからここに登り直してきたという。
女性の話をお伺いしながら山と高原地図を広げていると、展望台におられた写真家が降りて来られる。地図を指してこの地図の情報でおかしいところがあったら教えて下さい」とにこやかに仰る。「私がこの地図を監修しているので・・・」と仰る。「西穂と奥穂の間のコースタイムは2021年版と2022年版の間で違っている筈です・・・」と仰るが、そのような情報が頭にインプットされているのは監修した当の本人ならではだろう。上高地から焼岳小屋のコースタイムは長い梯子の通過を見込んで長めに設定してあるとの情報をい頂くが、しかし全般的にこの山域のコースタイムは短めではないだろうか。
夕食の時間の6時が近づいた頃にようやく若い女性二人が「遅くなってすみません」と言いながら小屋に到着される。南アルプスの有名な山小屋であれば小屋の大将から落雷を落とされるところであろうが、朴訥な雰囲気の小屋番の好青年の和かに対応される。
上高地から西穂に登ってからここまで縦走して来られたという女性二人もかなりの強者だ。ここから西穂山荘までの区間は背丈を越える笹藪が広がる箇所が多く、眺望はほとんどないとのこと。すかさず小屋番の男性が「割谷山の手前までは笹を刈って整備しています」と教えてくださる。「そこに草刈機が置いてあったかかと思います」とのこと。
翌朝は我々はそのルートを辿って西穂独標まで行こうと考えていたのだが、問題は早朝は朝露に濡れた笹藪の中を進むことになることだ。家内は雨具の下を携行していない。おまけに家内は最近、あまり登山をしていなかったせいか、今日の行程で相当に疲れたので、折角苦労して西穂山荘まで辿り着いたとしてもそこから先に進む体力と気力がない可能性が高いと弱音を吐く。同宿の女性達とはえらい違いだ。
夕食は生姜焼きに茄子の味噌炒めに色々と副菜が添えられており、山小屋の食事としては十分に豪勢といえるものだった。汗をかいた体にはなめこ汁も有難い。湧水がないので雨水を濾過した水を使用しているようだが、意外にもお茶が美味しく感じられる。以前に別の山小屋で雨水の濾過水は消毒薬がきつくて飲むのが躊躇われたことがあるが、小屋番の男性によるとかなり良い濾過装置を使用しているとのことだった。
食後は再び展望台まで上がる。焼岳が夕陽に照られされて、岩肌が朱く染まっている。西の空に沈んでゆく夕陽を見届けてから小屋に戻ると、早々に夜の帷が降りてくるのだった。
翌朝は4時過ぎに起き出すが、小屋の周りは霧に覆われている。空が明るいので笠雲による霧であり、そのうちに晴れる可能性が高いだろう。小屋の前のベンチでコーヒーを淹れるうちに急速に明るくなってゆく。程なく霧の彼方からモルゲン・ロートに染まった焼岳が姿を現す。
慌てて焼岳展望台にまで上がる。まもなく東の蝶ヶ岳の上から朝陽が差し込む。背後の穂高岳は完全に雲の中であったが、朝陽を浴びる焼岳を眺めているうちに急速に雲の中から峻険な稜線が姿を見せたかと思うと瞬くうちに雲が霧散してゆく。気が付くと周囲の噴気孔から噴き出す蒸気を朝陽が黄金色に輝かせている。
朝陽が昇るにつれて朝陽に朱く染まっていた焼岳の岩肌は急速に色褪せていくようだ。いや本来の色彩を取り戻す、といった方が正確だろう。再び小屋に戻ると家内が西穂は諦めてすぐに下山したいというので、家内の要望に従うことにするが、この選択は賢明であったことを後から知ることになる。
林床には笹原が続くが、オオシラビソの針葉樹の森に入る。樹林の中では笹の朝露は大したことはないようだ。やがて登山道の周囲に広葉樹が目立つようになる。樹には時折、プレートが掛けられており、そのおかげでネコシデの樹であることを知る。鋸歯縁が目立つ葉が特徴的らしい。
登山道沿いには小さな石碑の建てられた大きな岩が現れる。岩の高いところには秀綱神社というプレートが掛けられている。気が付くとそのプレートのすぐ横には岩の割れ目の間を真っ直ぐに伸びる樹がある。あたかも岩を割って成長したかのように見えるがそんなことはある筈はない。たまたま岩の割れ目の下から樹が成長したのだろう。
再び登山道の周囲には高木の針葉樹が目立つようになる。トウヒやサワラの樹らしい。下るにつれて次々とブナの大樹が現れる。同じブナの樹でも関西で見かけるものとはかなり樹影が異なるように思われる。登山道が斜面をジグザグと下降するようになり、左手n白水谷に近づいたところで谷の対岸に白水の滝が見える。
割谷を渡渉するとすぐにも舗装路に出る。左手には蒸気が立ち昇る大きな建物が目に入る。地熱発言所らしい。勝者なコテージの立ち並ぶキャンプ場を過ぎると中尾温泉のある集落へと入る。ペンションや温泉旅館が立ち並ぶが廃業したと思われる建物も目立つ。
数多くの紫陽花の花が植えられた道路を降って中尾高原口に辿り着いたのは8時を少し過ぎたところだった。ここにある新穂高の湯が8時から営業しているとのことなのだが、それらしい建物が見当たらないが、「新穂高の湯露天風呂」と記された案内標があるので、階段を降りると、対岸の河原に小さな露天風呂が目に入る。この新穂高の湯はなんと混浴の野天風呂だったのだ。
蒲田川にかかる橋を渡り露天風呂へと降りていくと一人の男性ががおられた。8時から鍵を開けることになっているようなので、おそらくは地元の管理人の方なのだろう。女性はバスタオルを巻いて入るか水着を着用して入浴することになるらしい。
温泉から上がると既に周辺の山々の上の方には雲がかかっている。県道に出ると救急車がサイレンを鳴らして新穂高温泉の方に向かってゆく。
入浴後はひがくの湯まで歩くことにする。この温泉の前には国立公園口のバス停がある。バスを待つまでの間にここでビールを手に入れることが出来る。高山駅行きのバスは空いていたが、中尾温泉のいくつかの停留所からは次々と乗客が乗り込んでくる。驚いたことに多くは外国人であった。バスの乗客のほとんどは平湯で下車し、上高地行きのバスに乗り換えていった。
高山の街に着くとまずは古い街並みを訪れ、まずは飛騨の地酒をいくつか入手する。街並みは大勢の観光客で賑わっていたが、ここでも外国人の姿が目立つ。日差しが強く、先ほどまでいた中尾温泉のあたりに比べると流石に暑く感じられるが、日陰に入ると湿度が低いせいだろう、途端にに涼しさを感じる。
宮川にかかる橋を渡って蕎麦の名店「寿美久」を訪れる。注文すると年配の女性店員が「これ one」と云う。日本語で注文した筈なのだが、また私を外国人と勘違いされたようだ。
駅まで歩くと町家風の小さな店で昔ながらの手作りの煎餅が売られているので、これも入手する。高山駅の前で朴葉味噌と蕗味噌や赤かぶらなどの漬物を入手すると、高山からの特急に乗り込み、京都への長い帰路に着くのだった。
下山後、運休していた第2ロープウェイは西穂高岳口からしらかば平との間のものであったことを知る。新穂高温泉に下山するつもりで西穂高岳に向かっていたら下山が大変なことになるところであった。それから前日には北穂高岳と南岳で二件の滑落事故があり、月曜日の早朝には西穂高岳から奥穂高岳に向かって縦走を試みた男性が滑落したことを知る。その方は残念ながらお亡くなりになったようだ。冥福をお祈り申し上げる。
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