【黒部】柳又谷本谷遡行(飛竜峡・上ノ廊下・クラガリ峡突破)
- GPS
- 29:55
- 距離
- 32.0km
- 登り
- 3,126m
- 下り
- 2,217m
コースタイム
- 山行
- 6:32
- 休憩
- 1:26
- 合計
- 7:58
- 山行
- 5:56
- 休憩
- 5:32
- 合計
- 11:28
- 山行
- 5:42
- 休憩
- 0:16
- 合計
- 5:58
- 山行
- 4:04
- 休憩
- 0:06
- 合計
- 4:10
天候 | 1日目 曇り→雨→晴れ 2日目 晴れ 3日目 晴れ→曇り→曇り(霧)時々小雨 4日目 曇り(霧)→晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2023年09月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 タクシー 自家用車
帰り:猿倉よりタクシーで白馬駅へ。大糸線と北陸新幹線を乗り継いで黒部宇奈月温泉駅へ。タクシーは待機していた。バスは平日は運行なし。 |
コース状況/ 危険箇所等 |
・黒薙駅から黒薙川沿いに上流へ向かう場合、軌道上を歩くことになるが、これは鉄道営業法に触れるので推奨できない。北又小屋までタクシーで入って北又谷を下る方が無難。 (参考:鉄道営業法第三十七条 停車場其ノ他鉄道地内ニ妄ニ立入リタル者ハ十円以下ノ科料ニ処ス) |
その他周辺情報 | 【他の記録】 他の記録は多いが、上ノ廊下やクラガリ峡を巻かずに突破した記録は極めて少ない。登山大系には1967年10月に広島大が上ノ廊下を初完全遡行したとあるが、記録は読めていない。その他、上ノ廊下内を遡行している記録は下記。 ・「日本百名谷」:上ノ廊下入口の淵は大高巻き ・「黒部へ」:廊下ノ滝は高巻き 【水量について】 ・「黒薙」の水位が非常に参考になる。今回遡行時の水位は、0.70m前後で、稀に見る低さであった。 http://www1.river.go.jp/cgi-bin/SiteInfo.exe?ID=304061288409030 |
写真
装備
備考 | ・水は非常に冷たいためウェットスーツ推奨 ・ゴーロはよくぬめるがゴルジュではラバーが効くため、どちらかと言えばラバーソール適 |
---|
感想
【計画の経緯】
今季は雪渓が少ないということで、春のうちから、この3連休を使って、天気が良ければ柳又谷へ行こうと構想していた。とはいえ、どうせ4日も天気が大きく崩れないことなんてないだろう、多分行けないだろうと思っていた。
しかし当日が近づいてくると、天気予報は悪くない。しかも黒薙川の水位は最低レベルで、好機としか言いようがない。この敗退記録の多い沢に挑戦することには不安もあったが、この機会を逃すわけにはいかない。
【記録】
●1日目
○入渓まで
黒部峡谷鉄道の始発は遅い。しかし、黒部は遠いので、途中である程度睡眠をとってから行けるという観点では、ちょうど良いとも思える。宇奈月駅ではyamakurumiやmt-maruのパーティと偶然にも遭遇。聞くと、サンナビキ谷とのこと。まさかの五十沢川で同日遡行となった先月のこともあるので、もしや柳又谷に行くPもいるかと思ったが、それはなかった。
観光地感あふれる峡谷鉄道を黒薙で下車。ここから工事用軌道を歩きたいところだが、駅員が駄目と言うので諦め、黒薙温泉へのハイキングコースを進む。しかしこの歩道は黒薙温泉までしか続いていないので、さらに上流へ行くには結局軌道を歩かねばならない。軌道を歩いていると作業員に遭遇し、咎められないかとビビっているメンバーもいたが、当たり前のように挨拶して通過。こういう時は堂々としていればよいのだ。現役の軌道を歩くという珍しい経験にも飽きてきた頃、軌道は終わり、今度は砂防工事用車道となる。どうやって運んできたのかも分からないような大きいトラックもあるが、この日は現場は動いていないようで、静かなものである。税金の無駄遣いのために造ったように思えるいくつもの堰堤を脇目に道路を歩いていくが、雪中隧道が常に並行しているのには感服する。この先の北又堰堤での取水や発電はそれほどまでに重要なのか。最後の堰堤を過ぎると車道は終わって人道隧道のみとなり、蝙蝠を追い出しながら進んでいくと、漸く北又堰堤に到着。やっと入渓。
○遡行1日目
北又谷と柳又谷の二俣は、明らかに柳又谷の方が清冽で、冷たく、水量が多い。というか、北又谷は北又ダムにおける湛水のせいか、濁っている。ここは柳又谷でも最も水量の多いはずだが、それでも容易に渡渉でき、やはり水量は少ないようだ。実際、飛竜峡まで、渡渉に苦労することは一度もなく、至極順調に進む。ゴーロ歩きが単調。
いざ飛竜峡に入ると、簡単に巻けそうな1m2条滝がある。ここまで退屈だったので頑張って直登。その先、1m樋状斜瀑で渡渉に苦労したが、tamoshimaが下流側を渡渉した後に岩場を登り降りしてお助け紐をフィックスし、後続はそれにつかまって流心を飛び越えた。結局飛竜峡の核心はこれだけで、魚止ノ滝6mとかいう滝が登山大系の遡行図には描かれていたが、どれだか分からないうちに通過。呆気なく終わってしまった。
その後すぐのカシナギ峡はちょっとした淵もあったが、以降はゴーロばかり。渡渉に苦労することは一切なく、ひたすらゴーロを歩いていくと、雨が降ってきて、だんだん強くなってザーザー降ってくるが、ゴーロなので大した増水も不安もなく進んでいく。枝沢の水が激しく濁り、水が飲めなくなったのが問題だった程度。
オーレンの滝の下流で幕営適地を発見し、雨も弱まってきたのでここで幕営を決定。kaiseiが釣りを頑張ってくれ、遡行中に手掴みした1尾も含め、計4尾を確保。おかげで充実した夕食となった。
●2日目
2日目もとにかくゴーロが続く。オーレンの滝は簡単に巻いて、ひたすらゴーロを進んでいくと、3時間半くらいで漸く上ノ廊下入口に到着。さあ、ここからだ。
○上ノ廊下序盤
最初の淵は激流で、通常は右から大高巻きされている。上流の標高が高く、雪渓も残っているとあって水は非常に冷たいが、泳いでの突破を試みないわけにはいかない。ウェットスーツを着込んで泳いでみるが、流されてしまい歯が立たない。しかし、経験上、流れが速いのは表層のみである可能性が高い。ここは潜水だろうと、潜っての突破を試みるが、ウェットスーツの浮力が邪魔してうまくいかない。こうなったら最後の手段、ポケットに石を入れて浮力を相殺するしかない。これが奏功し、3度目の挑戦にして激流部を突破。後は容易で、後続をロープで引き上げる。
○廊下ノ滝
いざゴルジュに入ると水量は多く、側壁も高く、迫力がある。その辺のゴルジュとはやはり違う。S字の滝とかいう滝はよく分からないうちに通過し、次の難所は廊下ノ滝。1段目、絶望的に見えたが、とりあえず泳いで取りついてみると、可能性はありそう。ビレイしてもらって登り始めるが、直上は厳しい。スタンスが細かく、クライミングシューズを持ってこなかったことが悔やまれる。諦めて降り、もう少し見渡すと、右へのトラバースに可能性が見えてくる。落ちても落水するだけなのを確認してムーヴを繰り出し、水流の脇まで行ってしまえば、あとは容易。これを登った先人、なかなかやるな。(と現地では思っていたが、既登の滝なのかは不明)
1段目を登ると見える2段目も厳しそうだが、まあ何とかなりそうと判断し、2人にもフォローしてもらう。トラバースの苦手なkaiseiには追加のお助け紐まで出した。そして2段目は、左から登ってみることにする。出だしをショルダーで越え、立派なクラックにカムをきめ、セルフビレイを取ってハーケンを打ったり岩を磨いたりしながらムーヴを探っていくと、活路が見えてきた。大き目のムーヴで右へトラバースし、落ち口へ出ることに成功。2段とも、難しくも登攀可能な良い滝であった。
六兵衛谷出合を過ぎると、迫戸ノ滝7mというのが登山大系の遡行図には描いてあるが、これもよく分からない。埋まったのか、崩れたのか? ゴルジュは狭まっていて小滝がいくつかあったが、問題なく通過。
○冷大滝から大ナル谷出合
続いて現れたのが冷大滝。巨大なCSの滝で、いかにも突破困難そうなのだが、絶妙にも右壁からトラバース気味に登れそうである。下部をフリーソロで登ってから、上部をtamoshimaリード。雪渓の上に乗っていたと思われる土砂や草のカスが多く登りにくい。明らかに今シーズン初登攀だろう。払いのけながら慎重に登っていくと、残置ボルトもあり先人もやはり同じラインで登っていたことを知る。落ち口の上までトラバースしたところで残置ハーケン多数の終了点兼懸垂下降点があり、まるで人気沢のようである。ここのフォローもトラバース気味のため、苦手なkaiseiが苦戦。ラストでゴボウ後にロープを離せなくなり泣きが入ったが、気合で何とかした。数mの懸垂下降で滝上へ。
冷大滝を越えれば上ノ廊下終了かと思っていたが、そうはいかず、今度は4mCS滝が出てくる。これも見事なCS滝なのだが、左壁にしっかりと弱点があって、トラバースで越えられるのが嬉しい。ここでは残置ハーケンにスリングをかけてkaiseiやdeepblueがA0できるようにした。ここから少し進むと大ナル谷出合となり、上の廊下は終了。小さいスノーブロックがあり、雪渓の残りやすい場所へ来ていることを実感する。
○クラガリ峡(大ナル谷出合〜深廊ノ滝)
大ナル谷出合にも一応幕営可能そうな場所はあるが、まだ時間はあるので先へ進むことにする。すぐに深廊ノ滝。4段35mともされるがそれぞれに滝壺があり独立した滝と言える。最初の2段9m滝は直登は無理で、右壁を登ってトラバースして落口へ。またまたトラバースのためkaiseiは苦戦し、結局トラバースは諦めて上に登り、ハーケンを1本残置して懸垂下降していた。
次の8m滝は、右壁が垂直に近いがホールド豊富で、快適に直登。続く8mCS滝は水流右をトラバース気味に登れるかと思いきや登れず、脆い岩の右壁から巻く。沢に戻るトラバースが高度感あり。これで深廊ノ滝は終わりかと思っていたが、帰って確認したところでは、その次の15m滝も深廊ノ滝最上段だったらしい(「黒部へ」に拠る)。これはクラガリの滝かと思っていたが。この15m滝は右から大高巻出来そうにも見えたが、左壁に近づいて見ると登れそうなので、tamoshimaリード。難しいのは下部だったので、結局中間支点なしで登ってしまった。適度に緊張感あり良い滝。
そろそろ良い時間なので、セカンドで登ったkaiseiが幕営地を探しに上流へ行くと、一応何とかなりそうな場所があるとのこと。見に行くと確かに整地を頑張れば何とかなりそうで、かつ、上流には厄介そうな2条8mCS滝も見えるので、ここでの幕営を決定。ゴルジュ内ではあるが高台で、薪も豊富にあり、岩魚はもういないものの、まずまずの場所。整地をかなり頑張って、結構快適な寝床にはなったが、上流の雪渓からと思われる冷風の影響で、夜は結構寒かった。
●3日目
○クラガリ峡(2条8mCS滝〜終了)
どうせ3日で下山するのは無理だろうと思い、この日は遅めのスタート。最初の2条8mCS滝は激シャワーでtamoshimaが偵察したものの、水流が強すぎて厳しいため、降りて右岸から巻く。見た目より登りやすい側壁で良かった。
左岸から枝沢が入った先には15mほどの滝が見え、帰ってから読んだ「黒部へ」に拠ればこれがクラガリの滝。近づいても登れそうになく、左岸枝沢から巻く。意外に容易な巻きで滝上に出ると、いよいよ雪渓。1つ目のブリッジは左から巻いて、2つ目の大雪渓の上に乗り、歩いて進んでハヤ谷出合の先で雪渓から降りようと思うが、いまいち降りやすい場所がない。結局、左岸のシュルントに堆積した土砂に飛び降りたが、ちょっと勇気が必要だった。
雪渓が終わると急に平凡な沢になってくるが、一応はまだクラガリ峡らしい。何気なく出てきた7mCS滝にフリーソロで取りついたら、これが悪く、結構こわごわ登る羽目になった。ので、後続には右岸巻きを指示したが、これもあまり良くなかったようで、それなりに時間がかかっていた。
レンゲ谷出合附近はまたゴルジュが発達し、特に4mCS滝はなかなか威圧的だが、取りついてみると容易。そして沢は開けてきて、いよいよクラガリ峡も終わったのだと感じる。
○幕営地まで
柳又谷は下部もゴーロだが、上部もゴーロである。下部のゴーロと比べると多少の滝もあるが、そうは言っても退屈で、ただ疲れる。この辺りにあるという新作滝は、登山大系には3段100mと書かれている一方、日本百名谷では3段13mとなっていて、物凄い差があり、一体どういうことなのかと思っていた。実際に辿り着いてみると、確かに長池への支流を分けた後に出てくる連瀑帯は、どこからどこまでを1つの滝とするか難しく、それが新作滝なのだろう。
新作滝が終わると傾斜が急になったゴーロが続き、体力を使い、deepblueは遅れが顕著になる。クラガリ峡が予想より楽に終わったのでもしかすると3日で下山できる可能性も出てきたかと思っていたが、やはり断念。とはいえ、足が揃っていれば十分可能であることは分かった。漸く急なゴーロが終わり、開けた源頭部の様相となったところで、割と良さそうな幕営地が見つかったため、まだ13時過ぎだが、今日はここまで。
薪が非常に少なく、小雨が降るという悪条件ではあったが、deepblueの焚火にかける情熱のおかげで、なんとか焚火をおこすことができ、多少の暖を取ることができた。結構ガスっていたのが残念だったが、時々ガスが晴れると、紅葉が始まりかけた美しい景観を楽しむことができた。
●4日目
○詰めまで
朝になっても残念ながらガスはかかっていて、景観は微妙。そして沢はゴーロが続き、渓相も好きではない。とはいえ傾斜は緩いので楽で、滝もなくどんどん登っていくと、水涸れ。水を汲んでから進んでいくが、涸れている間にいつの間にか一番楽に詰められる谷筋ではない谷筋に入っていたので、トラバースして修正。
以降は結局ずっと水があり、水を汲んだことを後悔。最後には小屋のタンクとそこへ流れ込む湧水で終わり、その最初の湧水を記念に飲んで、遡行終了。小屋のタンクなので踏み跡があり、これを辿って楽に登山道へ。
○下山
最も楽に下山できる猿倉への登山道は、8月のうちに白馬大雪渓の不安定化により通行止めとなっていた。そうは言っても沢屋の雪渓処理力なら通行できるだろうと、計画通り下山へ入る。するとここで雷鳥に遭遇。大学時代から雷鳥というサークルに入っていた割には、これが初遭遇。ちょっと嬉しい。
想像以上に歩きやすい登山道をどんどん下っていくと、漸くガスが晴れてきて北アらしい開放的な景観を楽しめる。さて問題の雪渓は確かに各所で大崩壊していて、容易には対岸に渡れそうにない。どうしようかと思いながら左岸を下っていくと、だいぶ下の方で漸くしっかり繋がったブリッジを発見。ここで渡ることにして、チェーンスパイクを付け、一人ずつ慎重に。幸い、何の問題もなく渡れ、少し登ればまた対岸の登山道に復帰。
ここでこの山行の危険箇所は終了、ということでtamoshimaはバスに間に合って黒部に置いてある車を取りに行くために2人と分かれて先に下ったが、登山口に降り立って知ったことには、バスは土休日のみの運行であり、この日は運休であった。結局、2人を待ってからタクシーで下山し、満足感に包まれながら大糸線と新幹線を乗り継いで、黒部へ戻った。
【感想・総評】
ゴーロが長いことは知っていたが、やはりゴーロは長かった。しかし上ノ廊下やクラガリ峡のゴルジュは素晴らしく、最近の突破記録がないこともあって次に現れる滝がどのようなものかも分からず、開拓のような面白さも感じられ、非常に充実した遡行となった。水量、天候、雪渓、すべての条件に恵まれ、この難渓を一撃で完全遡行することができ、感無量である。
上ノ廊下〜クラガリ峡は、その前の長いゴーロを覚悟してでも、わざわざ行く価値がある素晴らしいゴルジュである。水量が多くゴルジュの規模も大きいのに、ぎりぎりの難易度で突破可能というのは、自然の妙である。逆に、上ノ廊下を高巻いてしまっては、柳又谷へ行く意義は少なくとも半減するだろう。是非とも上ノ廊下が突破可能な時機に訪れ、その素晴らしさを味わうべきである。
コメント
この記録に関連する登山ルート
この場所を通る登山ルートは、まだ登録されていません。
ルートを登録する
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する